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大企業フィリップスの政治力の前に標準化に敗れ、mp3をWebに無料で公開した、失意のドイツ人技術者(特許は取得していたので、その後はライセンスで巨万の富を築く)
アメリカの片田舎のCD工場よりCDを盗み出し、全世界に拡散さることになった黒人労働者(実刑判決を受ける)
世間の非難を浴びるラップを売り込みCD業界を牛耳ることになる強欲エグゼクティブ(年収1400万ユーロ!)。
彼らの個々の欲望が、インターネットの発展と結びついて、結果的に音楽産業自体を破壊してしまった物語。
ダウンロードを繰り返し、自分のHDDの中にmp3アーカイブを作った人たちも、CDというもの”物”自体が無くなれば、そんな行為も廃れる。物があってのコレクション。ストリーミングとクラウドの時代には過去の話となりつつある。
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「お試し版」であらすじを読んだだけで興奮を覚えていたが、本編は想像していた以上のとんでもないドキュメンタリーだった。
90〜2000年代に激変した音楽コンテンツの環境や音楽ビジネスのことは、一消費者としてしか知らなかった。この本では、その裏側で繰り広げられていた壮大なストーリーが、フォーマットを開発した技術者たち、音楽産業界のエグゼクティブ、窃盗犯グループという、三者の立場で生々しく綴られている。登場人物と注釈が多過ぎるのは読むのにちょっと苦労するが、単なる事実の列挙ではなく(それでも、膨大な資料や証言で綿密に裏付けされた記録なのだが)、登場人物たちそれぞれの心情も織り交ぜられ、多面的に展開する。
しかし、読み進めていくうちに、段々と心苦しくなってしまった。その理由は、音楽を簡単に盗めてしまうという事実を、自分事としてリアルタイムで体験したからに他ならない。LimeWireやNapstar、MP3プレーヤー、iTunes Store、Spotifyといった、本書に登場する数々のアイテムの、登場から隆盛、そして消滅やさらなる発展という音楽環境の激変の中に、自分も進んで巻き込まれていた。「音楽をタダにした」人間の中に、しっかり自分も取り込まれてしまっていた。
その後、結局は良心の呵責から、盗んだ曲と同じ曲をiTunes StoreやAmazon MP3でダウンロード購入し、徐々に置き換えていくことになった。興味本位でダウンロードしてみただけで、一度も再生しなかった曲も多かった。どうしてもその音楽を聴きたい飢餓感ではなく、単に、いつでもアクセスできる安心感が欲しいだけだった。
ハードディスクを占めるスペースも肥大化する中で、何度かのクラッシュを経験したにも関わらず、バックアップも諦めてしまった。その一因は、永遠に増え続けるかに思えたライブラリーのデータも、自分の音楽的興味、好みのアーティスト、そして自分自身と、すべてが高齢化するに従って、変化が乏しくなってしまったことにも関係していたように思う。
結局は、自分の音楽の聴き方も、SpotifyやGoogle Play、Apple Musicのようなストリーミングやサブスクリプション式に移行しつつある。コンテンツの置き場とアクセス権、フォーマットをぐるぐる巡るジレンマを、人生で最も貴重なリソースであるはずの時間と引き替えに過ごしてきたのかと思うと、半ば暗澹たる気持ちにもなるのだった。
著者と同様に、いずれ自分だけのライブラリーとしてのメディアは、処分することになる予感はずっとしてきた。読み終わった後にも、物語が終わった爽快感・安堵感のようなものが全くないのは、この本で語られていたことが、今も、自分ごととして続いているからだろう。
あまりにもドラマティックな群像劇から、やはり映画化も決定済みとのこと。音楽に金を出して買う習慣が無い世代には、このストーリーは一体どのように受け取られるのだろう?
