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コンパクトにまとまった評伝
2016/02/27 18:49
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投稿者:塩漬屋稼業 - この投稿者のレビュー一覧を見る
時系列に沿って大川周明の軌跡を辿る。
最後の章での東京裁判の件で、大川を尋問したヘルムの報告書が引用されている。
その報告書の結論部分は大川の軌跡を邪悪な日本軍国主義者として簡明にまとめられてある。
それは、そこまで読んできた本書全体に対するパロディ的・戯画的な要約になっていて思わず笑ってしまった。
著者は狙ってやったわけではないだろうが、そこまで二百頁ちかい分量で好意的に描き出された大川周明像がわずか二頁で転倒されてしまうのだから吃驚である。
これは皮肉ではなく、人の一生を一貫したものとして描くことの困難の現れだろうと思わずにはいられないのだ。
本書によれば副題にある通り復古革新主義者として一貫した大川像が提示される。
しかしアメリカ側が描くようにその人生は邪悪な日本軍国主義者として一貫した像をも結びうるのだ。
これはシニカルにいっているのではなく、この落差や振幅の大きさこそが魅力になる人物がおり、大川周明の魅力も危険性もそこにあるのだろうと思う。
本書の描く大川の軌跡に対して、評者が躓いた箇所は二点あった。
ひとつは満蒙問題。
これだけアジア重視で白人の植民地支配を弾劾する人物が中国朝鮮を植民地化することの帰結が見えなかったのかという事だ。
これはひとり大川周明だけでなく、当時の日本人が持っていた中国朝鮮に対するコンプレックス(複合観念)のせいなのだろう。
しかしこれは当の日本人以外に通用しない観念なのだ。
それはもうひとつの躓き、対米戦争にしてもいえる。
大川は対米戦争を回避すべく色々と工作する。
しかしうまくいかず結局は戦端は開かれてしまう。
そして戦争となれば、お国のために勝利を目指して戦うのみ、となる。
これもまた大川ひとりの問題ではない。
たとえば敗戦の日、反戦派の人にも涙する人たちはいたのだ。
これは愛国心や愛郷心ではなく天皇という奇妙な凝集装置のせいであると評者には思われる(天皇には左右両派が燃える・萌えるのだ)。
これは当の日本人以外にはわからない観念だろう(たぶんこの天皇の凝集力がナショナリズムやパトリオティズムであるなら、日本人以外にも理解されるだろう)。
だから戦争回避に動いていた人物が一旦戦争になると、とことんやるんだと様変わりしてしまう内的必然性など理解されない。
そのため、かえって戦争回避行動が偽善的なプロパガンダに過ぎないと見られてしまうのだ。
しかし恐らく、大川周明にとっては戦争回避も戦争遂行も、どちらも本気であった筈なのだ。
その本気を、ごく素朴にいうと、世界はもっとましなものになる筈だし、なるべきだ、というところに発していたのではないか、と評者には思われる。
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