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渡辺由佳里さんの『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』の書評を見て、感動的なサクセス・ストーリーを期待して読んでみた。ユニークな人間模様や素晴らしい出会いなどが描かれているのかな?と。
しかし期待とは裏腹に、なんだか冗長でピリっとしない印象の本だった。
正直に言うと、渡辺由佳里さんの書評の方がはるかに感動的だったような・・・
ヒルビリーとはどういう人間たちなのか、というエピソードが長々と続くのだけど、何が言いたいのかいまひとつ分からなくて、読んでいてとまどった。これって、「素敵」って思うところなのか? 私には最悪に見えるけど? でも語り口は肯定的だしなぁ…などと首をひねることしばし。
もしかしたら本人にとってはまだぜんぜん整理がついていないテーマなのかも。
特に、最も大切な恩人、祖母についての話はピンとこなかった。ただ乱暴で支離滅裂な人、という印象で、ちっとも素敵さが伝わってこなかった。申し訳ないけど。
誰か別の人が聞き書きすれば、もっと客観的に整理されて、分かりやすく感動的な話になったかもしれないなぁ。
ただ、著者がなぜ民主党ではなく共和党なのか、という理由は非常にクリアに理解できた。
「社会保障を厚くしても、ただ怠け者を甘やかして助長させるだけだ」などという考え方を聞くと以前はあきれたものだけれど、そういう社会保障を減らしたい人たちの言い分も少し理解できた。支持はしないけれど、お金を与えるだけじゃ意味がないということは腑におちた。
読み終わって振り返ると、彼がヒルビリーの世界から抜け出せたきっかけは、著者は祖母のおかげだとかなんだとかいろいろと挙げていたけれど、私の目には軍隊で教えられたことがすべてのように見えた。つまり、正しい食事や家計のやりくりの仕方、社会人として自分の責任に対してどう振舞うかという知恵。そして、それらを身に着けた上で、自立して新しい生活を始めるためのお金。
お金はともかくとして、同じ知識や知恵はきっと学校でも教えてくれていることなのに、それが全然根付かないのは、ヒルビリー文化の美意識とことごとく真逆なせい、という様子もよく分かる。
それでも、第三世界の貧困や難民たちの抱える問題に比べれば、ヒルビリーたちの方の問題ははるかに解決の糸口はありそうに見えるけれども・・・。
ところで、この本のテーマとは全然関係ないけど、読んでいてオバマが大変に気の毒になった。オバマには読ませたくない。(笑)
思わず笑ったのは、オバマケアを利用すると体にマイクロチップを入れられる、という陰謀論。ヒラリーはじめ、皆保険制度を成立させるべく頑張っていた政治家たちの努力を思うと笑うに笑えないけど、でもよくそんなこと思いつくなぁと感心する。
オバマの整然とした喋り方がエリート然として嫌われていると書かれていたが、彼はヒルビリーたちが思っているような恵まれた人じゃなく、むしろ特権階級はトランプの方という事実が非常に皮肉。
ミシェル・オバマの回想録の中で、オバマが夜中にベッド���中で、じーっと空を見つめて、どうしたら貧困をなくせるか、と考えていたという姿を思い出して泣けた・・・
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個人の回想録なのでエピソードによって面白みに差があってグイグイとは読み進まない本でした。
でもトランプが何故支持されたのかの考察はとても興味深く、今後のアメリカの問題点として注目していきたい内容になっていました。
映画化されましたね。観てみます。
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トランプ現象の背景を学ぼうと思って選書。筆者がトランプについて触れる箇所はないが、それについては渡辺由佳里さんの解説が端的かつ明快で役に立った。「白人貧困層」に関しては、これまでとくに意識することがなかったが、この本で知見がどっさり与えられた。筆者の体験に基づく生々しいイメージとともに。下層階級から脱出して成功を勝ち取る逆転劇は感動的だが、悲惨な幼少年期に関する叙述があまりに鮮烈で、強く心に残る。「富める白人、貧しい黒人ヒスパニック」というステロタイプなアメリカ社会観が覆された。自分への影響が長く続く本。
