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年末で、「ク」から始まる2文字が付くほど忙しいさなか、寸暇を惜しんで読み耽りました。
国際テロ組織「IS」に13か月間もの長い間、拘束されたデンマークの写真家、ダニエルの、過酷と言えばあまりに過酷な体験を、つまびらかに書き下ろした衝撃のノンフィクション。
ISの拷問は酷いもので、たとえばタイヤの穴にダニエルの曲げた膝を押し込み、タイヤから突き出た膝の裏側に棒を通して身動きが出来なくしたうえ、パイプのようなもので容赦なく叩きのめします。
あるいは、ダニエルの手錠と天井に取り付けたフックをつなぎ、完全に身体が伸び切ったまま何日も放置します。
過酷な拷問に耐え切れず、ついにダニエルは自殺を試みますが、それも未遂に終わります。
脱走も試みますが、それも敢え無く失敗に終わり、さらに過酷な拷問を受けることになります。
常に死と隣り合わせの極度の緊迫感に包まれ、読んでいて何度も胸が塞ぐ思いがしました。
やがてダニエルは、自分と同じように誘拐された他の欧米人たちと厳重な監禁下で共同生活を送ることになります。
人質同士で励まし合いながら、いつか解放されることを信じて、運動をしたりゲームをしたり、できるだけ一定のリズムで生活を送ろうと努めます。
一方、ダニエルを何とか救い出そうと、ダニエルの家族と、ダニエルの家族から依頼を受けたテロ対策を専門とする民間コンサルタント会社社長のアートゥアが奮闘します。
ISから日本円で2億円余りもの莫大な身代金を要求され、東奔西走する家族の姿に同情を禁じ得ませんでした。
本書はこのように、ダニエルと、ダニエルの家族およびアートゥアの大きく2つのパートで、同時進行で展開します。
一人ひとりの人物が、何を思い、どう行動したかを実に詳細に調べ、優れた読み物に仕立て上げているのは、「読者を引き付け、この不条理な世界の現実に関心を持ってもらいたい」という強い熱意の表れでしょう。
さて、身代金の額に近付くにつれ、ダニエルに対する暴行はにわかに激しさを増します。
特に、ダニエルら人質たちが「ビートルズ」と名づけたイギリス出身のテロリストたちの暴力は執拗で、酷薄なものでした。
警棒で何十回と太腿を強打され、ついにダニエルは叫び声を上げます。
「やめてくれ。脚がつぶれる!」
ダニエルの家族は、ようやくISの求める身代金を集めることが出来ました。
アートゥアがISに指示された場所に出向いて身代金を引き渡し、数日後にダニエルは解放されます。
「落ち着いて排便ができることがあまりにうれしくて涙がこぼれた」
というダニエルの言葉に、人質生活の苛烈さを改めて噛み締めました。
ただ、そこから先に、さらなる地獄が待っていました。
ISに誘拐されて一緒に過ごした仲間が、砂漠の真ん中でのどを掻き切られて次々と殺されたのです(その残酷な映像はYoutubeにアップされました)。
同じ境遇に置かれながら、一方が生き残り、もう一方が死ぬと、生き残った方の人間は自らを恥じるのだそうです。
これほど残酷なことがあるでしょうか。
本書を読んで、世界の現実の一端をまざまざと見せつけられました。
今やテロ組織の代名詞となったISの実態を知る上でも貴重な資料なのではないでしょうか。
今年読んだ本の中で、間違いなく最高度の衝撃。
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事実だから怖いですね・・
淡々と、拘束されてからの毎日が綴られている感じですが、本当にこれが事実なら、怖い・・・という内容でした。
ジャーナリストの方々は、そんな危険があるのも承知の上で取材に赴いていらっしゃるのですね。
生還された方も、精神的なトラウマはずっと出てくるんじゃないかなぁ・・と思ってしまいます。
私達はそんなこととは程遠い、平和で贅沢な生活をしています・・・
でも、事実を知ることができたことに感謝します。
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デンマーク人のダニエル・リューは体操選手を目指していた。デンマーク
