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現役引退から8年。最強コンピュータの弱点を見極め、米長永世棋聖が指した自信の一手とは。棋士対AIの先駆けとなった大一番の全記録。〈解説〉中村太地
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「後手番初手の6二玉」
将棋を知っている方であれば、意味不明な初手である。
その奇をてらった一手こそ、著者・米長永世棋聖の導いた
「コンピュータ」と戦う最強の一手であった。
AIは、これまでの棋譜を勉強して、最良の一手を導く。
だからこそ、これまでの棋譜にない一手「後手番初手の6二玉」が作戦だったのである。
その戦いにかける米長氏の思い、
そしてその対局を見届けた数々の名将の話。
将棋ファン必読の一冊であると同時に、
「極めるとはなにか」を考えるための一般書でもある。
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ボンクラーズとはふざけた名前だが、誇張なしで秒間1800万手を読むというのだから、コンピュータ将棋がもはや人間の及ばない領域に入りつつあることは間違いがなかった。ついこの間までは相手にならないと鼻で笑われていたコンピュータ将棋は、やがてアマチュアのトップを打ち負かすようになり、いまやプロ棋士を脅かすまでになった。そこに敢然と立ちはだかったのが永世棋聖の米長邦雄だった。
本書はその棋戦に挑んだ記録でもあるのだが、どこか現役棋士に対する対コンピュータ戦のアドバイスであるようにも思えたのは、深読みが過ぎるだろうか。6二玉の意図をはじめ具体的な戦術もあるが、それは比喩を用いた軽やかな解説になっている。それよりも、もっと精神的な部分、勝負術の話だ。プロ棋士は本来孤独である。自分にとってもっとも運気を高めてくれる人間は、自分を「尊敬してくれる」人間であるなど、著者らしい金言に溢れる。
他のところでは、ニコニコ動画に対する期待について度々言及されているのも面白かった。とくに対戦後の会見では、既存のイエロージャーナリズム(利益目当て、ウケ狙い)的な報道への失望とは対照的に、新しい双方向メディアへの期待が語られる。これはスポンサーへのリップ・サービスだけではない、著者の偽らざる本音だったのではないか。
本書について著者は、この本が将棋界への遺言書となるかもしれない、と述べている。あとは頼んだぞ、コンピュータに負けるなよ、というメッセージのようにも感じられた。
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第一回電脳戦戦記。阿川佐和子氏の「この棋士に会いたい」にこの本の触りが書かれていたのできちんと読みたくなり購入。
人対人の対局と何が違うのか。ボンクラーズをはじめとする将棋ソフトに勝つためにはどのような戦略が必要だったのか。
酒好きの米長名人が酒を断ち、数か月の時間をかけてこの一戦に備えた。
米長名人が「オレ、勝てるかな?」と細君に尋ねたところ、「若い愛人もいないようなあなたが勝てるわけがありません」と返される、有名なエピソードも収められている。
米長名人は後日、
「いままでにないような感じでマジメに取り組んでしまったところを一言で表現されたのだろう。真剣に取り組むのは当たり前だが、若い愛人を囲うくらいの勢いがないと将棋ソフトには勝てない、と」
テーブルと椅子で対局となってのは、
「第一線の棋戦から少し離れただけで正座ができなくなっていたことに気づいた」ためとのこと。体力の衰えは意外なとこからあらわになる、と。
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2012年に刊行された本の文庫版。当時日本将棋連盟会長であった米長邦雄さんがコンピュータとの対局で敗れた時の記録。対局に向けての準備や当日の模様などが記されている。解説は、コンピュータの代指しを行なった弟子の中村太地現八段。
今から読んで気づくのは、コンピュータの急速な進歩は予見しつつも、棋士が日常的にコンピュータで研究をしたり、AIの評価値が対局放送で表示されたりするような事態は、本書の時点ではまったく予想されていなかったということ。その一方で、インターネットメディアが将棋ファンを増やす可能性については、米長さんは既に確信していた。当たったこと、当たらなかったことのいずれにしても、ここ10年間での将棋界の急激な変化を浮き彫りにしてくれる1冊。