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何故トランプ政権が誕生したのか?が知りたくて読みました。映画も読後観ました。GM工場が去った後の『フリント市』の汚染水も、根っこは同じように思います。経済が優先され職が無くなり住んでいる場所が荒廃していく。そういった中で親族を含めた濃い人間関係。アパラチア山脈周辺の鉱山の没落、そして何故トランプが、石炭を復活させようとしていたのかがわかります。英国でも石炭鉱山で大規模なスト抗争がありました。人々の生活は非常に危うい産業基盤の盛衰の上に成り立っているのだなぁと思いました・・・。https://booklog.jp/users/volksdorfjp#
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圧倒されて1日で読み切ってしまった。
United States という国は私の生まれ故郷であり、アイデンティティの一部だ。「NYはAmerica じゃないんだよ」Trump政権が成立した時に母の呟いたこの言葉はきっと、この本が描くヒルビリー達を含む地方の白人労働者層と都市との断絶を指していたのだと思う。
政治や教育が変われば人々の生活は変わる?答えはノーだ、この本は痛ましい事実を突きつける。政治を変えることは必須条件でも、宗教や家庭環境が生み出す人の暮らしや思想はそう簡単には変えられない。それらが生み出した陰謀論や暴力を非合理的だと批判するのは簡単でも、解決するのが難しいのはこの点にある。
アメリカだけでなく日本にも数多く「取り残された人達」は存在する。一方、私はどうしようもなく恵まれた環境で育てられてきた。もちろん抱えてきた問題はあれど、その環境によって幾度となく救われてきた。声を暖かな部屋から上げていても、結局の私は聖フランシスコのように全てを喜捨する勇気も何もない。映画『パラサイト』を観た時と似た自分自身への絶望感に襲われる。それでも。私は私は呪いを断ち切る手助けができる大人になりたい、偽善的と言われたとしても。それがこれまでの恵みを社会に還元できる方法だと思うから。
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【感想】
「人生は生まれによって決まるのか、育ちによって決まるのか?」
古今東西、多くの議論が繰り返されてきたこの問いに対する筆者の立場は「両方」であった。
彼は、世界で最も裕福な国家であるアメリカの中でも、特に貧しい地域であるアパラチアに生まれた。
筆者の街は退廃した雰囲気が満ちていた。家庭内暴力と夫婦喧嘩はどこの家でも日常茶飯事で、両親のどちらか(あるいはどちらも)が薬物中毒者など珍しくはなく、知り合いや身内の物を平気で盗み出す輩が後を絶たない。
彼らのコミュニティでは、いつも誰かが誰かを憎んでいる。そこに新しく生まれた子どもも、同じようにコミュニティに取り込まれ、憎み憎まれる関係になる。
彼らは自分達が貧しいということは知っている。しかし、「何故貧しいか」は知らない。そして、「知らないということを知らない」。
そんな彼らに上昇する望みはあるのだろうか?自分達が陥っている貧困から脱却しようとせず、エリートの理知的な提案を拒み、ただ怒りに任せて周囲を攻撃する人間達に、何とアドバイスを授ければ生活が改善するのか?きっとエリートにも答えは出ないだろう。
彼らは閉じたコミュニティの中で、自らの惨めな境遇を肴に、延々と誰かを呪い続ける。薬に逃げるよりも真面目に働くほうがずっと楽になるということは当たり前で、恐らく彼らもそれは理解している。でも、できないのだ。努力ができる環境に生まれなかったのだ。目の前の快楽と将来の希望を天秤にかけても、簡単に安きに流れる人間達なのだ。
しかし、これは果たして、彼らが生まれ持った救いの無い障碍なのだろうか?それとも彼らの自業自得なのだろうか?挽回できるチャンスすら無いというのは、環境と彼らのどちらの責任なのか?
