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文治政治の確立に心血を注いだ将軍綱吉の生涯を描く。
暗愚か名君か。
それは、立場や時代によって変わるだろう。
詳しい評価は専門家に譲るとして、小説では、民を愛し、争いごとを好まず、武から文へと政を変えた心優しき、慈愛に満ちた将軍の姿が描かれているように思う。「生類憐れみの令」に至った命を大事にする思い。それを愚直に実行する将軍と、それを理解しない家臣。歯がゆい。
幾度にわたる大地震、富士山の噴火、京都の大火、そして、赤穂浪士の討ち入りなど、綱吉が生きた時代は、苛酷であり、天下泰平とは言い難い時代だった。
生きた時を生き抜く。その綱吉の姿。
最後の挿話に、不覚にも涙。
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ドラマや映画のせいか悪名名高い将軍綱吉と柳沢吉安を全く別の視点から描いた小説。綱吉のダークサイドを払拭するのが目的なのだろうか。あまりにも善なる部分からしか描いていないので、逆に彼の実像が見えてこない。本当はどんな人物だったのだろうかと興味が湧く。それこそが作者の狙いか。彼の名声を貶めた重大事件赤穂浪士討ち入りにさらっとしか触れていないところが物足りなかった。全体的にもっと掘り下げてもらいたかった。
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犬公方といわれ、生類憐れみの令などで知られる徳川綱吉の話。
また、関ヶ原から60年しか経っておらず、巷にはまだ、戦国の気質で溢れ、命を軽く見る風習がはびこっていた。
その悪習を改めさせ、天下に太平が来たことを広くふれさせることができるよう、悪い慣習は、次々と変えていったため、昔を懐かしむ人々からは、評判は芳しくなかった。
命を粗末にするな、動物の命も大切だ、いわんや人間をや、と言うことだが、地震などの災害で、飢えている際にも、動物も含めて等しく食事等を分け与えたわけだが、今と違い、昔はまだ、飢えで死ぬ人も多く、人間より、犬の命の方が大切なのか、という思いもあったようだ。
歴史小説として、著者の本をはじめて読んだが、いまいちかな。澤田瞳子の方がよい。
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綱吉といえば、「生類憐みの令」「犬を過剰に保護した将軍」というイメージだけで、あまり主人公として取り上げられるようなことはなかったと思う。
しかし、この作品で、人となりや政策を打ち立てた背景などが描かれていて、新鮮だった。
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兄の死により将軍となり、文治政治を推し進めた綱吉。
徳川家五代将軍の半生を彼の生き様と正室の信子の視点から描く。
館林宰相から将軍へ。綱吉は兄・家綱の末期の言葉を受け取り、
大老の権勢を退け、将軍としての立場を堅固なものとし、
猛々しい武の風潮を退け、文治の政を施し、財政を立て直す事に
邁進します。およそ29年に亘る将軍職。
忠臣に囲まれ、心交わせる正室の信子、側室の伝、母の桂昌院の
家族の愛、我が子を慈しみ、同様に民への想いを馳せる綱吉。
だが、天変地異の数々や火事、忠臣の堀田は殿中で刺殺され、
赤穂浪士の騒動、生類憐みの令の悪影響、そして我が子の死。
悲しみも苦しみも激務と信念で乗り越えようとしました。
生きてこの世に尽くし・・・「我に邪無し」との言葉を残す最期。
元来の評価を覆す観のある、綱吉の半生を描いています。
しかし、安寧を望む扶桑の民にとっては“最悪の将軍”!
“水清ければ魚棲まず”正論を押し通す姿には柔軟性に欠ける。
何度も触れを出し混乱させる。そう、民の心は御しにくきもの。
改易の多さ、民の投獄等、悪しき事が良き事を覆い隠してしまう。
民の父であることの、厳しさを犇々と感じました。
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五代将軍綱吉の物語。全八章。
綱吉が次期将軍に選ばれるところから始まり、綱吉視点と正室信子視点が交互に入れ替わりながら、綱吉の生涯を描いている。
大河ドラマや時代劇などではちょっとエキセントリックに描かれていたりして、そんなイメージが染み付いていたけれど、この綱吉さんは実直で思慮深い!