代表も夢ではなかったが、練習中の怪我で体操の道を断念した。
大学で写真を学び、報道写真家に師事して自身も写真家になるという
新たな目標を掲げた。その第一歩として選んだのが徐々に内戦が激化
していたシリアだった。戦火の中でも生活する人々の姿を写真におさめ
たい。そんな気持ちからだった
しかし、ダニエルの計画は当初から狂ってしまった。案内役を依頼した
人物が待ち合わせ場所に現れず、代理を頼まれたという人物と共に
シリア入りこそ果たしたものの、早々にISに拘束された。
ここから、ダニエルとその家族の悪夢が始まる。本書はダニエルの拘束
から解放までを本人及び家族、関係者の証言で再現したノンフィクション
だ。
書いているのはダニエル本人ではなく、別のジャーナリストなのだが
ISに拘束されて以降の拷問の描写があまりに生々しい。人間以下の
扱いである。拘束当初はスパイ容疑での拷問だったが、スパイ容疑
が晴れてからは見張りの番兵の気まぐれな暴力に晒される。
ただ、これはISが独自に考えた虐待ではなんだよな。例えばアサド政権
による反体制派に対する虐待であったり、アブグレイブなどでアメリカ軍
が収容者に行った虐待を手本にしている。そう、あのオレンジ色の囚人
服と同様なのだ。
あまりの辛さに自殺や脱走を試みるダニエルだが、それさえ叶わない。
結局はISの虜囚として家族が身代金を調達してくれることが遺された
希望だった。
フランスやイタリア、スペインなどと違ってデンマーク政府はアメリカ・イギ
リス同様に、テロリスト組織との交渉は行わないことを旨としている。ただ、
ダニエルにとって幸運だったのはアメリカ政府のように家族が身代金の
為の募金活動までは禁止していない点だった。
拘束中のダニエルの様子を読みながら思った。ISに拘束・殺害された
湯川遥菜氏と後藤健二氏のふたりも、ダニエル同様の過酷な生活を
送り、ご家族はダニエルの家族同様に不安と焦燥の日々を過ごして
いたのか…と。
本書にはISとの交渉窓口となった民間コンサルタントが登場するのだが、
彼はダニエルの解放後にISによって殺害され、ネットに殺害の模様が
公開されたアメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーをも担当
していた。そして、ダニエルも監禁施設で8か月間をフォーリーと共に
凄し、フォーリーの遺言になってしまった手紙を暗記し、家族の元へ
届けるという辛い役目を果たした。
このような人質事件がある度に、自己責任が云々される。私は嫌いなの
だけれどね、この自己責任って言葉は。危険を承知で行ったのだから
殺されても当然…なんてことはないと思うのだもの。
デンマークに帰国後、ダニエルは大学で写真について教えていると言う。
それでもきっと、彼には終生、拘束の記憶が付きまとうのだろ��な。そして、
2016年5月末に動画が公開されて以降、なんの情報も伝わってこない
ジャーナリスト安田純平氏がどうなっているのか気になっている。拘束
しているのはISと袂を分かったヌスラ戦線らしいのだけれど。
貴重な体験の記録ではあるが、佐藤優氏の解説はいらなかったかも。
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【期待したもの】
・拷問の実態。アサド政権の対応の実際。
【ノート】
・帯広出張の列車の中で読了。読み始めると止まらなかった。
・本書は人質と、その救出に奔走する側という2つの軸で進行するのだが、救出側の話が興味深かった。なお、佐藤優の解説はかなりおざなりな印象。
・人質側パートで、なかなかに陰惨な拷問の様子が描かれているが、描写としては抑えられてる印象。もしかしたら人質の性質(外国人人質とか敵兵捕虜とか)に応じて拷問のレベル設定が行われているのかも知れないが、元SAS隊員であるアンディ・マクナブの「ブラヴォー・ツー・ゼロ」や、同じく元SAS隊員のクリス・ライアンの「戦場の支配者」(こちらは小説)で描かれている様子はもっとひどい。また、UNHCR主催の映画祭でシリアを舞台としたドキュメンタリー映画を見たのだが、そこに映されていた遺体の拷問痕の凄惨さたるや...!
