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「宇宙の根本を成す物質、エネルギー、時間、空間といった要素の物語を『物理学』という。原子と分子とそれらの相互作用の物語を『化学』という。有機体の物語を『生物学』という。人間文化のその後の発展を『歴史』という」
冒頭のこの1文によって、この著者は信用できる、というか卓見の持ち主だと感じる。
「他の生態系の虐殺者」であるホモ・サピエンスがここまで地球にのさばれたのは、言葉と貨幣を発明したからなんだなぁ。言われてみれば納得。
人類の歴史の特徴を一言で表していると感じたのが次の一文。
「歴史の数少ない鉄則の一つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせる、というものがある。人々は、ある贅沢品にいったん慣れてしまうと、それを当たり前と思うようになる。そのうち、それに頼り始める。そしてついには、それなしでは生きられなくなる」
これに尽きるのではないか?
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ホモ・サピエンスがネアンデルタール人を滅ぼしたのは、言葉で未来や過去を表すという認知革命があったからだというところは面白い。
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話題の本だから話題になっても困るので読むかと。先入観では『銃、病原菌、鉄』の流れをくむかと思っていたが、社会構造への広がりを見せ始めて興味深く読み進めている。神話、書記体系、貨幣、なるほど、そう繋げて読み解くわけだ。
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火の最大の恩恵は、調理が可能になったことだ。小麦、米、ジャガイモと言った、そのままでは人類には消化できない食べ物も、調理のおかげで主要な食料となった。火によって食物の化学的性質が変わったばかりでなく、生物学的性質も変化した。調理をすれば、食物についていた病原菌や寄生虫を殺すことができたからだ。また、果物や木の実、昆虫、死肉といった従来の好物も、調理すれば、噛むのも消化するのもぐんと楽になった。チンパンジーが1日5時間も生の食べ物を噛んでいるのに対して、調理した食物を食べる人間は、たった1時間あれば十分だった。(p.25)
彼らは、何であれ単一の種類の食べ物に頼っていなかったので、特定の食物が手に入らなくなっても、あまり困らなかった。農耕社会は、旱魃や火災、地震などでその年の稲やジャガイモなどの作物が台無しになれば、飢饉で散々な目に遭った。狩猟採集社会も自然災害と無縁とはおよそ言い難く、ときおり食物の不足や上に苦しめられたが、たいていはそうした災難にも農耕社会よりは楽に対処できた。主な食料の一部が手に入らなくなったら、他の物を採集したり狩ったりできたし、あまり災害の影響が及んでいない地域に移ることもできた。(pp.72-73)
歴史の数少ない鉄則の一つに、贅沢品は必需品となり、新たな義務を生じさせる、というものがある。人々は、ある贅沢品にいったん慣れてしまうと、それを当たり前と思うようになる。そのうち、それに頼り始める。そしてついには、それなしでは生きられなくなる。(洗濯機、掃除機、食器洗い機、電話、メールなど)(p.117)
贅沢の罠の物語には、重要な教訓がある、より楽な生活を求める人間の探求は、途方もない変化の力を解き放ち、その力が、誰も想像したり望んだりしていなかった形で世界を変えた。農業革命を企てた人もいなければ、穀類の栽培に人類が依存することを求めた人もいなかった。数人の腹を満たし、少しばかりの安心を得ることを主眼とする些細な一連の決定が累積効果を発揮し、古代の狩猟採集民は焼けつくような日差しの下で桶に水を入れて運んで日々を過ごす羽目になったのだ。(p.118)
貨幣というのは硬貨や紙幣とは限らない。品物やサービスを交換する目的で、他のものの価値を体系的に表すために人々が進んで使うものであれば、それは何であれ貨幣だ。貨幣のおかげで人々はさまざまなサービス(たとえばリンゴ、靴、離婚)の価値を素早く簡単に比較し、交換し、手軽に富を蓄えることができる。(p.220)
タカラガイの貝殻一袋にし、別の地方に移ったのは、彼は目的地に着いたとき、他の人が米や家や田畑をその貝殻と引き換えに売ってくれると確信していたからだ。したがって、貨幣は相互信頼の制度であり、しかも、ただの相互信頼の制度ではない。これまで考案されたもののうちで、貨幣は最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度なのだ。(p.224)
