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風野真知雄先生はシリーズ物も面白いですが,単行本もよいのです。それぞれに滑稽で哀しい。
文化文政の江戸の戯作者恋川春町こと小島潘年寄倉橋寿平,時代を笑いのめした黄表紙で一世風靡しますが,やがて松平定信の寛政の改革の波をかぶり…いや,定信はただ「いろいろ訊ねたいことがある」と言っただけなのですが(これが武士には怖い)。
このあと,蔦谷重三郎は身代半減,山東京伝も手鎖,歌麿も,と花開いた出版文化は一気に冷え込んでしまいます。定信の時代は,そう長くは続かなかったのですが,権力による圧政って恐ろしい。
著者によるあとがきで,現代の戯作者風野真知雄が吼えます。
「おれは本来、エロと悪意の作家なんだ」!
今後に期待したいです。
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命がけでふざけた戯作者たちのことを、描いた作品。
田沼の時代の後、老中となった松平定信。
駿河小島藩、年寄本役、倉橋寿平は戯作者恋川春町。
藩邸の真ん前の町人地が小石川春日町。
これを縮めて「恋川春町」と名乗る。
時は蔦屋を始め多くの版元が次々と出版して町民の喝采を浴びていた。
が、ここにきて武士のあり方をといた松平定信への批判とも取れるような黄表紙が発売され、書いたのが武士の身分であることの問題は、微妙な一線を超えてしまった。
自粛のムードが漂い、恋川と仲の良い武士の戯作者も国許へ帰る。または出版を取りやめるものが出始める。
恋川春町は定信に面会せずに自死することとなるのだが、その葛藤と世間のものの見方を知るにも、良い一冊。
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“耳袋秘帖シリーズ”でお馴染みの、風野真知雄さんが江戸の戯作者・恋川春町を描いた本作。
駿河小島藩の年寄本役でありながら、武士を揶揄するような黄表紙を出したことから、時の老中・松平定信からお呼び出しがかかってしまいます。
この呼び出しが無言の圧力となって、春町追い詰めていき、ついには・・・。
命がけでふざけた戯作者たちを、“一生懸命ふざけて書いた”という風野さん。現代の戯作者が描くこの物語は、ふざけつつも、哀愁が漂うものだと思いました。