紙の本
塩野七生は結局これ!
2005/05/19 23:04
11人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
塩野七生の本は沢山あるが、結局「サントリー学芸賞」を受賞した
「海の都の物語」に尽きますな。商業国家として繁栄を極めた中世の
都市国家ヴェネチア。最盛期には大英帝国顔負けの植民地帝国を築き
あげ、地中海を我が海としたヴェネチア。その栄華の絶頂期に衰退の
兆しは始まり、一旦衰退が始まると今までヴェネチアの長所だったもの
が短所となり、すべての歯車が逆回転を始めてしまう。帝国は衰退し
敗戦につぐ敗戦で領土は次々と失われていくが、皮肉なことにそれでも
ヴェネチア人は豊かであり続けたが故に、危機感は国民の間に高まる
ことはなく、構造改革の火は消され、衰退は続くのだった。豊かに
なった人間がリスクを取ることを避けるようになり、安全な道のみを
選ぶようになったことが国家から進取の気性を奪い去り、国家を衰退へ
と導いたという塩野の議論は初版から20年以上たった今も、その輝き
を失っていない。衰退した日本の大手都市銀行員に是非読ませたい一冊
である。
紙の本
ある国との類似
2008/07/26 02:09
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コーチャン - この投稿者のレビュー一覧を見る
『海の都の物語』下巻では、強国オスマン帝国の台頭、宿敵ジェノヴァとの戦争、さらに大航海時代以後にゆらぐ地中海での覇権など、15世紀以降次々と新たな時代の荒波にもまれるヴェネツィアの姿が描かれる。
特にオスマン帝国との戦いでは、スペインと結んだレパントの海戦など、痛快な勝利を収めたこともありはしたが、結局、資源に乏しいこの海洋国家が無尽蔵の資源を有する陸の大国に対して最終的勝利をおさめることはできなかった。地中海支配の要であったクレタ島の攻防戦は実に25年も続き、その最終段階においてはまるで亡霊のようだと形容されたヴェネツィアの兵士たちの守りもむなしく、結局オスマン側に要塞を明け渡すこととなる。
国内の社会変化も、さまざまな角度から綴られていく。ヴェネツィアでは、伝統の共和政を維持しつつ、有事の際の政治的指導力強化のため、やがて政治家の世襲制が開始される。つまり代々政治家を輩出する家が生まれたわけであり、彼等は貴族といってもよい階級ではある。しかし、これは一般の貴族とは様相を異にする。一種の名誉職ともいえる政治家であるが、彼らの収入は決して多くはなく、16世紀になると、金に困って顔を覆いながら乞食をするような者も出たという。
「聖地巡礼パック旅行」という章では、15世紀を中心に行われたイェルサレムの巡礼ツアーに国をあげて取り組む様子が描かれるが、今でいう観光事業にも手をのばす彼らの巧みな商才には思わず微笑んでしまう。
もともと潟(ラグーナ)だけであった領土も、国家の隆盛とともに周辺地域にひろがってゆく。その過程でヴェネツィアは、海洋国家から農耕中心の国家へと徐々に移行していく。かつては国家の安全と繁栄を守るために必死になって戦った覇気にあふれる国民性もいつのまにか萎え、18世紀にはかつてのような覇権国家とはほど遠い存在となりながらも、市民たちは平和と豊かさとを享受し、その華やかな文化はゲーテを始めとする多くの観光客を魅了する。
しかし、文化的絢爛のさなかにあったこの国も、フランス革命後に頭角を現したナポレオンによって征服され、花火のように消えてゆく。ナポレオンの恫喝に、市民も政治家もただ怖気づいて、結局一度も剣を交わすことなく、ヴェネツィアはフランスの手に落ちたのだった。かつてクレタ島を死守したときのような覇気はどこにもなかったのだろう。
最後まで読んでみて、ヴェネツィアという国が、現代のある国と歴史や国の性格、国民性の点から非常に似ていると感じた。
四面を海に囲まれ、天然資源にも恵まれていない。しかし、この国の民は古来、高い道徳性と勤勉性により、豊かな文化と物質的繁栄とを生み出してきた。海を隔てた近隣には、領土的野心に燃えた大国が数カ国存在する。先人たちは自国を愛し、それを守るために自分の命さえも投げ出して戦い、これらの国々の侵略を許さなかった。しかし、その後訪れた長い平和と繁栄のなか、その子孫たちは平和を自らの努力によってかちとるものということを認識を忘れたばかりか、そのような考えを否定ないしは軽蔑するようにさえなっている。(ついでに、かつて各々生活苦をかかえながらも他の階級の上位に立っていた支配階級がいた点も似ている。)
その国とは、いうまでもなく我が日本である。ヴェネツィアの歴史をそのまま当てはめるならば、日本もやがて近隣の大国に併呑されてしまうということか?それも戦わずして降参することによって...