上に列挙した例の拷問者は政府機関(軍や警察)であったり反政府機関(ISなど)の所属だったりするが、拷問技術は共有されているらしい。本書で言及されている車のタイヤを使った拷問は、UNHCRの上記の映画で、軍が行っている場面が映されていた。
・ところで、半年ぐらいメガネのない生活を送れば実は近眼って治せるんじゃないかと考えてたのだが、本書の主人公は13ヶ月拘束されて近眼のままだったらしいのでダメみたい。
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ノンフィクションだけど
人質、家族、仲介人それぞれの視点で
時間が経過していくから映画を見てるみたいだった。
拘束されている時の状況は悲惨だけど
同じ場所に拘束された仲間たちがいたから
なんとかなっていたんだと思う。
現地では知らない人にはついていかない、保険に入る、
などは現代社会で安全に暮らすために
必要なことと同じに思える。
ウソをつかず、日課を作り、相手の言うとおりにする、
という誘拐された時の心得も
働いている環境によっては参考になるかもしれない。
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【生き延びられるかどうかは、自分の苦しみを忘れ、自分より苦しんでいる人間を助けられる人がいるかどうかに左右される場合もある】(文中より引用)
デンマークでカメラマンとして仕事を始めたダニエルは、戦場の実態を伝えたいという思いで戦乱が広がるシリアへ入国する。しかし、現場に不慣れであった彼は「イスラム国」(IS)へとつながる男たちに拉致されてしまい、そこから地獄のような13ヵ月を過ごすことになり......。著者は、デンマーク放送協会の中東特派員を務めるプク・ダムスゴー。訳者は、英語とフランス語の翻訳家として活躍する山田美明。英題は、『The ISIS Hostage: One Man's True Story of 13 Months in Captivity』。
一人の人間が絶望をくぐり抜けてどのように生還に至ったかという観点から読み進めることが有意義であるのはもちろんのこと、テロ組織が関与する国際的な誘拐事件に関する貴重なケース・スタディーを提供してくれる作品。政府のスタンスやコンサルタントの使用など、認識を深める上で非常に参考になりました。
痛々しい描写もありますが☆5つ
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信じがたい拘束時の状況が淡々と綴られており、無理なく読み進められる
これが創作ではなく、経験に基づいて書かれた、しかもこの時代に起こっている事実なのだから恐ろしい
こんな悲惨な状況下で13ヶ月もの間、精神を保ったまま生き延びられたのは、生きて家族の元へ帰ると希望と、拘束期間中少なからず人との交流?があったからか
身代金には一切応じないという徹底したデンマークという国の姿勢とジャーナリズムの意義には考えさせられた
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2016年に刊行された作品だけれども最近になって知ったので手にとってみた。イスラム国(IS)には欧米人が多数、そして日本人も拘束され、中には処刑され人達もいた。特に首を斬られて殺される動画が公開された米国人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーという人がいたが彼と同じ時期に拘束されて時に同じ施設に閉じ込められていたデンマーク人について書かれた作品。自己責任の議論が日本でもあったけれど本作品で取り上げられているデンマーク人もそうで、元々はデンマーク代表の体操選手だったのが靭帯損傷で体操の道を閉ざされ、好きなカメラの道に進もうとしてろくに中東や紛争の知識もなく言わば無邪気にシリアに出かけてしまい国境を越えた翌日には武装組織に拘束されてしまう。本作品の凄いところは拘束されている状態の悲惨さとともに残された家族がいかに武装組織にコンタクトし交渉を行い結果、どのようにして借金と募金で身代金を作りそれを支払って人質を取り戻したのか、を克明に描いているところ。理不尽な暴力に晒される人質の悲惨さはいうまでもないのだけれど正体が分からない連中から法外な身代金を要求され、その道のプロフェッショナルに依頼し開放の交渉と集金を行う家族の対応についてはこれまであまり描かれてこなかったと思うのだけれどこんな苦しいことになるのか、という印象。ちなみに同じ欧米人でもその当時はフランスやスペインは国が身代金を払ってくれる、ドイツやデンマークは国は基本的にノータッチだけど家族が身代金を払う事については支援する、アメリカ、イギリスは国はもとより家族であってもテロ支援になるので身代金を支払うことすらできない、という違いがありそれが人質の待遇にも反映されてしまうといったところも分かって非常に興味深かった。楽しい作品ではないけれども一読に値する作品かと思います。