投稿元:
レビューを見る
『殺人出産』
恋愛とセックスの先に妊娠がなくなった世界。人口維持のためにとられた措置は、「殺人出産システム」。それは、10人産んだら1人殺していい、というもの。「殺意」を「命のきっかけ」に変える、殺意が未来に命を繋いでいく、という狂った世界観だ。
そんなあほなことあるかいな!みんなの発言が白々しすぎるやろ!と思って読み始めるけれど、だんだんとこの殺人出産システムは合理的なのではないか、という感覚に陥ってくるから不思議。少なくとも主人公の姉は、沸き起こる殺人衝動を社会のために昇華できた。彼女にとっての正しい世界で、生を全うすることができた。
『トリプル』
2人で付き合う「カップル」は古い。時代は3人で付き合う「トリプル」だ。キスやセックスのやり方も、2人と3人ではまったく異なる。トリプルしか経験のない真弓は、ある日カップルのセックスを目の当たりにし、その行為の末に生まれた自分とその世界に失望する。
『清潔な結婚』
性別のない結婚。性を排除した結婚。バブル期は結婚相手に求めるものは“3高”なんて言ったものだけど、価値観が多様化する現代や未来においては、相手に求める条件も多種多様。清潔な結婚というのがあってもおかしくはない。
子供が欲しい場合は、専門の病院に行けば受精の手伝いをしてくれる。看護婦のセリフが滑稽すぎた。
『余命』
医学の発達により、「死」がなくなった世界。死は自分で選ぶものであり、痛みや悲しさは伴わない。事務的に、粛々と死に向かうだけ。死は向かってくるもの、なんて古い考えになる日がくるのかな。
自分の思う正しさはなぜ正しいと言えるのか、誰が正しいと決めたのか、自分が立っている世界が正しいと思い込んでいるだけじゃないのか、と様々な迷いが自分を取り囲む。村田沙耶香、なんちゅうことを考えとるんや。わたしの固定観念をぐらぐら揺さぶってくれた。
投稿元:
レビューを見る
衝撃的なタイトルに驚きを隠せなかった印象。表題作の殺人出産という、10人産めば、1人殺しても良い制度、現実に起こりえないだろうということを認められた世界での人々の性と生に関する倫理観、価値観などが色濃く反映され、起こりゆる出来事などがまざまざと感じ、時折猟奇さが見えつつ、物語の独特さは現実世界と架空の未来の様子が交差し、それらがヒリヒリと痛く伝わって来る。性や生だけでなく、恋愛の部分も現実の世界で異常と感じる部分の中に現実味を帯びているだろう部分も併せ持ち、少々のいびつさ、ピンと線を張ったものもある印象。
投稿元:
レビューを見る
10人産んだら1人殺していい、という「殺人出産」ほか3編。
人口の減少に歯止めをかけるための究極の策として制定されたという、恐ろしいシステム。逆に、それ以外の殺人を犯した者は、男女を問わず一生牢獄の中で子どもを産み続ける(男は人工子宮を埋め込まれて)という「産刑」に処せられる。
命を奪った者は、命を産み出す刑を受けるというわけ。なんともおぞましい。
さらに気分が悪くなるのは、主人公の姉が10人の出産を決意するのだが、その理由が殺したいほど憎む相手がいるのではなく、単なる殺人願望であるということ。狂った世界をベースに、命を奪うことに快楽を感じるというさらなる狂気が重なっていく。
性や出産に対しての極端な設定は、先に読んだ『消滅世界』と似通っているが、そちらは夫婦や親子、家族など、内面的な要素について考えさせられるものだった。が、本作はよりグロテスクで、率直なところ生理的についていけない。
発想はユニークだが、「トリプル」「清潔な結婚」も似たような設定で、この手のものはもうお腹いっぱい。別の世界を読みたい。
ラストの短編「余命」はおもしろかった。
医療技術の発達により、この世から「死」がなくなり、人々はセンスのいい死に方を悩むようになる。星新一のショートショートを思わせる、近未来を皮肉まじりにさらりと描いたところがよかった。
投稿元:
レビューを見る
病みつきになる視点
「トリプル」3p 当たり前の恋愛
「清潔な結婚」結婚にセックスを持ち込まない
「余命」自分で死の時期、場所が選べる
投稿元:
レビューを見る
「殺人出産」
10人産んだら1人殺してもいい、という殺人出産システムが採用された世界。
何が正常、正義であるかは時代により変わる、というお話。
「トリプル」「清潔な結婚」も、設定的には、時代が変われば…、な話なんだけど、内容的にはいささか閉口気味。
最後の「余命」は、本当に短いんだけど、なかなか印象的。
医療が発達した事により、死がなくなった世界で、いかにして死ぬか、というお話。
村田さんの作品は初めて読みましたが、ちょっと新井素子さんを彷彿させるような…?
