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ミサイルが飛んでこようが、そこには人々がいて家族が生まれ死んでいく。日々の苦難を笑い飛ばしながら。
イスラエルに生きる小説家のエッセイ。
始めて書いた小説のコピーを兄に読んでもらったら、兄が読み終えたあと、それで犬のウ◯コを拾ったのには笑った。
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2019年の夏、急遽イスラエルに旅行に行く事になり、その旅行に持っていく本を探して、当時よく訪れていた本屋の店長に勧められて購入した本。
イスラエルの作家によるエッセイ集、テルアビブ在住の作家エトガルケレットによる自身の子供が生まれてから7年間のエッセイである。
いつからいつの時期かというのは厳密にはわからない部分もあるが、2006年からの7年間かなと思える。
そう思うのは、「4年目」の話の中でiPhoneのゲームアプリのアングリーバードの話が出てきて、それが2009年12月にリリースされたものだから、2010年頃かなと思う。そこら引く4年ということで。
現代イスラエルの生活の話が読めれば良いなと思い読んでいた。
実際はそこに書かれている以上の様々な状況や背景の事を考えてしまったりする。
例えば、上のアングリーバードに関する話も、サラッと出てくる「アングリーバードは実は宗教的原理主義テロリストと同じ精神を持ったゲームなのだ」という語りがあるが、生活とテロとの地続き感が感じられる。
この話はゲームであるからこそ、現実の暴力がもつある種の快楽「ぼくらがみな、殺したり破壊したりするのが大好きだからだ」とケレットが語るような快楽を語れるし、それをゲーム上で発散し、制御してもらえるのは悪いことではないだろうと語ったりもできるという話かなと思った。
そういう家庭内のやりとりや雑談や経験の節々からイスラエルに住む、時にそれを代表してしまう立場の作家の輪郭を感じる。
エッセイとして軽い読み味なのだが、同時にある言葉や態度が例えばユダヤ人的であるかどうか、被害者か加害者かのどちらかの立場と結びついてしまいやすい状況を生きているという事をヒリヒリと感じた。
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先日イスラエル人ご夫婦をおもてなししたばかりなので(ホームビジット)イスラエルという国に興味津々。で、手に取った本。歴史的な出来事だけでなく、今イスラエルに暮らす実際の同世代の人たちがどんなことを考え、どんなふうに暮らしているのかが綴られているのがとても新鮮で興味深かった。歴史について書かれた本では、人々の心情なんかはまったくわからないから。
ホームビジットのときも思ったけど、文化や環境が違っても、感じることなんかはわたしたちと同じなんだよね、とも思った。
(訳者あとがきより。)
息子のレヴが大きくなったら兵役に就かせるのかどうかをめぐる一篇は、イスラエルで親たちが不可避的に抱える苦悩を描く。ユダヤ人国家の歴史を考えれば軍の必要性を簡単に否定できるわけはないし、皆がその負担を担わなければならない時に一人わが子をそこから除外することを正当化するのは難しい。それでもケレットの妻は母親として、息子の命を危険にさらしたくないというシンプルな思いから断固兵役に反対し、その行為こそが今ある政治を変えるのだと主張する。両者の話し合いに白か黒かの明白な解はない。
そしてそこでわれわれは、特殊だと思っていたイスラエルという国のなかにむしろ普遍性を発見するのだろう。そこで暮らしている人々は、当たり前ではあるが、われわれと同じように日常に一喜一憂する普通の人々であり、あらゆる国家は決して一枚岩ではないし、そこには多様性が存在する。ケレット自身はイスラエルの「愛国的」言説に対して勇気あるノーを突きつけているが(2014年のイスラエルのガザ侵攻の際に、ケレット夫妻は亡くなったパレスチナの子どもたちへの哀悼の意を示したことで自国民からバッシングされ脅迫まで受けている)、それでも国外では時としてイスラエルという国家を代表せざるを得ないし、それを避けようとはしない。ケレット自身の言葉によれば、「国内では裏切り者として、そして国外ではイスラエル人としてボイコットされ」てもだ。
だから、本書およびケレットをイスラエルの作品や作家としてだけ読むのは、おそれくあまり豊かな読み方ではない。未知の世界を訪問するというよりはむしろ、今ここと地続きの世界として読む方が、たぶんいい。それこそが本書が世界各国で読まれている理由でもあろう。
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イスラエルの作家ケレットのエッセイ集。
これまた評判どおりすばらしかった。
両親がホロコーストの生き残り(本人は1967年生まれ)で、住んでいるイスラエルのテルアビブは、テロや戦闘でしばしばおびやかされるのだけど、そういう現実から目をそらすことなく、でも日常をしっかりと生きてユーモアを忘れない。
