投稿元:
レビューを見る
「小説の読み書き」というタイトルからだと「ああ、小説の書き方みたいな本かなぁ」と思うのだけれども、その実は至極まっとうな文藝評論集でした。
文藝評論、いや、評論というジャンルは、評論のとっかかりが身近であればあるほどいいもんだと思います。そうじゃないとどうなるかと云うと、テレビに出ておいしいもの食べて、なんやかコメントを言う、悪しき「評論家」像に近づいていってしまう。「うまーい!」だの「まったりとしていてそれでいて生臭い」だの言うだけでお金がもらえる職業が評論家だと思われると困っちゃう。
そうじゃなくて、評論家だってなんらかの視点やものの考え方を読者に与える存在であっていいはづで、そのためには出来るだけ己が身にひきつけねばならない。真のオリジナルは各人の中にしかないわけだからして。
井伏鱒二の『山椒魚』にたいするとっかかかりかたが好きだ。太宰治が山椒魚を呼んで「興奮した!」とはいうものの、自分としてはあんまり別に特にそうでもない。じゃあ、「山椒魚」を読んだ太宰少年が、どこが面白くて「興奮」したのか? ほれほれ、これが「評論」ですよ。これだったらちょっと原稿料とってもいいと思うでしょう。
小説家としての佐藤正午作品は寡聞にして読んだことがないのだけれども、この本を見るにつけ、ものの書き手として非常に真摯だなぁと思って読みました。
やや「俺ってこういう人間だから!」という押し付けがましい部分が面倒くさいなぁと思う部分もありますが、文藝評論としてはかなり面白い部類に入ると思います。
投稿元:
レビューを見る
情けない話、ここで取り上げられている小説の過半数は未読なんだけど、ちょっと読んでみたくさせるような、そんな書評的ニュアンスもある作品。でもそれ以上に、物書きの観点に触れられるのが醍醐味で、なるほどそういう見方も楽しそうだな、って思わされることもしばしばだった。どうせ読むなら味わい深く楽しみたいし、その道標になりそうな内容でした。
投稿元:
レビューを見る
著名な小説家の小説を一編選び、小説家の文体から解説を加える評論書。深く分析するわけではなく、書き出し等の一文を取り上げて軽めの分析や感想を書いているため、堅い雰囲気はなく気軽に読める。その気軽に読めるという点が良い。信奉者の盲信的な解説ではないから、読みながら読者が様々な想いを馳せる余白がある。
投稿元:
レビューを見る
さらさらーっと読んでいる小説をこのように読むひとがいるのか!と感動しました。
書く方に生かしたかったけれど、どちらかと言えば読み方や感想という感じ。わかりやすく名作文学が紹介されているので今後の読書の指針にもなります。
投稿元:
レビューを見る
たぶん絶版になっているだろう。故に本屋で探すのは無駄で図書館で蔵書検索してコードNo.で引っ張り出して来たレア本。
しかしまぁよくこんな大それた企画に手を出したもんだ。日銭目当てとは言えやる気ないなら止めとけばいいのに…と読んでいるこっちがヒヤヒヤのヤバい内容。
引く手数多のビッグネームにケチを付けることに飽き足らず句読点の打ち方から文法の添削までやってのける心臓は正午さんらしいと言えばそうなのだが勝手適当な解釈をした挙句読者の指摘を受け訂正することもなく追記で誤魔化すという大胆さにはまったく恐れ入る。
佐藤正午検定(もちろんないが)準二級以上の読解力と包容力がない方は読まない方が無難の問題作
投稿元:
レビューを見る
25人の小説家の代表作を著者が読んでコメントする面白い企画の本だ."図書”で読んだ記憶も一部あったが,改めて通読すると,著者がかなり素直な気持ちを書き記していることに感心した.勘違いも数点あるが,それを素直に改訂している姿勢は,政治家に見せたいものだ.取り上げていた中で大作は三島の「豊饒の海」だと思うが,これはしっかり読んだ.かなり昔なので,佐藤の評価とは相いれない部分があったが,小説家が小説を考える事例は少ないので,面白かった.文章の癖をそれぞれの作家から引き出しているのは,職業的なものだろう.
