紙の本
人間関係を想像するのが面白い
2003/05/12 20:02
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:沢居すだち - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルや主人公の名前から、実在の賢治をベースにしていると思いがちな作品です。
しかし、これは全く違った意図で書かれていて、賢治も銀河鉄道も『実際に沿った』ものではありません。
この話で長野さんが必要としたのは、幻想列車に乗り合わせた人間が、崩壊していった一族の魂魄たちに遭遇するという構図そのものです。
幻想列車の発案者になる賢治は、その格好の媒体だったわけで、彼という存在を必要とされてはいるけれども、彼自身の歴史は全く必要とされていないのです。
賢治が「賢治」である意義や効果は、物語の全体にわたってきちんと表れていますが、長野さんはそこにもう一つの完全なる「お話」を巧妙に組み込んでいます。
複雑だが、さりげないその構成は実にお見事としか言いようがありません。
この「お話」は、それだけを抜き出してもれっきとした長野作品の一つになる格があります。しかし、この一見独立した「お話」は、幻想列車にたまたま乗り合わせた賢治という「単なる第三者」無しでは、決して成立することは出来ないのです。
歴史上の賢治を好きで期待したファンからは、もしかしたら怒りを買ってしまうかもしれない作品なのではないか、とは思います。
個人的には、「フィクションでこんなことが出来るのか!」と感心させられました。面白く読めた作品です。
読んでいて気付いたのは、この話に出てくる人物一人一人のインパクトの弱さです。実際、この話の少年たちに入れ込んでるファンはあまりいないのではないでしょうか?
その原因は、登場人物が多すぎるということもありますが、客観性が限りなく低いことにあると思います。
なぜなら、この作品の大まかな流れを作っているのは、全て一人称の会話文だからです。
賢治の視点に戻る地の文では、詳しく描写されている人物はいくらもありません。誰がストーリーの中心になるべきなのかもぼかされています。
とりとめのない暴露話では、物悲しさと狂気に満ちた一族の末路が明かされますが、本来人物の気性や人柄をうかがわせるべき描写や口調は、一人称である語り手の主観や偏見によって限定されてしまっています。独白は、粗筋をたどる事に始終してるために、語り手自身の性格も省かれています。
少年の魅力を最大限に引き出した物語で独自のスタイルを成立させてきた長野さんにしては、かなりストーリー色の強い、個性的な作品になってると思います。
と言って、ほかの作品が没個性だというわけではありませんが、キャラクターよりもストーリーのほうで引き込まれる作品であることには間違いありません。
紙の本
複雑だが面白い。
2001/10/27 05:11
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゆうり - この投稿者のレビュー一覧を見る
宮澤賢治を主人公のモデルにしたというより、人物像を拝借して書いたものだろう。物語自体は、登場人物が非常に多く、一度読んだだけではとても理解できないが、きちんと読みこめばある程度は理解できるはずだ。それでも矛盾点が残る箇所はあるのだが。複雑な人間関係で、誰が誰とどういう関係にあるのかを把握するのに疲れるが、逆にそれが分かれば面白い気もする。
投稿元:
レビューを見る
銀河鉄道好きにはグっとくるんじゃないかと。不思議な感じで、でも甘いファンタジーじゃなくてダークメルヒェンのような。
投稿元:
レビューを見る
賢治と、乗り合わせた不思議な乗客たち。
冷たくて妖艶
過去なのか現在なのか
様々な想いや記憶が錯乱して無数に絡み合う
投稿元:
レビューを見る
3月、学校の図書館。
長野まゆみは前々から気になっていたけど、「少年アリス」とか「天体議会」とかをはじめに借りたらよかったかな。これマイナー?でも艶があっておもしろかったです。宮沢賢治へのオマージュ?
投稿元:
レビューを見る
高校のときに一度読んではいるのだけど・・・。
大学に入って、宮沢賢治の経歴から学び直し、そしてこの夏に岩手旅行に行って色々資料を見てきたからこそ以前より楽しめたのだと思う。
実際、前回読んだとき内容なんてこれっぽちも覚えていない。
やはり長野作品の少年は、どうしてあんな不幸なのだろう。
とてもきれいな顔立ちの少年がいて、子の子が歳を取るところなんて想像つかない、だからきっと夭折するだろう、というような描写があって、まるで植物だなぁーと思った。すぐかれるのが分かっているからこそ、死が近いのが分かっているからこそ、素晴らしい美しさを与えられる。しかし、その美しさもまた人並みはずれすぎていて、やはり死の影をまといつかせる。
前回に引き続き、結構深い意味で作品を捉えられたような気がする。
どうして彼らを死なせるのか?