この本に書かれていることは、今後先進国で現れる「地方格差」の一端である。それは遠からず、日本でも起こるにきっと違いない。
追記:筆者のJ.D.ヴァンス、なんと2022年11月の中間選挙に「共和党候補」として出馬。トランプに否定的な態度を一変し、今度はトランプ公認の支持勢力に回った。わからないものだ。
【本書のまとめ】
1 ヒルビリーとは何か?
筆者のJ.D.ヴァンスは、スコッツ=アイリッシュのヒルビリー(田舎者)である。ヒルビリーとは、オハイオ州、ケンタッキー州といったラストベルト地帯に住む白人アメリカ人のこと。
筆者の故郷は、アメリカの繁栄から取り残された白人コミュニティである。社会階層間を移動する人が少なく、貧困や薬物依存症などの苦難の真っただ中にあって、よそ者を受け容れず、社会的に孤立している。彼らはこぼす。「職さえあれば、他の状況も向上する。仕事が無いのが悪い」と。
しかしながら、ヒルビリーは職を与えられても努力しない。貧しいのに平気で無断欠勤を決め込む。政府の援助を受けずには自立できないのに、それを与える者たちに牙をむく。ドラッグのためなら平気で家族や隣人から盗む。
困難に直面した時のヒルビリーの対応は、怒る、怒鳴る、他人のせいにする、逃げる、というものだ。
周囲の大人は、「努力しても無駄」だと思い込んでいる。そんな場所で育った子供もまた、「努力しても無駄」だと考え、努力の仕方を学ばずに貧困に落ちていく。ヴァンスのように幸運だった者以外は、「努力はしないが、ばかにはされたくない」という歪んだプライドを、無教養と貧困とともに親から受け継ぐ。
2 筆者の祖父母について(ケンタッキー州とオハイオ州の生活)
ケンタッキー州ジャクソンの丘陵地帯で暮らす人たちは、住民の1/3が貧困状態。薬を違法に手に入れ、薬物依存が後を絶たず、公立学校は荒れ果て、高校は生徒を大学に送り込めない。
何より問題なのは、住民自身がそうした状況を改善しようとしない点だ。
アパラチアのティーンエイジャーには、自分にとって嫌な事を回避し、都合のいいことだけを採用するという「明らかに予測可能な抵抗性」が見られることを、論文が発表している。
筆者の祖父と祖母は、ケンタッキー州からオハイオ州に移住し、ミドルタウンに移り住んだ。片足はオハイオの中流階級、片足は貧しいケンタッキーにあり、移住先に同化できていたかは微妙である。
また、筆者の一族は全員、一瞬にして頭に血を登らせる連中であった。
じきに、祖父はアルコール依存症が酷くなる。祖母の血の気の多さも相まって、しょっちゅう夫婦喧嘩を始めるようになった。
ただし、家庭は崩壊しながらも、家計状況は悪くなかった。祖父母の3人の子供のうちジミーとローリーは成功するも、ベブ(筆者の母)は上手く行かなかった。
ベブは高校卒業と同時に妊娠しボーイフレンドと結婚するも、喧嘩ばかりが続き、19歳の時にシングルマザーとなる。親らしいふるまいをすることは不可能で、子育ては、何とかうまく持ち直した祖父母が行っていた。
3 ミドルタウンという環境
筆者の故郷であるミドルタウンは、ラストベルトにある限界都市である。ここには消費者がいない。消費者を雇用するだけの仕事が無いからだ。