芥川賞受賞作の『コンビニ人間』もその内読みたいな、と。
投稿元:
レビューを見る
「殺人出産」
人を殺したければ、10人産めば良いという世界。
読み終わった率直な感想としては「何これ?」という不可解さ。でも何か伝わってくる、命の尊さみたいなもの。
子どもをつくる行為も、人を殺す行為も、命を操っているという観点においては同じことなのかもしれない。産み人は、それをエゴのためではなく人類のために行っている。
美しい世界だと思いました。
「トリプル」
三人で恋人同士になるという世界。二股とかではなく、本当に三人でキスしたりセックスする場面は、新しいなぁと思って読みました。一対一じゃなくて、三人で付き合うことで、秩序とかが守られるのかもしれない。それはそれで良いと思うけど、セックスだけは二人でしたいなぁと思いました(笑)とにかく新しいですね。あとお母さんとの言い合いで殴りすぎw
「清潔な結婚」
タイトル通り清潔な結婚ゆえ性行為のない夫婦が子どもを望んだ場合にどうするか。性的対象の相手と結婚として適した相手が一致するとは限らないという問題を描いた小説。その問題には共感できる…けど、極めすぎていておもしろかったwてゆうかラスト、夫どうした?やっぱ嫌悪感?
「余命」
これは…すごいな。
医療が発達して死がなくなった世界では自分で死ぬ準備をしないといけない。「死」がすごく軽い感じで描かれているけど、世界から「死」がなくなったら、そんなものかもしれません。
投稿元:
レビューを見る
やっぱり、村田沙耶香はこれくらいぶっ飛んでる方がいいな。
全編通して、気づかされることが多い。
多分普通に過ごしていると持たない疑問を、筆者は持つことができる。それが、村田沙耶香の純粋さだと思う。
読むまでそんなこと想像すら出来なかった自分の、なんと俗世間に汚染された人物であることか!
星4つけたけど、正直4.5といったところ。
でも、もっといけると思う。
次回作も期待。
投稿元:
レビューを見る
世界観がぶっ飛んでる。
力のある作家さんなんだろうなというのは、分かりましたが…
正直最後の短編以外、読後感が良い話ではないと思います。
清潔な結婚のラストは、何を暗示してたのかがよくわからなくてモヤモヤしました。
母親と子供が会話してるシーンを目撃した旦那は、何で吐いたの?
何かを象徴してるんだろうと思ったんだけど、あのシーンをきっかけに吐いたことが何故なのかがよくわかりません。
母と子の姿を見て、不自然な方法で子供を授かろうとしてる行為に対して嫌悪感が出た?
旦那が赤ちゃんプレイ好きなマザコン男ぽいので、自分が親になることへの拒絶反応?
うーーん……もやもやする…。
投稿元:
レビューを見る
星新一の小説をサイエンス・フィクション(空想科学)というなら、この小説はモラル・フィクション(空想倫理)といった感じだろうか。
共感できるかは別として、とても興味深い世界観だと思う。
”清潔な結婚”の「性的な欲求を満たしてくれる相手が、人生における最愛のパートナーになるとは限らないし、その逆もまたしかり」的なフレーズには、なかなか考えさせられた。
投稿元:
レビューを見る
表題作『殺人出産』の他3篇の短編を収録する。
⑴「殺人出産」
10人産んだら1人殺せる「殺人出産システム」により人口を安定させる日本。人々はセックスと妊娠を切り離し、人を殺すために人工授精を繰り返し出産に専念する者を「産み人」として崇める。「産み人」制度に疑問を持つ会社員の育子のもとに、姉の10人目の出産が迫っているという連絡が入る。姉が殺人の権利を得たとき、育子の中で何かが変わる……。
⑵「トリプル」
若者の間で流行する新しい男女交際の形「トリプル」。3人1組の恋愛は、その性行為も新しい。拒絶する母親に隠れて誠・圭太とトリプルを楽しむ真弓にとって、それ以外の恋愛の形は在り得なかった……。
⑶「清潔な結婚」
ミズキと信宏が求めるもの、それは「性別のない清潔な結婚」だった。夫婦間での性を排除した生活を楽しむ二人は、やがて子どもを作るために「クリーン・ブリード」と呼ばれる「清潔な繁殖」に取り組む……。
⑷「余命」(超短編)
医療の発達により「死」がなくなった世界。人々は「理想の死に方」を求めるようになる……。
