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久生十蘭の代表作。
探偵小説というよりは、群像劇っぽい冒険小説といった趣で、巻末解説にあるように『フェア・アンフェア』を重視するタイプの作品ではない。本書の魅力は十蘭の文体そのものだと思う。
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次から次に起きる怪事件と、現れては消える多彩な登場人物、全体像を捉えがたい複数の事案と魔都東京の姿を、思わず読み上げたくなるようなリズミカルな語り口で鮮やかに描き出している。
謎はあってもミステリーとは言い難く、アクションはあっても冒険小説とも言い難い、不思議な味わいのある小説。
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新青年での連載版を校訂して出版、ということで作品自体は既読ですが東京創元社版も購入(ありがとうございます)。
昭和9年の帝都東京が持つエネルギー、群像劇に翻弄されながら物語の中を漂う楽しみ。良いですね。あと、講談調といいますか、作者がチラホラでてくる語り口調の物語(解説では「譚」とふれられてましたが、まさに)黒岩涙香の流れだなぁと思いました。
表紙のイラストが作品の雰囲気に合ってて凄くステキです。
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まるで知らない時代の話だけど、郷愁を感じてしまう様な、ストーリーや文体の総てが戦前の昭和そのものを冷凍保存した様な感じ。
それでいて今読んでも普通に面白いから不思議。
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探偵小説であり、幻想小説であり、怪奇小説であり、冒険小説であり…ミステリでもある。
ルポタージュ風の語り口が独特。物語と世界観の妙を引き立てている。毎度、章のはじめに前回の説明があるのだが、作者の言い訳がましい解説やら補足は微笑ましい。
不可思議な謎はどこへ行く?事件の謎は、大きな拡がりをみせて、あらゆる方向へ…畳みきれないのね。この熱量はどこへ発散しようか笑
世界にどっぷり浸かり、味わう。に尽きる作品。そこには、ミステリの概念だけでは言い尽くせない、小説の楽しみと感動が詰まっている。
文体の読みにくさもあり、とても時間がかかってしまった。それだけ長くこの世界を堪能できたことは幸せという他ない。
奇書の定義はわからない。が、ミステリ好きに勧めるべき作品ではないと思う。
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幻想的な昭和の東京の大晦日から元旦にかけての短時間に起きた出来事を多方向から。
「作者」目線で物語が進められていくのはかえって新鮮?
結局はやくざ崩れの抗争でしかなかったというのが肩透かし感なのだけど。
悪役か、という風貌の真名古が結構、人間味のある人で、重要な役どころであった加十の呆気ない死に様にちょっと残念。
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もちろん私も実際に体験したわけでがないが、昭和初期のある種退廃的でそれでいて活力に溢れた濃密な雰囲気が、講談師の小気味いい調子が聞こえてくるような独特の文体で綴られている。
肝心の筋は、登場人物が多く冗長で少しとっ散らかっている感もあり、あくまで空気を味わう類の作品か。
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初十蘭。ミステリィではなく探偵、小説。内容云々ではなく(昭和の)雰囲気を楽しむ作品のようだ —— 私はあまり楽しめなかったが… (^^;; 星二つ半。
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Dr. Strangeloveみたいなかんじ。
