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ずっと前に書店で『素粒子』というタイトルの文庫本を見つけ、物理学系の読み物かと思ったら小説らしかった。変わった題のを書く作家だなと思い、その後もあちこちでウエルベックの名を見かけたが、ついぞ読まずに過ごしてきた。
やっと初めて読んだのがこの本。
現在のフランスの大統領選で、極右政党とイスラム教系の政党がぶつかることになり、フランス国民がイスラム教の方を選択することとなって、結果、女性のスカートがなくなったり、一夫多妻が一般的になったり、大学等の教員はイスラム教徒でなければならなくなる、という話。
いま世界中で「あまり頭の良くない極右」が台頭しているので、それを受け入れない場合の選択肢は何が残るのか?という問題を提起している。
実在の現役政治家等の名前が多数出てきており、これがベストセラーになったのだから、かなりリアルな小説なのではないか。
イスラム教は、我々日本人にとってほぼ完全に未知の世界であるが、それよりは長い付き合いの筈の西欧人にとっても「異質な他者」であるようだ。
イスラム教とは何か? ここではルディジェという登場人物が開陳する物語として示されているのみだ。素晴らしい文明ではあったが、結局は敗北した西欧というイメージ。
とりあえず、小説として面白い作品だった。出てくるフランスの政治家の名前にまったく馴染みが無いとしても。
ほかにはどんなものを書いているのか。ミシェル・ウエルベックの小説をまた読んでみたい。
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よみまぴた。なかなかダウナー…主人公が女性にたいして言及してるところにちょっとピリッと思うところが多かった、でもウエルベックって「非モテ男子」にすごく人気があるみたいで、ああなんだかんだ知識や教養があってもこういう風に女性を見ている人が多いんだなとゲンナリした。
その点ではクンデラと比べてみたら面白いかもと思った。クンデラといえば小説の中でだいたいモテる男子だし、女性をより深く理解しているように(わたしには)感じられる。愛がとか恋がとか、そういう話も多いし。
村上春樹はちょっとウエルベックとクンデラの間のような、でもどっちかというと私は村上春樹には女性の描写にあまり嫌な思いをしたことがない。
フランスがイスラム政権になってしまう、というのは突拍子もないように思えて案外あり得たり、いや有り得ないな…とかいろいろ考えるのが楽しかった。でも小説の中でもっと広がりがあって欲しかった気がする、なんせ主人公がダウナーで孤独であまり色んなことに興味がないから、世間の動きと切り離されていた。
ウエルベック…他のも読んでみたい、けどやっぱり私にとっては時間の洗練を受けたもの&日本以外の国で書かれたもの、つまりある程度今の自分と距離がおけるものを読む方が息が詰まらなくてのびのびと読めるな〜って改めて思いました。
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タイトルから想像されるプロット(暴力的な場面も多いのでは?など)とはまったく違う、どちらかといえば知的な会話や主人公の内省によって展開に、やや意外な印象を受けた。読後、すべては「ぼくは何も後悔しないだろう」というラストに向かっての布石だったと知るのは、ある意味で衝撃的でさえある。
主人公の知人の乗車がルノー・トゥインゴと記されていたが、そんな身近なもの(他には、料理、酒、スーパーマーケットなど)によって、一気にストーリーが現実味を帯びてくるということにも気付かされた。
まるで村上春樹の小説を思わせるかのような訳文も秀逸。
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おもしろいし興味深い設定なんだけど、一夫多妻制で釣ってるのか?おっさんの(ための)話か?ラストは、はあ?と思った。ずっとおもしろく読んでたのに。
この設定で、他視点での話を読みたいなあ。
と思ってたら「イスラーム・ジェンダー学」っていうのがあった。ネットでちょっと見てみたけど字がびっしりで読みにくい。段落分けするとかしてほしい。
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2020河出文庫フェア対象本。2022年の仏大統領選挙でイスラーム系政党の代表が大統領となり国内が変化して行く様を、主人公のパリ大学の教員から見た物語。この主人公の線の細さに少し居心地の悪さを覚えながら読み進めたのだが、徹底して彼は孤独であり、家族はバラバラで、ユダヤ人の恋人はイスラエルに去って行く(このユダヤ系仏人のイスラエル移住は実際に2010年代以降増えている)。これは新大統領が「家族」を大切な価値観としていることととても対照的な姿で描かれる。最後には孤独な主人公の友であり研究対象でもあったユイマンスとの決別が訪れる。しかし最後まで彼は、他人の意見を傾聴しつつ決断ははっきりとした意思表明といった感じでなく、流されるように従っている。この、知らず知らずに物事が進んでいくような流れの居心地の悪さは、作者の将来への不安を表しているのだろうか。
