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トランプ大統領誕生の原動力となったヒルビリー、その米国の繁栄から取り残されたヒルビリー出身でイェール大学を卒業して投資会社の社長を務めるまで上り詰めた著者が自らのルーツや生い立ちに遡り、赤裸々にその実態を描いています。日本も格差社会が問題として取りざたされているが、ある意味上も下もとても極端な米国には驚かされます。
また、両親の離婚で別れ別れになっていた実父と、その後一緒に暮らすことになります。そこで、敬虔なプロテスタントである実父と共に教会に通うようになると、自ら悪魔的なブラックサバスのCDを捨てることになるのですが、実父にレッドツェッペリンが嫌いと言われると居心地の悪さを感じで、祖母を頼って家を出るなど、微笑ましいエピソートもあります。
著者はヒルビリーなのかでは、とても勤勉な性格ですが、出身を越えて人生を変えたのは海兵隊に入隊してからです。そこで心身ともに鍛えられ、更に軍隊任期満了の奨学金も得て進学することが容易になったと描かれています。穿った見方をすると、海兵隊(軍隊)の新兵募集のマーケティングとも思えます。なにせ戦意高揚映画で「カサブランカ」を制作する国ですからねぇ。。。
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著者自身の複雑な家庭環境、ヒルビリーの社会全体が抱える問題、政府が白人労働者階級にどういう姿勢をとってきたのか、それが今どういう結果を生んでいるか、いろいろなことがとてもわかりやすく書いてあって、ヒルビリーをほとんど何も知らない(映画「ウィンターズボーン」で彼らの存在を知った)状態から読み始めた私にとっては勉強になった。
副題の通り、アメリカの繁栄から取り残され、仕事もなければ学もなく、かといってこれといった努力もせず(そもそも彼らは努力をする、ということを教わらずに育っている。努力せずただ怒っているだけ。それを著者も問題視している)ただただ未来に悲観的になるだけだったヒルビリーたちに、わかりやすい希望を与えたのがトランプだったのかと知って、妙に納得してしまった。
本作の中である高校教師が著者に言ったというセリフ
「みんな現実をわかってない。野球選手になりたいといいながら、コーチが厳しいといって高校の野球チームにも入らない」
が妙に印象に残った。
こういう人、いるいる。
この深刻な「生まれつき頑張れない、頑張ったことがない」という負の遺産、日本も他人事じゃない。
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トランプ推し界隈ってなんなん?が少しだけみえたかも。(余談。婆、母が強烈すぎて「赤朽葉家の伝説」を思い出す。ファミリーヒストリー、強い女性陣てとこしか共通点はないのに!)
自分の怠け心には目をそらし、チャンスに恵まれないのは人が多いから、他の人種が邪魔するから、という発想。それが支持の理由だとしたら。貧困が伝統、という皮肉。
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20170606〜0616。米国の繁栄から取り残された白人達。それでもこの本の著者は、底辺から這い上がっていく。やはり、支えてくれる人が身近にいるのが大きかったのかな。
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各所で話題になっている本書は、その前評判に違わず、非常に面白い。「トランプ支持者の実態がここに!」という時流に乗ったコピーの妥当性はともかくとして、本書で書かれているのが、日本に暮らしているとほぼ見えない別のアメリカの姿であるのは間違いがない。
本書は、オハイオ州の田舎町で”ヒルビリー”と呼ばれた階級で育ち、海兵隊での経験と大学での懸命な学生生活を経て社会的に成功した著者が、その半生をリアリスティックにまとめたノンフィクションである。暴力とセックスとドラッグが蔓延するヒルビリーの生活の生々しさに驚きつつ、その中で必死に孫である著者らを守り続けた祖母のたくましさと愛情には感動を覚える。
著者は自らが育った”ヒルビリー”達の社会に対して、愛惜のこもった眼差しを持ちながら、その問題点を明らかにする。例えば、彼らの中には極めて不真面目な勤務態度で仕事に臨み、いざ仕事を失う段階になった際には困難を他人のせいにする傾向が見られるという。また、昨今では貧困と家庭状況に強い相関が見られることがほぼ明らかになっている中、貧困対策としての家庭支援策は、「両親+子供」という枠組みを基本にしている。しかし、著者の生活がそうであったように、シングルマザーでかつその母親も頻繁に新しい夫との結婚を繰り返すような状況では、祖父母の存在が大きな役割を占める。にも関わらず、両親以外の存在や家族の構成員としては公的に認められず、様々な公的扶助の対象にならないというのは、短期的に解決すべき一つの問題なのだろう。そして、それはアメリカに限らず、日本を始め、他の国・地域でも応用可能な示唆であるはずである。
見えているようで見えていないアメリカの実態を知るのに、非常に適切な一冊。多くの人にお勧めしたい。
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白人労働者階層は米国のポリティカル・コレクトネスという考え方の中で、もっとも割を食っているということがよくわかる。トランプ支持が今後も続くのか?
