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遠い昔、森村誠一の『悪魔の飽食』を読んだことがある。無知であったが故に、まさに震撼した。随分久しぶりに、その731部隊に関する著作を読んだ。不勉強な小生は青木冨貴子さんというフリーのジャーナリストを存じ上げなかった。この本も文庫になるまで知らなかった。本作で著者は、人体実験の話や満州でこの部隊が何を行ってきたかについては、ほとんど触れていない。むしろそれを周知の事実として(大前提として)、彼ら731部隊の医師達が戦後、戦犯容疑をいかに逃れることに成功したかをアメリカ公文書館の資料や石井四郎直筆のノートを駆使して読み解いていく。後に薬害エイズで批判を浴びたミドリ十字という製薬会社を創業した内藤良一に、自分を雇えと言いに行ったマッドサイエンティスト石井四郎。それを断る元部下の内藤。それぞれの戦後がある。生命科学の分野はひとたび間違えば、大量破壊兵器の生産工場と化す訳だ。決して歴史の彼方に追いやられた話ではなく現在もその危険性を孕んでいるのは言うまでもない。大作ではあるが、あっというまに読み終わるノンフィクション作品。
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731の存在を否定している人もいるけど、テレビで元731だった人たちの証言を聞いた。
人ってこんなに残酷なことができるのかって、背骨の芯までぞくっとした。
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日本陸軍細菌戦部隊長であった石井四郎を中心に、部隊の成り立ちと戦後の成り立ちに迫ったノンフィクション.特に、戦後、アメリカとの駆け引きにより戦犯に問われることなく生き延びていく様を見ていると、昔からアメリカというのはダブルスタンダードの国であったことが良く分かる.
ただ、全体を通して何を目的としたノンフィクションなのかが分かりにくい.事実をここまで掘り起こして時系列に整理した事のすごさは分かるが、そこで力尽きている.
巻末の解説で、佐藤優さんが「対象との距離感」という言葉で、これを表現しているが、私には、俯瞰し過ぎと感じられた.
だから、☆3つ(興味あるテーマなら読むべし).
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2005年の単行本も読みましたが、文庫本で出ていたのを昨年2月に購入→積読、今頃になっての再読です。
生半可な付け焼刃の研究でないことは読んですぐさま分かりますが、著者の執拗な追及はついに2冊の新資料の発見に至るまでとなり、いやが上にも読む者をして俄然ヒートアップさせます。
太平洋戦争中に中国で、生きたままの中国人を解剖したりして、細菌・化学兵器の開発のための実験をした731石井四郎細菌部隊については、私たちは、すでに平岡正明の『日本人は中国で何をしたか』(1972年)や森村誠一の『悪魔の飽食』(1981年)を先駆として、今では数十冊の関連文献を持っていますが、青木冨美子はそれにも飽き足らず長年にわたって追跡したといいます。
たとえ戦争だとしても、非人間的・非人道的な行為を遂行してきたことに対して、反省や批判にさらされることなく隠ぺいしてきたことの当然の結果ですが、戦後この731部隊で暗躍した内藤良一が中心となって設立した製薬会社㈱ミドリ十字は、後にあの例の悪辣・非道な薬害エイズ事件を起こすこととなります。このミドリ十字は幾度もの合併により、今は田辺三菱製薬と名前を変えています。
