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紙の本
新婚二年目の若妻が三年振りに再会した元カレの一夜妻となる
2016/01/13 22:44
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:DSK - この投稿者のレビュー一覧を見る
前作にしてデビュー作『マンツーマンレッスン-熟妻と青年家庭教師』から実に4年4ヶ月振りの2作目である。物語としては全く別物ながら実質的な登場人物がヒロインと主人公の2人だけだったり、詩的な心情描写でリピートを多用する文体などに前作との共通性を見ることができる。似て非なるもやっぱりどこか似ているところに作者らしさを残しながら、前作では弱かった官能面を一夜物語にすることで大幅に改善した内容とも言える。夜10:05のチェックインから翌朝9:54のチェックアウトまで、途中でうたた寝を挟みながらも10時間49分の夜通しセックス三昧である。
急に帰れなくなって宿を探す冒頭から奇跡的な偶然で元カレが現れるまではやや都合の良い巡り合わせにも思えるが、これもまた運命ということなのであろう。嫌いになった訳ではない、好き過ぎて、そして体の相性が良過ぎて将来に不安を覚えたために別れた2人ということなので、同衾すればスグに全開フルスロットルである。そして、最初から最後まで若妻ヒロイン(30歳)の独白的心情描写で綴られていく。
混浴の露天風呂に一度移動するのを除けば室内のみで繰り広げられる2人の営みをヒロインの心情とお互いの台詞のみで進めていく難しさの中で、運命的な再会に喜びながらも夫へのうしろめたさを憂う序盤から夫の存在を忘れるほどのめりにのめり込む歓喜の中盤、そして深夜に突然送られてきた夫からのメールで再び夫への背徳を懊悩する終盤を経て、別れの実感から悲しみを隠し切れない翌朝へと、ヒロインの心持ちを次第に変化させているのは秀逸と言える。そして、こうした心の移ろいは全て淫らな欲望へと昇華されていく。一晩限りの、最初で最後の夜だからこそ燃える、燃え盛る淫らな肉欲に拍車をかけている。
同じ台詞や文章の繰り返しが当初はやや鼻につくものの時期に慣れてくるし、作者もコツを覚えたのか、その反復表現が次第に上手くなっているようにも写る。
そんな情交描写ばかりの中でクライマックスと言えるのは深夜に届いた夫からのメールであろう。忘れかけていた夫への憂いが喚起される中で主人公から促されて「擬似3P」へと発展していくいやらさしさは本作の白眉である。テレフォンセックスとリアルセックスを融合したアイデアは、その目新しさにおいて素晴らしく、離れていながら夫と主人公を同時に相手している感覚に陥るヒロインが、これを(不意の外泊で独りにさせている)夫のためと言い訳しながら、より一層の痴態を晒す瞬間でもある。
夫ある身の人妻が元カレと再会し、それでもなお夫への愛は失っていないとするならば、いくら運命の再会と思えども実情は偶然の一夜でもあることから、その行末は水泡のごとき刹那である。本作の結末もその流れにある。心の中では未練タラタラなるも自然に振る舞おうとするチェックアウトから出立の瞬間は切なさを湛えたものであるが、こうした結果を分かっていながら、その最後の瞬間まで2人の世界に耽溺しようとする作風から2005年の作品『家庭教師・美咲-年上個人授業』(著:弓月誠、フランス書院文庫)にどことなく似たテイストを感じたことも果たして偶然なのであろうか。
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