まず「殺人出産システム」という設定がすごい。よくこんな究極合理的グロテスクが思いつくものだ…。恐ろしいのはこの世界の住人達にとって、「殺人」が生きる光になっているという点。誰かに腹が立った時、万人に「合理的殺人」の権利が与えられている世界では報復はただの夢想ではない。現実的な手段として「殺す」ことが可能なのだ。実際にそれを実行するためには大変な労力と時間を要するためやらないが、「現実的な報復手段を持っているんだ」という意識はストレスを軽減させるのだろう。
また、ラストは衝撃。『消滅世界』でもそうだったが、主人公が異常な世界で「正しい狂い方」をしてしまう。正しいってなんだ。結局人間が人間にとって都合の良い価値基準を「正しい」と規定しているだけなのではないか。狂った世界での正しさは狂っているのだ。
本書は『消滅世界』とほぼ同じような世界観を持つのだが、2作品を通して私には、村田沙耶香は人体実験ならぬ「世界実験」をしているように感じた。人体実験とは、完成された人体の秩序に手を加え、それが及ぼす影響を観察していくものだ。著者はそれを世界で試している。現実世界の「秩序」「常識」の一部を欠落させたり過剰にしたりした「実験世界」を作り出す。そしてその手を加えた事物がどのような波紋を描き世界や人間を歪めていくのかの経過を描いている。村田沙耶香が残酷なのは、その異常な世界に「正常な人間」を落とし込むこと。『消滅世界』では主人公の母が、そして本書では「ルドベキア会」の佐藤早紀子がその役を担う。そして彼女たちは皆悲惨な末路をたどってしまう…なんて悪趣味な作家……。しかしこれらがコントラストとなり、私たちは現実世界の常識を再確認させられる。そして、常識とは何か、正しさとは何かという深淵へと続く問いに読者を誘うのだ。
悪趣味なんだけど、やめられないんだよなぁ……
投稿元:
レビューを見る
読んでる途中で世界がひっくり返ってしまって、いざそのシーンになって違う、こっちじゃないって思った。常識って一種の宗教っていうか、そもそも信じるとか信じないとかじゃなく身体の一部になってるものっていうか。だからこそ他の身体を持った人では、どうしても受け入れられない箇所も存在するだろうし。100%の常識ってありえないんだよなーと。でも一瞬そっちの常識の側に踏み入れてしまう場面があった。恐るべし村田沙耶香。
投稿元:
レビューを見る
面白かったです。今の世の中では到底受け入れられないだろう倫理観の世界の短編集でしたが、わたしは好きでした。物語の中で、この世の中は間違ってる、と正常を押し付ける考え方の人物たちの方が、わたしは気持ち悪く感じました。今の正常も、昔からしたら異常なことなのかもしれなくて、正常って何だろう?ということを考えさせられます。でも、村田さんの想像はいつも斜め上を行っていて、興味深いです。きっと彼女の作品の世界を受け入れられない人も多いだろうなとは思いますが。どのお話も、わたしの狭い価値観が揺さぶられて好きなのですが、「余命」のような世界は救いのような気がする、と感じました。
投稿元:
レビューを見る
・命をたくさん産むものが、命を奪うことが正しいとされる世界。主人公の姉は産み人と呼ばれる命を多産するものになる。
・読了後、胸が気持ち悪い気持ちになった。
命が統計上の数字のように扱われ、なんのために
人間を増やすのかがわからない。絶対の正しさというものはないが、直感的にこの世界は気持ち悪さを感じてしまう
・殺人と出産という真逆を結びつけた制度が不気味さを増してるのかもしれない
投稿元:
レビューを見る
斬新な視点で正しいは間違いかもしれないんじゃないかと考えさせられた。理屈が通っていて読みつつ確かにこれでもいいかもしれないと作者の考えに引っ張られそうになった。生きていて、私にはとても思いつかない考えだった。ミステリーでもなく何ていう本と呼べばいいのだろう。2017.2.19
投稿元:
レビューを見る
『コンビニ人間』がめっぽう面白かったのでこちらも読んだ。極端な設定で世界を相対化する作品は苦手なのだが、村田作品は登場人物の感情が切実なのと、自身の作品内の価値観からも距離を取っているので気にならず読めた。『トリプル」の母親が「3P」を連呼する謎のユーモア感覚も良い。