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★2017年3月25日読了『雪つもりし朝 2.26の人々』植松三十里著 評価A
史実と人々のドラマを非常に上手く絡めて、物語を紡いでくれている。上質の小説だと感じた。
私は、日本史の授業は途中で終わってしまい、受験は世界史、地理だったので、まずこの物語の中心となる2.26事件を復習しておきたい。
1936(昭和11) 年2月26日 陸軍皇道派の影響を受けた20代の青年将校らが、『昭和維新、尊皇討奸』をスローガンに、政府転覆を図った。
彼らの指揮下にある陸軍歩兵第一および第三連隊そして、近衛歩兵第三連隊、野戦重砲兵第七連隊の総員1,558人を動員。
松尾伝蔵総理大臣秘書官、高橋是清大蔵大臣、斎藤實内大臣、渡辺錠太郎教育総監を殺害。そして、鈴木貫太郎侍従長は瀕死の重傷を負った。
昭和天皇は、このクーデターに対して、激しく憤り、終始厳しい態度で臨んだ。しかし、陸軍内部では、青年将校をかばう風潮さえあり、結局、首謀者たちは処刑されたが、その後は陸軍統制派が力を得て、日中戦争、太平洋戦争へ突き進むこととなる。
この作品では、短編5編が、2.26事件をめぐる人々のドラマを描く。
第一章 身代わり 見つからずに、義弟松尾伝蔵を身代わりとして生き延びることができた岡田啓介首相の襲撃された夜のエピソード
第二章 とどめ 鈴木貫太郎侍従長を襲った安藤輝三率いる部隊は、鈴木のとどめをささずに去った。おかげで鈴木は命拾いをする。そして、同じく命拾いをした岡田啓介の誘いで、終戦の幕引きをする首相となる。
また、鈴木の妻タカも、元天皇と秩父宮の養育係として、10年間働いていたことから天皇と国の行く末そして大役を引き受けることになった夫、貫太郎を気づかう。
第三章 夜汽車 元陸軍歩兵第三連隊にいた天皇の弟、秩父宮は、弘前に居て、事件の発生を知る。急ぎ上京した彼は、好むと好まざるにかかわらず、自分が巻き込まれていく危険な運命の渦中にいることを知る。
そして、昭和天皇との会見後、彼の判断で元部下たちへ個人として動いたこととは?
また、特に親しかった部下安藤輝三が、なぜこのクーデターに加わったのかが秩父宮は、理解できずに苦しむ。
第四章 富士山 明治の元勲、大久保利通の息子の牧野伸顕は湯河原で湯治をしていたその日、クーデターの一派に襲われた。
吉田茂の妻、牧野の娘である雪子の子、和子がその日ともに湯河原にいたために、彼女の機転に牧野伸顕は助けられて命を拾っていた。
そして、和子は、九州の麻生財閥の多賀吉に嫁いだ。
さらに、麻生太郎を生んでなお、吉田茂首相のファーストレディとして、外交の第一線で日本のために頑張った。
サンフランシスコ講和条約、日米安全保障条約なども縁の下の力持ちとして、白洲三郎らとともに外交戦争を戦った。
第五章 逆襲 映画ゴジラの監督として有名な本多猪四郎は、2.26事件の時には、居残り部隊として青山に駐屯していた。
しかし、その部隊所属記録ゆえに日中戦争で3回も召集をかけられて、中国の最前線で戦わねばならなかった。
戦後、九死に一生を得て帰国する��、彼の続く緊張、見えない恐怖という戦争体験、帰国後目の当たりにした広島の原爆被害をもとに、映画ゴジラを製作した。
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岡田啓介や鈴木貫太郎など、2・26事件に巻き込まれた人々を描いた連作短編集。出だしがオカルトチックで「おやっ?」と思ったが、植松作品にハズレなし。緊迫した命のやり取りにハラハラし、家族の親愛あふれるやり取りに涙ハラハラ。そして、最後は2・26事件と「ゴジラ」との意外なつながりまで明らかに。またいいものを読んでしまった。
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二二六事件を少し勉強したので読んでみた。
事件について詳しく知らなくても読ませる本。
オムニバス形式。事件の当事者や同時代の人、間接的にかかわった人など。
面白かったです。
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二・二六事件を経験した主人公の五章からなる短編集。あの事件は、いったい何だったのか?その事件を経験した者のそれぞれの生きざまが、真摯に描かれていると感じた。
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2・26事件に絡む人物についての短篇が5つ.岡田啓介,鈴木貫太郎,秩父宮,吉田茂,本多猪四郎が出てくる.鈴木貫太郎はこれまであまり良い感触を持っていなかったが,妻のタカが皇室と深い関係を持っていたから終戦時の首相に天皇自身が推挙したという話.納得できる面もある.吉田茂の話も面白かった.麻生太郎が出てくる.この事件も皇道派と統制派の確執が原因だということだが,このように関わった人物で解き明かす方法も事件自体の理解につながるような感じがする.楽しめた.
