紙の本
4回沈んだサラトガ
2016/09/22 16:06
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投稿者:野次馬之介 - この投稿者のレビュー一覧を見る
馬之介がまだ子馬だった頃、「大本営発表」という遊びがはやった。みんなで遊んでいるとき、誰かが不意に「大本営発表ッ!」と大声を出す。「このたび馬男くんとヒン子ちゃんがケッコンすることになりましたァ」とか「馬次郎クンがボクのエンピツを盗ったので、牢屋へ入れられます」などとからかい合うのである。
これは戦後まもない頃だが、そんな他愛もない遊びが本気でなされたのが戦時中の「大本営発表」だった。開戦当初の真珠湾攻撃やマレー沖海戦があまりにうまくいったので、その後の負け戦(いくさ)を正直に発表できなくなり、ミッドウェイ海戦では日本側の空母4隻が撃破されたのに対し「わが方損害1隻喪失、1隻大破」と発表する一方、敵空母は無傷だったにもかかわらず「2隻撃沈」と「架空の戦記小説」のような発表がおこなわれたのだった。
同じような「勝った、勝った」の連呼はその後も続き、日本国民は広い太平洋海域が全面的に日本軍の手中にあると思いこまされていた。この状況を高松宮は日記の中で、「でたらめ」と「ねつぞう」であると痛烈に批判している。
大本営の方も、みずからの発表が心苦しかったのか、発表の回数は目に見えて減少した。開戦時の1941年12月には90回もおこなわれた発表が、翌年1月は68回、3月は34回、5月は19回となり、ミッドウェイに負けた6月は9回に急落してしまった。真珠湾から半年で10分の1に減ったのである。
以後9月と10月は各2回にまで落ちこんだというから、大本営発表の回数は日本の負けを如実に示していたといえよう。おまけに、発表のたびに「ヨークタウン」や「エンタープライズ」を沈めたというので、昭和天皇から「サラトガが沈んだのは、こんどでたしか4回めだったと思うが」と苦言を呈されたらしい。
子馬たちの「大本営発表」は大笑いのうちに終わったが、本物の方は笑うに笑えぬ苦しい悲劇であった。
真面目な面白い本である。
紙の本
興味深い
2023/09/05 10:19
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投稿者:なつめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
太平洋戦争の歴史と大本営発表が、分かりやすく解説されていてよかったです。隠蔽、捏造など、興味深く読むことができました。
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政治と報道の一体化に注意しましょう。大本営発表がフクシマ原発事故で再現?歴史は繰り返すという著者の警告。マスコミ批判もよろしいですが、マスコミに政治介入する安倍政権にも気をつけましょう。との事
「歴史の知識をただの消費対象としてとどめるのではなく、現在の社会問題と結びつけ、あるべき社会状態の維持発展のために役立たせたい」という著者の真摯な態度と細かな調査には信用がおける。
本書の最大の疑問は高松宮はなぜ大本営の「デタラメ・捏造」を止めなかったのだろうという点。著者には調査を継続してどこかで発表して欲しい。
<以下、新たに気づきとなった点>
・TVでよく出る12月8日の決然とした放送は後から取り直したもの。実際の生放送は「お通夜」のようだった。(アナウンサー本人回想)
・高松宮は大本営発表を「デタラメ・捏造」と批判していた。(本人日記)
・国民の三重目隠し「日本軍の情報軽視による戦果の誇張」「軍部の組織的不和対立による損害の隠蔽」「軍部と報道機関の一体化による機能不全」結果、「デタラメ・捏造」となる。(著者考察)
・1943年の攻守逆転で「撤退」→「転進」、「全滅」→「玉砕」の言い換えが始まり、国民も大本営発表を疑い始めた(特高内部資料)
・1944年末には大本営の脚色に効果はなく国民の戦意は急速に低下(戦後の米調査)
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○大本営発表を4期に分けて意味付けをして、それぞれの期においてどういう役割を果たしたのかが分かる。
○報道内容は独立した担当者の判断によるものではなく、現場(現地で戦闘をしている部隊等)、統帥系の高級将校、陸海軍の対立等によって事実上は制限を受けていた。
○広義の大本営発表、狭義の大本営発表、軍部の下請けと化したマスコミの報道と捉えて、一部の軍人が恣意的に大本営発表という構造を作り出したのではなく、軍部とマスコミの一体化があったこと。
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読書会課題本。先月、今月と戦争シリーズだ。
課題本じゃなければきっと読むことなかったと思うけど、読んで良かった。
ほとんどが大本営発表を辿った戦争の回顧録の感じがするので太平洋戦争の一連の流れを学びながら読むにも良かった。