そして隠ぺいして来たのは何も日本だけでなく、この実験結果がほしくてたまらないアメリカもだったのであり、そのために明らかに戦犯で死刑は免れなかったはずの石井隊長を、どのように巧妙に助け生かしたか。
ヨーロッパ中を震え上がらせたV2 を作ったナチス・ドイツのフォン・ブラウンたちの研究の成果の上に、ジュピターやアポロなどの月ロケットが出来たのと同じように、この731の成果も、やがてベトナム戦争で枯葉剤などの細菌兵器へと受け継がれて行きます。
例によって、アメリカ側の新資料というのは、あの、どんな極秘機密文書でも50年経てば公開するという、輝かしい眩しいアメリカ民主主義のお約束に基づいたものだと思われます。本当に血に染まった腐ってどうしようもない国なのに、やる時にはやりますね。
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京極シリーズにでていたので前々から興味があった、もっと緻密で組織的だと思っていたが、読んでみると人一人の願望によって存在している部隊だとは思わなかった。闇ですね~
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[真暗の気脈]太平洋戦争中に生体解剖をはじめとする非人道的な行為を行いながらも、戦犯とならなかった石井四郎を筆頭とする731部隊。その裏を探った著者は、石井部隊とGHQの間に繰り広げられた、明るみにされていない裏取引にたどり着く......。戦時・戦後に股がる日本の暗い闇に迫った作品です。著者は、ニューズウィーク日本版のニューヨーク支局長を務められていた青木冨貴子。
石井直筆の2冊のノートを見つけ出す青木氏の取材力にまずは頭が下がります。既に敗戦から半世紀以上が経過し、その間に研究が進められていてもなお、ここまで新しい発見を目にすることができるとは。感嘆せざるを得ない情報量で副題のとおりに闇を暴いていきますので、戦後史に興味のある人にはぜひオススメしたい作品です。
731部隊に関わる人間とGHQの間のやり取りに関して言えば、いわゆる建て前(例えば国際正義や平和)と本音(例えば自国の安全保障)が切り結ぶ世界を、それを通してまざまざと見せつけられた思いがしました。また、石井自身の戦後の変貌ぶりも初めて知り、改めて占領期に起きた人心の転変という点に思いを致さずにはいられませんでした。
〜問題は、日本の敗戦後、「禁断の兵器」に取り憑かれた妖怪たちが退治されなく温存されたことである。細菌兵器のあらがいがたい誘惑が次には戦勝国の軍人たちに乗り移って行った。石井四郎は細菌戦に手を染めたからこそ、生き延びたことを知っていただろうか。〜
気持ちが明るくなる本ではないですが☆5つ
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主な特徴として「読み始めて6分で熟睡できる」
ということが挙げられる(- -;
いや、内容がつまらない訳ではなく、
いつも小説ばかり読んでいる我には
固くて重い内容が難しすぎて...(^ ^;
ただ、あまり読みやすい本ではない気がする。
そこここに「〜だったろう」「〜に違いない」みたいな
作者の主観が入り込んできて...
「ドキュメンタリー」として読むにはやや邪魔くさい(- -;
文体も「ルポ風味」になっているが、
テーマがテーマだし、事実だけを淡々と書いた方が
内用がスムーズに頭に入る気がする。
新しく「発見」された石井氏の残したノート二冊は、
確かに貴重な資料ではあろうし、晩年の石井氏の
「小市民っぷり」が意外で面白い(^ ^
が、タイトルの「731」にはそぐわない気も。
タイトルから「731部隊の悪行を詳らかにする」
ような内容を(勝手に)期待していたが...
