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2016年の米大統領選でトランプが勝利したことで、注目を浴びた一冊。(ベストセラー)
ただ、出版時期は選挙前であり、もともとは政治的な背景がテーマではなく、著者の生い立ち、つまり、絶望的な生活環境から、イエール大学ロースクールを卒業するまでの軌跡を記したものである。
著者が書きたかったことは、何も自らの立身出世物語ではなく、自らの社会母体である白人貧困層の実態を自らの実体験に基づき世に知らしめることである。
これまでは、マイノリティである非白人層が所得も低く、教育水準も低い、とされてきたが、オバマ民主党政権下で、白人貧困層の中に”取り残された”、という被害者意識がとても強くなり、そこに不満が渦巻き、政治的な背景に繋がっていく。つまり、トランプが、これら低教育水準の白人貧困層が抱く不満をうまく政治に取り込んだのである。
ただ、現実的は石炭業や製造業の衰退に対して、どのように対処していくのか?保護主義や環境政策の撤回が解なのか?現状、極めて脆い政治情勢であるが、そこまでは、本著では触れていない。
米政治情勢としてだけでなく、もう少し根源的且つ普遍的な問題として捉えるべきではないかと思っている。
つまり、同じような現象が少なからず日本でも起きている、という事実に対して、どう考えていくか、その答えが、著書の生い立ちからヒントを得ることができるのではないか。
父親不在、母親は離婚を繰り返しドラックに溺れる、家庭内暴力等々、その中で、著者は何が他の人々と異なっていたのか?
政治的な本ということではなく、普遍的な社会問題、教育問題への提言として読むこともできる。
何れにしても、このような低教育水準の貧困層の不満が政治へ向けられるとポピュリストが票を伸ばすという実例が観られる中、本著が掲げる問題提起を深刻に捉えるべきであり、その切迫感を著書の実経験から感じ取ることが重要だと思う。
政治として、新しい社会現象・問題への対処ということになるのかもしれないが、個人的には、コミュニティの再生、新しい教育の取り組み・普及、が重要なテーマになるのだと思う。
(新しい教育とは北欧型の教育)
以下引用~
・何百万もの人が、工場での仕事を求めて北へ移住するにつれて、工場の周辺地域にコミュニティができたのだが、コミュニティは活気がありながらも、きわめて脆弱だった。工場が閉鎖されると、人々はそこに取り残される。だが、町はもはや、これだけの人口に質の高い仕事を提供することはできなかった。概して、教育レベルが高いか、裕福か、あるいは人間関係に恵まれている人たちは、そこを去ることができたが、貧しい人はコミュニティに残された。こうして残された人たちが「本当に不利な立場に置かれた人々」、つまり、自分では仕事を見つけられず、他人とのつながりや社会的支援といった面ではほとんど何も提供してくれないコミュニティのなかにぽつんと取り残された人々だ。
・心理学者が「学習性無力感」と呼ぶ現象がある。自分の選択が人生になんの影響も及ぼさないと思い込んでいる状態のことで、若い頃の私もそういう心理状態にあった。将来に対して期待を持てないミドルタウンの世界から、いつも混沌としていた家の中まで、それまでの人生では、「自分ではどうしようもない」という感覚を深く植えつけられてきたのだ。
・生活を向上させたいのなら、よい選択をするしかない。だが、よい選択をするためには、自分自身に厳しい批判の目を向けざるを得ない環境に身を置く必要がある。白人の労働者階層には、自分たちの問題を政府や社会のせいにする傾向が強く、しかもそれは日増しに強まっている。
・貧富の差が将来の選択肢に与える影響についての研究結果がある。アメリカ国内では、地域ごとに、成功の可能性に偏りがあると判明した。どうやら、ユタ、オクラホマ、マサチューセッツといった州では、アメリカンドリームは十分可能と言えるようだ。少なくとも、世界のどこと比べても見劣りはしない。貧しい子供が苦境にあえいでいるのは、南部やラストベルト、そしてアパラチアだ。
データを分析し、成功の可能性に地理的な偏りがある理由を、ふたつあげている。母子・父子家庭の割合と、ほかの地域との収入格差である。母親か父親のどちらかしかいない家庭が多く、地域のほぼ全員が貧困状態にある環境で育った場合、成功の可能性は大きく狭まる。
モルモン教徒の多さから、教会を中心にコミュニティの結束が強く、家族の問題も少ないユタ州が、ラストベルトに位置するオハイオ州を圧倒しているのも、驚くにはあたらない。
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アメリカ社会の分断の現状。
ある時期には、一日4時間睡眠でも頑張る必要性。
海兵隊での経験。
変化は一瞬で成し遂げられるようなものではない。変わりたいという真摯な思いがあっても変われない人もたくさんいる。
