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タイトルにあるように、太平洋戦争に突入するまでの重要な交渉事にスポットを当てて、歴史を紐解いています。①リットン調査団の報告から始まる国際連盟脱退について②日独伊三国同盟について③ハル・野村交渉に始まる日米交渉と、三つの交渉を挙げています。「~これら三つに共通しているのは、これらの案件が日本の近代史上において歴史の転換点だっただけでなく、日本と世界が火花を散らすように議論を戦わせ、日本が世界と対峙した問題だった~」(94頁)
東大教授である著者が、高校生相手に(一部中学生もいますが)6回連続の特別講義をしたものをベースに本書は書かれています。その為わかりやすく書かれてはいますが、中身は非常に濃いものになっています。
● リットン調査団の章-「満州事変は日本が100%悪くて、弁解の余地はない」という内容の報告書にはなっていないことに驚きました。寧ろ日本が報告書の内容を受け入れやすいよう配慮されている部分が多くみられました。
●日独伊三国同盟の章―軍事同盟なのでもっと協力的なものをイメージしていましたが、ヨーロッパで第二次世界大戦が始まり、ドイツが破竹の勢いで戦果を挙げている中、日本はドイツがそのまま勝利を収めると想定していました。日本が軍事同盟を結んだ一番の目的は、旧ドイツ領委任統治領の諸島を手に入れたかった点です。
● 日米交渉の章―日米が水面下で最後の最後まで戦争回避に向けた交渉をしていたことに驚きました。しかし、両国内での政治事情も絡まり最終的には真珠湾攻撃となりました。「『駐米日本大使館員の勤務怠慢による対米通告の遅れ』という神話」(410頁)は新鮮でした。また、付随して述べられている陸軍の横暴の一例には驚きです。また、真珠湾攻撃も事前に暗号解読が行われ、わざと攻撃させて開戦のきっかけを与えたという説も根強いですが、実際は嘘です。アメリカ国防総省が、何故真珠湾攻撃を防げなかったのか戦後も研究を続けています。
膨大な歴史資料を丹念に調べられて、そこから浮かび上がってきた史実を提示してくれています。歴史の専門家の仕事とはこういうものだと教えられました。その史実は他の史実とも連携して、点が線になり、線が面となって、最後には立体的な物語となっているようです。しかもそれは史実をベースにした物語ですがノンフィクションです。小説を読んだときに味わう感動に近いものがありました。「事実は小説よりも奇なり」です。
前作の「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」(加藤陽子著/朝日新聞社)も併せて読んでください。
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大日本帝国はなぜ国際連盟脱退とか、三国同盟とか、対米開戦とか、今からすると一寸先も見えない阿呆な選択をしてきたのかという疑問に対して、史料に丁寧にあたることで「答えよう」というより「考えていこう」という試みである。ただ一つの答えが書いてあるというタイプの本ではない。ゆたかな枝葉がある、得がたい一冊と言えるだろう。
4章で、ゾルゲのスパイグループの一員として活動したというジャーナリスト・尾崎秀美の言を引いているところが興味深い。
〈日本国内の庶民的意向は、支配層の苦悩とほとんど無関係に反英米的なことである。[中略][それもそもそも]満州事変以来十年、民衆はこの方向のみ歩むことを、指導者階級によって教えられ続けてきたのであって[不思議ではない]、屈服は、敗戦ののち、初めて可能である。たとえ支配層が、その経済的窮地のうちに、いち早く屈服の合理性を見いだしたとするも、大衆にとっては、いまだ思いもよらざることである。〉
日本国民は、満州事変の真実を知らされていなかった。反英米となっている国民は、急に仲良くしようといっても納得しなかっただろうと。実際に、国粋主義運動団体が活発に活動し、世論を対米交渉妥結から遠ざけていった。言論統制というものは、じわじわと国を破滅の方向に向かわせるということが、よくわかる。
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「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」に続く、最新の研究に基づく現代史講義。
前作と同じく、主に高校生を対象としているので、たいへんわかりやすい。
かといって、レベルを落としているわけではないので、読み飛ばしていてはすぐついていけなくなる。
前作に比べると説明が丁寧すぎてスピード感がなく、読み終わるのにちょっと苦労した。
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国際連盟脱退、日独伊三国同盟、日米交渉と3つの選択を謝った日本が第二次大戦の敗北という憂き目に遭うまでの歴史を丹念におった良書。決して日本は米国に嵌められたから戦争を行った訳でなく、自身の選択ミスもあった訳だ。
しかし、民衆に真実が伝わっていなかったから、選択を誤ったという説もあるが、民衆に質実を伝えるのは難しいのと違いますか?