この内容だと「石井 四郎 - その知られざる素顔 -」
みたいな方がしっくりくる感じだ(^ ^;
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731部隊。第二次大戦中に帝国陸軍が満州にて展開した細菌戦部隊であります。表向きは貿易給水を目的とした研究機関ですが、その内実は生物兵器を開発する組織だといふことです。
創設・指揮したのは陸軍の軍医であつた石井四郎。ノモンハン事件で功績を挙げ、部隊内での地位を向上させたとされる人物であります。
本書『731 石井四郎と細菌戦部隊の闇を暴く』は、タイトル通り731部隊と石井四郎の謎に迫つた、青木冨貴子氏によるノンフィクション。『ライカでグッドバイ』の人ですな。
読み始める前は、細菌戦部隊とか人体実験とか、或は人間モルモット(「マルタ」なる符牒で呼称してゐたさうです)だとか、おぞましい話が再現されるかと戦き構へてゐました。しかし著者の狙ひは、違ふところにあつたのです。
石井四郎直筆のノートが二冊見つかつたとの連絡が入り、著者は早速石井の郷里である千葉県芝山町へ向かひます。随分興奮気味であります。ノートを手に入れた時の著者の高揚ぶりが伝はつてくるのです。
何しろ今まで世に出なかつた石井直筆ノートですからねえ。新事実の発見や、これまでの定説を覆す記述とかがあるかも知れぬと思ふだけで、ジャーナリストとしては平静を保つのは難しいのでせう。
二冊のノートは、1945年と1946年のもので、いづれも終戦後のものでした。内容は部隊の後始末に関する件や、いかに証拠隠滅を図るかとか、実に細かい指示が出されてゐたことが分かります。
戦犯を逃れるための工作といふか、駆け引きの様子も窺ふことが出来ます。本来ならかかる非人道的な行為は、真先に罪に問はれるところでせう。
GHQは、石井本人や関係者に対する尋問を繰り返すのですが、捗捗しい結果は得られません。石井の指示による偽証や黙秘に翻弄されてゐました。証言を語る条件として、戦犯としての罪は問はないとの言質を得ます。マッカーサーも、さうまでして細菌兵器のデータが欲しかつたのでせう。
ノートの記述により、石井四郎が戦後如何なる活動をしてゐたかが判明します。経済的に困窮し、売れるものは売りつくして、親戚の生活の安定に心を砕く姿がありました。ここには、あの恐ろしい非人道的な人体実験を指揮した石井とは別の人格があります。
逆に言ふと、平凡な小市民の中にも、環境次第でマッドサイエンティストに変貌してしまふ要素があるといふ事でせうか。
著者の執念の取材が身を結んだ一冊と申せませう。
http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-699.html
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敵国人捕虜に生体解剖を行い、実験に供される人間を隠語で「丸太」と表現していた731部隊。人間を人間と思わず、言葉通り単なる実験材料として考えていたことを表すいい例だ。
その731部隊を指揮していたのが石井四郎。この本は戦後50年経ってから発見された石井直筆のノートを読み解き、彼の人間像に迫った本だ。
731部隊で行われていた実験がどうようなものなのか、という問題はそれほど書かれていない。それを期待して読み始めたので最初は拍子抜けしたが、読み進めるうちに戦中戦後の裏面史が浮かび上がって、目が離せなくなり、500ページを超える分厚い本なのに1日で読んでしまった。
主題は石井四郎がたどった人生だ。とくに終戦後、米国と交わされた密約によって、戦犯確実な石井がいかにそれを免れたのかが書かれている。
中国戦線において実戦で使用されたペスト菌については、とくに詳細なデータを持っていたようだ。培養などの実験は研究室でもできるが、実戦でしかわからないこと、例えば空中散布では効果がないことや、ネズミや蚤を用いた効率的な散布法、罹患してから死亡するまでの経過など、米国でも持っていないデータを石井は持っていた。
石井自身も裁判にかけられた場合、戦犯で死刑確実ということはわかっていた。だから部下にも「秘密は疑獄まで持って行け」と厳命していた。しかし戦後の冷戦下でソ連に731部隊のデータが渡ることを恐れたアメリカが、そのデータを寄こすことを条件に、部隊に属していた者たちを裁判にかけないことを約束した。