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画期的な音声圧縮技術MP3が世界水準になっていく前半はベータvsVHS戦争のような様相でさながらプロジェクトX。
後半はMP3とインターネットブロードバンド改革の流れでファイルシェアが進み、新譜を盗みいち早く「無料で」オンラインシェアする海賊リーク集団と大手レーベルの攻防が描かれる。
著作権侵害による業界の衰退と「音楽」の形を変えてしまった功罪が本当に面白かった。
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今でこそmp3ファイルをダウンロードしたり、CDからリッピングしてスマホで聴くことが当たり前になっているけど、CDやMD、下手すればカセットテープで聴いていた20年前と比べると大きく変わっている。
そんな変化をmp3開発者、音楽業界の大物、海賊ネット(違法ダウンロード)の中心人物達のエピソードを交えて綴られていて、大変興味深く、楽しんで読めた。
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mp3開発の裏話は非常に面白く、この技術なしには今の音楽の状況はなかったんだと理解出来た。
それにしてもアメリカでこんなにも大胆に新譜のリーク合戦が行われていたとは驚きである。
日本でも発売前の漫画のリークが問題になったが、犯人はお金よりも1番にリークすることが最大の目的である事が共通している。こんなことで音楽業界が衰退してしまっていることは非常に残念。
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技術的な話から始まったので、はじめはなかなかエンジンがかからなかったが、読んでいくうちに止まらなくなった。mp3ってそういうものだったのか!と初めてわかったし、それがCD売上に依存する音楽業界をいかに「ぶっ潰し」たか、そしてそのキーを握っていたのは一握りの男たちだったということが書かれていて衝撃を受けた。技術というものはいつも、発明した者の思惑を外れて使用され大きな影響力を持つ。「デジタル時代に資本主義がうまく機能するには、シェア行為は罰せられなくてはならない。」(p.206) 著作権所有者が希少性を作り上げることで利益を生んでいること、しかしそれがテクノロジーの民主化により難しくなっていること。「ソフトウェアが特許で保護されていなければ、mp3は絶対に存在していなかった。」(p.317)という矛盾。これは音楽業界の話だけれども、もっと敷衍すれば、世の中を動かしている経済の話になり、政治や思想信条の話になる。そう考えるとかなり興味深い。それにしても、ダグ・モリスやり手だな~、すげー。
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苦労の末、音楽の圧縮ファイルを生み出した技術者と研究仲間、
新たな音楽領域を開拓してのし上がってきた大手レーベルのCEOとその周囲の人々、
音楽共有ファイルの世界でリークにのめりこむ、CD製造工場の従業員とリーク仲間、
一見全く関連なさそうな3つのグループがあるきっかけで絡まっていた糸がスルスルとほどけるようにつながる。
音楽にもテクノロジーにも全く詳しくないですし、
次々と出てくる登場人物を追うのもなかなか大変ですが、
ストーリーに入り込んで一気に読んでしまいました。
ネットから音楽や映像がダウンロードできたり、
ストリーミングてきたりするというのは、
今では当たり前のようにできますが、
色んな方が関わって可能になったのだと感じた次第です。
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【所在・貸出状況を見る】 https://sistlb.sist.ac.jp/opac/volume/207197
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この20年開で大きく市場規模が縮小した産業を1つ挙げるとすれば、それは音楽産業を置いて他にない。その要因は当然、mp3とファイル共有サービスの登場にあるわけだが、本書ではその歴史を「mp3という極めて優れたファイル圧縮フォーマットの開発」、「1990年代後半から2000年代のヒップホップの台頭を独占したユニバーサル・ミュージック」、「ありとあらゆる音楽をリークし続けたインターネット海賊集団」の3つの軸から紐解くノンフィクションである。
mp3の開発を巡っては、巨大レコード会社がバックにつきmp3よりも明らかに劣った技術規格であったmp2との熾烈な規格競争をいかにmp3が勝ち抜いたかが描かれるし、ユニバーサル・ミュージックについては天才的なビジネスの才覚を持つジム・モリスがどのようにヒップホップのここまでのブームを予期して、多数のラッパーやトラックメーカーを傘下に収めることに成功したか、など、様々な角度から、音楽産業が破壊されていく偶然の物語が紡がれていく。
特に「シーン」と呼ばれたインターネット海賊集団の話は、実は自分がダウンロードしたmp3も、どこかでこの「シーン」がユニバーサル・ミュージックのマスターCD工場から盗まれ、ウェブ上にリークされたファイルにたどり着くという点で、全ての人間がその祖先を辿っていけばミトコンドリア・イブに辿り着くのと同様のミステリアスさがある。
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音楽がタダになった理由
(1)音楽の圧縮技術の向上
(2)音楽リークグループの出現
(3)広告収入という新しいモデルの登場
MP3の意図しない広がり
悪気なくやっていたことがまさかの展開に
音楽ビジネスの儲け方の変化
VEVOの発想、アップルの台頭
裁判ではほぼ無罪に
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音楽コンテンツにまつわる三つの話がクロスする。
◯MP3という規格を誰がどんな経緯で作ったか。
◯MP3が登場して高音質なまま圧縮できるようになったことで、組織的に音楽を盗んでアップロードする集団が登場。彼らの手口と組織の最後。
◯同時期に活躍した大物プロデューサーの視点からみた業界の移り変わり。
特に音楽コンテンツ窃盗団の話が興味深かった。これじゃ作る側はやってられない。
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すごくハラハラドキドキするノンフィクションだった。最新曲を盗んでアップしている人たちって、曲を無料で聴きたいとかそんなところは通り越して、スリルジャンキーになってしまうんだなあ。音楽はこのような段階を踏んで無料になってしまったけど、他の分野も似たような経緯を辿るんだろうな。こないの