いま、コロナ禍の中で世界中の人々が「いつになったら元の生活が送れるのか」と思っているわけだけれど、イスラエルやパレスチナに暮らす人々にとっては、もっと気の抜けない状態が生まれてこの方の日常なわけで。そんな中でも日々のささやかなことに怒ったり喜んだり泣いたり笑ったりして人生を送る作者の姿はなんだかはげみになるのだった。
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長年に渡る中東での戦争、TVから流れる街の空爆の様子、伝統的な黒ずくめの服装に身を包んだユダヤ教の人々…私にとってこれらのことは、遠い国の遠い出来事でしかなかった…この本を読むまでは。
そこにも私たちのように日々暮らしている人たちがいて、日常の些細なことに泣いたり笑ったり、時には怒ったりしている…という当たり前のことに気付き、中東問題を以前とは違う視点で考えるきっかけとなった。
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素晴らしいエッセイでした。
まず本の始まりが衝撃です。著者が奥さんの出産をベンチで待っている最中にテロリストの攻撃によって怪我してきた病人が運ばれて、その様子を見て看護師が「テロリストの攻撃にはうんざり」とつぶやく場面からこのエッセイが始まります。
タイトルにある「素晴らしき7年」というのは、著者の息子さんが7歳までに成長する間に起きた様々な出来事を綴った7年です。
ただ、冒頭の紹介でもあるようにテロが日常的に行われ、隣国とは戦争状態であるイスラエルに住んでいる事がこの「素晴らしき7年」を残酷で時にはユーモラスな世界へと招待してくれます。
エッセイを通じて狂気のさなかにも人間らしく生きていこうという根本的な想いがあり、国は違うけど、住んでる人は一緒なんだと想いが伝わってくるようでした。
そんな状態だからこそ著者が書かれている言葉に胸が締め付けられ、時には励まされる気持ちになりました。
繰り返し書きますが本当に素晴らしいエッセイでした。
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ピラティスの話も、オーバーブッキングの話も大好き。
それはそれとして。
イスラエルとユダヤ人の日常に考えさせられる1冊だ。
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(この本に星を付ける?冗談でしょ?)
一般的に手に入るような本は大量生産されているものだが、時にすごい宝物を見つけたように物自体が愛おしく、手放せないようになる本がある。これが、それ。
6年目の「事故」を読み終えた時点で居ても立っても居られず、記しておく。
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イスラエルはテルアビブ在住の作家の短編エッセイ集。「七年」とは息子が生まれ、父が死ぬまでの七年間だ。どの話も日常を切り取ったようなもので短くて、ユーモアに満ちていて面白い。著者の日常は、実際に自国が戦争をしていて兵役があり、テロが起き、ミサイルが降ってくる日常である。でもすごく軽妙な語り口で、あくまで軽く受け流していく姿勢が読みやすく、何が起きようが子育てや日々の生活は続いていくし、かえってそういった「日常」が確かに存在するのだということを思わせる内容になっている。しかし著者にはそんな啓蒙じみた考えは一切なさそうなのが良かった。
個人的には、兄が宗教教育から脱落したり、姉が超正統派に転向したりというなかで「神を信じない」著者との多少ぎこちない、それでも相手を尊重した家族付き合いが続いていっている様子が面白かったなと思う。
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今年読んで良かった作家のひとりは間違いなくミランダ・ジュライなのだけれど、この作家もその位置に来た。まだ1冊しか読んでいないけれど、とにかく素晴らしいよ。子供が誕生して、父親が亡くなるまでの7年間のエッセイなのだけれど、テロリストの攻撃で始まり、ミサイルが降ってくる最終話で終わる。中東情勢、宗教、私は恥ずかしいくらいとにかく無知だけれど本当に素晴らしい。
イスラエルで起きていることは紛れもなく悲劇で、子供は大人の都合で大勢死んでいる。この作品は宗教、国の都合と家族、自分のルーツを絡めているのに、驚くくらいあっけらかんとしている。ケレットは受け入れてるんだな。
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息子の誕生から父の死までの7年間を綴ったエッセイ。
テロや空襲が日常の暮らしにもシリアスさを感じさせない。
各国でのユダヤ人であるが故の困難にも強靭なユーモアで対抗する。
著者の言葉には揺るぎない知性と力がみなぎっている。