この街は元大手製鋼会社の「アームコ」に大部分を依存していた。アームコがミドルタウンを作ったようなものであり、アームコが衰退すると、ミドルタウンは目に見えて崩壊し始めた。
4 ベブ(筆者の母)と筆者の家庭環境
ベブは祖父母の干渉に耐えかねて、3人目の夫であるボブと一緒に、ミドルタウンから55キロ離れたプレブル郡に引っ越した。引っ越し当初から2人の仲は悪く、喧嘩が絶えない。筆者の健康に悪影響が起き始めるほど、ストレスの多い環境で暮らしていた。
当時は母とボブだけが異常だったわけでは無い。近所に住んでいた人間達は、みんなしょっちゅう誰かと喧嘩していたのだ。
その後、母は自殺未遂を起こし、ボブと別れて(母が不倫していたのが原因だが)ミッドタウンに戻り、再び祖父母と住み始める。そこから母の様子が変わり始め、パーティ狂いになり酒におぼれ始めた。そして筆者を殴り殺そうとし、家庭内暴力の罪で逮捕された。祖父母が高い弁護士を雇い、服役は免れた。
筆者は当時を振り返り、「子どものときにはつらいことがたくさんあったが、その中でも極めつけは父親役が次々変わったことだ」と言っている。ひどい家庭環境にあっても虐待や育児放棄はされなかったものの、ごたごたが増えるのは相当なストレスだった。
筆者と仲良くしていた祖父が死んでから、家庭は明らかにおかしくなり始めた。薬物依存を抱えながらもかろうじて社会生活を送っていた母は、社会のルールにのっとった行動すらできない人間になった。その分、祖母が筆者と筆者の姉のリンジーの子育てを担う。自分達が重荷を背負わせている考えた筆者とリンジーは、自らの生活を自らの手で負担し始めた。
筆者は、祖母のところで暮らしたい気持ちと、自分がいるせいで祖母の老後の楽しみが失われているのではないかという不安との間で揺れていた。
こうした中で、母と消防士のマット(3人目の彼氏)と新居での生活を送るが、すぐに別れ、母は4人目の彼氏(ケン)と結婚する。
リンジーと離れ、祖母の家とは遠くなり、知らない男と暮らすこととなった筆者の孤立感は最悪だった。学校には行かなくなり、成績が落ち、ドラッグに手を出し始める。
あるとき、祖母のところにいた筆者に母が怒鳴り込んできた、「クリーンな尿をよこせ」。筆者は激高しながらも尿を渡した。その瞬間、筆者の中で何かが音を立てて崩れ始めたという。
その後、母は結局ケンと別れ、筆者は祖母の家に戻ることができた。誰にも邪魔されることもなく、3年近く祖母と暮らすようになり、この生活が筆者の生活を好転させた。
4 自立による新しい価値観の芽生え
筆者はアルバイトをするようになり、プチ社会学者へと変わった。自分が必死になって働いて得た給料から税金が引かれ、その税金が生活保護者に渡り、彼らがT-ボーンステーキを買ってゆく。自分の家の隣の敷地には、政府の住宅資金援助によって低所得者が家を購入する。
ここに住む人たちは、絶望的な悲しみを抱えて生きている。作り笑いはしても、決して心から笑うことはない母親が大勢いる。
コミュニティの問題は蟻地獄のように滞留しつづけるものだ。ジャクソンやミドルタウンの人達は、他の地域の人達と何が違うのか?うちの隣に住む女性は、どうして虐待癖のある男と別れないのか?彼女はなぜ、ドラッグに金を使うのか?自分の行動が子供の人生をめちゃくちゃにしていることが、どうしてわからないのか?