正室の信子も、とても賢くて陰ながら綱吉を支えます。
悪い人たちじゃないのに、ではなぜ「最悪の将軍」となってしまったのか。
その一つとして、領民とのどうしようもない距離があると思います。
戦をやらなくなって久しいので、武ではなく文で治めよう。
領民たちの生活を少しでも改善しよう。
だけど思うようにはならないんですよね。
お触れ一つ出しても様々な役人を経るうちに、領民のところへ届く頃には綱吉の考えや思いは歪められ全く異質のものになってしまう。
あの「希代の悪法」も。
綱吉と信子は基本的に江戸城にいるので、下々の役人や領民との触れ合いはありません。
その声もダイレクトには聞こえてきません。
その隔絶感がよく描かれています。
領民たちのことをどんなに考えていても、やはり生まれながらの殿様・お姫様であることによる感覚の違い。
もしこの二人が領民と直に触れ合い、現場を見ることが出来ていたら……なんて思いました。
そうそう、綱吉の物語なので「あの有名な大事件」も描かれています。
これも綱吉視点からなので、領民とはだいぶ違う感覚で捉えられていますけど、なかなか無い視点なので興味のある方には面白く読めるでしょう。
ちなみに、桂昌院は案外憎めないキャラになってます。
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第五代将軍・徳川綱吉が「余は、やはり最悪の将軍であるのか」と自責するほど、綱吉の治世は艱難辛苦の時代であったようです。嫡男・徳松の夭逝、将軍擁立に尽力のあった大老・堀田正俊の江戸城内での刺殺事件の衝撃から生れた「生類憐みの令」と悪名〝犬公方〟、松の廊下の刃傷事件と赤穂四十七士の切腹、江戸の大火(八百屋お七の火付)、富士山大噴火などご難続きでした。 挫折感に苛む綱吉を影日向で支えた御台所・信子(浄光院)は「民を等しく養う徳川右大臣綱吉は、断じて最悪の将軍にあらず」と天を仰ぎて胸の内で叫ぶのでした。
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TVで綱吉は、実は良い将軍だった。生類憐みの令が目立ってしまっているけど、民のための政策を行っていた。というのを観たこたがある。それがどこから崩れていくのかを念頭において読んでみた。
将軍に就いて初めの頃は良い将軍だった。幕政で古くからの慣習を廃して自分流の政をしてた。その頃は私も読んでいて感心してたけど、徳松の死と信頼していた重臣、堀田正俊の死(殿中で稲葉正休に殺されてしまう)で崩れ始めたと思う。もともと綱吉は、喧嘩や血腥い事が嫌いだったみたいで、二人の死で更に拍車がかかった感じだ。いつの頃か『生類を憐れむべし』という言葉が綱吉の支えみたいになってしまった。
よく言えば、優し過ぎた。悪く言えば、善悪のことで潔癖過ぎたのかな?民の為と言ってたけど、独りよがりで結局自分の為ではないかという印象だ。
あとは、孤独だったのがいけないのかな?偉くなればなるほど孤独になってしまう。
この話は、綱吉の視点と正室の信子の視点が交互になって進んでいく。主に綱吉の視点なんだけど。綱吉というと、桂昌院、柳沢保明、生類憐みの令を連想してしまう。正室の信子は全然知らなかった。私の中でノーマークだった。『信子の視点』というのがとても面白い。
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異例とされた兄弟での将軍継承、度重なる災害と苦難に満ちた在位中、それでも民を愛し、民のために尽くした徳川綱吉の生涯を描く。
綱吉といえば犬公方くらいしか知識のない中、どの程度本作が彼の想いを汲んでいるかはわからないが、読めば読むほど綱吉への印象はすっかり変わってしまった。
民から悪評され、それでも民を憎むことを思い留まり愛する努力を惜しまず、でも本意が伝わらないことを思い悩む人間的な綱吉は、もっと長生きしていればいつか民にも愛されたかもしれない。
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綱吉が何のために生類憐れみの令を出したかが正確に伝わり、かつ、処罰が厳し過ぎなければ、綱吉に対する評価は全く違うものになっただろう。
自分が思っていた綱吉とは全く違う姿が描かれていて、とても驚かされた。
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徳川綱吉の意外な解釈。確かに天変地異が多くて大変だったのだろうと思う。運のなかった明君ということか?
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5代将軍、犬公方と民衆から言われた徳川綱吉の半生の物語。最悪の将軍二綱吉もなろうとなったわけではないけど、時代が武から文になる時、どうしようもない大火、天災、コロナのような感染症など、政治だけの責任とはいえないなかでの為政者自身が言ってしまった言葉。立場も立場で、責任感が強かった人だったんだとも思った。
今この本を国の偉い人が読んだらどんなことを思うのか。