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時代物は少し苦手意識があったが、不思議とー気に読めた。
奈良時代の疫病流行に伴う、医師や市井の混乱、やる気のない助手を含む施薬院(病院)の苦悶と奮闘、そして各人の復讐を通した、人の弱さと復讐についての気付きを描いている。
宮城内での立場が低く出世も望めない施薬院を下にみる典薬療(高官用の病院)への嫉妬とやりにくさ
嫉妬から冤罪を仕組んで地位を奪った役人への恨み
人智を越えた災厄への無力感
各登場人物が戦いながら過ごす日々が重なりあって、物語の展開も面白かった。
綱手の姿勢から行き着いた、医者として最適な性格(心構え)が、非常に含蓄があって、深いと思った。
非常事態にあって、不安や噂に流されて暴動を起こしたり、自己防衛に走ったりするなか、
医師としてひたすら病人の治療に当たるが、内心はやはり多くの葛藤がある。
その葛藤を抱えてこそ、本当に人の治療に当たれるということが、心から分かった気がする。
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天平の代。都を地獄と化した疱瘡の流行。日本史の授業でかるく流したその程度の知識と認識を、大きな恐怖と嫌悪とそして決して消えることのない光が飲み込む。
得体の知れない流行り病に人々が苦しみ、次々と死人が増えていく、そのまさに地獄のような町の中で、医者とその手伝いの者たちの命がけの闘いに知らず知らずに共に苦しみもがいている自分がいた。
業火の如き疫病がはびこる真夏の都で、人の世の不条理にじりじりと身をやかれつつも、諦めることを良しとしない医者たちの矜持が都を守り抜いた。
自分の為だけに、自分の利のためだけに人を蹴落とし傷つけその身を平気で踏みつけていく、それは今の世とて何も変わりはしない。だからこそ、この一冊を多くの人に読んで欲しいと思う。
全ての人が、自分を大切に思うのと同じくらい、誰かほかの人も大切にすれば、この世が業火に焼き尽くされることはないはず。いまこそ読むべき一冊。
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天然痘に蹂躙される奈良の都。
高熱を発し全身を痘痕に覆われて死んでゆく人々、紛い物の神をでっち上げ人々を惑わせるもの、果てのない疫神との闘いに身を投じる医師たち。
一気に読める。時代小説xパンデミック。
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著者初読み。
ブクログのレビューを見て、読んでみることに。
舞台は平城京。当時の新羅から戻った役人たちにより、痘瘡が京中に蔓延し、大混乱に陥る。
医療技術が発達していない中、今で言う町医者に当たるのだろう、施薬院の医師・綱手や下働きの名代たちが、一人でも多くの命を救おうとする様子が描かれる。
その一方で、冤罪で医師の身分を剥奪された諸男の苦悩する様子も描かれている。
それぞれの命に対する真摯な思いがよく伝わってくる上質な作品。今の時代でも、命の判別が問題になるが、この時代にその決断をしなければならなかった綱手たちの気持ちが、とても痛くて、涙が溢れてしまう。それでも、希望を捨てずに病と立ち向かうラストは、さらに涙…
偶然にも、この作品を読んでいる最中に直木賞の候補作にノミネートされたことが発表された。とても喜ばしい。
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天平年間の平城京における天然痘の大流行に題を取った歴史小説。
舞台設定、人物配置、展開のどれも申し分ないのだが、申し分なさすぎる感もある。
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奈良時代におけるアウトブレイク。
天然痘が蔓延する都で奮闘する医師たち。
追いつめられたときの人の行動やら骨太作品ではあったが、少し既視感も感じる部分もないではない。
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天然痘流行について。
圧倒的な力でストーリーが展開していった。
初め、登場人物がぽんぽんと立て続けに増えて、良くわからないまま進んでいったので、これからもう一回読もう。
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時は天平。疫病の猛威が吹き荒れる、寧楽(奈良)の京を舞台に、施薬院の使部・名代と、元は内薬司の侍医だったにもかかわらず、無実の罪で獄にいた諸男をメインに話が展開します。
絶望的な状況で、懸命に働く施薬院の人達と混乱に乗じて怪しげな信仰を担ぎ出す者・・。まさに狂気の最中、名代の成長、諸男の苦悩が浮き彫りにされていきます。
疱瘡患者とそれによる死者達の凄まじい描写は、思わず目を背けたくなるほどでしたが、その迫力と読み応えは流石です。
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奈良時代。藤原四子をも苦しめた天然痘の話。
でもやっぱり主人公は有名人物ではなく。
施薬院が主な舞台。
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天平時代のアウトブレイク。もう、めちゃくちゃに面白かった。今回直木賞を受賞できなかったのが不思議なくらい。天然痘の襲来に立ち向かう施薬院の人々の物語。一方、怪しげな神を喧伝し、民を扇動する人物との攻防あり、ミステリーあり、群像劇ありでてんこ盛りの内容だ。
序盤は戦国以降の時代ものと違い、奈良時代の人物の名前や施設の名前など、何と読むのか忘れてしまったりと、世界観に入るのに時間がかかるかもしれない。しかし、1章の後半から一気に読み進める。特に終盤100ページはうまい。鼻の奥がツーンときた。