投稿元:
レビューを見る
絵画が、その背景を知った上で見ることで感動が何倍にもなるのと同じように、小説の場合も、著者が何を意図しているのか、どんな背景があるのかを知った上で読む方が面白い。或いは後から。
投稿元:
レビューを見る
小説家佐藤正午が、芥川龍之介や太宰治ら大作家たちの小説について、分析したり、突っ込んだり、要は(敬意を込めながら)言いたいことを言っている本。
例えば、当時中学生の太宰治が、井伏鱒二の「山椒魚」を読んで、坐っていられないくらい興奮したという話に対し、中学生の自分はどちらかといえば「すわっていられないくらいに退屈した」といじけてみせつつ、太宰がなぜそんなに興奮したのかを推理していく。
そんな深読みをするのか、そんな所に目をつけるのかと、最初から最後まで新鮮だった。
投稿元:
レビューを見る
岩波 図書に連載
[ 目次 ]
川端康成『雪国』
志賀直哉『暗夜行路』
森鴎外『雁』
永井荷風『つゆのあとさき』
夏目漱石『こころ』
中勘助『銀の匙』
樋口一葉『たけくらべ』
三島由紀夫『豊饒の海』
山本周五郎『青ベか物語』
林芙美子『放浪記』
井伏鱒二『山椒魚』
太宰治『人間失格』
横光利一『機械』
織田作之助『夫婦善哉』
芥川龍之介『鼻』
菊池寛『形』
谷崎潤一郎『痴人の愛』
松本清張『潜在光景』
武者小路実篤『友情』
田山花袋『蒲団』
幸田文『流れる』
結城昌治『夜の終る時』
開高健『夏の闇』
吉行淳之介『技巧的生活』
佐藤正午『取り扱い注意』
投稿元:
レビューを見る
タイトルを一瞥するや、てっきり現役作家による名作の解説本と思い、読むもストーリーにはさほど触れない。さてさて、どういうこと?
本の扉の紹介文を読む。完全な思い違い。本書は漱石〜開高健まで近・現代作家 総勢24名の作品を丹念に読み解きながら、『小説の描かれ方』ではなく『小説「家」の書き方〈技巧・癖・こだわり等〉』を考察した一冊。
そう、本書は新手の文章読本。文章読本といえば、谷崎・川端・三島・丸谷ら名だたる作家が著しているが、本書はこれまでのものと一線を画す。大上段に振りかぶった『文章指南』ではなく『随筆』という体を取っていること。
一貫して、初読時に抱いた印象や作品と出会った際の個人的体験や思い出からアプローチ。その着眼点は実に細かい。よくぞ見つけましたな的文章上の癖・性向に着目し、本丸である『作家の本質』を射抜く粘着性のある考察を提示。この帰納法的考察が実にユニークで、随筆の愉しさを堪能できる。警視庁特命係 杉下右京の口ぐせ『細かいところまで気になってしまうのが僕の悪い癖でして〜』というアレを想起し、苦笑い。
例えば…
太宰治『『人間失格』
「無頼派の作家はみんな結婚している」という書き出しで、まずは無頼派 代表作家をいたぶり、結婚しているからこそ、家庭を蔑ろにできたり家庭の幸福を踏みにじれる…と、学歴無用論を唱える人は決まって高学歴みたいな『あるある論』を述べる。
三島由紀夫『豊饒の海』
4部作からなる豊饒の海の特徴として、おびただしい量の直喩が登場する事に触れ、その最後の直喩が「数珠を繰るような蝉の声」であると。その比喩から三島の文体をめぐる考察を開陳。
芥川龍之介『鼻』
芥川作品は何回読んでも読み上げた気がしないのなぜか?読み返すたびに初めて読むような印象を持つ。芥川龍之介に対する印象を直言。その理由が実に明晰で目からウロコ状態。
森鴎外『雁』
どんな小説だったか記憶にないと坦懐しつつ、ただ小説に出てきた『サバの味噌煮 』のことだけは鮮明に記憶していると。いまだにサバの味噌煮を食べる度に『雁』を想起と語る。
ひとつの文章の成り立ちや使われている語句の選択にこれだけプロの作家はこだわっているのかを知れると同時に、〈鳥の目 虫の目 魚の目〉をもって射ぬかんとする作家のサガも知れる、一粒で二度美味しい一冊。
投稿元:
レビューを見る
志賀直哉『暗夜行路』や、夏目漱石『こころ』などの文豪たちの作品を、文章の書き方に着目して読み解いている。
川端康成『雪国』の章では、小説の書き出し(国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった)に触れ、川端康成が「地面」や「あたり一面」など様々な言葉から取捨選択した結果あの文章が出来上がったこと、またそれが書くことの実態だと述べられていた。流し読みしがちな文について、改めて目を向けさせてくれる一冊だと思う。
投稿元:
レビューを見る
様々な小説を佐藤正午さんという小説家が読み解く。視点もユニークであり、言葉を生業としている小説家だからこそ、丁寧にこだわるところを深掘りしている。国語、読み方、書き方について、学びを得られるし、何より読んでいて楽しいと感じた。
投稿元:
レビューを見る
新書に抵抗がある人は少なくはないと思う。
堅苦しい、書いてあることが難しいというイメージが私にもある。そんな私にも「小説の読み書き」は、するすると滑らかに読むことができた。読書好きなら、(好きでなくても国語の教科書を読んできた人なら)必ず聞いたことがある作家から、初耳の作家まで作者独自の視点で作品の粗筋や文体を語ってくれる。押し付けがましさもなく、思わずその作品を読んでみたくなるような語りで、楽しく読むことができた。「雪国」「痴人の愛」「夜の終わる時」など、改めて読んでみたい作品がたくさん出てきてワクワクしている。