哲学者や思想家や預言者たちは何千年にもわたって、貨幣に汚名を着せ、お金のことを諸悪の根源と呼んできた。それは当たっているのかもしれないが、貨幣は人類の寛容性の極みである。貨幣は言語や国家の法律、文化の規律、宗教的信仰、社会習慣よりも心が広い。貨幣は人間が生み出した信頼制度のうち、ほぼどんな文化の間の溝をも埋め、宗教や性別、人種、年齢、性的指向に基づいて差別することのない唯一のものだ。貨幣のおかげで、見ず知らずで信頼しあっていない人どうしでも、効果的に協力できる。(p.230)
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上巻も,知的好奇心を刺激される面白さでした。
本書の主要なテーマではないのですが,実は,一番印象に残ったのは,人類が多種多様な生物を絶滅させていったというところでした。
マンモスやサーベルタイガーは有名ですが,それ以外にも,想像を絶する大きな動物が,たくさん生存していたことを初めて知り,今,それらの動物たちに会えないということを何よりも悲しく思いました。
その他,人間が小麦に家畜化されたという視点も興味深かったです。
農耕への移行のせいで,椎間板ヘルニアや関節炎等の多くの疾患がもたらされたとのことですが,もっと遡れば,人類が直立歩行をするようになったために,腰痛と肩凝りに苦しむことになったということで,医学が発達したにもかかわらず,人類がこれらの疾患を克服できないのは,根本的なところに原因があるからかと納得した次第です。
一読目は流し読みになってしまったので,機会があればよりじっくり再読したいと思います。
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(2017.02.20読了)(2017.02.10入手)(2017.02.13・25刷)
副題「文明の構造と人類の幸福」
著者は、どんな人なのかと表紙カバーの袖にある紹介文を見ると中世史、軍事史を専攻した歴史学者でした。エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えている。
考古学や古生物学の専門家ではないのですが、人類の誕生から説き起こして人類史を概観しています。何年も前に世界史を習った人たちには、最近の知見が盛り込まれているので、新鮮で驚きの内容が多々あると思います。
逆に、考古学・古生物学が好きな方たちには、内容が薄いので物足りないとか、議論が大ざっばの感はぬぐえないと思います。
農業革命については、多くの人たちにとってはいいことのないものだったと述べています。一生懸命働いても大部分を支配者にもっていかれてしまうし、天候不順で飢饉になったりすれば多くの人が亡くなってしまう。
狩猟採集の生活のまま継続すればよかったということなのでしょう。
文字については、事実と数を記録するためにつくられたとしています。シュメールは多分そうだったのでしょう、インカ帝国のキープについても同様の役割だったのでしょう。でも、文字の発明がすべても文明でそうだったのかについて検証する必要があるのではないでしょうか。たとえば、中国の甲骨文字についてとか。
一方、貨幣の発明を非常に評価しています。貨幣の利便性は確かにすばらしい発明だと思いますが、現代のマネーゲームの弊害についてはどのように考えているのでしょうか。ちょっと見えないところです。
下巻では、科学革命について述べられるようですが、中世の錬金術や軍事史の面からの見解を聞きたいものです。
【目次】
歴史年表
第1部 認知革命
第1章 唯一生き延びた人類種
不面目な秘密/思考力の代償/調理をする動物/兄弟たちはどうなったか?
第2章 虚構が協力を可能にした
プジョー伝説/ゲノムを迂回する/歴史と生物学
第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
原初の豊かな社会/口を利く死者の霊/平和か戦争か?/沈黙の帳
第4章 史上最も危険な種
告発のとおり有罪/オオナマケモノの最期/ノアの方舟
第2部 農業革命
第5章 農耕がもたらした繁栄と悲劇
贅沢の罠/聖なる介入/革命の犠牲者たち
第6章 神話による社会の拡大
未来に関する懸念/想像上の秩序/真の信奉者たち/脱出不能の監獄
第7章 書記体系の発明
「クシム」という署名/官僚制の驚異/数の言語
第8章 想像上のヒエラルキーと差別
悪循環/アメリカ大陸における清浄/男女間の格差/生物学的な性別と社会的・文化的性別/
男性のどこがそれほど優れているのか?/筋力/攻撃性/家父長制の遺伝子
第3部 人類の統一
第9章 統一へ向かう世界
歴史は統一に向かって進み続ける/グローバルなビジョン
第10章 最強の征服者、貨幣
物々交換の限界/貝殻とタバコ/貨幣はどのように機能するのか?/金の福音/貨幣の代償
第11章 グローバル化を進める帝国のビジョン
帝国とは何か?/悪の帝国?/これはお前たちのためなのだ/「彼ら」が「私たち」になるとき/
歴史の中の善人と悪人/新��いグローバル帝国
原 註
図版出典
●三つの革命(14頁)
七万年前、ホモ・サピエンスという種に属する生き物が、文化を形成し始めた。
