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小川洋子さんの新作短編集。…正直なところ、どんなお話でも端正な文章から予想もつかない静かで豊かな世界が広まっていきそれが例外なく素敵なので、読むのになんの不安もなく、ひたすらに楽しみに新作を待てる作家さんのひとりです。
今回の短編集も、現代のようで現代でない、ふつうのようでふつうでない出来事をひとつひとつすくいあげて描かれたお話はどれも切なげな余韻を伴い、そのどこにもない空想の世界に浸れる幸せを味わえました。
今回の話では、「亡き王女のための刺繍」の懐深いやさしさ、「盲腸線の秘密」の二人の孫と子の絆、「仮名の作家」のおかしくも哀しくもある傾倒ぶり、それらのお話の人々の心の揺らぎや信念がとても好きだなあと思いました。
少年の登場が多くて、いつもよりもみずみずしさというか、動きのあるお話が多いようにも感じました。そういう意味では、小川さんのお話を初めて読む人にも向いているかも、と感じました。
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短編8編。隠れた人たちの息づかいが聞こえてくる。装丁も素敵。吃音の僕の声を回収している先回りローバ。6日分の空白に、僕の声は囚われている。/かわいそうなことをノートに書いて集める少年。/海外で迷子になっている間、僕は聖堂の浮彫の人々を眺めていた。/彼女はミスターM Mの小説を全て暗記している。架空のシーンを M Mに質問し、二人の世界に浸る。/脱衣所で赤ちゃんを預かる小母さんは、赤ちゃんにしか聞こえない口笛を吹く。
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小川洋子さんのプロとしてのゆるぎない文章力で
不思議な世界へ誘われる
八編の短編集
どの世界も静謐で不思議で、でも優しさに満ちている
物語を読む喜びを味わわせてくれる
表紙の白鳥が語ってくれるようだ
≪ 境界は 意味をもたない この世界 ≫
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なぜこの本を読もうと思ったのか思い出せないけれど…
どの話もうっかり迷い混んでしまったかのような、斜めの世界の話。
ぼんやりとしたモノクロに一滴、一瞬鮮明な色が滲むような。
読後は良くはないです。
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小川さんの感性に浸るのが好き。文章には声があるって話、なるほどなあと思いました。ただそのお話のラストはちょっと悲しかったので、☆は4つ。
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【収録作品】先回りローバ/亡き王女のための刺繡/かわいそうなこと/一つの歌を分け合う/乳歯/仮名の作家/盲腸線の秘密/口笛の上手な白雪姫
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うーん。ツルンと読んでしまった。実は色々とメタファななってたりするのかもしれないけど、残念ながら読み取れなかった。「仮名の作家」の、パラノイアな一愛読者が印象的だったかな。「ミザリー」よ、「ミザリー」!
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◆ 心を優しく震わす物語◆
美しく、静謐な言葉で紡がれる短編集。
吃音の少年が発することの出来なかった言葉を拾い集める小さな老婆や、とある劇場で死んだ息子と再会した母親、赤ん坊にだけ聞こえる口笛を吹く小母さん…。
どこか切ないお話が多いのですが、その透明感に心を打たれます。また、それらの物語と調和した、白く繊細な表紙も美しいです。
表紙を見て惹かれた方は、ぜひ手に取って読んでみてください。
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『名前に冠されたよだれをはじめ、ミルク、重湯、すり潰した青菜、果汁、ふやけたパン、裏ごしした黄身、胃液、鼻血』―『亡き王女のための刺繍』
小川洋子の文章に漂う不穏さは、虚構であると解っていても、ぽっかりと開いた口に引き摺り込まれそうになる引力がある。プールの縁を歩いていると必ず現れる水面に映る異界のもの。覗き込んではいけないと言い聞かせても無意識の内に身を乗り出して見つめる世界。何故か懐かしい薄暗さ。水面下の世界の息苦しさと解放感。そのないまぜ。妖しい不穏さ。
現実に側に居たら近づきたいとは思えないような登場人物が醸し出す雰囲気は、不思議と嫌悪感とは結びつかない。それは何処までも純粋で、ある意味無垢だから。子供のような純真さ、と人は肯定的に喩えるけれど、妥協することが前提となっている世界にその純真は安住する場所を持たない。それは社会が淀みなく動いていく為にはむしろ邪魔な存在と見做される。
それで本当にいいの?
