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紙の本
タイトルは改題前の方が良かったと思う。
2016/01/10 14:58
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投稿者:arima0831 - この投稿者のレビュー一覧を見る
フレドゥン・キアンプールなる不思議な名前の作家。イラン系ドイツ人だそうだ。2011年に出た『この世の涯てまで、よろしく』という作品を、文庫化に際して改題したもの、との由。
舞台はまずは1999年のハノーヴァー。50年前に死んだ主人公が、カフェの片隅で突然甦るところから始まる。ピアニストだった彼は、ひょんなことでピアノ専攻の音大生と出くわし、彼の家に転がり込むのだが、そこに出入りする連中はそれぞれに一癖もふた癖もある。幽霊のはずなのに肉体があり、しかしいったん眠ると幽体離脱をする主人公も、自分がなんでこんなことになっているのかよくわからない。
同時並行して描かれるのが、主人公が「死ぬ前」の日々。1939年から49年の、ちょうど二次大戦前後の時代だ。ユダヤ人の主人公はパリで音楽家として面白おかしく暮らしていたのだが、ナチスの軍勢が迫ってきたので逃亡生活に入る。
そして50年後の世界では、主人公がひょんなことで関係を持った美人の女性ピアニストが変死。その背景には、主人公の過去から来た別の亡霊が絡んでいるようだ。
主人公が生き返った後の世界では、ハノーヴァーにある某音大の学生たちが入り乱れて、飲んだり食ったり演奏したり、時には練習したり音楽論を戦わせたりするのだが、そのちょっと奇矯な生態が大変面白い。たぶんドイツの音大生はこんな感じの日々を送っているのに違いない、と思いつつ楽しく読んだ。
一方で主人公の過去の話も、パリの芸術家やそのパトロンたちの退廃的でいい加減な生活ぶりが、なんだかいい味を出している。
この両方のストーリーがどう関わってくるのかが、しばらくは良く見えてこないのだが、登場人物のちょっと常軌を逸した言動に軽く笑いながら先に進めてしまう。一貫して話は意味不明の迷走を繰り返し、登場人物はわちゃわちゃと支離滅裂な言動を繰り返し、あれれれ、というところにかなり中途半端に着地して終わる。普通ならブン投げたくなるような一冊のはず。しかし二次大戦前後の芸術家たちと、50年たった現代ドイツの音大生たち、という、どちらも世の常識から離れた取り合わせから起こる化学変化が、なんだかやけに面白い。素っ頓狂な登場人物達が妙に魅力的なので、馬鹿馬鹿しくも楽しい話だったと思えてしまう。不思議だ。
随所いい味が出ていて、ワタシは非常に面白く読んだのだけれど、きちんと成型された標準的なミステリーではない。異色の学園ものに音楽ネタをふんだんに盛り込んだオモシロ小説であって、ミステリーとしては意味不明で支離滅裂。細かいツッコミどころは満載なので、まともな小説を求める向きは触らないのが無難かも・・・。
あとがきに翻訳者の酒寄進一さんが、本書との出会いのエピソードを書いていて、これは非常にいいオハナシだった。
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