筆者の暮らす世界は、完全に合理性を欠いた行動で成り立っていた。近所の人間は、金を使って貧困へと向かっている。巨大なテレビやiPadを買う。高利率のクレカと、給料を担保にした高利貸で子どもにいい服を着させる。必要もないのに家を買い、それを担保に金を借り、散財し、結局は破産する。蓄えの無くなった跡にはごみの山だけが残る。
どの家庭も混沌を極めている。父親と母親が互いに叫び声をあげ、ののしりあい、両親のどちらかが――ときにはどちらとも――ドラッグをやっている。子どもの前で殴り合い、「悪かった」と詫びてもまた同じことをする。子どもは勉強せず、親は子どもを勉強させない。一生懸命働くことの大切さは口にするのに、実際には仕事に就かず、就いても辞め、それを何かのせいにする。「こんなのフェアじゃない」と。
筆者は2つの世界にまたがって生きていた。どうしようもないスラムと、愛情をもって接する大人たちのコミュニティだ。そして筆者の人生は、明るく変わっていった。それはひとえに、祖母の家で「幸せ」だったからだ。
筆者は高校を卒業すると、海兵隊の道に進む。海兵隊が教えてくれたのは、「強い意志を持って行動すること」だった。今までの人生で、「自分ではどうしようもない」という感覚を植え付けられていた筆者に、「自分自身には力があり、愛する人達の面倒を見る能力と責任がある」という意識を与えてくれた。また、イラクでの子どもたちとの交流によって、世の中に対してずっと抱いていた恨みを捨て、人を愛する気持ちを学ぶことができた。
自分の選択には意味があり、全力を尽くせばなんだって出来る可能性を持っている。それが海兵隊で学んだことであった。
海兵隊で残り2年間となったときに、祖母が亡くなった。
5 大学生活
オハイオ州立大学に進んだ筆者は、順風満帆な生活を送る。
一方で、リーマン・ショックは、ミドルタウンの景気に大ダメージを与え、町にニヒリズムを蔓延させていた。ミドルタウンの住人にあるのは、社会制度そのものに対する根強い不信感だ。ニュースも政治家も信用できない。仕事もなく、社会に貢献できず、何も信じられない。オバマはイスラム教徒だったり、同時多発テロは政府の陰謀だということが、平気で信じられていた。
生活を向上させるには、良い選択をするしかない。だが、良い選択をするためには、自分自身に厳しい批判の目を向けざるを得ない環境に身を置く必要がある。しかし、白人の労働者階層にはそれができない。結果、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかもそれは日増しに強まっている。
ヒルビリーからアイビー・リーグの大学に入学する者はなぜ一人もいないのか?アメリカのエリート教育機関はなぜ、これほど多くの問題を抱えているのか。なぜ文化人たちは、ヒルビリーが好む食事や生活習慣をしないのか。
そして何より、成功している人たちはどうしてこうも筆者と違うのか。
成功した人たちは、成績や人間性以上のものを持っている。エリート達とのネットワークだ。オハイオ州立大学時代には、仕事は望んでも得られなかった。しかし、イェール大学で一年過ごしただけで、年収10万ドルの仕事が簡単に得られる。なにか不思議な力が働いており、その力に初めて触れた瞬間だった。
6 自分の中のヒルビリー精神
ロー・スクール2年目になると、筆者は恋人のウシャとケンカするとき、声を荒げ、罵り、酷い悪態をつくようになる。まるで彼の母が彼に行っていたことと同じことを、恋人にしているようだった。それは「逆境的児童期体験」と呼ばれる、子どもの頃のトラウマの影響が大人になってからも続く現象である。
いったい、人生のよしあしは、どの程度、自分の選択に左右されるのか。文化や環境の影響はどれほど強いのか。一族や親は、子どもにどれほど悪影響を与えるのか。母の人生は果たして自業自得なのか。本人の責任はどこまでで、どこから同情すべきなのか。
こうした問題は、政府によって作り出されものでもなければ、企業や誰かによって作り出されたものでもない。私たち自身が作り出したのだ。それを解決できるのは、自分たち以外にいない。
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白人労働者階級といったグループがアメリカ社会にあることを知った。そして彼らがトランプの主要な支持者であると。
差別と暴論を堂々と言ってのけるトランプがなぜアメリカ大統領になれたか。その謎への答えが本書である。
黒人や移民といった既に表面化した分断の影で、白人労働者たちの不満や鬱憤といった政治的な需要を嗅ぎつけた。まさにマーケティングの才能を発揮するかのようにしてトランプ大統領は誕生したのかもしれない。