佐藤優の『国家の罠』でも、「この国=日本の識字率は5%以下だからね。新聞に一片の真実が出ているもそれを読むのは5%。残り95%の世論はワイドショーと週刊誌によって形成されるのだ」とあったではないか、逆に言うと真実は民衆に分かり難いようにし、マスコミを使い世論誘導していかないと政治が成り立たないとも言えるのでは?
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中高校生向けの講演を整理した本で分かりやすい。気付かない歴史の裏側を、資料に基づいて新しい視線で示してくれる。よい本だが、図書館から借りて(第2章の満州事変まで)返却日が来てしまった。また読みたい。
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●→本文引用
●次に、日本と戦っていた中国が、三国同盟をどう見ていたかをお話ししましょう。(略)1940年8月4日の蒋介石日記を読んでみましょう。(略)日本が南下したい、石油を取りたいと思っているときに乗じて、中国に有利な条件を日本が出すなら、それで講和するのは悪くない、と述べています。(略)これは当時、部内で「桐工作」と呼ばれた和平工作の一つです。講和案のの内容が蒋介石まで届けられていましたし、昭和天皇もその成否を非常に気にかけていました。(略)蒋介石のもとで作戦を指揮していた軍令部長の徐永昌が、9月29日に蒋介石にこう提言していました。(略)日本軍と中国国民党軍双方が死力を尽くして戦えば、漁夫の利をしめるのは共産党だ、こういって蒋に停戦を薦めます。
●確かに日本軍が、中国軍を戦闘という面で圧倒していたのは事実です。1944年、戦争が終わりに近づく頃、日本軍の兵隊は、中国大陸の海岸線を千キロ以上も行軍して、アメリカ軍が使いそうな中国側の飛行場をすべて潰してまわります。これを大陸打通作戦というのですが、この作戦によって、中国側が蒙った地域社会の変化や国家の仕組みの変化が、非常に大きかったということが最近の研究でわかっています。端的に言えば、蒋介石の国民政府軍が、この日本軍の作戦によって疲弊させられ、戦後の共産軍との内戦において不利になったということです。
●総体として見ると、アメリカは1941年4月段階にも、資源を共有しませんか、船舶を貸与してくれませんか、資金援助してあげますよ、と日本に呼び掛けていた。一緒に共産主義に対抗していきませんか、中国との戦争をやめませんかといって、「世界の道」を、日米諒解案として示していました。
→後付けの知恵を承知で言えば、結局のところ、日本は大局、日中戦、欧州の第二次世界大戦後の世界情勢、自由主義対共産主義を見据えていなかったのだろう。「ラストバタリオン-蒋介石と日本軍人たち」でも指摘されていたが、日中戦争を対共産主義で国民党政府と停戦していれば、アメリカと戦うことも無かっただろう。
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かつて日本は世界からどちらを選ぶかと三度問われた。そして愚者の道へ道へとそれていってしまった。それはなぜか?その背景などがわかる。とても面白い日本の近現代史であった。
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前作「それでも日本人は戦争を選んだ」に感銘を受けて読んだ。
真珠湾の「ローズベルト陰謀論」の全面否定は、意外だったが、説得力のある内容だったので、自分の認識を改めた。
教育の影響は勿論甚大なのだろうが、泥沼の日中戦や勝てる見込みの無い日米戦に民意諸共嵌り込んだ根本原因は、「10万人の英霊と20億円の戦費を投入した日露戦の成果を手放したく無い」という、既得権への執着に行き着くのだろうなと感じた。(行動経済学的視点から)
そうであれば、こうしたベストでない選択をするリスクは、日本人固有のものというより、人間のDNAレベルのものだろうから、余程意識的でないと、再現するリスクがありそうだ。
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戦争における分岐点となった3つの出来事(リットン報告書、三国軍事同盟、日米交渉)を、中高生とのやり取りをしながらみんなで考えていくといったスタイルの一冊。