政治側と民衆?、両方の視点が途中から入って来ていてわかりやすかった。
そして、最後に現在の状況と比較して考えさせる終わり方。
全てのことを鵜呑みにしてはいけなくて、自分で事実確認をすることができれば一番いい。
ただ自分の身体は一つだし、時間にも限りがある。
そして全てがウソなわけでもない。
明日の読書会が楽しみ。
私はその中で、信頼できる情報を見つけて行く能力を高めることが必要なんだと考えた。
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この本は以下のようにして筆を擱いている。
「大本営発表はメディア史の反面教師として、今なお色あせていないのである。」
これは報道をするマスコミ側の問題だけでは無く、報道を受ける我々一般市民が注意しておかなければいけない内容である。必読。
「大本営発表」という響きには「大上段からの大嘘」というイメージが付いて回るのだが、そのイメージは誤っていないことが分かる。ただし当初(日中戦争時、及び太平洋戦争開戦後しばらく)はまだ正確な報道であったとのこと。
そして、なぜ「大本営発表」が捏造だらけの発表になったのか、なのだが、現在の日本国政府と同じく「情報の軽視」が大きいようだ。相手の損害状況は攻撃隊からの報告に依存するわけだが、その報告の正確度よりも「命を賭して闘ってきた兵士の報告は絶対」との感情論が先行していたため、必然的に成果が大きくなった。そして損害は小さく表現される。
また、作戦部と情報部との間の不仲など縦割りの影響を受けるため、大本営発表の内容は妥協的な内容に落ち着くことになることが多かった。
さらには、ラジオというメディアを利用するために、発表に修飾語がたくさん付くようになったことも、状況悪化を誤魔化す要因となった。
「大本営発表」が官僚の作文になっていき、撤退が「転進」、全滅が「玉砕」と美化されていく。本土空襲では、焼け野原になっても「相当の被害」が最大限の表現であり、「被害に関しては目下尚調査中」としたまま結果が公表されないことも増えた。
終戦直前、すでにポツダム宣言の受諾が決定された後の1945年8月12日、陸軍の戦争継続派がニセの大本営発表で徹底抗戦を訴えようとした。のだが、記者たちが「いつもの大本営発表と違う」ことに気付いて、政府筋に確認した。捏造であると判明したため、この大本営発表は全国には発表されずに済んだ。
この最後だけは報道機関のチェックが働いたわけだが、通常は発表がそのまま報道される、つまり軍部と報道とが一体となっていたため、軍部は思い通りに報道させることが出来ていた。
翻って現代の政府発表と報道機関との関係はどうか。情報が制限されていた福島第一原発に関する報道、放送法の公正中立規定を努力義務から法規として解釈し停波がありうると発言した総務大臣、安倍政権の言うことに反することは出来ないという現NHK会長(ただし来年1月には退任決定)。
政府と報道が癒着して、健全な報道が出来るわけがない。報道そのままを鵜呑みにするのでは無く、その背景を考えつつ報道を聞く必要がある、そのことに改めて気付かされる本であった。
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情報を大切にしない、ねじ曲げる大本営、機能しない新聞、まさしく戦犯。毎日新聞記者は東条英機に嫌われて懲罰召集、同郷の老兵が巻き沿いで徴収されて硫黄島でたくさん亡くなるとか考えられない。でもポツダム宣言受諾のあとに戦争継続しようとした捏造発表を、記者たちが「事務手続きがおかしい」とか「花押しが変だ」、「字が読めない」等と言って中止させたのがすごい。
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・大本営発表とは、日中戦争〜太平洋戦争にかけて軍部から発表されていた戦果報告のこと。
・今やデタラメな発表の代名詞として使われる「大本営発表」。これが実際どれだけデタラメだったか、何故そうなったか、そして教訓について詳細に、かつ分かりやすく書いた本。右寄りでも左寄りでも無くフラットなのがいい。
・これを読んで何故日本が負けたかと、今日本の製造業がダメになってるのか、凄く近いのではと感じた。
・勝ってる時は、正しい報告をすりゃ良かった。しかし、戦局が変わってから、戦意高揚という大義名分の元、水増ししたりしていた。後で帳尻合わせすればいいやと思っていたところもある。
・ベテランの兵士が次々戦死した結果、戦地から上がってくる情報の信憑性が悪くなった。煙があがっただけなのに沈没させた、など。それを現地で戦っている人間からの情報を訂正するとは何事か、という謎理論で修正しなかった。
・海軍と陸軍が完全に縦割りで、報道部も完全に分かれていた。互いのメンツを立てることに終始した結果、過剰な報告をしまくった。このままではヤバイと統合されたのは何と1945年。これでは救えない。
・結局、自分達が作った偽情報に惑わされて有用な作戦が立てられなくなってしまった。
・どっかの会社で聞いた話に近いな...