歴史の道筋は、三つの重要な革命が決めた。約七万年前に歴史を始動させた認知革命、約一万二千年前に歴史の流れを加速させた農業革命、そしてわずか五百年前に始まった科学革命だ。
本書ではこれら三つの革命が、人類をはじめ、この地上の生きとし生けるものにどのような影響を与えてきたのかという物語を綴っていく。
●ホモ・サピエンス(27頁)
十五万年前までには、私たちにそっくりのサピエンスが東アフリカに住んでいたということで、ほとんどの学者の意見が一致している。
東アフリカのサピエンスは、およそ七万年前にアラビア半島に拡がり、短期間でそこからユーラシア大陸全土を席巻したという点でも、学者の意見は一致している。
●二重の現実(49頁)
サピエンスは、認知革命以降ずっと二重の現実の中に暮らしてきた。一方には、川や木やライオンといった客観的現実が存在し、もう一方には、神や国民や法人といった想像上の現実が存在する。
●社会の成員(66頁)
農耕社会と工業社会の成員の過半数は家畜だ。
●犬の家畜化(66頁)
犬はホモ・サピエンスが真っ先に飼い慣らした動物で、犬の家畜化は農業革命の前に起こった。およそ一万五千年前には飼い慣らされた犬が存在していたという、動かしがたい証拠がある。
●日本・台湾(88頁)
人類は、約三万五千年前に日本に、約三万年前に台湾に、それぞれ初めて到達している。
●農耕への移行(105頁)
農耕への移行は紀元前九千五百~八千五百年ごろに、トルコの南東部とイラン西部とレヴァント地方の丘陵地帯で始まった。
紀元前九千年ごろまでに小麦が栽培植物化され、ヤギが家畜化された。
私たちが摂取するカロリーの九割以上は、私たちの祖先が紀元前九千五百年から紀元前三千五百年にかけて栽培化した、ほんの一握りの植物、すなわち小麦、イネ、トウモロコシ、ジャガイモ、キビ、大麦に由来する。
●農業革命は詐欺(107頁)
農業革命は、安楽に暮らせる新しい時代の到来を告げるにはほど遠く、農耕民は狩猟採集民よりも一般に困難で、満足度の低い生活を余儀なくされた。狩猟採集民は、もっと刺激的で多様な時間を送り、飢えや病気の危険が小さかった。人類は農業革命によって、手に入る食料の総量を確かに増やすことはできたが、食料の増加は、より良い食生活や、より長い余暇には結びつかなかった。むしろ、人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。平均的な農耕民は、平均的な狩猟採集民よりも苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。農業革命は最大の詐欺だった。
●神殿の建設(121頁)
従来の見方では、開拓者たちがまず村落を築き、それが繫栄したときに、中央に神殿を立てたということになっていた。だが、ギョベクリ・テペの遺跡は、まず神殿が建設され、その後、村落がその周りに形成されたことを示唆している。
●歴史(132頁)
農耕民の生みだした余剰分を、王や政府の役人、兵士、聖職者、芸術家、思索家といった少数のエリート層が食べて生きており、歴史書を埋めるのは彼らだった。歴史とは、ごくわずかの人の営みであり、残りの人々はすべて、畑を耕し、水桶を運んでいた。
●普遍的原理(140頁)
ハンムラビもアメリカの建国の父たちも、現実は平等あるいはヒエラルキーのような、普遍的で永遠の正義の原理に支配されていると想像した。だが、そのような普遍的原理が存在するのは、サピエンスの豊かな想像や、彼らが創作して語り合う神話の中だけなのだ。これらの原理には、なんら客観的な正当性はない。
●書記(158頁)
紀元前三千五百年と紀元前三千年の間に、名も知れぬシュメール人の天才が、脳の外で情報を保存して処理するシステムを発明した。
シュメールが発明したこのデータ処理システムは、「書記」と呼ばれる。
●能力(175頁)
人がある才能を持って生まれても、その才能は育て、研ぎ澄まし、訓練してやらなければ発揮されない。すべての人が、自分の能力を養い、磨くための機会を同じだけ得られるわけではない。
●戦争指導者(197頁)
戦争は、並外れた程度までの組織化や協力、妥協が必要とされる、複雑な事業だ。国内の平和を維持し、国外では同盟国を獲得し、他の人々の考えていることを理解する能力が、たいてい勝利のカギを握っている。
●貨幣制度(224頁)
これまで考案されたもののうちで、貨幣は最も普遍的で、もっとも効率的な相互信頼の制度なのだ。
☆関連図書(既読)
「人類の誕生」今西錦司著、河出書房、1968.03.10
「人類の創世記 人類文化史1」寺田和夫・日高敏隆著、講談社、1973.09.20
「入門 人類の起源」R.リーキー著、新潮文庫、1987.06.25
「世界の歴史01 古代オリエント」杉勇著、講談社、1977.02.20
「歴史としての聖書」ウェルネル・ケラー著・山本七平訳、山本書店、1958.11.10
(2017年2月27日・記)
(「BOOK」データベースより)
なぜホモ・サピエンスだけが繁栄したのか?国家、貨幣、企業…虚構が文明をもたらした!48カ国で刊行の世界的ベストセラー!
