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働けど働けど将来に希望が見えない3Kの職業に就いている地方に住む日南と海斗。彼らの世界はとても狭く目の前にはいつも「死」がある。彼らの住む町にも「死」のにおいが濃く漂う樹海がある。
「そんな中で何が楽しくて生きているんだ」と問う都会から来た女。その夫との恋によって外へ外へと向かう日南の心と身体。残される海斗。
いくつも繰り返される対比。生と死。妻と愛人。老人と子供。幸と不幸。都会と地方。未来と過去。やるせない関係性の中で自分の気持ちを見失う日南と海斗。どこまで行っても平行線なのか。
窪美澄の小説にはどうしようもない人間ではなく、人間のどうしようもなさ、が描かれている。こうなるしかなかったんだ、と最後の最後に思う。彼らがもう一度人生をやり直せることがあったとして。やはりおなじ人生を選ぶんじゃないか、と思う。男と女が出会い、どうしようもない渦に巻き込まれていくその様に強く共感した。
誰かにそばにいてほしいと思うこと、そばにいてほしい誰かに手を伸ばすこと、伸ばした手を握り返してもらえること。今の私は何に、誰に手を伸ばすのか。誰の手を握るのか。
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2021.06.12.読了
なかなか良い作品だった。
登場人物がかわるがわる語り手となって4〜5年の歳月を進む。
ひとりひとりの語り手の気持ちが知りたくてページを捲る手が止まらない。
本当の悪人なんていない。本当に強い人なんていない。みんな、弱くて強くて優しくて冷めてる。
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「はたらけどはたらけど、、」、タイトルから啄木の歌を思い浮かべながら読み始めた。
都会と地方、光と影の関係での対比。
地方の閉塞感を表現するのに、ワーキングプア、シングルマザー、大型ショッピングセンター(のフードコート)、ユニクロ(で買った服)、介護職などが田舎くささとして描かれているようで、ひっかかる。主人公たちが働く介護の現場もリアルにみえてリアルでないような。
期待はずれというわけではないし、ストーリーを楽しめなかったわけでもないけど、そんなところがなんとなくこの作品と距離ができしまった理由なのかなと思う。
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大切な人を、帰るべき場所を、私たちはいつも見失う――。
富士山を望む町で介護士として働く日奈と海斗。
恋人同士の二人だけど、その関係は危うい。
老人の世話をし、ショッピングモールだけが息抜きの日奈だったが、ある時知り合った、東京に住む宮澤との不倫関係に溺れるようになり、生まれ育った町以外に思いを馳せるようになる。
一方、海斗は、日奈への思いを断ち切れぬまま、年上のシングルマザーである同僚の畑中との関係を深め、家族を支えるためにこの町に縛りつけられるが……。
主体性があるような、ないような、日奈みたいな女性は、同姓には嫌われそうな気がするけど、男性はこういう女性を好んで、執着したりするのか―もねー?
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窪美澄さんの著作、なにを読んでも後から後から涙が止まらない…「人の心に寄り添う」ことをこんなに徹底して書かれている方、ほかにはいないんじゃなかろうかという気さえしてしまう
介護士として働く日奈と海斗と、その2人の周りをめぐる恋愛模様や命について書かれている(ざっくり…)
日奈と海斗にくわえ、宮澤と畑中のこれまで生きてきた背景や感情の機微なども、かなり深い位置で描かれていて私には耐えきれなかった。多分痛めつけられないように生きていくならば、無視しなければいけないような感情の動きとか、もう、もう〜〜、、となりました(語彙力)
ゆらゆら生きている人間が強いかと思えばそうではなく、結局は海斗のように、ぶれずに、誠実にまっすぐに生きている人間の元に、根無し草のような人間は頼るしかない、その人間の手を取ってでしかゆらゆら生きていくことはできないんですね…
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未来の見えない看護の過酷な現場で働く若者たちが主人公。希望も夢もない毎日。将来に一筋の明かりもなく、ただただ毎日がどんよりと過ぎて行く。
そこで生まれる恋愛は絶望的で悲しい。愛することにすがり、そして裏切られる。
鬱々とした閉塞感を描く佳作。
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人はひとりで生まれひとりで死んでいくのに、生きている間は誰かに頼りたくなるのかもしれない。お金や心の問題があればなおさら。でもさ、自分たちだけが良ければいい、というのは好きではない。少しくらい周囲のことを考えてくれてもいいのにと思う。そうでないと、なんであたし/僕が…と傷つく人が出てしまう。傷つくことがあるのも仕方ないことかもしれないけれど、多少たりとも防げるのなら、その配慮をね〜。
周囲のことなんてどうでもいいや、と我を忘れることもときには必要なのか?
