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ミステリーの結末は冷静に受け止められたが、幼い蒼太が母親の態度に途方に暮れ自分を責め流す涙に胸の痛みはズキズキするばかり。子どもが一番欲するのは親から愛されること、そんな単純なことが伝わらないのはなんてもどかしく哀しいことか。
母親の背景にも追いつめられることが何かあったのだろうと推測してしまうが、それを敢えて書かないところを評価したい。もし明かされていたら読者は彼女の大人の事情に気持ちを寄せ、“気まぐれな虐待”をされた側が抱える苦しみや悲しみの深刻さが薄らいでしまうと思うから。親の責任の重さを痛感する。
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最初はごく普通の恋愛小説みたいな出だしだったが、徐々に蒼汰の子供のころの様子などがわかっていき。。。というお話。一気読みしてしまった。
育ってきた環境って大事だなあ、というのが感想。
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introduction───
仕事に慣れた今でも、朝は苦手だった。顔を洗って着替えもすませたのに、まだ頭がぼんやりしている。だから、桃里が言ったことをすぐには理解できなかった。
「びっくり。そーたかと思った」
そーたというのはおれのことだ。乾蒼太という名前なのだが、桃里は「そうた」ではなく、中を伸ばして「そーた」と呼ぶ。
─────────
2019年1冊目。
漂う不穏な空気に引き込まれて一気に読み終えた。特に大きな出来事が起こるわけではない。むしろ非正規雇用カップルのぱっとしない日常が淡々と綴られているのにも関わらず、序盤から蒼太の不安定さが見え隠れして目が離せなかった。
凍花にとてもよく似ていると思う。
天真爛漫で物事を表面的にしか捉えられない桃里は柚香だし、不器用で完璧主義で他人の視線に敏感すぎる蒼太は百合だ。
斉木香津は世の中にうまく適応できない閉塞感や劣等感の心理描写が本当に巧い。
本書は「支配」と「支配への抗い」の物語だと解説されていたけれど、私には、切実で懸命な「自己の確立」の物語だと感じられた(「支配への抗い」と根底で同義なのかもしれないけれど)
殺したいわけじゃない。
殺したかったわけじゃない。
相手が殺意を抱かせずにいてくれれば殺さなくてすんだのに。
悪いのは自分じゃない。
自分は母の機嫌をそこねる悪い子なんだと思いながら生きてきたはずなのに、それともそう思い続けてきたからこそなのか、大事な場面ではあっさり他者に責任転嫁する。
そうしていっさい悪びれない思考が、近年の無差別殺人事件の犯人たちと共通するようで胸が痛くなった。
蒼太が決定的に壊れた瞬間。
それは母の死後、せめて父と向き合おうとした彼に、「お母さん、だいぶ前からおかしかったよな」という父の一言が放たれたときだっただろう。そのあとに続く怒濤のような堂々巡りの思考から蒼太の混乱が手に取るように伝わる。
中盤まで母子家庭なのかと思っていたほど、一貫して父親の存在感は希薄だった。「だいぶ前からおかしかったよな」というあの言葉は、蒼太への関心のなさを決定づけるひどく残酷な一言だ。
幻の霙(みぞれ)
桃里も蒼太もそれぞれお互いにとって都合のいい幻想をみていただけ。
タイトルの付け方まで秀逸。
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派遣の仕事で行った倉庫で知り合った蒼太と桃里は会ったその日から一緒に暮らしている。蒼太目線の「Blue」の章と桃里目線の「Pink」の章が交互に綴られる物語は、二人の一見平穏な日常を描きながら、どこかざらついた印象がぬぐいきれない。
蒼太が幼い頃から母から受けた仕打ちが徐々に明らかになるとき、それが無差別殺傷事件を起こした犯人の境遇と重ね合わさり、何かが起こりそうな不穏さに読むのをやめられない。
当初は、穏やかで気配りのできる優男の印象だった蒼太が、章が進むごとに違う一面を見せるその過程が同じ斉木さんの作品である「凍花」を彷彿とさせる。
どこか狂気じみた母親からの虐待ともいえる仕打ち、父親の無関心にさらされた蒼太は母の支配から逃れられたのか・・・この作品には、蒼太の再生も心の闇からの解放もない。あるのは、ただ冷たく乾いた空虚のみである。それがまたいい。
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恋人同士の「蒼太」「桃里」の2人の視点で交互に綴られる物語。
というと恋愛小説のようだが、全く違う。
そもそもの物語の始まりが、桃里が、連続殺人事件の犯人を見て、「そーたに似てる」と言い出すところから始まるのだから、不穏。
一応叙述トリックはあるもののすぐに見抜ける種類のものなので、「ミステリ」と言い切るには弱い。
心理描写や登場人物の行動原理については「凍花」よりも納得できる部分が多く、個人的にはこちらの方が好み。
あの母の振る舞いの描写にやけにリアリティがあるなと思ったら、この作品は著者が「小学校の高学年になったぐらいから、母のことをどう書けば知らない人にも理解してもらえるんだろうと考えはじめて、何十年も経って小説という作り話に辿り着」いた作品と知った。
なるほどなと思うと同時に、胸が苦しくなった。
蒼太も著者のように、作品に昇華するような、自身にかけられた「呪い」から逃れられる方法があったんじゃないだろうか。
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どこにでも居そうな今時のふたり。
派遣先で出会いすぐに同棲。
何気ない会話をきっかけにどんどん危うい方向へと向かっていく。
彼の過去がわかるにつれて怖くなっていく。
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彼女が、殺人犯を見て彼に似ていると言ったことから
物語が始まる
彼はその一言がずっと気になり・・・
読み進むごとに彼がおかしくなっていく
そんな感じでした
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終盤明かされる真相に新味はないが、やはり切ない。女のコのちょっとイラッとさせる感じとかは、うまいなあ。