彼らの不安定さとは―?
投稿元:
レビューを見る
宮沢賢治が汽車の中、自分の作品の登場人物たちに出会い、自分の中の汽車に乗り続ける理由を心の奥底を浮かび上がらせていく。
そのあとにもう一つ入ったお話は前半より幻想の度合いが下がり、落ち着いたお話。
後半を読んだ後に、また前半を読むとまた違う一面が見えそう。人間関係図を書きながら。
投稿元:
レビューを見る
内容(「MARC」データベースより)
妹としの魂を求め花巻駅を旅立った賢治。
車中、賢治に語りかけられるメッセージは何か?
列車はどこへ向かうのか?
賢治と妹の魂と兄妹の因果を、
銀河鉄道に同乗した一人の少年にチャネリングした、
長野まゆみの異色最高作。
*☆*――*☆*――*☆*
投稿元:
レビューを見る
10年前からお気に入りの本。
この度Bookoffで美品を購入したので、改めて読み返しました。
長野女史独特の美しい云い回しとか、美少年とか、老舗の名家にまつわる因縁深き家系図とか、大好きな要素満載の本作ですが、今回読み返して知ったのは、物語の空気に何よりも惹かれているってこと。
吹雪の中をえんえんと走り続ける夜汽車や、東北の凍てついた空気、いとしい人を求めて彷徨う魂など、どこか孤独を感じさせる雰囲気に魅了されているのかもしれません。
いま読み返してみて分かったことも多く、いろいろとすっきりする部分もありました。
長野作品で一番好きな物語です。
投稿元:
レビューを見る
難しかったです。人間関係の相関図を書きながらではないと、私みたいなのは物語りについて行けません。
なにより物語り序盤からの性行表現に本を投げたくなりました。
宮沢賢治のオマージュ作品だと思っていたので、ここでもBLは譲れないのか! と。それさえなければ★はもう一つプラスできました。やっぱりBLは苦手です。
各章の最初に出てくる老舗名家の話と賢治の話が混じりながら進むため訳が分からなくなりました。ここで挫折し、半年近く積読状態。そこから読み始めたのでもうさっぱり。
読み直すほどの気力が沸かないため、当分は訳の分からない作品として本棚にしまわれ続けるんだろうなあ……。
投稿元:
レビューを見る
宮沢賢治が辿った銀河鉄道の旅と、上京先で巡り合った人々を描いたファンタジー。
本当の宮沢賢治が東京で如何様な出会いをしたのか定かではないが、彼の視線から人々の数奇な生き様を見ることは、なかなか愉快であった。
投稿元:
レビューを見る
「銀河の通信所」途中で挫折してしまい…泣
長らく積ん読になってたこちらを読みましたが。
こういうのでいいんだよ…
いつものややこしい人間関係、嘘とほんとうとが混ざり合ったり記憶が曖昧だったり…
こういうのがいいんだよ…
こまかいことは気にせず文体を楽しむのがいいのかな、と思う。
ただ、語り手が賢治である意味がいまいち分からない。銀河鉄道とか苹果とかのモチーフをつかいたかったのかなあ、というくらい。
投稿元:
レビューを見る
やはり私は”陰”の長野まゆみワールドが好きだ…。
いや、どれも暗ぼったいだろと思われるかもしれんが、人間の心の隠していた部分とか、密かに抱き続けていた思いというか…そういうものが前面に出ている感じ…。
長野作品って薄暗くても、性も欲も開けっ広げ。
耽美さは控えめに、しかして近親相姦に少年愛、生者と死者っていう長野まゆみモティーフはいつものことなんだけども、宮沢賢治とトシを土台に据えるならどうしたって逃れらないテーマだしなあ…ていうか長野まゆみはマジでこのテーマ込みで宮沢賢治好きなんだろうなあ…。
「八月六日上々天氣」が個人的にはずっと長野まゆみベストなんですけど、これはそれに匹敵するくらい各登場人物の”陰”の愛情が真っ直ぐに突き刺さった…。
激ヤバ愛憎は通常運転だけど、表現が真に迫ってきていたと思う…。
泣くことも許されないような情愛を書く説得力が、”陰”の長野まゆみにはある。