紙の本
敗戦で見えなくなったもの
2009/09/11 21:55
9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くにたち蟄居日記 - この投稿者のレビュー一覧を見る
第二次世界大戦の敗戦の為に見えにくくなっているものがあるのではないかと最近感じる。本書で取り上げられた大川周明もその好例ではないだろうか。
大川というと 東京裁判での奇矯な行動で有名な方だが 実は戦前は ある種の「知性」においては日本を代表する知識人であったことが本書を読んでいると感じられる。日本にとっての世界が 欧米と東南アジアしかなかった時代に インドやイスラム国を見据えて そことの連携で日本の国益を設計しようとしていた視野の広さには正直感嘆した。
インドにしても最近でこそBRICSという言葉が出てきた事もあり 新聞での記事も増えてきたわけだが それまでは遠くて遠い国だった。ましてや イスラム関係は今なお日本にとっては 未知の世界である。
また彼が展開した「アジア主義」は 「東アジア共同体」という最近の言説を考える上で 参考になる。今の日本が失っている外交上の大戦略を大川が当時持っていた点にも感心した。
北一輝などもそうだが 敗戦で「見えにくくなったもの」を掘り起こす作業は 21世紀の僕らにとっては非常に大事なものになると直感している。時間は掛るが勉強していきたい。
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東京裁判は連合国の日本に対する復讐と教育であるというのが、再認識させられた。この大川周明という人物を単なる右翼と片付けてしまい、その思想の理論的明晰さに目を向けないのは勿体無い。次は彼の原著にあたりたい。
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大川周明といえば、「右翼のファシストで、国粋主義者の大思想家で、5.15事件のテロに深く関係した人物。」これが戦後構築され一般に少なからず認識されているイメージ(ラベル)ではないでしょうか?
少なくとも個人的経験に即して想起すると、青少年向け(一般教材、戦後史観に染まった一般書籍)歴史本としてはこのようなイメージで固定されていると認識しています。また、近来一般メディアから流布される昭和初期の歴史像としても、その方面のイメージに合致した歴史物語(今となっては、過去に報道宣伝された歴史物を嘘と事実を区分けして思い起こすことは困難)に即して都合のいい断片だけが紹介されているといっても過言ではありません。
事実関係はどうだったのでしょうか?この点に関しては突き詰めるところ答えはでません。しかし、本書を読んだ感想として少なくとも指摘できる点としては、大川周明は伝統文化を大切に(保守的思想。人間の人格を高め(精神性重視)ることで真の自由と平等・幸福の希求。この方策として日本精神・日本文明を重視)し、財閥と政界の結びつきによる悪しき資本主義と政治を改め(クーデターを起こし実現しようと画策)、政治改革と統制経済の断行(社会主義的志向。ただし、物質文明に依拠した、人間の幸福は物質の所有の多寡であるという部分は否定。しいて表現すれば東洋的社会主義とでも言うべき思想か?ちなみに唯物主義を前提とする社会主義はソビエトに代表される。)をすべきと志向したということが言えます。
また、物質文明至上主義の西洋に対して、インドやシナに源を発する東洋的思想、それを受け継いで両者融合して独自の文明に進化した日本精神でもって、アジアを復興(白人支配からの解放)し、アジア諸民族連帯して(東亜新秩序建設の思想)人間の幸福・自由を実現せんとする思想を、戦後連合国側に、「侵略を正当化するための思想」として決め付けられてしまったことは特筆しておくべきであろう。まさに勝てば官軍とは言いえて妙である。
大川周明は大正十四年刊行の「亜細亜・欧羅巴・日本」という書物の中で次のように述べている。
「東洋と西洋、「人類の魂の道場」たるアジアと、「人類の知識を鍛える学堂」たるヨーロッパは、世界史における最大至高の対抗個体として今日に至り、相離れて存続し難き処にまで進み尽くした。この東西の結合は平和裡に行われることはなく、必ずや東洋と西洋を代表する強国間の戦争によって実現されるだろう。」と。
現代に至るもこの観点の衝突(20世紀末にはかの有名な「文明の衝突」という書物で類似の視点が披露されています)はイスラム世界で継続されているのではないでしょうか。
また、2006年に発行された「日米開戦の真実 大川周明著『米英東亜侵略史』を読み解く」を一読すれば大川周明が偏狭な思想家やテロリストの類ではなく、少なくとも当時の最高の知性・学者であったことはうかがい知ることが出来ます。
本書は大川周明の生涯にわたっての伝記といっても過言ではありませんが、思想等を伺い知る為の要所要所は外さずに押さえてあると思います。「大川周明」を知る上での入門とするにはお勧めします。
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復興亜細亜の諸問題 の後、読む。
「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ」「始末に困る」人たちのすばらしいネットワークによって、『復興亜細亜の諸問題』は書かれたのだとわかった。
ポール・リシャールの「告日本国」を早速注文しました。