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現在86歳である辻先生の新作は堂々たる本格ミステリ。これだけで凄い。参考資料の数もハンパ無く、近年寡作なのは一作に情熱を注いでいるからであろうと想像がつく。
内容は昭和12年の東京と名古屋を繋ぐ不可能事件。トリックに目新しさは無かったが、手掛かりの示し方は相変わらず老獪。個人的には余分な描写が多過ぎると思ったけど、それもひっくるめての辻ワールドなのだろうな。
謎を解く探偵は、他のシリーズで脇役だった那珂一兵。こういう遊び心にも作者の余裕を感じるね。
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サブタイトルにある「昭和十二年」、これがキーワード。巻末の参考資料の多さからも、あの「時代」の時局、世相、風俗を描きたかった辻先生の熱意がくみ取れるし、それが実際に読んでみると作品に反映されているところが凄い。
史実上の人物や出来事を絡ませつつフィクションの世界で遊ぶ。舞台がこの時代の銀座、名古屋で開催された平和博覧会、そして世界を逍遥してきた自由人たる華族のお殿様が大金を注ぎ込んで作った慈王羅馬(ジオラマ)館……と舞台も魅力的。
当時の風俗描写はもちろん、主人公である少年画家の価値観、思考回路、感覚が当時の空気を吸った人でなくては描けないモノだなぁと思いました。
これら以外にも、アクションシーンにお色気エログロ、当時の探偵小説や文壇ネタと要素の盛り込み方のバランスが絶妙。これは流石、辻先生の真骨頂だなぁと。
昭和十二年の探偵小説、堪能いたしました!!
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一応ミステリーカテゴリーにしてみたが、むしろエンタメ要素の方が強いような。
昭和12年を舞台にした、個人的には好きなレトロ感ある設定。
少年探偵・那珂一兵が知り合いの記者と共に名古屋の博覧会を取材中、東京では思わぬ事件が起きる。
事件そのものは凄惨なのだが、一兵少年がその場に居合わせていないだけに謎解きもどこか冷静。その方が返って良かったけれど。
乱歩先生の少年探偵団シリーズのようなテンポの良い語り口、でも中身は大人向け乱歩作品のようなエログロさがあったり、その後の歴史を暗示する陰鬱さも垣間見えたり。
事件の一番の謎は、名古屋にいた筈の人間がどうやって東京で殺されたのか、そしてなぜそこまで大掛かりな事件を起こさねばならなかったかという、HOWとWHY。
HOWに関してはそれほどは驚かなかったが、WHY部分とその結末には苦しくなったり辛くなったり。
そして一兵少年の片思いの行方に関わる、ある事件に関しても、その後の歴史を知る読者側としてはWHYは分かるのだが、一兵少年には理解出来ないというところが、なんとも苦いような。
謎解きというよりは、一つの歴史の裏側を垣間見ているような、大きな歴史のうねりの中で、こういう前振りが色んなところで起きていたのかなというちょっとしたドラマを見せてもらったような、そんな作品だった。
調べてみると一兵探偵の作品は他にもあるようだ。
機会があればまた読んでみたい。
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久しぶりの辻真先はやはり昔読んでいた辻真先だった。
ミステリーとしてはそんなにすごいわけではなかったが、久しぶりの辻真先で満足した。
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時は、昭和12年。銀座で似顔絵を描く那珂一兵は、博覧会の絵を描くため、名古屋環太平洋平和博覧会会場を女性新聞記者と訪れる。そこで名古屋と東京にまたがるバラバラ殺人事件の真相に挑むことになる。世界を股にかけた伯爵、満州の大富豪、関東軍少将、甘粕正彦などが物語に彩を添える。
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世間では、大阪万博の開催が決まったようだけれど、なんと昭和12年に名古屋で汎太平洋平和博覧会という万博があったことをこの本で初めて知った。もちろんこの本は小説であって歴史書ではないから鵜呑みにはできはないけれど、参考文献などをみると実際に行われたことは事実らしい。満州国が設立され、大陸に進出しようとしていた当時の日本の状況を考えると平和博の名は、皮肉でもあるし、あえてそれをつけた当時の日本の立場もうかがわれる。そんな時代に起きた事件。ちょっと江戸川乱歩あたりを思わせるところが、推理小説やミステリではなく探偵小説なのだろう。面白いし、一方で当時の状況、戦争というものについても考えさせられる。
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昭和12年。似顔絵描きの少年、一兵が名古屋汎太平洋平和博覧会の挿絵を描くために取材に同行し、名古屋と東京にまたがる不可解な事件に遭遇する…
戦前の時代背景や博覧会の様子が生き生きと描かれており、事件が起きるまでが長かったが面白かった。
事件の首謀者の心情が壮絶すぎる。
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ミステリ界のレジェンド辻真先先生。ミステリは言うに及ばず、SF、漫画原作、サザエさんや名探偵コナンなどのアニメ脚本と、御歳88歳の超大家の作品を全て追うのは、もはや不可能に近い。その辻先生が86歳で物した新シリーズが本書。
時は昭和12年。日本では前年に2.26事件が起き、世界を見ればヒトラーが力をつけ始め、にわかに、きな臭くなってきた頃。舞台は銀座、そして名古屋汎太平洋平和博覧会。2つの地点を結びつけるバラバラ殺人事件が発生する。
名古屋汎太平洋平和博覧会なるものは初めて知った。実際に開催された国際博覧会で、ネットを検索すると、いくつのかのサイトで当時の写真を見ることができる。本書を読みつつ、そうした写真をパラパラ見ていくのはお勧めである。
トリックはかなり大掛かりなものが用いられ、至るところの小さな伏線がすべて回収される。さすがである。
ちなみに辻先生は今年、本書の続編を発表。さらに別シリーズの新刊も控えている。88歳というご高齢に注目されがちだが、量産が難しいとされるミステリにあって、いずれの作品も並の作家をはるかに凌ぐクオリティを維持している。正にレジェンド!