もう一つ読みながら不思議だったのは、こうしたイスラーム系国家元首が欧州の真ん中に誕生し、国家がイスラーム化して行くのなら、周辺の欧州教国からの反発があるだろうに、そういった国際世論は全く描かれない。逆にトルコやモロッコ、地中海周辺のイスラム国との交渉と同盟の進展は描かれる。最後に、欧州で仏に続きイスラム系の代表が選ばれる国が出てくることがさらっと描かれる。
2024年、仏は五輪・パラリンピックの開催国である。その時仏はどんな政治体制になっているのだろうか。
メモ:読了日:ヒジュラ暦1442年ムハッラム(第1月)2日
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ミシェルウェルベック 「服従」
面白くはないが、考えさせる小説だった。服従により得られる幸福は是か否か という目線で読んだ
主題は 主人公やフランスのイスラームへの改宗。イスラーム=人間が神へ服従することにより幸福が得られるという位置づけ。主人公は人間中心主義、自由主義、知的で フランスそのもの
服従により得られる幸福を是とする立場で読むと、従前の人間中心主義下のフランスや主人公の弱化、孤立、格差を イスラームが救い、新しい道へ向かったとなり
服従により得られる幸福を否とする立場で読むと、人間が神に服従することは、人間を否定し 人間を諦めることになり、自由主義に反することになる
著者の判断は提示されていないと思うが「希望がなくなったとき、人々に残されているのは読書である」というメッセージは残している。
重いテーマのわりに 性描写が多いが、これも服従による幸福の一つと捉えているのか?
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かなり考えされられる内容だったが、全体的に女性への無理解がキツすぎた。女性を同じ人間として見ていないし(エキゾチックとか言っとけば許されると思っているのか)、自分の姿勢を客観視しようとする素振りも見えない。例えば、同僚の女性のマリー=フランソワーズの夫妻に親切に家と別荘に招かれてディナーをご馳走になっておきながら、イスラム優位の社会では彼女のキャリアが全く断絶してしまうだろうということに一言の言及もない。そりゃ自由恋愛で結婚できるわけないわこいつ……と思いながら我慢して読んでいた。
そういう自省のない傲慢な知識階層へ、イスラームが都合の良い面を押し出してアプローチしてきて、なし崩しに受け入れていくという粗筋が、今のヨーロッパのイスラムへの恐れの心理を皮肉に暴き立てるためのレトリックなのか、それとも単に著者の人間性なのか。ウェルベックをこれしか読んでいないので分からないが。
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なんと文庫化していたので美容院の暇つぶしのために買って一気読み。フランスがイスラム政権の党に取られて徐々にイスラムに傾き、、、とのあらすじ、ふとした出来事をきっかけにじわじわと世界が変わっていく様、2021年に読むとなんとまぁ皮肉に思える。
スジとは別に本の全体に流れる強烈な差別意識というか、まぁはっきり言って相当きついセクシズム描写はまさかウェルベック本人無意識に書いてるわけでなく、この本の筋を浮き立たせるために意識的に使っているのだろう。というかそう思いたい。
それ以外にも、本から距離を取って読める人でないと危険な本になってしまう。それだけの求心力というかカリスマを発する本で、ウェルベックすげーなー
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西洋のヒューマニズムの終焉はイスラム文化と結びついてしまうのか。もはや人間自らが地球を切り開いていく力は残っているのだろうか。コミュニティが瓦解して、指針がなくなった人類はそれと相性の良いイスラム教を利用して、受動的に生きる術に縋ってしまう可能性は多いにおるのではないか、
教授の知的水準は高いのにも関わらず、彼は一人では満たされることができず、女や名誉、お金、食事など世俗的なものを持ちいることでしか幸せは掴めないのである。これが人間の性なのであろうか。彼にとって、国の情勢はどうなろうと構わないのである。イスラム系が政権を取ろうと、極右がとろうと彼の行動自体は変わらないのだ。
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全体的に大きな爆発的なエピソードはなく、ゆっくりと食べ物が腐っていく様を見ているような話だった。
序盤は社会情勢についてどこか他人事で非常に呑気な振る舞いをしているがだんだん自身の生活が変容していき、なすがままに飲み込まれていく様子が異様にリアルだった。