ページ数は決して少なくないが、著者のわかりやすい語り口や所々にある写真や図表などで理解が助けられる。戦争関連本にしてはかなりわかりやすい部類に入ると思う。
戦後も70年以上を経過しているが、当時の出来事が必ずしも正確な形で後世の記憶や「歴史」に残されているとは限らない。実は日米も歩み寄ろうとしていたし、日本の中にも冷静な人はいたし、陸海のパワーバランス(見栄みたいなものも?)もあった。なんとなく「こうだろう」と思っていることが、実はちょっと違ったりもする。今回採り上げた3つの出来事は、そういう側面を持っている。
戦争は大きな一つのうねりではなく、様々な様子が少しずつ影響しあって、いわばピタゴラスイッチみたいに最後に戦争になったと分かる。ただ、それをどうやって今後の時代に防いでいくのか。戦争の内実がわかってくればくるほど、それを防ぐ難しさも分かる。でも、それは現代人が不可避的に立ち向かわなければいけないことだから、やはりこういった本はちゃんと読んでおくべきなんだろうな、と思った。
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一級資料に当たるという事はとても大切なことだと思うのだが、それでも真実への道はまだまだほど遠い気がする。
大学教授だから話の内容が正確だというわけではない。あくまでもその文献等に長く身を置いているという事だけが判断する一つの有効な事柄だという事も認識しておかなければならない。
だからこそ、読み手が一人一人考えることが大切であり、たとえ、考えた道筋が間違えていたとしても、それが一つの経験になり、次への糧とつながれば良い。
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国際連盟脱退、三国同盟及び対米開戦という3つの意思決定の背景や経過についての講演と問答。史料の精査を通じ、義務教育で習った歴史とは異なる姿の歴史が現れる(リットン報告書の宥和的側面、大戦後のドイツ牽制という三国同盟の真意、為政者の判断を制約する運動等)。
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リットン報告書、三国同盟、日米交渉の3点に絞って、戦前の日本の歩みを解き明かす授業を本にしたもので、非常に楽しめた.学校の授業では近代の部分は学期末になることから、あまり詳しく教えられていないが、このような形の授業が今後も継続されることが必要だと感じた.特に三国同盟については知らない部分が多く、松岡洋右が国際連盟の席を立っていく写真(1933.2)を覚えているくらいだったので、参考になった.日米交渉については、陸軍、海軍及び政府間での情報の共有が十分でなかったことが、国としての行き方を間違った方向に進めたのだと感じた.著者の『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』は我が本棚の中央に鎮座している.
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前著「それでも日本人は戦争を選んだ」を読んで、感銘を受け、こちらも拝読しました。
前著に負けず劣らず、こちらも素晴らしい著書でした。
史料に基づくこと、その史料についても一面的な見方をしないこと、歴史を考える上で重要なことは何かを教えてくれます。
内容的には高度なことも含まれるのでしょうが、分かりやすく噛み砕いてお話ししてくださるのでとても読みやすいです。
歴史を学ぶことの意義と楽しさを教えてくれます。
同じような形式での次回作を期待します。
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史料を踏まえた、日本と世界各国の思惑、言ってるだけのことと本心とが入り乱れた、非常にエキサイティングな本でした。
図書館で借りて読みましたが、コレは買いだ。
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中高生と学んだ前著が良かったため、本書を紐解いた。ジュンク堂の呼びかけで同じく中高生と学ぶという状況は同じだが、彼ら彼女らの発言が少ない印象を受けた。
内容は、リットン報告書、三国同盟、日米交渉。どれも初めて知る事実ばかりで歴史の厚み、多面性が感じられた。
与党批判がところどころ発せられ、そこだけ浅薄が際立ってしまったように感じる。