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自分には良心があると思う。けれどそれは、ひどく不確かで不安定なものだ。自分だったら「その時」どうしただろうか。違う時代の、まるで遠い世界の話のようで、これは私たちの問題なのだと、夏川草介さんの解説を読んでやっと理解できた。だから、こんなにも気持ちが重たくなるのだ。
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生体解剖事件に係わった医師たちを中心に、日本人と罪悪感を描いた不朽の名作……
なのだけれども、事件とは関係のない部分での、一般人の罪悪感描写が実はスゴい。
「だってみんなやってるもーん」のひと言で殺人も虐待も行う自覚なき一般人。
自分がされたことは覚えていて、自分がしたことは忘却もしくは正当化する。
事件の影を負う勝呂や、罪悪の在処を求める戸田より、むしろ、この一般人の無意識と無自覚が恐ろしかった。
ひょっとしたら、私も、あなたも、そんな一般人の一人なのかも……
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信仰がない、すなわち外部に価値観を置いていない日本人からの「畏れ」の欠落をえがいた本。なるほどと感じる主張であったが小説としてやや説明的に感じた。題材の刺激的さで印象にのこそうとしているイメージを受ける。
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大学時代に読んだ一冊。戦争中とはいえ、同じ日本人がこういうことをしていたのかと疑いたくなった。みんながしていて、みんながそういう方向にむかっていると、感覚が麻痺してしまうのだろうか。怖い。
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静かで不気味な小説。
淡々としたトーンで描かれる、戦争の日常という異常な日々。神の存在、罪の意識、背徳感、倫理を揺さぶる戦争の中で人々は何を元に生き判断するのか。
世界中で起きている異常な日々、そこで価値となる思想は何か、それを丁寧に紐解く作業こそ、国際理解、人間理解だと思います。
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人が持つべき倫理や感情を持ってない(というか選択肢として持たないでいることを感覚的に知ってそちらが性に合っていた)人たちに共感した。
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我想胜吕的太太是那个手术的护士。日本人有没有无情?因为,没宗教的信心? 不是,我不想。到今天,天帝。从明天,悪人。是有一般。人的心是不明白,永远。
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ホントは中高生時代に読まなきゃならなかった課題図書。今ごろ読んでも、考えさせられる。戦争渦中で感覚が麻痺していたら、私がそこで正常な判断ができたか自信がない。戦時中に実際にあった九大の生体解剖がベース。続編らしきものがあるとのこと、読んでみよう。
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やはり捕虜の生体解剖はぞっとした。こんな恐ろしいことが行われたのはとても残念だと思う。でも今もこういうことは世界で続いている。争いが絶え間なく続いている地域ではもっと悲劇的なこともあると思う。人は環境次第で残忍な一面が表れる。そういう脳を持っていない動物や昆虫の方が幸せなのかな。
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1958年の作品、戦争末期に九州大学付属病院で実際に起こったアメリカ兵捕虜に対する生体解剖事件をモチーフとした小説、数ある遠藤作品の中でも代表作の一つとして数えられる本です。
解剖時の様子や関わった人たちの心の描写が、とてもリアルで思わず目を背けたくなりました。極限状態であった背景はあるにしても、残虐な行為に対する思いはどうであったのか、それらを含めて人間の良心とは何か等、根源的に考えさせる力を持っていると思いました。
まなもく、発表60年を迎える作品でが色褪せていませんでした。閉塞感が強い現代にあって、人の生き方はどうであるべきか。歴史の事実を押さえた上で、ぜひ多くの人と考えたいものです。
お勧めの一冊です。
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大戦時に日本の大学病院で実際に行われた、米軍捕虜への生体実験事件をモデルにした作品。戦争中は様々な価値観が変わってしまうという通説があるが、果たして人間の"良心"もその対象になり得るかということをテーマとしている。
一人の男性が引っ越してきた土地で陰鬱そうな医者 勝呂と出会うパートを前半とし、以降は勝呂の医学生時代のパートとなるが、その間にも他の登場人物の過去、心情が綴られており、これらがまた素晴らしい。虚栄、エゴ、優越感といった人間の負の側面がこれでとかと詰め込まれており、それらがどれも、読者の自分に身に覚えがあるかのようなリアリティで迫ってくる。
作中での生体実験が完了した日に物語も終わるため、医学生であった勝呂がその後の日々をどのような思いで過ごしてきたのか、どのような人生を経て、医師として再出発をしたのかは綴られておらず、陰鬱さと余韻を感じさせる名作と言いたい。
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2018/04/06
昔から読むべき本だと思っていてようやく手に取ることができました。
宗教に頼って道徳を守るではない私たちにとって、「神」のかわりに律してくれるのは自分の良心になると思います。「お天道様が見ている」という言葉を子供の頃に言われたことがありますが、あれも過去から未来へ向かってどの自分にも胸を張っていられるかということだと思っています。
良心を振り払った個人が集まることでブレーキが効かなくなった集団というものはかくも恐ろしい方向に進むことがあるのだな。
人間は、特に集団は、間違いを犯しやすい。
軍隊に入っていなくても、国をあげてこういったことをしてしまったのは、戦争だったからなのか、それとも人間は通常時でも誰かにいいと言われれば非道なこともやってしまうのか。弱いものを好きにしてしまうのか。
この本は折に触れて思い出しそうです。
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本編後の、医師である夏川草介さんの解説がとても面白かった。「日本人の良心」についての思考。というか、自分ひとりではそこまでの分析にたどり着けなかった。もう一度、また読みたい。
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戸田という人物が印象的。他人の目に触れない限り何をしてもいい。他人を傷つけることに良心の呵責を感じることがなく、重要なのは自己の保身。一方で勝呂は、解剖実験に心を痛めるが、同僚や上司に逆らうことができず、流されるままに結局手術に参加してしまう。どちらも、特に後者は日本人にありがちな態度だと思う。主任教授(橋本?)はその後自殺。本書では描かれていないその後、例えば解剖実験が明るみに出て裁判が行われたとき、戸田の心情はどのようなものだったのだろう?自己の行く末を嘆くばかりだったか。何か別の気持ちが去来したか。
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この本は太平洋戦争末期に日本陸軍と九州大学が起こした、捕虜の生体解剖という悲惨な事件をモチーフにしたものである。この事件は、戦争中という異常な状態が引き起こした事件と言えるのかもしれない。
しかし、作者はこの事件が起きた理由を、日本人の罰は恐れるけれども罪は恐れないという習性に求めている。「赤信号みんなで渡れば怖くない」という言葉があるように、日本人は個人の意識よりも全体の「空気」を優先することがある。個人の罪の意識よりも、他人の眼や周囲からの罰を恐れるのだ。
主人公の勝呂は、上司に捕虜の生体解剖実験への協力を求められる。
実験への参加を表明した同僚の戸田をはじめとした周りの「空気」と自分の良心の間で揺れ動き、勝呂は葛藤する。苦悩する勝呂の姿や心情が丁寧に描写してあり、思わず読むのをやめて目を背けたくさえなった。
この本は読み終えたら、ぜひ冒頭のシーンを読み返してほしい。
冒頭のシーンは戦後が舞台である。ガソリンスタンドの主人と勝呂の戦後の生活の違いや、勝呂がポツリと漏らす言葉に多々考えさせられるだろう。
周りに流されて思わずやってしまい、あとで良心の呵責を感じたということは誰しも経験があることと思う。そんな経験を苦みとともに思い出させると同時に、今後の自分の行動が問われているような気がする、そんな一冊。