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面白かったです。今回の候補作の中では一番迫力があり、かつ読みごたえがありました。
一番良かった点は、日本を舞台にした時代小説としては恐らく最古に近い時期を設定しつつも、パンデミックに乗じてインチキ宗教をかざす人間や、恐怖心から外国人の排斥行動をとってしまう大衆の姿、諸男と名代が医師としての矜持とは何かについて悩む様子など、現代にも通じるテーマがちゃんと内包されていることです。これはなまじっかな筆力ではできる技ではないのではないでしょうか。
登場人物の描き分けもきちんとなされており、群像劇としてもよくできていると思います。特に第六章での名代と諸男が邂逅する場面は、ぐっと胸に迫るものがありました。
どの登場人物にも人間臭さが感じられるところもいいですね。良心の塊のように見えていた綱手が屈託を覚える場面なんかは、実にうまいなあと。
時代考証についても特段違和感はなく、一つ一つの描写にリアリティを感じられました。
とにかく本当にいい作品ですので、今回のノミネートをきっかけに多くの方に読んでいただきたいと思います。
作品内容とは関係ないのですが、本文の文字の大きさにびっくりしました。視力が落ちた年配の方に配慮したのかな。
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縄手の「生きる意味」の衝撃。
これまで自分の生について深く考えたことはなかったけれど、そうか、生きているだけで何か(誰か)の役に立っていることもあるかもしれないと考えるだけで、小さいけれど心に明かりが灯る。そしてそうだったらいいなと切実に思う。
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★2018年1月13日読了『火定(かじょう)』澤田瞳子著 評価A
火定とは、修行者が自ら焼身死することによって入定(にゅうじょう)=永遠の瞑想に入ること。この物語では、恐るべき天然痘に襲われた平城京が病に焼かれ、人としての心を失いかねない状況に立ち至る闇に蹂躙されながらも、最後のところで踏みとどまり、医師、人として困難に立ち向かえることを物語に描いている。
前回読んだのは、江戸時代の絵師、伊藤若冲を丁寧に描いた物語だったが、同様に人々の情念をしっかりと描き出した澤田氏らしい作品である。
今回の舞台は、奈良天平時代の藤原光明皇后が設置した施薬院という一般庶民に開かれた当時の病院。そこに働く人々と猪名部諸男(いなべもろお)という以前は天皇、皇族を診察する内薬司に所属する侍医だった男が、主人公。
彼は天皇への薬の薬名誤った罪で、終身の懲役刑に落とされた。しかし、それは、彼の栄達をねたんだ名家出身の同僚侍医倭池守の策略だった。
猪名部諸男は、左獄(窃盗犯、殺人犯)の獄舎に放り込まれ、1年間地獄の日々を送っていたが、恩赦を得て出獄してきた。
その頃、遣新羅使たちが帰国してきた際に、日本へ持ち込んだ裳瘡(もがさ)=天然痘<豌豆瘡>が、平城京で猛威をふるい時の権力者であった藤原房前が死亡、また太政大臣8人中5人が死亡する危機的状況となり、絶頂期にあった藤原政権が倒れる事態となった。
獄中で労苦を共にした詐欺師で口が立つ宇須が考え出した常世常虫の似非信心の禁厭札で莫大な稼ぎを得た猪名部諸男たちは、宇須の悪だくみから平城京に大きな騒乱を巻き起こすこととなってしまう。
そうした状況下でも、施薬院の医師たちは必死の治療にあたり、たまたま猪名部諸男が出獄後、藤原房前邸に居た時に発見していた裳瘡(もがさ)=天然痘の治療法『備急千金要方』を入手し、人々の治療に用いる。その過程で、猪名部諸男を発見し、当時の冤罪を解くことを約束し、医師としての思いを封印していた彼の気持ちを動かして、治療に協力させる。そして、人としてすさんでいた猪名部諸男の医師としての誇りと尊厳を復活させる。
P302
人はみな、自らの存在に限りあることを知っている。それゆえに世の者は誰しも己の求めるものを追い、その生を充実させんともがくのだ。ならば人は今生きるがゆえにそれまでの短い生を輝かせるのであり、いわば人を真にいかしているものは、いずれ訪れる死なのではないか。
諸男は神も仏も信じない。だが、死のみが充満するこの河原にあって、諸男は唐突に、己が何者かによって生かされていると感じた。
そうだ。生と死は決して相反するものではない。数え切れぬほどの死の中にあってこそ、たった一つの命は微かなる輝きを放つ。生と死、正と邪とは紙一重であり、腐りきった世の中にあってこそ、あの施薬院が崇高なるものと映るがごとく、余にはびこる全ての悪は、ほんの一かけらの善なるものを輝かせるために在るのだ。
(-ならば)
京じゅうを死が埋め尽くした今、悪事に手を染めながらもいまだ生き続ける諸男にも、何かしら生きる意義があるということ��。
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「好きでこんなところで働いているわけじゃねえよ」施薬院を抜け出す事ばかり考えていた青年が「医に携わる者は決して、心強き者である必要はない。むしろ悩み多く、他を恨み、世を嫉む人間であればこそ、彼らはこの苦しみ多き世を自らの医術で切り開かんとするのではないか」と悟るまで、疫病の流行の中で闘います。
歴史に名の残る偉人の一生を追ったものではなく「与楽の飯」同様、その時代を生きた名もない人の生き様が、時代は違えど生きて行く上での懊悩は変わらないと描かれていて、読み出すと止まらないです。
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面白くて一気読みしました。
物語は、羅生門あり、赤ひげの要素もあり、親鸞にこんな場面あったなぁ~と所々既読感はあるのですが、それでも面白かった!
少しでも人のために、のちの世に役立てるように…と前向きに努める物語は元気をもらえます。