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[切なさと強情さと]「ヒルビリー」と呼ばれるアメリカの白人労働者階層で育った著者のJ. D. ヴァンスが,自身の生い立ち,そしてコミュニティの危機について記した作品。文化や社会,そして心理の分野にまで及ぶ問題はどこに端を発し,その処方箋はどこにあるのか......。訳者は,関根光宏と山田文。原題は,『Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis』。
今年のトップテンに間違いなく入るであろう一冊。トランプ現象と組み合わせて本書について語る書評が多いのですが,その現象にとどまらず,アメリカという国の根っこの1つを覗くためにも間違いなく参考となる作品です。経済的困難を抱える人々のためのアメリカの福祉政策が,なぜまさにその人々から毛嫌いされるかを理解する一助にもなるかと。
〜白人労働者階層のどこを一番変えたいかと問われるたびに,私はこう答えてきた。「自分の選択なんて意味がないという思い込みを変えたいです」〜
本書が語る世界は狭いですが,それが収める世界は広い☆5つ
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アメリカのラズベルトの街で生まれ育った筆者が、逆境や環境に打ち勝ち、弁護士になるまでのサクセスストーリー、なんだけど…
環境がどーしょもない(家庭内暴力、ヤク中、度重なる離婚et cetera)という家庭は多いらしく、そのような貧困の世帯がワシントンや都市部のエリートに反感を持ち、真実でなくとも分かりやすい言葉で訴えたトランプを支持した、という話は複雑である。で、そのトランプがそのような人の頼みの綱であるオバマケアを廃止しようとしてるのは、うーーーーん…。
ともかく、アメリカで起きてる分断について知りたい、アメリカの貧困に陥っている「白人」について知りたい場合、本書に当たることを強く勧めたい。
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いやあ、読むのがつらく苦戦した。
筆者の曾祖父母の代〜筆者の幼少期〜高校までの前半が、殺伐、無法、堕落、荒涼で、読むのに気が乗らず苦労した。
激情家で、つまらぬ意地が大事で、向上心を持たないのは母親のみならず、祖父母、曾祖父母、地域すべての空気になってしまっている。
かつてこういう空気の地域(日本で)に少し関わったことがあり、それも思い出されて余計につらかった。貧困というだけでなく、親が次々と恋人を変え、家庭は安定せず、言い争いや罵りばかりの毎日は、子どもにとってあまりにもつらい。祖母が銃器を持って人を脅すこともある始末。心は落ち着くはずもない。
戦争や歴史の激動と違って、貧困や教育は、巻き返す糸口が個人にもまだあるはずなのに、向上の意欲のない人々はどうすればいいのか。
努力すれば必ず報われるというものないし、個人の努力だけを強要するものでもないと思うけれど、この諦め切ったこの荒涼。。。
せっかく仕事に就いてもさぼったり遅刻したりで解雇されてしまうのを、どう止めたらいいのか。
失業、犯罪、低所得、飲酒、ドラッグへと転落していくのはあっという間だ。転落というより、浸り切って出てくることがない。それも子どもの頃から浸かり切ってしまうから、それ以外の目標や価値観を見いだせない。。。
サクセスストーリーは(後付けの正当化になっていることが多いので)普段ほとんど読まないのだが、これに関しては、後半の大学以降自分の人生を立て直せて本当によかったね、と思ってしまう。。。
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ヒルビリー、つまり田舎者と呼ばれるラストベルトのスコッツアイリッシュの人達の実態を赤裸々に描写した佳作。アメリカにはマイノリティがいくつかあって、アフリカ系、ヒスパニック、アジア系が、よく言われる被差別層だが、実はもっと大きな塊であるヒルビリーという白人被差別層にスポットライトを当てて、当選したのがトランプ大統領だという。解説者曰く、『50年後のアメリカ人が2016年のアメリカを振り返る時、本書は必ず参考文献として残っているだろう』と述べたごとく、それだけ本書は白人労働者階級社会を的確に描写しているということだと思う
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完璧に勘違いして本書を購入した。トランプがどうして当選したかを分析した本だと思っていたが、作者成功の半生記を描いた自叙伝だったんですね。
しかしその個人性ゆえに、かえって今のアメリカの実態を実感を伴って理解しやすくなっている。