小川洋子の小説はどれもこれもそう問い掛ける。博士の愛した数式も、密やかな結晶も、琥珀のまたたきも。
それに正面から応える勇気は持っていない。小川洋子が描きだす主人公に比べたら誤魔化してばかりの人生だ。一つ違いの小説家の新作は、いつも時代によって刻まれた古傷に塩を塗られるような印象が残る。物語的な語り口で糖衣しながら、いつの間にかこちらを異界に誘い込み、嗚呼この感じこそ小川洋子だなどと軽薄なことを呟いていると、滝壷に落ちいって二度とお天道様を拝めない。あの薄い唇が作るシニカルな微笑みが身体的痛みを連想させ、空恐ろしさがじわじわと沁み渡る。
表題となった短篇はどこまでも隠喩的。最早存在が稀有となった番台のある銭湯とそこに巣食う年齢不詳の小母さん。壁に描かれる森の深さと濡れ縁の直ぐ先の現実(?)の仄暗い藪。そこに建つとされる七人の小人の住処のような小屋。そこから連想される世界に誰もが郷愁を覚える。
赤ん坊の記憶は失われたかのようで手の届かぬ処に保管されている。しかし逆説的に、子供にしか見えない世界への入り口はその失われた記憶の導く手掛かり無しには見いだせない。一点を見つめ足早に歩みを進めていては見つからない。ふらふらと余所見をしながら千鳥足気味に進む時、ふと傍らに見出す異界への入り口。「ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね」。あの作家の言葉がピアニッシモでずしりと胸の奥に響く。取り返しのつかない世界への憧憬。
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本作の登場人物たち・・それは他著作に登場する人物にも通ずる特色でもあるのだけれど、かれらは巧く人生(あるいは架せられた運命)と折り合いをつけて恭しく(細心に)日々を営んでいる。そこに身を置く確かなさま、強さ柔軟さに心惹かれてきた。
ただ本書では表題作や「仮面の作家」など、これまでつつましやかに生活するその佇まいの美しさをとらえてきた諸作(それらの登場人物たち)とは気配が異なるもので、特に後者の人物は終盤にかけてファナティックな妄想の昂進を露わにする。
ただ並ぶ作品にあって異様さ際立つが作品の質感としては異色(異質)な作ではないと思う。密度を感じさせるすぐれた作品集であった。
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どんな魅力を持つ本なのか人に説明するのはとても難しいのだけれど好き、という本があって、小川さんの本も大概そう。他人とは共有しにくいけれど、個人の箱庭の中では圧倒的な力を発揮するきらめきのようなものがあって、それを文章で体感させてくれる。美しいけれど残酷で、文章世界を一歩離れてしまうと不可解で飲みこめなくなる。次作も楽しみに待ちたい。
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独立短編集。表題の作は巻末に掲載。
全編、会話より主人公の心理描写に大きく比重が取られている。割と現実的な狂気を描いた作品もあって迫力。
表題作はファンタジックな締めとなって読後感を重過ぎないようにしてくれている。
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タイトルに「白雪姫」とあるせいか、
1本1本が童話のような雰囲気。
もしくは風刺画か?
そこはかとなく不気味な、
でも生々しい現実を感じさせない
不思議な短編ばかりだった。
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小川洋子さんの言葉選びが秀逸な短編集。
「人質の朗読会」にも似てますね。
人間の心のひだをたぐるような、
そして、ただちょっとだけ後味の悪さも残しています。
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「先回りローバ」「亡き王女のための刺繡」「かわいそうなこと」「一つの歌を分け合う」「乳歯」「仮名の作家」「盲腸線の秘密」「口笛の上手な白雪姫」の8編。
小川さんの短編の世界は、曇天の中と言った雰囲気のものが多いのですが、この短編集は少し薄明かりが差している感じです。そしていつもより少し暖かい。
とは言え、何を書いても小川さん。端正な文章で綴られ、不思議な静寂感を持ち、幻想的。好きな人にとってはたまらないけれど、受け入れられない人も居るでしょうね。