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すかすかの番外編。本編では物語の背景を織りなす重要人物でありながら出番の少ないリーリァと、3巻で退場する運びになってしまったクトリがメインとなっている。
特にクトリが登場する話が再び読めたことは非常に嬉しい所
本編で描かれるリーリァは既に覚悟完了して勇者としてのイメージに準じている印象がかなり強かったのだけど、こちらで描かれているリーリァはもう少し他の顔も見せる
この話では国が滅び一人生き延びた事で周囲から悲劇の主人公として扱われるようになった頃にあのヴィレムと出会ったと判る。ヴィレムの下手ながらも決して諦めずに剣技を上達させようとする姿に憧れと同時に嫌悪を抱いてしまったのか
ヴィレムはこれまでも化け物エピソードが散々披露されてきたけど、その異常性の根源にあるのはどれほど無理な道だろうと努力を諦めず進み続ける点。
対してリーリァは類まれな才能を数多く持ち、勇者に相応しいエピソードを備えている。いわば努力しなくても、むしろ避けようとしても物語の主人公に収まってしまうタイプ
そんな特別すぎるリーリァからすれば、本人がその気になればいつだって普通の人間として過ごせるのに、勇者を目指し一種異様とも言える努力を繰り返し続けるヴィレムの姿は特別なものと映ってしまうのだろうな
これでもしヴィレムがリーリァを勇者として扱っていればああまで親しい関係性にならなかった気がするけど、出合い頭の発言が響いたのか、ヴィレムはそこまでリーリァを勇者として扱わず。
かと言って何とも思ってないわけでもなく。「あんたはあたしを何だと思ってる」「リーリァだと思ってる」という遣り取りはリーリァ以外他の誰にも適用されないと思えば、リーリァにとっては嬉しい特別扱い
それでいて時々普通の女の子として扱おうとする辺り、ヴィレムって厄介な人間である
勇者になってしまったリーリァにはもうどうやっても手に入らないものを平然と差し出そうとしてくるヴィレム。それは厄介な行動では有るけれど、同時に何もかもを無くし自分の感情すら判らなくなったリーリァにとっては貴重な行為なのかもしれない
ヴィレムから貰った下手くそなお守りを握り締めて幸せを噛みしめるリーリァの姿はどこか年相応のような、それでいて年不相応のような印象を感じさせた
クトリの話は第一巻ラスト付近の頃。だからクトリはまだまだヴィレムへの気持ちをはっきりさせてないし、ヴィレムもクトリへの依存が鮮明となっていない
まあ、それでも端から見る分にはクトリのヴィレムへの好意があまりにはっきりしすぎていて、読んでいるこちらが恥ずかしくなるような部分もあるんだけどね?
特にヴィレムが遠くへ行ってしまうと勘違いして暴走して告白紛いの発言をかますシーンはちょっと微笑ましい
そういったこの作品にしては非常に珍しい暖かな日常が描かれる。もうすぐティメレとの戦いが待っているとは思えないほど
それ程までにヴィレムが示した希望は大きいものだったのか
そして勘違い騒動を通して、いつの間にか自分の中に芽���えていた感情の名前をはっきり自覚したクトリ。
その恋心が後々あのような幸福に辿り着くのだから感慨深いものがある
そういえばクトリの話の中でネフレンについての言及が
彼女はいつの間にかヴィレムのお隣ポジションを確固たるものにしていたけど、背景にはネフレン自身の虚無感が関係していたのね
世界の全てを一度失ったヴィレム、前世に世界が消えてしまうのではないかという虚無を抱いたネフレン。どこか似た部分を抱えた二人だから、ネフレンはヴィレムを守るためにそして自分の安心できる場所を見つけるためにヴィレムの隣りにい続ける道を選んだのか。
その決意が後々、ヴィレムと一緒にとんでもない場所まで辿り着いてしまうのだから驚きである