「貧困が文化」と言われるほどに世代を受け継がれていく現実は決してアメリカに限った話ではなく、日本も同じだ。
貧困は連鎖し、貧乏な親から育った子供は貧乏になる。もちろん統計的な話ではある。やはり現状そこへの支援は足りているとは思えない。
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アパラチア、ラストベルトに生きるヒルビリー(田舎者)の人々は、その独自の文化や価値観から白人の労働者階級といういまやマイノリティになりつつある属性に釘付けされ、アメリカの繁栄から取り残されていると著者は考える。
大卒ホワイトカラーの人々が当然に持っている、成功するための道筋に関する知識や情報から隔絶されていることがその理由の一つとされるが、不思議なのは著者の母親はそんな環境でも努力して看護師の資格を取るところまで行くのに、薬物依存で何度も繰り返し身を持ち崩してしまう。そんな母親に著者は複雑な感情を抱くが、ウェルフェアクィーンと呼ばれる隣人達への軽蔑の眼差しと重なる心情にはアメリカらしい自由競争への信頼が感じられる。それは著者自身がその競争の勝者であり、ヒルビリーであってもその可能性は閉ざされていないとの信念から来るもの、そしてその信念は著者の祖父母たちから受け継がれているものなのだろう。
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試論、2冊同時感想。
米国の繁栄から取り残された、工場撤退後の産業地域、通称ラストベルト(錆びたベルト地帯)。ここの白人労働者層の不満の鬱積が、トランプ旋風の推進力だったことは大統領選の報道で知られているとおり。
その実情を余すことなく描いているという「ヒルビリーエレジー」を読んでいて、日本における参考文献は「下剋上受験」だと思った。こちらは、祖父の代から中卒の著者が、娘だけは違う人生を、と最難関中学受験にパパ塾で挑む記録文学(私としては躊躇いなく文学という言葉を使いたい)。
この2冊のテーマは、ある意味において強くシンクロしている。
テーマとはと言われると難しいが、自称「下層階級」に可能な「努力」とはなにか、といっていいかもしれない。
そして、著者の才能もかぶるのだろうか、エリート社会を垣間見た自称「下層階級」が放つ乾いたユーモアのテイストまで一緒なのだ(テーブルマナーネタ、そして受験や就職の面接での痛恨の失敗などなど)。
念のため、日本での出版年次は下剋上のほうが3年ほど早い。
「いまの状態は、彼自身の行動の結果である。生活を向上させたいのなら、よい選択をするしかない。だが、よい選択をするためには、自分自身に厳しい批判の目を向けざるを得ない環境に身を置く必要がある」(ヒルビリー、p304)
「私は今まで努力することを避けて生きてきた。その生き方を反省している。努力しようとしたことはあるがいつも挫折するのだ。結果に届くまでに諦めてしまうのだ。その生き方の中でなんとなく掴んだことがある。確かではないが、なんとなく思うことがあるのだ。『ブルドーザーのようにがんがん努力することは傍目には立派に見え誰もそれを馬鹿にすることはできないが、なぜか届くことなく終わり、その努力だけを褒められ、結果を褒められるには至らない』という理不尽な結末をなんとなく意識している」(下剋上、p152)
もちろん、この2冊の人たちのように家族が支えてくれる幸運に皆が恵まれているわけではない。チャレンジしたくてもその機会さえない人もいる。
しかし、社会が悪い、と善意の補助することでより事態が悪化する場合もありうることも、この、2冊はまた正確に言い当てている。
難関中の受験を終えた父娘の会話には、何度読み返しても涙腺を決壊させられてしまう。土木工事の経験からだろう、このお父さんは「流路を変える」という言葉を何度も使う。娘の人生だけでも変える、そう、過酸化水素水を酸素と水素に変えるけれど自分自身は何も変わらないあの二酸化炭素マンガンのように、私は娘にとっての触媒になるんだ、と。
ヒルビリーはより深刻で、幼少期の厳しい家庭環境がいかにトラウマとして残るか、という点に光があてられている。著者自身、薬物依存の母親に悩まされ続けてきた。
著者が理想の伴侶を得て少しずつトラウマを乗り越え、今かつての自分のような境遇にある子どもたちに想いを馳せる最終章には胸が熱くなる。
社会の分断を「貧しい善玉 対 悪いエリート」の対立構図で語ることを、一国の政党ですら��じない今の世の中にあって、まだ突破口は残されていることを人々に伝え、必要な支援を惜しまない、そんな社会について考えさせられる2冊であった。
