紙の本
教科書で一生ものの物語に出会うことがある
2006/09/25 22:39
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:栗太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
100冊目の書評は、この本を取り上げようと決めていました。ながらく絶版だったので「入手不可能な本をとりあげても……」と迷ったのですが、えいやっと紹介しようとしたら、なんと復刊です。しかも、まさに今月。ちょっと運命感じます。
人はたくさんの本を読み、たくさんの物語に出会います。
文章構成とも完璧でそれゆえに好きな話、どこがいいのかわからないのに無性に好きな話、人に薦め宣伝してまわりたくなる話、ひっそり自分だけのものにしておきたい話、何百回も読み返したい話、2度と読みたくないのに忘れられず心に根をはる話。
食事と同じでタイミングも大切で、あの時あの瞬間に読まなければ特に心に残ることもなかったのに……という一冊もあるでしょう。
別役実の短編集「淋しいおさかな」の中の一編「ふな屋」は、私にとって特別な一編です。この話、出会ったのは小学校の国語の教科書でした。何年生か覚えていないのですが、おそらく5.6年生。読んだ瞬間に心に喰いこんで、ずっと忘れられない一編でした。
鮒と話をさせてくれる不思議な職業、ふな屋。昔に比べめっきり客も減り、一人と一匹が食べていくのがやっとの生活をしている老いたふな屋のもとに、ある日、見習い希望の若者がやって来て……
地味な話です。正直なところ、「この話のテーマは?」とか「どこが好きか?」と問われると困ります。全体の雰囲気が、なんとも言えず好みとしか言えません。時流に溺れそうになる古き良きものの姿は、もの悲しくて、でも無理に生き残ろうとはしない、あるがままの姿にほっとします。ふな屋がどれほど廃れようと、一人で食べていくぶんくらいの客は、きっとどこかにいる、老いたふな屋はそう信じているのでした。
「ふな屋」だけでなく、収録された22編どれも、本当に短い中にぎゅっと美しさや悲しさ、穏やかさが詰まっています。「迷子のサーカス」や「猫貸し屋」など、余韻が素晴らしい。
最近めっきり速読が身について、時間と競争で本を読むようになってしまいましたが、この一冊はゆっくりと読みたいと思いました。1日1篇、22日かけて読むとか。とてつもなく贅沢な気持ちになれます。読書の至福を感じさせてくれる一冊でした。
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別役実の童話短編集、といっても大人が読む本だと思う。言葉の使い方がとても綺麗なうえ、皮肉が利いていながら全体的に優しいところがいい。
文章だけだが、絵が自然に浮かぶのは作者が舞台脚本の人間だからだろう。
この本を子供に読んで聞かせる素敵な母になりたい。
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「猫貸し屋」「ふな屋」「淋しいおさかな」がいい。
淋しくて温かい。
大人には別の味が出てくる童話。
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これは復刊ですが、私の持っているのは初版5刷で、高校時代に友達にお見舞いにいただいたもの。
今から30年ほど前、「おはなしこんにちは」というNHKの幼児向け
の人気番組の中で語られたお話。表題作の「淋しいおさかな」をはじめ、「煙突のある電車」「猫貸し屋」「穴のある町」「可愛そうな市長さん」など、22作。
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市民図書館に設けられた、いらない本を置いて行くスペース。そして欲しい本があったらそこから貰っていったり出来るんですが、そこから持ってきた本。
ものすごいマイナーだけど、ものすごい面白いです。単純なのに単純じゃない、答えの出せない話が多いです。話は完結してるのに、自分の中では完結しない感じがいい。短い話が20以上納められてるんですが、どれも例外なく面白いです。ぼんやり切なくて、内容とは別のところでなにかが組み立てられていく感じ。
童話で言葉も易しいんですけど、きっとどの年代が読んでも面白い。小さい子が読んだら不思議なファンタジー要素が楽しめると思うし、大人が読んでも何かを得られるような気がします。
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出版社/著者からの内容紹介
今から30年ほど前、「おはなしこんにちは」というNHKの幼児向け
の人気番組があったのを覚えているでしょうか。そこで朗読された童話が、本書
に収められた、別役実氏の書き下ろし童話でした。
表題作の「淋しいおさかな」をはじめ、「煙突のある電車」「猫貸し屋」「穴の
ある町」「可愛そうな市長さん」など、22作に共通するのは、穏やかな始まり
と、虚をつくような結末、あるいは哀愁漂う結末など、いわゆるハッピーエンド
で終るような童話ではなく、大人の鑑賞にたえ得る童話という点でした。それ
は、この作品集が単行本として刊行された当時、大人の支持を受け、版を重
ね、復刊を望む声が多かったことでもわかると思います。まさに、本書は「大人
のための童話集」の走りだったのです。
当時の番組をリアルタイムで見た子供たちは、今、40代の働き盛り。かつて自分
が子供だった頃を、本書を読んで思い出してみてはいかがでしょう。名作、待望
の復刊。
2008.10
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子供の頃に読んだ大好きな本です。
古本屋さんで単行本をようやく見つけて入手しましたが、知らない間に復刊されて文庫本が出ていたようです。
手に入るかなあ。
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40年前からの愛読書(三一書房刊行のもの)
不条理をしみじみと味わうような物語と思っていたのだが、3.11原発震災以降、これらの物語群の描く不条理が他人ごとではなくなってきている感じがします。
街中の人たちが何年も何年もかけて掘ってきた巨大な穴、その大工事の目的が実は何もなくて、無為に暮らしていると街に諍いが絶えないから始まった工事だった、次は何年もかけてそれをみんなで埋めていく。
あるいは、何の役に立つのかわからない巨大な機械が街の中心に据えられていて、それを撤去しようとすると機械が作動して妨害する。そうやってそこにあることだけが目的の黒々とした機械。
親があちこちの街でお星様を売りつけるという詐欺をやり、その結果困窮してしまった街が随所にあり、その息子がその後始末に、お星様の行商を…
これらの不条理と、我々が現在抱え込んでしまっている原発に代表される不条理を重ねると…ぞっとする。この本の肌合いが、全く変わって迫ってくるのです。
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淋しいおさかなだけ読みました。
悲しくて、綺麗な物語。
ひとりぼっちの少女が、淋しいおさかなに会うために沢山の冒険や苦しい思いをして海まで行ったのに、淋しいおさかなは少女が来ないからどこかへ行ってしまった。
結局、おさかなは淋しいまま。
少女はひとりぼっちのときには淋しいを知らなかったのに、おさかなと出会い、おさかなに会えなかったことでやっと淋しさが分かった。
淋しさが分かったことは、良かったのか、悪かったのかは判断できない。
とても悲しくて、それと同じだけ綺麗な物語だと思いました。