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久々の辻真先さん。
昭和12年、名古屋市で開催された平和博覧会。
この博覧会って実際にあったことなのね。
伯爵のジオラマ館はフィクションだろうけど、壮大でかっこいい。あんな仕掛け、当時はすごい評判になっていただろうな。平成に書かれたのに、その頃の空気感があふれている。
それこそが、すべての根源、、、
悲しい事件だけれど、明るい芽もあるのが救い。
さて、お次は昭和24年へ。
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昭和12年の銀座の似顔絵描き那珂と女性記者が、名古屋汎太平洋平和博覧会の取材に行くことから物語が始まる。華やかな博覧会の描写に加え、伯爵の建てた慈王羅馬館は乱歩のパノラマ島を思い起こさせる見事なつくりで楽しい。一方、銀座で起こる血生臭い事件。そして実は関係の深い登場人物たち…。気づいてみればあれもこれも伏線ですごい勢いで謎解きが構築されていった。軽く読めるのに思いがけずグロくてしっかり本格。探偵が最後に残していた疑問は現代の私たちには想像がつくものなのだが、それを最後の余韻に落とし込んだ大御所に完敗。
以下余談。私にとって辻真先先生といえば、アニメの脚本を多くこなしたミステリ作家さんというイメージで、学生の頃迷犬ルパンシリーズやスーパー&ポテトシリーズなどを読んでいました。那珂一平という名前に聞き覚えがあると思ったら、シリーズの重要な脇役としていろいろなところに出ていた人だったようです。彼の若いころの事件、という位置づけなのかな。今回年末のレースを総なめにした一冊の前作ということで手に取りましたが、久しぶりの辻さんの世界は変わらず楽しかったです。受賞作を読むのがとても楽しみです。
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東京音頭が響き、和装とモガが行きかう。
夜店が連なる銀座の片隅で似顔絵を商売にする少年、那珂一兵。
帝国新報の依頼で名古屋平和博覧会の取材に駆り出された一兵は、記者の瑠璃子と一緒に超特急燕号で名古屋へ。
銀座の怪しげな料亭で密会する、軍人の甘粕と寺中。
世界をまたにかける富豪の宗像伯爵、その侍従の操。
満州の要人、崔氏、崔氏夫人、崔氏の愛人。
第2次大戦が迫る日本で、さまざまな思惑が絡む中、事件が起こる。
雑踏の銀座、博覧会の透明人間に魚雷実演、変装上手な宗像伯爵、紅顔の美少年、操。あちこちに散りばめられた江戸川乱歩の世界。
パノラマ島のような慈王羅馬館。気球から滴る血。纏足の婦人。支那服の美女。
そして、ラストに打ち上がる花火と犯人と。
トリックはともかく、犯人や思惑は早々にわかってしまうんだけど、乱歩の世界観でありながら、忘れてはいけない戦争の悲惨さがくっきり描かれる。
印象深い物語。
黄金仮面じゃないけど、犯人が実は…って言うのがあって欲しい気も。
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前後しましたが、「昭和シリーズ」の1作目を読んでみました
時代は遡って戦前、曰くエログロの時代です
知らない用語が結構出てきます
こんな時代に「名古屋汎太平洋平和博覧会」があったことは知りませんでした
余談なのか、伏線なのか、よくわからないまま話が進み、凶悪な事件が発生します
犯人は容易に推測できますが、動機の方が複雑でした
先に読んでおけば、次作「たかが殺人じゃないか」のやや唐突な探偵登場に納得できますね
3作目が予定されているそうです
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大ベテランが放つ昭和シリーズ。若き画家の一兵が鋭い推理で謎を解く。
徳川の世がまだそう遠くない。一方で、日本独自のモダンが開花した昭和12年の名古屋。これでもかというぐらい細かな街の描写が読み所。そして、軍人、アジア、西洋、エログロ。多彩な可能性があった(はず)の時代の空気を
総天然色で描くパノラマ。しかし、それを舞台に動きだす本格推理となると、やや無理がある印象も否めない。
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「たかが殺人じゃないか」を読む前に一作目読んでおくか、と思って読んだら…これ、一作目じゃないじゃん。どうりで登場人物がいきなりで、話の入りがきっついと思ったよ。どうも、「怪盗天空に消ゆ」が那珂一兵の一作目みたいなんだよね。ミステリー大賞取った本の解説とかwikiとか、もうちょっと誰か正しく書いといて欲しかったョ。
この本自体は昭和のエログロや戦争の雰囲気があり、謎も昔っぽくて、登場人物がわかってきた後半からは結構楽しかったです。後半にも仁科刑事という、誰やコイツみたいな人現れるけどね。
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銀座で似顔絵描きをしている漫画家志望の那珂一平はある日新聞記者の降旗瑠璃子経由で挿絵を依頼され、名古屋汎太平洋平和博覧会の取材に同行して名古屋へやって来た。新聞社社長にそもそも声をかけてきた取材の元凶宗像伯爵の案内で博覧会を堪能している間に知り合いの少女の目の前に名古屋にいるはずの彼女の姉の足だけが降ってくるという猟奇事件が銀座で起きる。姉の生死は?真相は?都市を股にかけたトリックを楽しむというよりは乱歩のパノラマ島を彷彿とさせるエログロ要素漂う探偵小説感と戦争に向かっていくきな臭さが不穏な都市の描写、時代に絡まるホワイダニットの方に天秤が傾いている印象。伏線回収も丁寧で読み応えあるけど人を選びそうな雰囲気。そしてやはり「たかが殺人じゃないか」の先に読むんだった…。