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統計的な事実と個別的な真実があり、統計で事実を語られても真実が萎える。ここに格差問題の扱いにくさがあり、さらにリベラル的な「あつかう」という手付きに真実が萎える。
最近は読書で個別的な生の語り方にしかない真実に、栄養を貰っている。統計的事実を生きるリベラルは運良く決して貧しくないからこそリベラルであり得た。深い溝があるなと思う。
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アメリカの地域性の一端を知ることができた。
最近興味ある事項の一つである、能力・環境・運命みたいなものを考える題材にもなった。
なかなか読みやすい。
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アパラチアの貧困の中で育ち、そこから抜け出した著者の半生。家族のつながりが強い一方で、子ども時代の家族の不安定さが人生の様々な面で大きく影響していた模様。地域経済やコミュニティの衰退についても言及があった。著者にとっては家族とコミュニティの影響が大きかったのではないかと思う。個人の体験がベースの話ではあるが、白人貧困層のイメージは少しつかめたような気がする。
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ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち 単行本(ソフトカバー) – 2017/3/15
貧困層からの奇跡の脱出劇
2018年5月30日記述
ヒルビリー・エレジー
アメリカの繁栄から取り残された白人たち
2017年3月20日初版1刷発行
翻訳:関根光宏、山田文
著者JDヴァンス
ラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる地域のオハイオ州ミドルタウンおよび、アパラチア山脈の町
ケンタッキー州ジャクソンで育つ。
高校卒業後、海兵隊に入隊、イラクに派兵される。
除隊後、オハイオ州立大学、イエール大学ロースクールを卒業。
現在はシリコンバレーで投資会社の社長を務める。
サンフランシスコ在住。
家族は妻と2匹の犬。
このJ.D.ヴァンスはP85に1984年の夏の終わりに生まれたと記載している。
実は自分も1984年生まれだったので非常に驚いたと共により著者への興味がわいた。
同じ時代を全く違う土地で生きる人間模様は面白い。
まるで小説のような半生を語る自叙伝ではある。
ただ実の姉リンジー、祖母、祖父、海兵隊で叩き込まれた生活力、イエール大学で会った妻となるウシャ。
チュア教授。
どの人物にも大きく助けられた著者。
まさにそれは奇跡と呼びうるものだろう。
いかに良い人物に出会えるか・・・
親は選べない故に深刻だと痛感。
普通はそのまま駄目なままなのだろう。
だから著者の成功劇は奇跡なのだ・・・
(大半のアメリカ人にとっては既にアメリカンドリームなるものは死んでいるのが現実)
母親も再婚しすぎ、ドラッグ問題は深刻であり
現代アメリカの負の側面を表している。
また地方都市の白人労働者があまりにも怠惰すぎる人間が増えすぎた。
豊かになるにはまじめに働く必要がある。
それが出来ない、人材層の劣化も深刻なのだと思った。
トイレに一度行くと30分戻らないのを一日5回もやられたらキレるわなと。
あとロースクールでどの裁判官がどうのといった込み入った情報や就職面接で難関とされる所にあっさり行けるのは学歴の特権だ。
Googleでどれだけ検索しても出てこないものに価値があるといった所だろうか。
途中、もう少し写真が掲載されていればなと思う。
読みやすいけれども、活字オンパレードよりも写真がもっとあって欲しい。
海兵隊時代の軍服を来た写真とか。
その点が物足りない。
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Netflixから
酷い環境ながらも愛があって、学業で成功した家族ではなかったけども勉学が身を立てるのを理解してくれてた。それがこの人の人生を救ったと思う。
おばあちゃんはJDの支えにはなれたけど、自分の娘の支えにはなれなかったってのが悲しい。
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"祖母は、孫(筆者)に自転車を買ってやるのを拒んだ。なぜなら、自転車は(鍵をかけていたとしても)すぐに玄関ポーチから盗まれてしまうからだ。" そんなアメリカの暗部を著者の過酷な過去を描いて教えてくれる。 なぜトランプが大衆の支持を得られたのか、ずっと気になっていたので読んでみた。