アメリカのヒルビリーの問題も根は深そうだが、より核家族化している日本では、逃げ込めるセーフティネットが少なく、排他的な島国根性もあるので、これ以上階層化が固定化されるとより深刻になる可能性がある。
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自分を取り巻く家族、友人、親戚、などごく親しい人間、生活環境から受ける心理的影響は、計り知れない。
幼ければ幼いほど。
自分の未来や能力の可能性に自ら限界を定めてしまう無意識な習慣。
これらが、地域全体に浸透してしまっているエリアがいくつも存在するアメリカ。
屈折した敗北感、責任転嫁、を無意識のうちに内に抱えざるを得なかった人々の物語。
崖っぷちにいる著者をどこまでも温かく愛し救った祖父祖母の存在が救いを与えてくれる。
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ヒルビリー(田舎者)やレッドネック(首筋が赤く日焼けした労働者)とよばれる白人貧困層について。
自身がその出自である著者(イエールのロースクールを出て最終的に脱出した)の半生記のような内容。
アメリカ社会ではかねてより家を持つことが奨励されてきたが、郊外地域の場合、いったん地元の経済状況が悪化してしまうと住宅価格が下がってしまい、家を売るに売れなくなってしまう。移動できる余裕のある人は転出してしまい、仕事もなく最貧困層に落ちた人々ばかりがその地域に閉じ込められてしまうことになってしまう。子どもに教育を与えようという意欲やよいロールモデルも存在しないため、この環境に生まれてしまうとなかなか抜け出せない。
著者は、努力はしないが家族や地域の誇りを堅持したい、というヒルビリーの姿勢自体に大きな問題があるとしており、政府や他人を恨むのはお門違いだと言う。仕事が少しきついと辞めてしまったり、教育に価値を見出さないという体質こそが問題なのだという。じゃあどうすればよいかは「分からない」と言うのだけれど、トランプ大統領がなぜ生まれたかの背景として読むと面白い。
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父の本。これは久々に面白かった、とか言って薦められたので読んでみました。何故今回の大統領選でトランプが勝ったのかがわかる、と帯にありましたがナルホドと思いました。
読んでいてちょっと疲れるのは大家族にありがちな複雑な人間関係を覚えるのが大変なのと大体皆似たような名前なのでこの人は誰だった?と思いだすのが大変でした。思い出、とあるように今の現状が語られたり過去の出来事が語られたりで行ったり来たりするのでちょっと戸惑うというか。田舎の親族の話を聞いてて「うん、その○×伯母さんって誰の子供でどういう繋がりだったっけ?」と口を挟みたくなる感じを思いだしました。
ウェルフェア・クイーンという言葉も初めて知りました。そう言えば姉の友人の元奥さん(イギリス人)は生活保護を受けながら世界旅行を楽しんでいるとか言ってたっけ。手当や保護があるのは大事なことですが… 日本だとまずないわ~ってなるだろうなぁ…
低所得者の家族にはお手本とするべきロールモデルが無いから成功できる人が少ない、というのはなんだかすごく納得しました。未来のビジョンが無いと頑張ろうとか努力すれば…なんて言葉、意味がないんだろうな。何を具体的に頑張ればいいのか、努力したらいいのかがわからない状態の子供たちにそんな安易な言葉を投げても途方に暮れてしまうだけだろうし。
そしてやはり子供の教育には家庭生活が一番影響を及ぼすという当たり前のようなことを再確認した気がします。
これをいやあアメリカだから、多民族国家だから…なんて対岸の火事には思えないですね。今の日本も高学歴でも職が見つからない、もしくは職に就いても辞めてしまうなんて話もよく聞くし、さらに言えば高校も卒業できずに引きこもったりしている人も増えているというし。そして外国人労働者や他国の文化を理解しようともせず非難する。まるで自分の境遇が悪いのはその人達の所為だとでも言うように。今のヘイトスピーチとか、アジア諸国を低く見るような発言をする人達の考えの根底にはこの本にあるヒルビリー達と共通する考え方があるように思えます。他者への批判は厳しいけれどもその批判を自分に向けようとしない。都合が悪い事は政府と社会の所為だと言い張り、その割には投票にも行かない。
この負の連鎖はどうすれば止めることが出来るんだろうか。
色々と考えさせられました。
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知っているようで、全く知らなかったアメリカ。ヒルビリーが全てを周りの所為にして、貧困スパイラルに陥る事実は、日本の今にも通じるところがある。特にインターネットの発達が、この風潮を容易に拡大させる要因になっていると危惧する。さて、それをどうやってくいとめるのか、本書にも今の私にも解はないが、考え動かねばならない。