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国は生まれて、そして滅びゆく
2019/08/06 16:30
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
どんな国も生まれて、消えていく。大小関わらず。マイナスをプラスに変えて栄えたベネチアが力を失っていく描写は本当にすばらしく、何度読んでも色あせません。
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「栄枯盛衰」様々な物語が紡がれ、それを導き出しているのでしょう。辿り着く先は同じ「滅亡」であっても。
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ヴェネツィアの歴史
英雄を作らないという共和国を創ったヴェネツィア人
千年も国の体制を変えずに繁栄したのも珍しい
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イタリアマニアに陥った私をさらにがんじがらめにした名著、下巻。これで本棚がイタリア色に染まったといっても過言ではない。
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千年以上にわたり、確固たる意志の元で繁栄し続け、ワケあってアッという間に抜け殻となったヴェネツィア共和国。その小さな国の興亡を息をのむ思いで読み続けた。政に関わる者たちが逸脱した行為に及ばないよう周到に組織された政府、万が一足を踏み外した者への厳罰、用意された敗者復活の構図、経済の理論など、独創的な政治体系に驚く。恥も外聞もなくお金や名誉に執着する今の日本とは、その成熟度は比較にならない。久々大きな思いを残してくれた感動の書。未読の方には、是非!とお勧めしたい。こんな本が教科書だったら、歴史も地理もすんなり頭に入るのに……。
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ながいっ! そりゃそうだ。ヴェネチア共和国1千年の歴史だもの。それを上下巻とはいえ、ここまでしっかりとまとめ、なおかつロマンチックに彩るのは、塩野七生だからこそできたことだと思う。
蛮族から逃れるために、潟の中にくいを打って作られたヴァネチアが、その地理ゆえに、海の国家になり、その位置ゆえに常に大きな勢力と敵対していく。その在り方は、ロマンだよなと思ってしまう。
塩野七生のミステリーでヴェネチア貴族を主人公にした3部作があるのだが、その3部作が魅力的だったのもヴェネチアという都市の魅力が反映していたからにさえ思う。
またシェイクスピアの「ベニスの商人」がなぜ、ベニスなのか、ずーーっと謎だったのだが、これでようやく納得した。宗教も自由、言論も自由、人種的な差別もないに等しいというヴェネチアは、当時のほかの都市からしたら特異だったのだろう。で、特異なものはたいてい排除されるもんだ。
とにかく面白かった。元々、ヴェネチアって好きだし死ぬまでには行きたいと切望しているのだが、ますます行きたくなった。
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ヴェネツィアに関する物語の下巻。
この本を読み終わることにより、日本人がよく知っている
現代の大陸型国家の有望なところの台頭の理由や
中世・ルネサンスから近現代に至る過程が読み解けます。
またイスラムとの関係も。。
目から鱗が落ちましたね。
視界がジーコレベルになりました。はい。
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ヴェネツィア共和国の経済体制、経済体制を維持するための合理主義に基づいた政治システムの運用と文化の変遷について。ヴェネツィアは、経済合理性を追求した各種制度の確立・運用によって東地中海の覇権を獲得し、中東との貿易を行うことで中世の西欧では最大の経済国となり、文化の中心地ともなった。東地中海世界にトルコが台頭した時期に、他のキリスト教国から非難される中でトルコに年貢を支払ってまで地中海交易路を維持したのも経済合理性のためである。近世にアメリカ大陸が発見されたたために、西欧世界にとって地中海貿易の重要性が低下するについて伴いヴェネツィア共和国は経済力を失い、ナポレオンの圧力のもと崩壊した。
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私の敬愛する竹田青嗣氏によれば、世の中の価値観は「真・善・美」に集約されるという。
この考えが正しいのであれば、歴史の場合、「善・悪」の価値観で評価するのではなく「真・偽」の価値観で認識すべき「事象」のように思う。
「情」と「理」の対立軸でいうならば、「情」で評価するのではなく、「理」で評価すべきなのではということ。
塩野女史の著書を通読していると、彼女の歴史観というのは、、常に「善・悪」や「情」でなく、「真・偽」及び「理」の視点で認識しようとする姿勢があり、非常に気に入っている。
しかしながら、塩野女史は、「善・悪」で評価はしないものの、「好き・嫌い」で評価しているところは読み手も共感できるところだ。本人も言及している「カエサル」好きはともかく、「ヴェネツィア」に対する彼女の愛情はこの著書を読みながらひしひしと読者に伝わってくる。
あらゆる苦難を国民の団結と知恵で切り抜けてきたヴェネツィア。私はこの「第13話 ヴィヴァルディの世紀」の最後に記された文章を繰り返し読みながら、すっかりヴェネツィアの虜になってしまった。
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1000年に及ぶ繁栄を続けてきたヴェネツィアにも衰退の影が・・・。コロンブスの新大陸発見以上に脅威となったバスコダガマの喜望峰発見。それは経済大国ヴェネツィアの利益の源泉であった胡椒の独占が崩れる予兆だったとのこと。実際にはオランダの台頭・東インドの領有により完全に優位を失うまで時間は要するのですが、地中海中心から大西洋の時代になぜヴェネツィアが乗り遅れたのか。昔の聖地巡礼パックツアーがヴェネツィア商人の発明で、ライバル・マルセイユを圧倒した話、そして聖地への熱意が冷めるにつれ、ヴェネツィアそのものが観光の対象となってきた18世紀は既に爛熟、腐敗、衰退が始まっていたというのは当然だと思います。ゲーテなどが訪問したのもその頃です。ナポレオンの進出によるヴェネツィア共和国の滅亡は突然のようですが、売り物であった政治力が失われてきたということであり、爛熟売り物であった政治力が失われてきたということであり、爛熟した文明は終焉の予感を感じさせるものがあります。
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引き込まれるベネチアの歴史。最後は寂しいが都市は残り観光名所になった。ベネチアがこういう歴史だったと初めて知った。
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宿敵トルコとの激戦と大航海時代への対応、文化的な成熟とナポレオンによる
征服、という感じかな。
こう見てみると、やっぱり大航海時代によって地中海の相対的価値が
低下してしまったのが衰退の遠因なんだなあ。
交易から工業、農業へシフトすることで繁栄は維持したのだけど、
それによって小国のデメリットが大きく出てしまうようになったか。
語り口は例の塩野節。面白く読める。
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ベネチアとトルコの激戦、ビザンチン帝国の興亡、マキャベリの台頭、ルネサンス時代、地中海を通じた貿易、やはり海を通じて栄えた都だ。しかし歴史的にこれだけ色々な都市と関わってきた街は無いと思う。