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初めて読む作家さん
てっきり名前から男性だと思ってました。女性だと知って女心というか、まだこの時代、女性は子を産み家を守るのが当たり前の時代に頑なに自分の志を曲げない登瀬の心理描写が丁寧で、女性作家さんならではと感服。
他の作品も必ず読みます
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この時代(幕末の木曽街道)に
「一人の職人」として生きることを
貫いた一人の女性が描かれる
少し前に観た
16世紀のベネチアを舞台とする
実在した高級娼婦「ベロニカ」をモデルとした映画の
主人公に重ね合わせてしまった
もちろん
時代も、お国柄も、設定も
なにもかも違うのだけれど
一人の女性が一人の人間として
生きていくことを選んだがゆえに
その当時の社会通念と闘うことになり
その当時としては革新的な生き方に
なってしまうという共通点に
思えてしまった
もし映画で撮るなら
モノクロの映像で
今村昌平監督タッチが似合うのでしょう
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同時期に執筆されたという「光炎の人」が物語・人物造形共に素晴らしかったので、時代も舞台も異なるけどある意味で仕事小説という共通の枠組みを持った本作に高い期待を持って読んだ。
予定調和でなく読者を引き回してくれるストーリーテリングの巧みさは相変わらず素晴らしい。作者の真骨頂は、時に憎たらしく、イライラさせられ、きらいになってしまいそうになる人物造形だろう。
時代の動きと主人公の生き方や仕事の変化みたいなものが「光炎の人」ほど強く感じられなかったところが少し残念だったが、傑作には変わりないだろう。4.0
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時代は幕末、女性の櫛挽職人である登瀬の物語。
時代物で櫛を題材にしている地味な内容かなと思って読み始めたけど、いい意味で期待を裏切られました!心に響く傑作。読み応えがあり、展開も面白く引き込まれ、色んな意味で深い物語でした。
江戸時代の木曽山中、中山道沿いの宿場町藪原に伝わる梳櫛「お六櫛」。父吾助は神業を持つ職人。その父を尊敬し、技を継承したいと願う登瀬。でも女は嫁いで子をなすことが当たり前とされていた時代に、女が職人になりたいと思ったところで道は険しい。登瀬の櫛作りにかけた一途な半生。そして家族の物語でもある。弟が急逝したことでバランスが崩れた一家の母や妹の思い。それでも登瀬には常に櫛に対する情熱が芯にあり、それが彼女を支え続けた気がする。無口で卓越した技を持つ父、弟の残した絵草紙、幼馴染の源次、弟子入りしてきた実幸、それぞれの思いが交錯して、最後にこう繋がるのかと胸が震えました。希望の持てる終わり方で読後感が非常に良いです。
幕末の激動の時代、登瀬は藪原から一歩も出ることもなく櫛と向き合い続けるけど、時代の流れは登瀬の人生にも影響を与えていきます。私としては日本史の勉強をしたからわかる部分も多くあった。歴史ものも面白いな。
そして登瀬は根っからの職人なんだなぁと思った。ここまでひとつのことに情熱を傾け、信念を曲げずに精進していける登瀬の生きざまに心揺さぶられました。道は険しくてもこんな風にのめりこめることに出会えた登瀬をうらやましく思ったりもしました。読んで良かったと思える物語でした。
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すごくよかった。最後まで自分の生き方を貫いた登瀬が素晴らしい。直助が全てお見通しで絵巻を書いていたのも素晴らしくよかった。
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幕末時代の小さな山村での話。当時の村々は家族のつながりが強く、男子は親の仕事と家を継ぎ、女子は嫁いで家を離れる。そんな繰り返しが当たり前だった。
何代にも渡って櫛づくりの技術を守り続けながら、生計を立てていた家で長女として生まれたトセ。彼女は女でありながら、家の中でひたすら櫛づくりに打ち込む父の姿にあこがれを持っていた。そして、父の技を受け継ぐはずだった弟の死がトセと一家の運命を大きく変えていく。
名もなき人々の日常や苦悩を描きながら、生前の弟の行動や訳アリな弟子入り志願者の登場など、ミステリー要素も盛り込まれる。さらに幕末の激しい社会のうねりがトセたちを翻弄する。
そんな変化がもたらされる一方、変わらないのは櫛づくりに励む職人の姿とリズミカルな作業の音。世の中がどうであろうと、良い櫛を作ることがトセたちの生きる道だ。