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これを、「マスコミや軍の問題」だと他人事のように捉えてはいけません。会社や学校など全ての日本組織に当てはまる問題だと思います。日本の組織がクローズになった時、「情にほだされる」「体面を異常に気にする」などが原因で問題が噴出します。出来るだけ風通しが良いオープンさを保つ事が重要です。
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大本営発表にフォーカスした書。陸海軍がここでもつまらない対立を起こしていたことになんだか笑いが出てくる。勝勢だったためかもともとは正確だった初期は感心だが、中期以降は嘘の積み重ねに耐えられなくなっているし、国民も早い段階で真相にうすうす気付いていたよう。玉砕といった言葉が使われていたのは実は短い期間だった。軍と報道の癒着はなかなかに恐ろしいもの。
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権力でマスコミをコントロールしている節のある現政権。その良い前例として戦時中にあった大本営発表があるとし、現政権のありように警鐘を鳴らす目的で書かれたという本書。権力と癒着した報道ほど恐ろしいものは無いと再認識させられる。
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最終章の〆が、何故か電力会社批判、安倍政権批判なので星一つ減とする。
政治と報道の癒着という意味では、マスコミ関係者を多数候補者として取り込んでいる民主党(民進党)の方がよほど危険だろと。2009年総選挙前後の報道の異様さについて読者が何も覚えていないとでも思っているのだろうか?あのような『一切の批判無しの報道』の恐ろしさが、『大本営発表』の危険さだと、この本を読んで思い至ったのだが。
あと、直近の事例だと、共産党の発表を垂れ流す豊洲新市場関連報道だね。
本題に戻ると、そもそも、『大本営発表』の起こりが、日中戦争時に過熱した報道の『暴走』に対処するために始まったとは知らなかった。そういえば、『百人切り競争報道』(捏造)とかあったしね<毎日
そして、現地の不確実な戦果がそのまま中央に報告され、報告をまとめただけの結果が、膨大な『架空の戦果』に繋がったとは、いくら情報を軽視していたと言われる日本軍にしても酷すぎる…よくもそんな体制で4年以上も対米戦できたもんだよなと。
むしろ、損害を大本営が意図的に削って発表していた方がまだましという酷さ。
しかし、大本営発表で軍部と癒着しきっていた報道陣が、癒着しきっていたが故に偽の大本営発表を見破ったという終戦直前のエピソードについては、もう顔が引きつったままどんな表情をしたら良いのかわからなくなる。(闇が闇を破った)
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国民必読でしょ。無茶苦茶になったのは政府と報道が一体化した結果であった。
日本人は第二次世界大戦の総括が不十分だと言われるのは、総括されるとマスコミの暗部が明らかになってしまうから、なのではないかね。
そういった意味でも、マスコミの自分の隠蔽体質は当時の軍部と大差ないのではないかね。
いやー、ファクトに基づいた良い本でした。勉強になりました。
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純粋な日本史の本です。教養を高めたい人にオススメです。
概要ならばWikipediaで拾える範囲で十分だと思います。詳細を学びたい人にはオススメです。
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何年か前にラジオで聴いて、気になってた本。ようやく読んだ。
戦時中の「大本営発表」って実際にどういうものなのかを、ちゃんと理解してなくても、「大本営発表」という言葉に「信用ならない」というイメージだけは、しっかり共有されてる。
で、本書を読んでみると、想像以上にエグかった。想像以上に信用できない代物だった。
ホントに大本営発表のままに戦況が推移してたら、間違いなく日本勝ってる。「大本営発表」によると、太平洋戦争で日本軍は連合軍の戦艦43隻、空母84隻を沈めたことになってるそうだが、実際には戦艦4隻、空母11隻だったらしい。。。
バカみたいな話なんだけど、当時の状況の中に身を置いたと想像してみると、もしかしたら報道に煽られて、目にするものや耳にすることを、コントロールされてたらと思うと、しっかり熱狂してたかも知れない。
現代の日本だって、必ずしもその状況と無縁かと言えば、そうとも言い切れないのが怖いところ。