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登場人物も多くボリュームもかなりあって読むのにかなり時間がかかるけどめちゃくちゃ面白かった!映画化も決定してるみたいでこちらも楽しみ
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進歩すれば、廃れたり、死んでいく文化があることは
必然なのかもしれない…
ただ、姿形を失い、手に取る重みが無くなって、どんどんコンパクトに、手軽になっていくのはやっぱり悲しい
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サブタイトルは「巨大産業をぶっ潰した男たち」。2000年くらいからの同時期に、かたやインターネットは普及し発展していき、かたや音楽産業の売上は右肩下がりになっていく。その中身を解剖するように見ていくと、僕の世代なんかではよく知っているmp3圧縮技術が時流を作った要となっていたのです。本書は日本でも少なからず影響のあった違法コピー音楽の面でのインターネット史・ノンフィクションといえます。
本書は三つの観点からこのインターネット・音楽違法コピー史の内実をひも解いています。インターネットが市民権を得るずっと前から、後にmp3として結実する音響技術の研究を続けていたブランデンブルク氏が中心の音響チームのストーリー、つまり音楽コピーに続いていく技術面でのストーリーがまずひとつ。次に、CD製造工場から発売前のCDを盗みネットにリークするいわゆる「シーン」と呼ばれる世界でもっとも優秀なひとつの集団のなかにいてリーク元としての大物だったグローバーのストーリー、つまり違法コピー曲を世に広めた側のストーリーがふたつめ。最後に、ユニバーサル・ミュージックなどのエグゼクティブ職(お偉いさん)として音楽産業を引っ張っていたモリスのストーリー、つまり音楽業界の体質ひいていえば金を生むことを第一とするビジネス世界の体質が、顧客とする一般大衆に知らず与えていた影響が違法コピーの敷居を下げたともコピー禍を招いたともいえるその関連性のストーリーがみっつめ。これらを10ページから20ページの分量の章を順繰りに読ませていくかたちになっています。
mp3を再生するソフト、「winamp」は僕も使っていたことがあります。スキン(ソフトのデザイン)を変えられるようになった頃だったので、もう終盤だったのかもしれません。その後、日本製のコーデックを手に入れて、個人的に、それもたまにCDをリッピングしたり、DTMで作成したファイル(自分で作った音楽)をmp3にして自身のホームページ上で一般公開したりしていました。どこかのサイトからダウンロードしたのは20曲もなかったと思うし、それに手に入れた曲はレンタルし直したりもしていたタイプなので、あまり「音楽を盗んでいた」感覚はないほうなのですが、それでも、そういう時代のそういう状況や場を知っていましたから、本書で描かれるさまざまなエピソードにはどこか自分と近い世界のことのように感じられるものもありました。また、世界的に有名な音楽シェアソフト・ナップスターも出てきますが、それほど記述は多くありません。
本書の帯に「すでに知っている話と思うなかれ(NYタイムズ)」とあります。ほんとうにその通りで、ここまで「違法コピーの広まり」という事象が、偶然やタイミングのちょうど良さなどの要素がいくつも絡み合ったものだということには気付けていませんでした。当時とても勢いがあって台頭著しかったラップミュージックにしても、その歌詞の内容は非倫理的なものでした。殺人や強姦などを歌うものもあったようですし、効果音に銃声を用いた曲も聴いたことがあるような気がします。そうやって壊されていった道徳観が、違法コピーを拒絶するはずの心理的な壁をも壊していたともと���るのです。ミュージシャンが音楽で訴えていた自由や反権力などは違法コピーを作ったり聞いたりする心理と親和性があるものだったのに、違法コピーが無視できなくなるとミュージシャンが食べていけなくなるという現実的な問題を前に、引きはがされることになりました。これには、一般人が困惑して当然だったと僕は思います。ミュージシャンにも本音と建前があったのか、と見えたりもしましたから。今でもそうですが、そこのところをうまく、ミュージシャンとリスナーを繋げていくような言説は見なかったです。それがきれいごとでも、反対にまるだしの欲望でも、納得は生まれにくい案件なのではないかなあと思います。それだけ、音楽の、過去からの蓄積が定着していて、それらは違法コピーに対峙するようなものではなかったからだと言えるかもしれない。
本書では、そういった細かな事実たちを見逃さず、しっかりライトを当てて語るようなところがあります(短く語るだけで読者に委ねるようなものもありますが)。それは音楽業界や研究者、消費者の世界の局所的な歪みのようにみえて、実は社会全体で看過している歪みだったりすることに気づくことになるでしょう。
どうしてグローバーは音楽を盗むようになったのか。どうしてmp3が、他の似たような技術のようではなく、違法音楽コピーつまり音楽流出のための技術になっていったのか。そういったことも、「事実は小説よりも奇なり」というような展開の連続をしながら明かされていきます。
はじめに書いたように、インターネット史の一面を知る内容なのですが、それにしたってエンターテイメント的に知ることができる本です。僕なんかにとっては、この違法コピーの当時の流れこそが、インターネット史を知る上では避けられない「負のメインストリート」として知っておくべきことだと思うくらいです。だって、ほんとうに大勢の人が違法コピーを経験していますから。Win98前後のころなんて、パソコンに詳しくなろうと思ったティーンならば、こういった世界を知るのはマストってくらいでした。そういう時代だったともいえます。
そんな時代も、こういうふうに客観的に、そして整理されて伝えられるものになったというわけです。それでも、まだなかなか割り切れない部分を多く残しています。それは現代においてもそのままになっている課題がそこに眠っているからなのでしょう。分量は350ページほどですが、けっこう読み終えるのに時間がかかりました。むずかしくはありませんが、一章よむごとにふうと息を吐いて物想いに浸るような感じでした。今、40代半ばくらいの人で当時からインターネットに触れている人、またはそんな時代を知らない10代の人、どんな世代でも楽しめる本だと思いました。