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富士山のある町で、介護士として働く若者たちの10年程を描いた作品。
明るい未来などなくてもただただ仕事をし、時間が過ぎて老いていく。
リアルで、残酷。
淡々としているのに、苦しくてもどかしい、でも本人達に意思はある。
窪さんは、なすすべもない状況で生きていく人を書くのが本当に上手い。
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富士山が見える街を舞台にした物語。だが、この物語に纏う空気は、青い空を背景に壮大に富士山がそびえる姿ではなく、薄曇りの空に重しをしたように存在する富士山が見下ろす街という風景を想像させた。
地方出身・在住者なら必ずどこかで感じたことがあるだろう閉塞感と都会(的な人・もの)への憧れ、この街で生きていくために手放さなきゃならないもの、手にしなきゃいけないもの、つい頼ってしまうもの。地方から都会へ出て再び戻った我が身にも、心に沁みるものがあった。自ら選び取った頼れる場所がある、頼れる人がいる、それが生きる希望となって、自分を生かしてくれるのだろう。
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介護士の仕事のこと相当リサーチしたんだろうな…まるでその仕事に従事したことがあるようなリアリティだった。
特養で働く日奈、同じ介護士で将来はケアマネ、お金を貯めて大学行って社会福祉士を目指している幼馴染の海斗。
東京のプロデューサーとして知り合う宮崎と資産家の妻。
一時期、宮崎と恋愛関になり追いかけて同棲するも別れる。
奔放な(男にだらしない)バツイチの介護士の真弓(息子は発達障害)海斗と同棲したのち別れる。
著者の小説は市井の人たちの地に足がついたほんとに地味な日常を描いているんだけど、いつも根底には”人間賛歌”が流れていて
読後感は”人生、捨てたもんじゃない”と思わせてくれる。
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窪美澄作品の魅力は、人とが人を思い、人と寄り添い、そして離れていく流れにあるそれぞれの「自分」との向き合い方を描いているところだと思う。
自分が男性であることを鑑みても、海斗と宮澤の気持ちはそれぞれに理解できた。
そして、日奈と畑中がそれぞれに海斗を疎ましく感じる部分にも、読みながら胸の痛みを感じる。強い愛情を示されたとき、親子ではない限り人はなかなかそれを受け入れられない。それどこか相手の気持ちに嫌悪感すら覚えてしまう。海斗には確かに独りよがりな部分があるのだが、彼自身がもつ強い博愛の精神がそうさせるのであり、あくまでも自然に行えるとができる。あまりにも当然のように愛を与える海斗に女たちは負い目を感じていく。
その反対に、相手にしっかりと向き合えない宮澤に執着する日奈と仁美。宮澤は選んだのではなく、選択肢がなかったのだ。彼は自分を愛してくれる誰かだけではなく、自分自身とも向き合うことができなかった。しかしまた、彼のような男の気持ちも自分の中に少しは存在していることに気がつかされる。
女たちは自分で何かを選択しながら人生を切り開き、男たちは女に寄り添いながら自らの生きる道を探し続ける。
人は決して強くない。誰かとともに生きることで自分が生かされていく。
そこに身を委ねるのか、自らの命を賭けていくのか、それもまた人それぞれである。
願わくば、誰かを思い、誰かのために努めることを認められる生き方をしたい。
心からそう思わさられた一作である。
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好きとか、一緒にいたいとか、今は別の誰かを好きだとか、でもいつも気づいたら頼っていたりとか、登場人物かある意味自分に正直すぎて切ない感じが、じんじんした。
海斗がなにげに一番いいやつ。将来は子どもに関わりたいとか。
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「できることが増えていくのが成長で、できないことが増えていくのが老化なんだ」って、身につまされる歳になってきた。じっと手を見る。手の平より、手の甲を見るのが嫌いだ。甲には如実に老化が現れる。それはそれとして、無謀だろうと儚かろうと、若者たちにはいくらか背伸びして夢を抱いて欲しい。慎ましく奥ゆかしいというより、自己否定して時々に他者にすがっては離れる彼らが虚しい。仲間どころか我が子にも愛情を注げない彼らに、いつかは介護されるんかなぁ。
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介護士の仕事と、富士山と、ショッピングモールしかない田舎の町で、自分の居場所を探しつづける男と女。
よるべない夜を幾度も繰返してもなお、その寂しさから救い出してくれる誰かを求めるのは人の性なのか。
登場人物が圧倒的なリアリティーをもって描かれ、生きて行くことの哀しさとやるせなさが胸を塞ぐ。
感情を麻痺させなければ前に進めず、心の中の冷えた塊を無視し続けた結果、泣くことも出来なくなった海斗が、大きな穴が自分の中に空いていることに気付き、もう、誰とも深く関わりたくないと思う日奈が哀しくてたまらない。
それでも、「そばにいてほしい」と言えたところに二人の希望があると思いたい。
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富士山が当たり前に見える町で介護士として生きる日奈と海斗.未来を諦めたような閉塞感の漂う町や人々を,主として『愛する」ことを軸に,語り手の視点を変えながら描く,抜け出そうとする人の人生に幸あれと思いつつ,抜け出せずまた戻って来た日奈に,諦めとは違った静かな未来が見えて小説は終わる.基調は暗いけれど,読後感は悪くない.ただ,介護の現場は大変だと思った.