きな臭い雰囲気のなかの、コメディ。
作者の眞名古警視への同情と愛情が溢れてて、小説は自由なんだなあと。あと、それぞれの章の始まりの枕がいい。リズムの美しい日本語。
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津原奏水『玻璃玉の耳輪』のようなミステリ仕立ての冒険小説
のようなが逆でこちらが先だろうけれど
ミステリとしても警察ものとしても中途半端だが
昭和9年の時代ものとして充分な筆力
登場人物たちにも十二分の説得力があり良い意味で辟易させてくれる佳品
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昭和九年の大晦日から元日にかけて、帝都・東京を舞台に巻き起こる数々の事件。歌う噴水、墜死する美女、皇帝の失踪、という盛りだくさんな事件に巻き込まれる新聞記者と刑事。レトロな雰囲気が満載の冒険活劇ミステリ。
もとが連載小説だからか、気を持たせるような言い回しが多くて引っ張られます。でもあの人の末路が早々に明かされてしまったのはショック……! 頑張ってるのに、死ぬんだねえ(涙)。
眞名古のキャラがいいなあ。後になるほど人間味が深くなって、可愛くすらあるし。ラストの一文はあまりに切ない。
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昭和9年の大晦日、東京。新聞記者の古市加十は顔なじみの女に誘われたバーで安南国の皇帝と知り合う。連れられるまま皇帝の愛人・松谷鶴子の住まう有明荘を訪ねたのが運の尽き、加十は思いもよらぬ大事件に巻き込まれ、皇帝の影武者をやることに。松谷鶴子の他殺疑惑、公園の噴水の鶴が歌う珍騒動、300カラットのダイヤモンド盗難、有明荘住人たちの痴情などがもつれにもつれて絡み合い、警視庁の切れ者・真名古の捜査は難航する。東京という〈魔都〉だからこそ24時間中に起こりうる出来事をこれでもかと詰め込んだ、豪華絢爛なエンターテイメント。
十蘭は洒脱。十蘭はドライ。死体がゴロゴロ出てくるのに徹頭徹尾カラッとしている。十蘭の小説のスタイル自体が、この小説における皇帝のキャラクターのようにすっとぼけていると言えばいいのか。
講談調のリズミカルな語り口と映像喚起力の高い描写でするすると読める。誇張された登場人物たちも、十蘭の手にかかれば類型的でお人形のようであること自体が魅力になる。インヴァネスを翻しながら孤高に捜査する真名古警視と、人をカマかけるのが群を抜いてうまいダンサーの川俣踏絵が好き。会話のうまさは一級品。女同士の啖呵の切り合いは痺れるカッコよさ。
昭和初期の都市伝説などを知ることで、当時の東京の空気が知れるのも勿論楽しい。建築中のNHK東京放送会館の工事現場から江戸時代に掘られた大伏樋へ通じる暗道を見つけた加十の目に、皇帝が着ている服ボタンから落ちたカーネーションの赤が飛び込んでくるところなど、十蘭の「絵力」を感じる。かつて東京という都市がもっていた煌びやかなダンディズムと軽やかな喜劇の精神をパッケージした、説教も耽美趣味もない痛快な娯楽作。その軽さの裏には豊かさがある。
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――
いやー驚いた。
怪奇系ミステリかと思って読み始めたので、びっくり。
げにおそろしきエンタメ小説である…! ん? 誤用か? まぁいいやまさか昭和初期の探偵小説で上質な入れ替わりコメディ読まされることになるとは思いもしなかったし驚きのあまり誤用くらいすらぁな。所謂十人十色の推理合戦、がこういうふうに使われるとは。脱帽。
そしてその中に溢れる機智と諧謔と。あとはもう、なんと云ってもことばの、台詞の、筆致のセンス。そのセンスを、これでもかと緻密な文章で描き出している。絢爛、とはこういうことを云うんだろうな、という文章。だから、そんなはずはないのに読み易い。たまらん。
昭和初期の東京は三歩歩けば奇書に当たると聞いたけど、果たして。☆4待ったなし!