簡単にまとめてしまうとこんな感じだが、中身は濃い。石井に対する尋問はアメリカだけでなく同じ戦勝国のソ連も行ったが、アメリカの入れ知恵でソ連を欺き、結局アメリカ一国が一人占めした記述も興味深い。
石井は戦後GHQにより斡旋された売春宿の経営者となっていた。石井のデータは貴重だが、石井の人格に対して尊敬の念は全くないというアメリカの意思表れだ。
生き残った731部隊の医師たちは、罪を問われることなく戦後の医学界で出世していった。薬害エイズで有名になったミドリ十字も、石井の部下の一人が設立した会社だ。戦後しばらくして生活に窮するようになった石井が、ツテをたどって就職させてくれるように頼むが、無碍に断られている。元部下も石井のことが嫌いだったのだろう。
ただし、731部隊の非人道的な行動を石井個人の人格に帰してはいけない。731部隊には石井の郷里の人間が大勢配属されていた。それは前線への危険な任務へ郷里の人間を送りたくないという石井の配慮からだし、給料も良かったので、郷里の人間は石井のことを郷土の誇りと考えていた。非人道的な実験をしていなければ石井にも、面倒見のいいおじさん、という評判が待っていたかもしれない。
怖いの戦時下でもたらされる感情の麻痺だ。注射後に何時間で死ぬかとか、病変の変化を生体で観察するとか、倫理的に許されない行為も、それが常態化してしまえば感覚が麻痺し���しまうはずだ。動物実験と同じように人体実験を考えていたのだろうし、そう思いこむうちに、脳が納得したのだと思う。
だから731部隊の狂気は石井個人の人格に帰するのではなく、集団ヒステリーとして考えることが大事だと思う。
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NHKスペシャル「731部隊の真実~エリート医学者と人体実験~」を見て、そういえば731部隊については「悪魔の飽食」シリーズしか読んでないなと思いあたり、探して読んだ本。
731部隊の所業にはあまり触れず、司令官石井四郎の人となりや、特に戦後、731関係者が誰も戦犯指定されず、逃げ切ったあたりに焦点を当てている。これ一冊読んでもあまり意味はないし、無駄な寄り道や主観的な観測、物言いが多くてドキュメンタリーとしては一流とは言えないが、 NHKや森村誠一を見たり読んだりして、こいつら戦後どうなったんだろうと思った人にはそれなりの情報を提供してくれる。
あー胸糞悪い。
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"うだるような暑さの今年の夏、終戦の時期に読んでみたいと思って手にした本。小説のように読者をぐいぐいと引っ張る内容で、一気に読んだ。第二次世界大戦・太平洋戦争時に満州にあった731部隊の闇の歴史をひもとく。細菌戦部隊である731部隊の部隊長石井四郎氏は戦犯とはなっていない。GHQ、アメリカとの駆け引きがあったということを、丹念な取材を積み重ねてひもといていく。参考文献も読んでみたくなった。この部隊に関する書物で有名なのが「悪魔の飽食」。この本の登場人物も書籍を残している。その人たちの本も読みたくなる。
そして、一言だけ。戦争中には多くの人が亡くなった。戦争そのものがどういうものか、実際を知らない我々はこうした書物からその時代の空気を読み込むことしかできない。戦争という狂気が及ぼす影響の大きさを改めて感じることができた本だ。
歴史を感じつつ、私たちは未来を築いていく。それが、先人たちへの供養となると信じている。"
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731部隊を追いかけたルポルタージュ。
冒頭は、著者が千葉県の加茂へ取材へ向かったところから始まる。
著者は執筆までに相当に取材を重ねてきた様で、千葉県での取材のほか、膨大な文献や当時のメモの解読、関係者インタビューまであらゆる手を施して当時の様子を読み解こうとしている。
本書は、実際に足を運び、目で見て、読み解いた結果を、1つ1つパズルを埋めていく様に文章に書き起こしていく、その膨大な作業の末に出来上がったものだとよくわかる。
どちらかというと論文テイストな構成のためか、本書にはドラマチックに誇張した展開はなく、文献や検証に基づいた内容が淡々と記されていく。
脚色や演出が極力排除されることで、手に汗握る展開こそないが、狂気じみた感覚がじわじわと押し寄せてくる怖さがあった。
