紙の本
カラスの行動を研究している著者はどのようにして「観察の技」を見に付けて行ったか。
2018/09/21 18:07
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めての双眼鏡、子どもらしい冒険・・・。著者の子供時代を振り返りながら、自然に親しむことの楽しさが語られる。
見返しにある手描きの「子ども時代の地図」を見ながら著者と一緒に「ヤブこぎ」をしてみたり、暗いトンネルを抜けてみたり。こんな遊びの出来る場所で過ごした著者がうらやましくなってくる。今はもうこんなところは少ないのだろうか。それとも遊ばせてもらえないのだろうか。
「獣の足跡の読み方」「野生動物への接し方」から「靴の選び方」まで。「大事なことは全部、裏山が教えてくれたのだ。」という著者の言葉どおり、今も行動生態学者として研究を続ける著者の基本が子供のころの「裏山遊び」にあるようだ。素早く遠いところの鳥等を双眼鏡の視野に捉える方法は、普通はベテランから教えられたり偶然見つけだしたりするものだと思うが、そんなことがいくつも文章に入っている。自然観察、山歩きの好きな人には参考になることもおおいのではないだろうか。
内容に加え、著者の自然体の「生きものの表現」の語彙がとてもいいと思う。ヤモリを握った時の感触とかは確かに自分にも覚えがある。その感じがありありと蘇る。
投稿元:
レビューを見る
「ファンデルワールス力で付着するような世界の方が、動物界では普通なのだろう」というフレーズが一番のお気に入り。ヤモリの足がガラスにくっつく仕組みを説明する中での言葉で、その仕組み自体は知識としては知っていたけれど、ファンデルワールス力なんて実感したことはないしなんとなく腑に落ちないでいたところにこの言葉に出会い、表現の仕方にハッとさせられた。ユクスキュルの『生物から見た世界』にも通じるような、いきものに見えている世界は人間のそれとは違うということを表現した至言だと思う。
『カラスの教科書』の著者、カラス先生こと松原始先生のエッセイ集。カラスのみならず、そして鳥のみならず、魚や昆虫など、様々ないきものにまつわる体験が綴られている。幼少時から自然に親しみ、いきものに触れ、種類を覚えたり特徴を観察したりしてきた方なのだなあということが良く分かる本。身近ないきものの話が多く、よく見るいきものでもちゃんと観察してあげると違った姿が見えてくるのだなと思った。
鳥類の飛行能力の違いを、飛行機の構造との関連から考察しているところなどは、とても面白かった。博物学的な知識に立脚しつつ、物理的な視点も合わせて考察するということの、身近な具体例を見せてもらった感じ。
学生への講義の準備をしているときの話もあって、この先生の講義を是非受けてみたいなあ、とも思った。
(NetGalleyでゲラ読み)
投稿元:
レビューを見る
カラス研究の第一人者である著者の、いきもの体験エッセイ。
双眼鏡事始め 振り返れば奴がいる 仄暗い水の底から
裏山探検 夜間飛行 台風の夜 空飛ぶものへの憧憬
悪ガキの足もと ムシムシ大行進
あとがきにそえて 我が故郷は緑なりき
カラス先生の日常(マンガ)①~⑩
著者によるモノクロのイラストも多数。
カラス大好き動物行動学者の、幼少期から身近に存在していた、
多くのいきものとの出会いと体験を綴った、エッセイ集です。
カラス探索や研究の合間に甦る、豊かな自然の中で培われた体験。
双眼鏡で始まり、図鑑、釣り、探検、生物部、台風、凧、
飛行機、ビーチサンダル、虫取り・・・それらは著者の原点。
経験は身体に、記憶に蓄積され、将来に多大な影響を与えている
ことがわかります。小中高と動物好きで、大学で生物学だもの。
しかし、ただの思い出語りではあらず。
宅地化や水路の整備等で、かつての風景が失われてきたことの、
憤りも感じます。だからこその、いきもの体験エッセイなのかも。