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この作品は、フォローしている方のレビューから、知ることができました。ありがとうございます。
一時期、「新本格もの」ばかり、読み耽っていた頃がありまして、私の中で探偵推理小説といえば、それらのようなものだとイメージしてしまう傾向があります。ただ、あまりに読み過ぎて食傷気味になって、今では海外ものや、少々毛色の違うものを読んだりしています。
いくつか挙げると、島田荘司なら、「御手洗潔シリーズ(ある意味、すごいのは石岡君だと思うが)」、綾辻行人なら、「館シリーズの鹿谷門実」、有栖川有栖なら「火村英生の国名シリーズ」、他にも、二階堂黎人、麻耶雄嵩、等々、細かい差異はあるにしても、個性あふれる探偵がいて、事件に臨み、数々のトリックを見抜き、犯人と対峙して、何かしらの形を残すというスタイルに、安心感のようなものを感じていました。もちろん、どんでん返しも含めて。
そして、戦前の日本ミステリの三代奇書。
小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」は、昔、読んだが、難しく感じて、途中で挫折。
夢野久作の「ドグラ・マグラ」は、現実世界に帰れるか不安なので未読。
中井英夫の「虚無への供物」は、登場人物たちの推理合戦が面白かった記憶がある。
一応、上記の三つだと、私は思っていたのですが、中井英夫は戦後の作品なので、代わりに、挙げられるのが、今回の作品、久生十蘭の「魔都」とのこと。
随分、前置きが長くなりましたが、要するに、読み始めて、この作品も今まで読んできたような探偵小説だと思ったのですよ、途中までは。
レトロな文体や表現は、最初こそ読み辛かったが、次第に味があるように感じられ、連載当時の作品なので、毎回毎回、前回のあらすじが若干くどいのもご愛嬌。探偵役の「眞名古明」の陰気な雰囲気とは裏腹に、不正に対しては誰よりも厳しい冷徹さと、しつこさを見せる性格と、確かな知識に基づいて手がかりを見つけていく有能さは、魅力十分。更にもう一人、夕陽新聞記者の「古市加十」の冒険にも目が離せない、のだが。
解説を読んでいくと、ああ、とは思った。そうだよね、と。探偵小説というよりは物語を堪能するものなのかもしれない。しかし、裏切られたというよりは、何が起こったの? といった、どうしていいかわからない空虚な感じと、それでも探偵小説としても成り立つという、意地にも近い、私の思いと。
そういえば、序盤のページで作者自ら予告していたのを思い出したけど、それがまさか・・途中までは寧ろ、滑稽ささえ思わせる展開だったのに、終盤でいきなり凄惨な感じになったり、主要人物の末路があんなことになるとは・・ここまで書いて、やっと昭和十年の東京を「魔都」としている意味を実感した。どこで何が起こっているのか、殆どの人が知らないことの恐怖を。探偵ものや物語としては、どうかと思う方もいるかもしれませんが、ある意味、驚異、凄さを感じました。しばらく銀座はトラウマになりそう。
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1937(昭和12)年—1938(昭和13)年の作。
久生十蘭の比較的初期の頃の、長編小説である。殺人事件の謎を追いかける点でミステリと言えるが、いわゆる本格推理小説の類とは全く違う。
何しろ、一作ごとに文体も手法もがらっと変えてしまう十蘭は、ピカソもストラヴィンスキーも目じゃないほどの「カメレオン」作家だ。本作では江戸の落語家のような、諧謔を交えた非常に闊達な口調で地の文が語られ、エンタメ小説としてぴちぴちとした生きの良い全体を形作っている。短時間の内に目まぐるしく事件は発展し、二転三転四転五転とどんでん返しが畳みかけられる。ドタバタコメディのようで、ふつうに面白いエンタメ小説だ。さすが十蘭という感じがする。行き当たりばったりに展開しているようにも見えるが、実はかなり緻密な計算に沿って書いているのではないかと思う。
本作で描き出される大きなゲシュタルトでは、東京という「魔都」においては平凡でちっぽけな一人の「死」の原因を追いかけていくと、それが実は国際上の大問題に関係していたり、思いがけない「裏側の作用」が明らかになっていく。些事と思われたものが全世界に作用していく巨大な作用因でありうるというこの知見は、現在における、経済のグローバル化や移動・情報交換の速度の圧倒的進化、あらゆるものが複雑に絡み合うこの見通しのきかない社会全体の複雑性そのものと、合致しているように思える。そう思ってみると、当時(戦争の機運がいよいよ高まっていた)の東京という都市をテーマとした本作の内容も、今日的になかなか興味深いものである。