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これは惨劇を乗り越えた彼らの後日譚である。青鬼との関わりが無くなった世界を生きるシュン達。噛み締めるように、青春を謳歌していた。不穏な陰など欠片も感じられない 幸せを喜ぶシュンであったが、その心にはいつも一抹の不安が居座っていた。
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こちらはすべての惨劇を乗り越え、最後の絶望的な局面をもひっくり返して見せたシュンたちの後日譚。それぞれのキャラクターにまんべんなく焦点が当てられた短編が6話収録されている。学校を舞台にしたミステリー話が1本、登場人物たちの恋愛模様を書き上げた話が2本、不穏な気配をまとった話が2本、そして、全作で見事な頭脳プレーをして見せたひろしの日常や家庭状況など、かなり彼の内情に踏み込んだ話が1本という構成だった。この中でのお気に入りは、ひろしの事を深く掘り下げている話。そういえば、小説内ではひろしの活躍や、ひろし自身の変化については触れられていたが、他のキャラクターに比べて、彼自身がどういう日常を送っているのかということや、家族についてはほとんど触れられていなかったなぁと思いながら読んでいた。
自分の中では勝手な想像で、割と恵まれた感じの家庭だと思っていたのだが、思ってたより両親に恵まれていない。作中でひろしが事あるごとに、人間には興味がない、人間という生き物のは不可解と漏らしていたがこの両親なら納得。なんかこう、父親も母親も損得勘定だけで動きそうだな……。ひろし自身も両親の事をよく思っていないようで、家族間のコミュニケーションも乏しそう。両親はひろしをかわいげのない変な子だと思っていそうだが、どう考えても両親のせいだろう。ひろしが一番好きなキャラなだけ腹が立つったらありゃしないぜ!
ひろしが、学校生活の中でシュンを通して卓郎たちと仲良くなれてよかった……。 まあ、私個人の感情はともかくとして、そんなひろしが学校の裏にある小高い丘で奇妙な生物を拾ったことから物語が大きく動き始める。詳しい描写は抑えるが、平和な日常に不穏な影が差し込みそうな生物だ。再び絶望が始まるのか?とドキドキしながら読んでいたが、どうやら善良な個体のようだ。ひろしのいうことをよく聞き、シュンにはグーという名前まで付けてもらって、なんだか共存できそうな雰囲気。ひろしも生態をよく理解し、非常にいとおしく思っていた。家の中での心のよりどころができてよかったなぁと思いながら読んでいたが、やはり生態が生態なだけにどうやらそうもいかなかった。最後がどうなったかはぜひ読んでほしいのだが、ただひたすらに悲しいの一言。ひろしがグーを思う気持ちも、グーがひろしを思う気持ちも本物で、互いに通い合っていたからこそ切なくて、悲しくて読んでいるだけでぎゅうぎゅうと胸が締め付けられた。ひろしが当初に比べて随分他人との関わりに興味を示し機微を理解しているのは事実だが、どこかまだ一線を引いているような感じがしていた。
あと一押し何かがあればなーと思っていたのだが、この出来事がその最後の一押しになったような気がする。この度は自分のお気に入りの話のみの感想を述べたが、そのほかの話も非常に面白かった。特に一番最後に乗���ていた、青鬼シリーズのエピローグの位置づけである話は、面白かった。この話が正真正銘のエピローグなのでこの後に物語はないが、一度とらわれた運命から逃れるのは簡単な事ではなさそう……。