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紙の本
食通吉村昭の随筆
2013/12/15 21:42
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ドン・キホーテ - この投稿者のレビュー一覧を見る
吉村昭の随筆集である。一つ一つはきわめて短いものである。テーマは食べ物である。吉村昭が食通だとは知らなかった。しかし、グルメでうまい店を食べ歩くのとは少し違うようだ。食べ物に対する興味はあるが、一言で言ってしまえば料理というよりは、素材の美味しさ、新鮮さに重点を置いているのであろう。
職業柄、吉村は取材旅行に出ることが多い。編集者を伴ったり、案内役を連れたり、その行先と目的は様々である。しかし、そのついでに地元の店に立ち寄るわけである。それには地元住民や案内役、編集者から旨い食材を出す店を聞き込む。それで概ね目的は達成できるようだ。
本書は短い随筆集であるが、いずれもどこかの雑誌などに頼まれて発表したものである。本書ではそれを編集しているのだが、重複が多いのも特徴である。吉村は食通ではあるが、酒通でもある。どちらかといえば呑み屋に行くのが楽しみのようだ。その酒の好みや、日本酒、洋酒、ビール、焼酎などを少しずつ飲むので、全体の酒量は大した量にならない。したがって、悪酔いもしないというわけだ。
これらは発表媒体が異なるので、繰り返し登場する。同じことをまったく異なるように書いたのでは信用問題だが、正直に書けば、結果的に同じことの繰り返しになるのは当然である。
本書はグルメ本のようにどこそこの店が旨いというような書籍ではない。おそらく、できれば自分だけが知っている店を保護しておきたいという気持ちが現れているような気がする。とはいえ、別に隠しているわけではないのだろう。実際、本書に記されている店を探しても、現在はどうなっているのかは定かではない。何しろ、随分前の話なのである。昭和60年以前の場合もある。したがって、その土地を訪れた際に探しても見つかる保証はない。
吉村の食に関する楽しみや好みを知るだけにした方がよさそうである。これを読んで思い出したのは池波正太郎の随筆である。この中にも食べ物に関するテーマが多かった。どこか気脈が通じるところがあるようだ。
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