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サピエンスの誕生、歴史の流れに不意に興味が湧き購入。読んでいて、人種、文化、宗教など、いろいろなことが見えてくる。
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ホモ・サピエンスという非力な種が生き残ることができた理由とは。交易、狩猟から農耕への移行、「家」の発明、時間の概念の芽生え、ネットワークの拡大、多民族を束ねる「国家という神話」の発生…これらが有機的・論理的に絡まって人間というストーリーが展開する。面白すぎて作り話かと思うほど。
「ある種の民族は穢れている」「優越した民族とそうでない民族がいる」、これらを根拠なき幻想と断ずるのは容易いが、同様の幻想体系に我々も毒されている、という著者の主張は、非常に馴染み深いものだった。岸田秀を読んでいる人ならすんなり頭に入っていくだろう。
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なぜ人間だけがここまで著しい発達を遂げてきたのか?ホモサピエンス進化の歴史とその文化的遷移を、eye openingなリーズニングとともに詳述している。ここまで一貫して体系的にまとめられているものは他に見たことがないし、何より各view pointがこれでもかというくらいconvincing。
本書が全ホモサピエンスにとっての必読書であることは間違いないだろうが、殊日本人にとってはまた一味違った意味合いが付加される。想像上の秩序を語ることで社会を築くことができたことが人類の功労であるのならば、GHQの陰謀で神話というベースメントをすっぽりと抜かれ、自国に対する理解とアイデンティティを失いつつある日本人は今後どこへ向かうのか?日本の歴史と対比させて教科書にしてもいいくらいの一冊だと思う。
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例を交えながら解説してくれているが、訳すという一工程で話の流れが複雑になってしまう…
私の読解力不足は分かっているが、ぜひ原文で読むべきだと思う一冊。
もっとも原文では読めないが…
内容は非常に興味深く、虚構としての貨幣制度など、なるほどと思わせる。
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ルーツを辿ることと、未来を推し測ること。
人類はサピエンスに始まり、サピエンスに終る。
狩猟から農耕への流れは、人類をある意味、不幸に導き飛躍的に発展させたようだ。
貨幣、宗教、帝国、如何に人をその気にさせる幻想。まだその力は強大だ。さて下巻に行こう。
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読書会の課題本なので読んでみた。正直、騒がれるほどの目新しさは感じなかった。特に7~10章あたりは、この上巻のキモとなる部分だと思うが、「史的唯物論」の劣化コピーの印象しか残らなかった。
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生態系の最上位にいると思い込んでいるサピエンス。
僕たちは想像が創った社会、経済、文化の中で存在している。
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タイトルにある通り,ホモ・サピエンスが誕生し,現在の繁栄に至るまでの7万年間におよぶ進化の歴史を描いた本です。歴史書ということになってはいますが,生物学,工学,経済学など非常に広範な内容を含んでいるので,どのような学部の学生にとっても近づきやすく,かつ読み応えがあると思います。最近話題になりすぎているため敬遠している人もいるかもしれませんが,ぜひ手に取ってみて下さい。
*推薦者(農)K.K
*所蔵情報
http://opac.lib.utsunomiya-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB22036374?caller=xc-search
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認知革命、農業革命、虚構、帝国が我々を進化させたという考え方が面白い。そもそも人間とは、人類とは と考えていくこと自体が知的好奇心がかき立てられる。火の最大の恩恵は調理が可能になったということ、ホモサピエンスが世界を征服できたのは比類なき言語のおかげ、想像上のヒエラルキーと差別、貨幣は普遍的な交換媒体等歴史も生物学も進化論もまだまだ分かっていないことが多い。学びは必要だ。