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紙の本
中村雅楽の探偵譚全集二冊目
2008/08/29 23:21
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ピエロ - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京創元社より出版されている、『團十郎切腹事件』に続く、老歌舞伎俳優 中村雅楽の探偵譚全集二冊目。日本推理作家協会賞短編部門を受賞した表題作『グリーン車の子供』を含む短編十八作が収録されています。
この中村雅楽の全集、多少の例外を除き、発表順に短編作品を収録していっているようですが、一冊目『團十郎切腹事件』に比べ、殺人や盗難といった事件が少なくなってきていて、かわりに「日常の謎」と呼ばれている類いの謎解きが多くなってきています。
舞台や登場人物が、劇場、歌舞伎役者、俳優とその周辺とに限られているので、続けて読んでいると新鮮味に乏しく地味な印象を与えるといった欠点はあるものの、探偵役の中村雅楽の、人の心の中まで見透かすような鋭い観察眼や、その心の微妙な動きを感じ取り優しく見守る温かさなどの人柄が読み取れ、また、小道具を上手に使ったりとミステリとしてもよくできている作品が多く、おもしろく読むことができました。
紙の本
ミステリよりも雅楽の魅力だなんて思っていると、思わぬところでミステリのセンスが発揮されるので油断がなりません
2008/03/14 22:54
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たむ - この投稿者のレビュー一覧を見る
雅楽全集の第二巻。相変わらずいたずらに複雑すぎてごちゃごちゃしてる感がありますが、本書も後半に行くにしたがって著者も手慣れてきたのか不自然なところもなくなってくるので、第三巻以降が非常に楽しみです。
本書に収録されているのは推理作家協会賞受賞の表題作を初め18編。気に入った作品をいくつか紹介してみます。
「臨時停留所」――バスから降りた青年が、助けを求める老婆を目にしますが、警官を連れて戻ってみると老婆の姿はなく……。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、冒頭付近のある登場人物の扱い方に泡坂妻夫を彷彿とさせるものがあって、読んでいて思わず舌を巻きました。タイトルも秀逸。雅楽の解決は推理というより勘に近いし、後半になって文体が二度も変わるのでちょっと読みづらいし、完成度は決して高くないのですが、「日常の謎」ものとしてのセンスのよさでは現在でも上位に食い込む出来だと思います。
「ラスト・シーン」――映画撮影最終日に水死した女優。事故なのか、自殺なのか、殺人なのか……。作中ではすぐに明かされてしまうのですが、「寺からの手紙」の謎は小粒ながら面白いと思いました。ある登場人物の最後の言葉が非常に心に残ります。ひたすらかっこよく、りりしい。探偵でも容疑者でもなく、死者にスポットライトが当てられた作品でした。
「襲名の扇子」――劇場に飾られた巨匠の掛け軸が盗難にあった。誰が、どうやって……? 現実にはあり得ないような逆転の発想が、ミステリ・マインドに溢れています。
「日本のミミ」――記者の黒島が連れてきた若いオペラ歌手が、プリマからもらったという一枚の写真を見せてくれた……。雅楽がいなければ、これは事件でも謎でもなかったでしょう。という意味ではもはや「日常の謎」ですらないのですが、そんな日常の単なる一コマから一人の人間の人生を浮かび上がらせるのが、人間も芸術も知っている老優の雅楽だからこそ、説得力があります。
「一人二役」――左吉郎と梅昇はライバル同士だった。ある時を境に、嫌がらせのようなものが起こり始めるが……。ミステリとしては初歩的なはずの問題が、あるネックによって解釈不能に陥るという点で、とりわけ実際に推理して読むミステリ読者を意識した作品になっています。序盤でゆったり描かれる二人の確執と、終盤のスピーディな捜査&推理のメリハリも効いています。
「写真のすすめ」――俳優の丹次と玉尾が帰らない。一方、玉尾の妹の信子が睡眠薬を飲んで死んでいるのが見つかった……。竹野さんの一人称ではなく、三人称の作品です。出来はイマイチなのですが、それだけに翻って竹野さんの魅力を再確認できました。
「グリーン車の子供」――雅楽と竹野が新幹線で帰る途中、一人の少女と一緒になるが……。言わずと知れた名作ですが、これまでの雅楽シリーズを通読してから本篇を読むと、ミステリ的に云々よりも雅楽が久しぶりに舞台に立つということの方に感慨を受けてしまいました(でも実は結局立たなかったことが後の作品で明らかになるのですが……)。
インパクトのある作品は多くありませんが、どれも味わい深い作品集でした。
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