ナチスドイツの親衛隊将校、アイヒマンと一見似ている様にも見えるが、それとはまた違う非凡さ、凡庸さの二面性を石井四郎にみることができると思う。
正直、これまでは731部隊やGHQ占領下の日本についての知識はゼロに等しかったが、本書の内容は歴史認識を深める意味で大変な良書だったと思う。
ただ、本文がめちゃくちゃ長いので根気は必要。
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面白いルポルタージュとは、雑多な資料を一度自身の中で咀嚼し、重要で外せないなものだけを時系列につなぎあわせることで、内容のスリム化を図り、論点をわかりやすく読者に提供することにある。本書では、すべての手持ち資料を残さず使い切ったために、エンタメ性を犠牲にし、それ故に正確な研究取材となっている。この辺の好みは分かれそう。
石井部隊の残党が、ミドリ十字を興し(前身の日本ブラッドバンクはGHQ主導だった)、その後の薬害エイズ問題を引き起こしたのは、人命を軽視するマッドサイエンティストの遺伝子を立派に引き継いだともいえよう。
そして、戦争に乗じ科学の発展を隠れ蓑にした人体実験に手を染めた事実があるなら断罪されるべきだが(実際にははっきりしない)、考えてみれば、大量殺りく兵器である原爆の2度の投下、非戦闘員である民間人を狙った東京大空襲、沖縄戦における毒ガス使用など非人道的な戦闘行為を行った米国に日本人を裁く資格があったのかという点も問われるべきであろう。
731部隊(しちさんいちぶたい)は、第二次世界大戦期の大日本帝国陸軍に存在した研究機関のひとつ。正式名称は関東軍防疫給水部本部で、731部隊の名は、その秘匿名称(通称号)である満州第七三一部隊の略。このような通称号は日本陸軍の全部隊に付与されていた。初代部隊長の石井四郎(陸軍軍医中将)にちなんで石井部隊とも呼ばれる。
満州に拠点をおいて、防疫給水の名のとおり兵士の感染症予防や、そのための衛生的な給水体制の研究を主任務とすると同時に、細菌戦に使用する生物兵器の研究・開発機関でもあった。そのために人体実験生物兵器の実戦的使用を行っていた。 細菌戦研究機関だったとする論者の中でも、その中核的存在であったとする見方がある一方で、陸軍軍医学校を中核とし、登戸研究所等の周辺研究機関をネットワーク化した特殊兵器の研究・開発のための実験・実戦部門の一部であったという見方も存在する。
731部隊では、生物兵器の開発や治療法の研究などの目的で、本人の同意に基づかない不当な人体実験も行われていたとする説がある。 人体実験が行われていたとする説によると、被験者とされたのは捕虜やスパイ容疑者として拘束された朝鮮人、中国人、モンゴル人、アメリカ人、ロシア人等で、「マルタ(丸太)」の隠語で呼称されていたという。その人数は、終戦後にソ連が行ったハバロフスク裁判での川島清軍医少将(731部隊第4部長)の証言によると3,000人以上とされるが、ハバロフスク裁判では石井四郎中将が無罪とされているため証言の信用性は疑問である。犠牲者の人数についてはもっと少ないとする者もあり、解剖班に関わったとする胡桃沢正邦技手は多くても700 - 800人とし、別に年に100人程度で総数1000人未満という推定もある。終戦時には、生存していた40-50人の「マルタ」が証拠隠滅のために殺害されたという。
こうした非人道的な人体実験が行われていたとする主たる根拠は、元部隊員など関係者の証言である。例えば、元731部隊員で中国帰還者連絡会(中帰連)会員の篠塚良雄は、当時14歳の少年隊員として「防疫給水部」というところに配属され、細菌を生きている人へ移すという人��実験を行ったことを、2007年にアメリカ、イギリス、中国などの歴史番組のインタビューで答えた。篠塚は、当時若かった自分の罪を悔やんでいるとして、2007年には中国のハルピンへ行き、遺族や被害者に謝罪をしている。ただし、中帰連関係者などの証言については、撫順戦犯管理所での「教育」によって「大日本帝国による侵略行為と自己の罪悪行為」を全面的に否定(自己批判)させられた者の証言であることから、信憑性を疑問視する見方もある。また、篠塚の証言に関しては、731部隊には少年隊は存在しなかったとして疑問視する見解もある。
