紙の本
初心者でもわかりやすい
2021/10/10 12:58
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投稿者:トリコ - この投稿者のレビュー一覧を見る
・図書館で借りて読んだけれど
・「買って読むべき本だった」と思いました。
・初歩的用語にも必ず明快な解説がつく。
・同著者の『中東政治入門』(ちくま新書)は買って読みます。(岩波さんすみません)
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【「もう1つ」の解答と見なされて】近代に入り中東世界が揺さぶられる中で芽吹き,政治にイスラームを反映させることを試みてきたイスラーム主義。この考え方を様々な形を取るものとして捉え,その変遷をたどった作品です。著者は,比較政治学についての共著作品も手がけている末近浩太。
著者自身も記していますが,イスラームまたは中東政治についての日本語の書籍が数多くある一方,イスラーム主義については手に取ることができる作品の数が限られていたため,その入門として非常に魅力的な一冊でした。聞き知った歴史や出来事も,イスラーム主義の窓を通して見ると,また異なった意味合いが浮かび上がることが再確認できるかと。
〜中東の民主化,あるいはイスラームと民主主義の関係をめぐる「最適解」は最初から決まっているわけではなく,そこで暮らす人びとが主体となって時間と労力をかけて見つけていく必要がある。〜
抵抗感なく読める分量も魅力的☆5つ
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20190527-0618 バランスよく解説された良書。2010年の「アラブの春」をきっかけに。長い封印から解き放たれた政治と宗教の関係、という古くて新しい問いに、イスラム諸国(主に中東・北アフリカか)は向き合っている。その問いに対する答えの一つが、イスラームの教えを政治に反映させるという「イスラーム主義」だった。と筆者は説く。オスマン帝国崩壊後、「あるべき秩序」の模索が今も続く中東で、イスラム主義が果たしてきた役割について、社会科学・人文科学双方のアプローチから、わかりやすく解説している。「イスラーム主義」について、前近代的なものと切り捨てるのではなく現代思想の一つとして読み解いていきたいな、と思った。
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「イスラーム主義」末近浩太著、岩波新書、2018.01.19
234p ¥907 C0231 (2023.12.08読了)(2023.12.06借入)
副題「もう一つの近代を構想する」
近代化とは、基本的人権の尊重と民主政治などが含まれると思いますが、イスラームを信じる方々は、すべてを神にゆだねる生活を望んでいます。イスラームを信じるとは、生活のすべてを神の定めた掟に従うということのようです。
イランでは、イスラームに基づいた政治が行われています。国民に支持されているのでしょう。アフガニスタンは、タリバンが主導していますが、国民に支持されてできた政権とは思えません。部族主体の寄り集まりなのでしょうから統一国家としては、難しい知己なのでしょう。エジプトは、イスラーム政権ができ掛かりましたが、つぶされてしまいました。イスラームを表に出さずに、国民に寄り添う政策で、じっくり実績を積んでゆくべきだったのでしょう。トルコのエルドアン大統領のように。
【目次】
はじめに
第1章 イスラーム主義とは何か
第2章 長い帝国崩壊の過程
第3章 イスラーム主義の誕生
第4章 イスラーム主義運動の登場
第5章 イラン・イスラーム革命の衝撃
第6章 ジハード主義者の系譜
第7章 イスラーム主義政権の盛衰
終章 もう一つの近代を構想する
あとがき
主要参考文献
●イスラーム主義(ⅲ頁)
今日の中東では、イスラームを政治に反映させようとする声が高まっている。