主人公が人生を通しての研究対象としたユイスマンスと彼自身の人生との相似形な構造が生きる事の奇妙さを際立たせるように感じ、惹きつけるものがあったし、宗教の力に国が飲み込まれていく様が流麗で恐ろしさを感じた。
人は抗うよりも順応していった方が生きるのが楽だもんなぁ。それがヨーロッパでいち早く市民革命を起こしたフランスであったとしても。
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2022年のフランス大統領選は、極右政党・国民戦線とイスラーム同胞党モアメド・ベン・アッベスの決戦投票となり、結果、イスラーム政権が発足する。パリ第三大学で教職につくユイスマンス研究者の「ぼく」は、イスラム教徒でないことから、教職を追われるものの、改宗を決断し、再び大学教員となるところで物語は終わる。
語り手の「ぼく」は、博士号を取ったのち、15年大学で教鞭をとってきた。しかし、社会に対して関心がなく、距離をとって生きてきたために、「社会にでなければならないだろう」と考えると、「ちっとも心楽しむことがない」男である。
1年に一人のペースで教え子の女子学生と付き合うものの、「新しい人と出会った」と言われて別れることになる。教職を追われても、定年並みの年金を提示されると黙って受け入れる。新学長にイスラム教への改宗を勧められると、気にするのは一夫多妻制と、妻の選ばれ方であり、最終的には、あっさりと改宗する。彼の生き方は、まさにタイトルの通りの状況への「服従」であるように見える。
歴史的な政治の大変動によって、死人が出るほどのテロまで起きているフランスにあって、その政治的なテーマとは裏腹に、若者的な自意識の中で悩む語り手が目についてしまうかどうかで、好き嫌いが分かれるように感じた。
自分は、苦手な作品であった。
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イスラム化していくフランスを強固な政治的リアリズムで描くという実験的な試みが小説の主軸にはあるが、見落としてはいけないのがユイスマンスの存在。享楽に埋没していた中年男性が精神的にも身体的にも危機に襲われる。
結末にやってくるのが、まさに主人公にとっての救い。
これはまさにユイスマンスの人生そのものとも共鳴してる。
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西欧文明の行き詰まりからありうる近未来を描くということなのかな。一つの極端な基本的にはなさそうな可能性っていうことなのかもしれないけど、全体的なインテリ限定の世界にいまひとつ入り込めない印象。佐藤優の解説が余計に胡散臭さを感じさせる。この人の作品は初めて読んだけど女性の書き方はなんか酷い。この作品だけ?
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「人間の絶対的な幸福は服従にある」。
2022年のフランス大統領選で、ファシスト党とイスラーム党が決選投票に残り、イスラーム政権が誕生するお話でした。
楽しいの意味はなく、面白かった。
知識や教養は、超越神の前では脆い。インテリほど迎合も早いというのは驚きです、フランスはレジスタンスの国だと思ってたけどインテリはこうなのかな?
この主人公は、再び大学で教鞭を執って生活していくためにイスラームに改宗するというより、何人も妻が欲しい…の方が強そうなのにもやもやするところがありました。もともとノンポリなのも珍しいかも。
外堀から埋められるみたいなところに寒気がしました。その方向からか、と。
実際にこれが起こるかと言われれば8割方無かろうとは思います。でももしも…となれば、このお話の流れは自然に感じられました。
一神教の国でこうなんだから、多神教だともっと容易そう。だけど、男性観で拒否しそう。。
2024年に読んでいるので、解説にあるイスラエル人のご友人の「ハマスの主敵はイスラエル」がつくづくわかります。イスラーム国とハマスがガザ地区で内ゲバやってたのは存じなかったけれど…どちらもスンニ派なんだな。
世界的に世論はパレスチナ支持に傾いてる。イスラーム支持でなく、イスラエルがやり過ぎという方向で。
でももしもイスラエル側が「敗戦国」とされても、それがそのままイスラーム支持という意味にはならない気はします。見方が甘いかなぁ。
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宗教の話なので難しそうだなぁと敬遠していたが読んでビックリ!スーパー面白かった。今まで読んできたウエルベック作品の中でもストレートでシンプル。複雑さが控えめで読みやすい。主人公一人にしか焦点が当たらず分量も少なめなのもあるが。オチへ行き着く云々よりも、主人公が孤独に生きている些末な日常のディテールがツボだった。徹底的に孤独で、やる気もなく、生活に不自由もなく、社会的地位もあり、中の上な生活水準だからこそ希死念慮が襲うと言う部分が。