人体実験に関わる部隊の活動や証言を裏付ける文献資料はほとんど確認されていない。近年になり731部隊関係の米国の公文書が機密指定解除されたため調査が行われたが、その中からは非人道的な実験が行われた記録は発見されなかった。ニューヨーク在住のノンフィクション作家である青木冨貴子によって石井四郎が終戦後に書いた手記が発見されており、それには戦後の石井の行動の克明な記録に加えて、戦時中の行動に関しても相当量が記載されていたが、その中にも非人道的な活動を明示する内容は無かった。 また、森村誠一『続・悪魔の飽食』などに「731部隊によって生体解剖される中国人の犠牲者」として紹介された写真は、『山東省動乱記念写真帖』(青島新報、1928年)に掲載された済南事件被害者の検死中の写真であり、731部隊とは無関係であった。
(ウィキペディア)
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青木冨貴子(1948年~)氏は、東京神田神保町生まれ、成城大学経済学部卒、出版社勤務後、ノンフィクション・ライターに転じる。1984年に渡米し、「ニューズウィーク日本版」ニューヨーク支局長を3年間務めた後、フリーランスで執筆を続ける。1987年に米作家の故ピート・ハミルと結婚。ニューヨーク在住。
本書題名の「731」とは、太平洋戦争期に帝国陸軍に存在した研究機関の一つである関東軍防疫給水部本部(731部隊)のことで、満州のハルビンに置かれ、兵士の感染症予防や衛生的な給水体制の研究を(主)任務とする一方、細菌兵器の研究開発を行い、人体実験や実戦的使用も行っていたと言われている。
本書は、731部隊の隊長・石井四郎(1892~1959年)が、東京裁判で戦犯容疑を問われながら、なぜ訴追を免れ、戦後まで生き延びることができたのかを、膨大な資料と、当時の石井を知る関係者や部隊の生存者らへの取材、更に、取材中に新たに発見された石井が終戦直後に書いた直筆の手記等をもとに、解き明かしたノンフィクションである。尚、戦争中の731部隊の所業については、取材の内容としては出てくるが、その全体像を描いているわけではない。
私は、太平洋戦争に関して、これまで、東南アジアや南洋での戦い、特攻、原爆の投下、満州からの撤退とシベリア抑留等、多数のテーマの本を読んできたし、日本が細菌兵器の研究開発を行っていた(らしい)ことも知ってはいたが、731部隊に関する本を読むのは初めてである。(そういう意味では、まず731部隊の所業について書かれたものを読むべきだったのかも知れないが、本書はたまたま新古書店で目にして入手した)
読了した感想としては、驚きもあったが、それよりも「然もありなん宜なるかな」という印象の方が強かった。石井及び731部隊員は、何とかして戦犯として裁かれること(そうなれば極刑は免れない)を逃れたいと考え、一方のGHQは、既に戦後の東西冷戦をにらんで、人体実験を含む研究データを独占的に入手したいと考える。その両者の利害が一致したことにより、研究データを渡す代わりに、戦争犯罪は問わないという取引が成立したわけだが、功利的な、また、非常にアメリカ的なアイデアだったとは言えるだろう。戦争が終わった時点では、石井はおそらくこのようなシナリオは考えていなかったはずだ。
本書から、個人的には2つの示唆が得られたような気がする。一つは、国家間の対立・戦争においては、普遍的な正義やタブーというのはほとんど存在しないということである。アメリカは、太平洋戦争終戦からほどなくして旧ソ連と軍事衝突する朝鮮戦争で、731部隊の研究開発をもとにした生物兵器を使用したと言われているし、近年のロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルによるガザへの攻撃を取り巻く、各国の動きを見ても、何一つ変わってはいない。
そしてもう一つは、戦争は人を変えるということである。著者も書いている通り、戦後の石井は、驚くほど普通で平凡で小心な小市民である。また、佐藤優の解説によれば、太平洋戦争後、アルゼンチンに潜伏していたところを、イスラエルのモサドに捕らえられ、絞首刑にされた、元ナチス将校のアドルフ・アイヒマンも、「少しだけ上��志向の強い、家庭の良き父親」だったという。しかし、戦争は、そうした良い人間、優しい人間、気の弱い人間が巨悪に手を染める環境を作るのだ。
731部隊の所業を明らかにし、同じようなことが二度と起こらないようにすべきと言うのは、(ある意味)簡単である。もう一歩進んで考えてみるために、一助となる力作ではないだろうか。
(2024年5月了)