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「私」は国立新美術館で軍服姿の不思議な男を見かけた。この地は、「二・二六事件」ゆかりである-。首相・岡田啓介、侍従長鈴木貫太郎と妻のタカ、昭和天皇実弟・秩父宮…。日本の平和へと繫がる、彼らの「この日」の物語。
世界史受験だったため日本史には詳しくないせいか、本作はどこまでが史実でどこからがフィクションかわからなかったけれど、一つ一つの物語がしっかり描かれていて惹きこまれた。特に秩父宮と本多猪四郎の話が印象的だった。第二次大戦を意識するこの時期に上質な反戦文学に触れられてよかった。
(A)
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2017/9/7
またいい本に巡り会えました。
第二次大戦に突入の鍵となった2.26事件を何人かの人の視点で短編のように書かれた話
ほぼ事実を追っているので、戦争の起こった直接の原因とかしらない私には、勉強になった。
今までさっと名前くらいは知っていて、なんで止められなかったんだろうと歯がゆく思っていた人もそれぞれいろんな葛藤のなかで生きていたんだなと知りました。
これをきっかけにもっと真実を知ろうと思う。
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昭和11年。皇道派の陸軍青年将校らが、一千人を超える士官・兵を率いて決起したクーデター未遂。二・二六事件。襲撃した側と、襲撃された側。それぞれに生き残った人々は、あの事件をどう受け止め、事件後をどう生きたのか。
容貌・体格のよく似た義弟が身代わりとなり、女中部屋の押入れに隠れ難を逃れた当時の首相・岡田啓介。
至近距離から銃撃を受け、瀕死の重傷を負いながらも止めを刺されることなく生き延びた鈴木貫太郎とその妻、タカ。
将校たちを叛乱軍とみなし激昂する兄、昭和天皇。決起した将校、安藤輝三とその歩兵第三連隊と縁深く、立場ゆえに懊悩する弟、秩父宮。
襲撃された祖父・牧野伸顕伯爵を助けながら、雪の湯河原山中を逃げた吉田和子(麻生太郎氏の母)。
たまたま所属していた連隊から決起部隊が出た。そのために三度の召集を受け、執拗に戦火の最前線に送り込まれた本多猪四郎。
彼らが永遠の平和を求め、日本の終戦と戦後を作りあげてゆく様子を描く連作短編集。
東京が30年ぶりの大雪に見舞われた、その未明に事件は起き、否応なく転換期はやってきた。とてつもなく恐ろしい気配はあるのに、その実態はわからず、わかった時には、事態はどうにもならないところまで来ている。
彼らが体験した恐怖や緊張が降り積もり、踏みにじられていく過程が、一貫して淡々と描かれている。
読んでいると、雪の朝のしんとした静けさと寒さのような、昏い時代の冷徹さにからだが震える。
牧野伸顕伯爵の孫であり、吉田茂の娘である吉田和子が主人公の『富士山』では、その長男である麻生太郎氏による、「首相の家庭なんて幸せなもんじゃねえ」「両親にほったらかしにされて育った」という後年の述懐を感じる描写が多々ある。
麻生氏が子供の頃、ご両親たちは日本の独立に向け、国のために奔走していた。だからこその言葉だったのではないかと思う。
序章と終章は蛇足に感じた。
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"お龍"を読んで、植松さんのファンになり、これを借りてみた。2.26事件について今までさほど注視してなかったので、新鮮な感じで読めた。5章の短編からなるがそれぞれ繋がりがあって、なるほど〜と感じる点が多かった。植松さんの描写の丁寧さで映画を観てるかのような文章で1〜4章まで一気に読めた。現代に繋がるゴジラの最後の5章だけは…読みにくかった。また違うの読んでみよう〜
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昭和11年2月26日、様々な立場で2・26事件を経験した人々。彼らの後の人生に繋がる「この一日」を史実を踏まえながら、物語に仕立てた5つの短編。
「身代わり」・・・総理大臣・岡田啓介
「とどめ」・・・侍従長・鈴木貫太郎
「夜汽車」・・・第31連隊(弘前)・秩父宮
「富士山」・・・吉田茂の娘(麻生太郎の母)・麻生和子
「逆襲」・・・映画「ゴジラ」の監督・本田猪四郎
中でも秩父宮と青年将校・安藤輝三との信頼関係、天皇と秩父宮の幼少期の乳母・タカの夫である鈴木貫太郎を手に掛けなければならなかった安藤の苦悩と最後の行動を描いた「夜汽車」には思わず涙。
そしてここにも、会津の逆賊の娘が出てきてこの夏に読んだ「火影に咲く」や「紺碧の果てを見よ」を思い出す。
そうしてみると、その2作のみならず、やはり8月に読んだ「野火」も「雪の階」も決して無関係に存在してはいなくて、歴史はやはり連なっていくんだな~という当たり前のことにじみじみと感じ入るとともに、奇しくも歩兵第1連隊が出動したその場所でかつて働いたことも懐かしく、これを機会に2・26ゆかりの地を歩いて見ようかなどと思った読後でした。