何事もやればできる。一日20時間働くこともできる。
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2016年のトランプ大統領誕生の原動力ともなったラスト・ベルトの白人労働者階級の不満。著者はケンタッキー州の住民の1/3が貧困家庭である白人労働者階級に生を受け、まさしくその層に属していた。生まれた町は製鉄会社アームコの企業城下町として栄えたが、企業の撤退とともに衰退していった典型的なラスト・ベルトの街である。「ヒルビリー」とはそういった街に住む、特にスコッツ=アイリッシュの血を引く「田舎者」を指す言葉だ。
著者の母親は高校卒業と同時に子供(著者の姉)を孕んだため、大学には進学しなかった。その父親ともすぐに別れて、著者と姉は異父弟になる。また、著者の実父とも離婚し、そこから次々と父親が変わっている。母親は酒とクスリに溺れ、喧嘩が絶えない。それはその町では「典型的」な家庭であったという。
著者は、細い糸を辿るようにして従軍後に進学し、イェール大学のロースクールを卒業し、成功者となった。そこには並々ならぬ努力があった。その階級に最初から属してはいなかったからこそ、見えてくることもある。著者を成功に導いた努力を、ヒルビリーの人々は最初から奪われているのだ。
本書は米国ではトランプが下馬評を覆して勝った大統領選の前に出版されている。その選挙結果を左右した社会構造を伝えているとしてベストセラーになった。
この物語はアメリカ中西部の話ではあるが、日本でも同じようなことが起こりつつあるのではないだろうか。違う国の問題であると考えるべきではないだろう。著者の成功は救いではあるが、救いようのない現実があることもまた確かだ。著者は、問題は政治ではなく家庭にこそあるという。そこに政治が寄与することはできるだろうが、金銭的補助だけでは足りない。少しもの悲しい現実がそこにはある。
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感想
知られざるアメリカ社会を中からこじ開けることで、超大国の暗部を少しだけ垣間見させてくれる名著。様々な書評に書かれているように日本人があまり馴染みのないトランプ支持層のアメリカの雰囲気が伝わってはくるが、決してそこにフォーカスしているわけではない。歴史的大どんでん返しの選挙戦に対して「これだ」という決定的な原因・理由を求めている人やマスコミがいるが、この本を読むとそんな単純な問題ではなく、非常に根が深く、なかなか見えてこない(というよりも当人たちが自ら隠そうとしている)アメリカの一面が見えてくる。ともすれば現代の日本にも共通しているかもしれない「格差社会」の深く暗い部分を知るためには必須の本。
ポイント
社会の中で必要悪もある。または悪と一部の特権階級が思い込んでいるものでも当事者にとっては必要不可欠なことがある。例ペイ・デイ・ローン
貧富の格差が情報格差につながり、それが教育格差につながり、さらに次世代の貧富の格差につながるスパイラルとなる。ここでいう情報格差は特に教育の重要性の格差。
ヒルビリー、さらには貧困層は、貧困であることを隠そうとする傾向が強く、反発的に高額の商品を買ったり、自分達の生活を暴かれることに対して過度に拒絶反応を示すことがある。
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ダメな白人がどうしようもなくクズでダメで,トランプが選ばれるのも分からない訳でもないが,アホすぎ。
「朝早く起きるのが嫌で仕事辞めた」って馬鹿かお前は!みたいな奴らじゃ話にならない。こんなのがトランプを選んだと思うとどうしようもない国だ。
それにしても,酷すぎる話が多くて読むのが辛い。
日経新聞の書評で知って図書館に予約,半年くらい(?)待ってようやく届く。
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田舎者が田舎に埋没せず、自分の人生を切り開いていく様が、自分にオーバーラップして激しく共感できた。ラストベルトの白人たちをなぜトランプがうまく取り込めているのか想像できた。
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図書館の返却期限のため400ページ中260ページまでと最後の40ページしか読めなかった。
アメリカ北東部出身の弁護士・投資会社社長の生い立ちの物語。
筆者は「やられる前にやらないと殺される」、そんな場面が日常的な地域で育つ。身近な人が銃を持っているのは当たり前。麻薬中毒者であるのも当たり前。働かないで他人や政府にたかるのも当たり前。まるで西部劇のようで、本当に現代のアメリカなのか疑いながら読んだ。
だからトランプに人気が出る。アメリカが弱くなった今だから見えてきた恥部。解決するのは非常に困難。トランプ政権では200%無理だと思う。これからのアメリカがどうしようもなく不安になってしまった。