こうしたイスラームに立脚した社会変革や国家建設を求める政治的なイデオロギーを、「イスラーム主義」という。
●「法学者の統治」論(73頁)
「法学者の統治」論とは、二十世紀の代表的なシーア派のウラマー(イスラーム法学者)に共通した政治思想であり、「ウラマーが自ら主導して社会を運営すべきである」とする理論のことである。これは、「ウラマーはあくまでイスラーム法の番人であり、統治者とは一線を画すべきである」としてきた伝統的なスンナ派のイスラーム政治思想とは異なる考え方であった。
●ハマース(117頁)
ハマースは、1987年、パレスチナのヨルダン川西岸・ガザ地区で勃発した第一次インティファーダ(民衆蜂起)の際、ムスリム同胞団パレスチナ支部の軍事部門として創設された。その目的は、イスラエルによる占領に対する抵抗であった。ハマースとは、「パレスチナにおけるイスラーム抵抗運動」のアラビア語の各文字を拾って作られた略称であり、「熱情」を意味する。
●ジハード主義者(146頁)
「過激」なイスラーム主義者、すなわち、ジハード主義者は、1960年代のエジプトで「第一世代」が誕生した後、中東諸国での激しい取り締まりと弾圧を避けるために、国外へと活動の場を移すことを余儀なくされた。そこで、彼ら彼女らは、暴力を用いて「近い敵」を打倒するという祖国の「世直し」ではなく、「遠い敵」、とりわけその象徴であるアメリカとの果てしない戦いへと踏み出していった。
この「第二世代」は、ムスリム社会に「あるべき秩序」を創造するのではなく、非ムスリム社会の破壊に徹するようになった。その結果、欧米諸国では、ジハード主義だけではなく、イスラーム主義という宗教自体を危険なものとみなす風潮が拡大した。
●イスラームと民主主義(208頁)
イスラームには民主主義に通底する考え方(例えば、シューラ―(合議)の教え)があるため、両者には矛盾はないと論じる立場が主流である。ただし、そのなかでも、それゆえに西洋的な民主主義を拒絶する立場と、イスラームとの折り合いをつけながら西洋的な民主主義との擦り合わせをすべきとする立場に分かれる。また、選挙に代表される民主主義の基本的な制度だけを取り入れるべきとする、限定的な立場もある。
(イスラーム法学者は、ことの是非を「コーラン」と「ハディース(マホメットの言行録)」をもとにして決めるので、予め是としたいか、非としたいかで該当する箇所の探し方は変わってくるものと思われます。世の中の変化に従って、解釈を変えてゆくことは可能と思われます。)
☆関連図書(既読)
「ヨーロッパとイスラーム」内藤正典著、岩波新書、2004.08.20
「イスラームからヨーロッパをみる」内藤正典著、岩波新書、2020.07.17
「トルコ 建国100年の自画像」内藤正典著、岩波新書、2023.08.18
「グローバル化とイスラム」八木久美子著、世界思想社、2011.09.30
「イスラム国の正体」国枝昌樹著、朝日新書、2015.01.30
「ルポ 難民追跡――バルカンルートを行く」坂口裕彦著、岩波新書、2016.10.21
「シリア情勢――終わらない人道危機」青山弘之著、岩波新書、2017.03.23
「ロヒンギャ危機」中西嘉宏著、中公新書、2021.01.25
「イスラーム原理主義の「道しるべ」」サイイド・クトゥブ著・岡島稔訳、第三書館、2008.08.15
「コーラン(上)」マホメット談・井筒俊彦訳、岩波文庫、1957.11.25
「コーラン(中)」マホメット談・井筒俊彦訳、岩波文庫、1958.02.25
「コーラン(下)」マホメット談・井筒俊彦訳、岩波文庫、1958.06.25
「コーランを知っていますか」阿刀田高著、新潮文庫、2006.01.01
(「BOOK」データベースより)amazon
「アラブの春」をきっかけに、長い封印から解き放たれた政治と宗教の関係という「古くて新しい問い」。その答えの一つが、イスラームの教えを政治に反映させようとするイスラーム主義だった。オスマン帝国崩壊後の「あるべき秩序」の模索が今も続く中東で、イスラーム主義が果たしてきた役割とは。その実像に迫る。