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お六櫛を挽く職人の娘とした生まれた登瀬が名人である父の技に惚れ込み、ひたすら櫛挽に打ち込んでいく姿を中心に、若くして死んだ跡取り息子だった弟が書いていた絵巻、その弟と親しくしていた出自の卑しい源次、自分に対抗意識を燃やして早くに嫁いでいったあまり幸せではない妹、櫛挽の才能を見せつけ婿にと一家に入ってきた実幸との心通わない生活などが語られる。不器用だし、考え方もやや硬直しているが、ひたむきな登瀬に心打たれる。
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タイトルからの想像どおり、たぶん櫛作りの職人の道を守ってやりぬくっていう「細うで繁盛記』的な話だろうとおもっていたけど、まあそのとおりのお話で、時は幕末、舞台は、信州木曽路薮原、名産のお六櫛の櫛職人の一家のお話です。ただ、時代設定、舞台回し、小説らしい緻密な設定で、感心する、伏線も上手く張られ、何より対立線の立て方が上手い。親と子、母と娘、姉と妹、親方と弟子、日本と世界、木曽と神州、古きものと新しきものなど、これらを鮮明に提示してくる、そしてそれらが、「拍子」という言葉で一つに収斂していき、
「銘々の拍子だで、そろってはいないだども、二つ合わさると何ともきれいだ。こんねにきれいな拍子をおらは聞いたことがないだでな」ということになる。
最後は夫婦の物語に回帰してしまうけれど、世界もそれぞれの多様性を尊重しつつ、同衾できたらいいのにね。
ヨメに久しぶりに感動した本だから読む?と言われて読んだのだが、ヨメが何に感動したのかはわからんが、胸の熱くなるところはたしかにあって、小説を読んだという気になった。登瀬という主人公も、もっと楽な考え方や身の処し方ができないのかと思うけれど、こういう一見、依怙地でかたくなな姿勢が、自分を貫くという言葉で、現代に必要とされてるということかもしれないねとも思う。
・うまぐいっとるとごろは、大概、考えずともできとるとこだ。そごを解き明かすとかえってぎこちなくなる。だで、考えるな。むしろ、悪いところ、うまくいがんところから目を逸らしてはなんね
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いつの時も、時代はゆるやかに変化して、それがワクワクしたりする面白さがあったりもしますが、変わらずにいることの大切さや難しさもあって、自分が何を選ぶのか、選ぶべきなのか。
登勢も実幸も、それぞれにあがいてあがいて、たどり着いたのが、板の間だったのかと、最後に感じました。
直助のことも実幸のことも幕末の時代のことも、最初はあまり繋がらなくて、読んでいてモヤモヤしました。
最後は父と娘の言葉に出来ない温かい気持ちが流れてきて、自分の父を思い出して懐かしくなりました。
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江戸時代に比べて、現代は女性の生き方が多様化し、良い時代になったのだと痛感しました。己の信念を突き通した登瀬を始め、それぞれの登場人物が様々なものを背負っていて、物語に深みを与えていました。己の運命を仕方ないと受け入れた母、己の技で運命に抗う夫、結局女というしがらみに囚われる妹、でもそれぞれの生き方に幸せがあるのかなと。
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櫛挽職人の家庭に生まれた登勢。自らも櫛挽きに興味を持ち、職人になることを願う。その思いの強さで女性が職人を目指すことに対する抑圧を跳ね退けて、最後には尊敬する父に櫛挽職人としての力量を認めてもらうまでの話。そこに弟の秘密を絡めて最後まで一気に読み進められる。時代小説が好きな人はたまらなく好きだと思う。登勢の周囲を寄せ付けない頑なさに職人らしさは感じるが、私はその頑なさが少し苦手感を感じて星は3つにした。
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よこまち余話が面白かったので読んでみた。女性の人格がない頃に地味に頑張った女性の話。読んでいて悲しくて悔しくなる。主人公は本当によく頑張ったと思いました
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akikobbさんにおすすめいただき、木内昇さん初読み。
派手ではないが滋味溢れる作品で、読み終わった後よかった…と深い余韻を感じた。
結構辛い出来事も多く、全てがハッピーエンドなわけではないのに、それも人生、と静かに肯定する強さのある作品だと思った。
普段あまり読まない時代小説ではあるものの読みやすく、度々ぐっときながら一気読み。
父が縁談を断り、登瀬の「櫛を挽きたい」という思いが溢れ出す場面、ラストの父の「われやん夫婦の拍子はとてもええ」の言葉に特に心動かされた。寡黙な男に弱いのかもしれない。