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白人労働者階級の実態が著者自身の実体験をもとに生々しく書かれている。
著者自身がケンタッキー州の出身で、オハイオ州ミドルタウンで育った典型的なアイルランド系白人であり、家庭環境も生活環境も劣悪と言わざるを得ない状況であった。しかし、彼の場合は、祖父と祖母が希望を捨てないように彼を常に支えてくれたために、最終的にはイェール大学ロースクールを卒業し、富裕層への仲間入りを果たした。
しかし、彼のようなケースは非常に稀であり、ほとんどが先祖代々の土地に住み、貧困な状態が引き継がれている現状を憂いている。
以下はその一部の抜粋である。
貧しい人たちにとって、社会階層や家族がどのような影響を与えるのか理解してほしい。
社会関係資本はつねに身の回りにある。うまく使えれば成功につながる。うまく使えなければ、人生というレースを、大きなハンデを抱えたまま春ることになるだろう。
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現代というか70年代ぐらいから変わってない気がするけど、ほぼ同時代のアメリカを知ることができる。貧困層の社会だけでなく、文化、思いみたいなものをリアルに汲み取れます。これがノンフィクション。物語と言っていいほどにドラマティックな半生。しかし、なぜ、アメリカの人は、行き過ぎて歯止めがきかず、コントロールできないのか、の疑問には答えてくれません。
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★米国の分断のノンフィクション★「田舎者の哀歌」という題名が強烈。白人だから豊かで恵まれているわけではないとイメージはできたが、母親の相手が次々と変わっていく本人の生い立ちから、現実の困難さがはっきりと浮かび上がる。
白人労働者階級の荒れた生活とあきらめ、やる気の喪失。政府が悪いといって働かず、そういう思いが集団に蔓延する。社会制度全体に対する不信感は、置いていかれた白人だからこそ大きいのか。
オバマ大統領のことが嫌いなのは黒人だからではなく、自らとは完全に縁が切れたアメリカの能力社会の成功者だから、という。自分たちとは接点がまったくなく、オバマが苦労した過去は知らないので、共感のしようがないらしい。
繁栄に取り残された白人労働者の怒りは理解できたが、それを正反対の立場にあるトランプ氏が掬い取れたことに改めて驚く。極めて優れたマーケティング能力であり、テレビで磨いたタレント性なのだろう。
この本を2016/6、トランプ氏が大統領選に勝利する5か月前に出したのは編集者のセンスが素晴らしい。
黒人アメフト選手の成功物語である「ブラインドサイド」を読んだ時も思ったが、能力はあっても発揮する環境に至らないことが米国ではいかに多いことか。
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日本人の知らない今のアメリカの裏面を捉えた本。貧困とヒルビリーの文化的な気質複雑に絡まり、煌びやかに繁栄したアメリカの影のようにくっきりと浮かび上がる荒廃した白人の街。
トランプ旋風は彼らの声を的確に代弁することによって生まれ、事実大統領になることになったことを考えると、この病魔がアメリカの根に広く巣食っているのかを想像せざるを得ない。
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ケンタッキーにルーツをもち持ちオハイオの公立学校で育った著者がみたヒルビリー(田舎者)たち。祖父はアル中、母は薬中、戸籍上の父は赤の他人。彼らの希望は。
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アメリカの中西部の白人貧困層の状況が、一人の青年の成長と共に鮮明に描き出されている。現代のアメリカを理解する上で欠かせない一冊。
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貧困の原因の深さに恐ろしいと感じ、また、教育や誇り、愛情、努力がいかに大切なことなのか改めて感じました。日本もこのようになっていく面があるのか、もっと勉強しなければと思いました。
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著者は、どちらかと言えば酷い家庭環境にも負けずに努力した結果、アメリカで最も厭世的な社会集団である白人労働者階層に陥ることはなかった。著者の母親の自堕落さ、周りの人たちの粗暴さには唖然とする。社会の底辺に暮らす者は余程の幸運か自分自身で努力を続けない限り、生涯そこから抜けきれないのだろう。