紙の本
決して「読み飛ばそう」とは思わない
2008/10/09 02:35
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投稿者:田川ミメイ - この投稿者のレビュー一覧を見る
そう遠くない過去、アメリカの統治下にあった孤島に「保安官」として赴任する「高洲」。よそ者である彼が着任したとたん、島に事件が起き始める。
筋書きだけを書くと、どこか現実味のない物語のようでもある。が、読んでみれば、そんな事は杞憂だったとすぐに分かる。複雑な事件に「巻き込まれていく」高洲と同じように、読み手もいつの間にかこの小説世界に巻き込まれていく。島民の誰が真実を言い、誰が嘘をついているのか。本当に信じていいのは誰なのか。皆を脅かし、動かしているものは何なのか。読みながら、高洲と一緒になって頭を抱える。
現実にはあり得ないような設定でありながら、ここまで引き込まれるのはなぜなのか。それはたぶん、この小説がストーリーだけで読ませるものではないからだ。一見本筋とは直接関係なさそうな会話や、高洲の目を通して見る景色や人物、そういう細部が丁寧に書き込まれているからこそ、この世界が虚構だということを忘れてしまう。急ぐことのない腰を据えた文章だから、それを楽しみ味わううちに、いつのまにかどっぷり浸っているのだ。
ミステリーやハードボイルドなどのエンターテイメントは、どうしたってストーリーがモノを言う。それだけに、つい読み飛ばしてしまいたくなるものも多い。先へ先へと急ぐような気持ちになるから、物語のキーポイントだけを拾い読みをして、一気にラストまで突っ走りたい。
が、よく考えてみれば、それはただ「筋書き」を読むようなもので、「小説」を読むというのとは、ちょっと違う。ストーリーに直接関わらない部分を飛ばしてしまうような小説は、ゴールにたどり着きさえすればそれでもう十分で、「ああ面白かった」と本を閉じたとたん、もう「次は何を読もうか」と考えていたりする。物語の細部が胸の中に残らないから、忘れてしまうのも早い。
が、大沢在昌の小説はそれができない。「細部」にこそ良さがあるから、読み飛ばすことができないのだ。もちろんストーリーもとてもよく練られていて、この「パンドラ・アイランド」はそのタイトル通り、最後まで何が飛び出してくるか分からないから、早く先が知りたいという思いはある。それでも、読み飛ばすなんて、そんな勿体ないことはできないと思ってしまうのだ。息を詰めて読み進みながらも、あまりに面白くて読み終えるのが勿体ない。もっと高洲と共に謎を解いていきたいし、島民ひとりひとりの話しが聞きたい。
はやる心を抑えながらじっくりと読み進み、ついにラストを迎えたときには、どこか淋しいような気持ちになり、後には深い余韻が待っている。たっぷりと味わった細部を思い返しながら、「小説を読んだ」という満足感に満たされる。
もしかしたら著者自身もこの小説を書き終えたとき、深い満足に包まれたのではないだろうか。そう思ってしまうほど、この「パンドラ・アイランド」は面白かった。
決して読み飛ばすことができない大沢在昌の小説は、やっぱり良い。
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投稿者:タタ - この投稿者のレビュー一覧を見る
普通にお本として持っていましたが、電子所で気で合体本が出たということで、こっちのほうが読みやすく感じました。
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南海の孤島で“保安官”として平穏に暮らすことを望んだ元刑事・高州。だが、一人の老人の死をきっかけに、キナ臭い秘密が浮かび上がる…。島の人間が守ろうとする“秘密”とは。
田舎というかそういう小さな?狭い?世界や地域特有の雰囲気というものも欲で照るような気がします。
果たして真相は???
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東京での過酷な刑事生活を辞め
平穏な暮らしを求め、東京から七百キロ離れた孤島・青國島に来た元刑事・高州。
「保安官」——警察のいないこの島の治安維持が仕事だ。
着任初日、老人が転落死した。
「島の財産を狙っておるのか」死の前日、彼の遺した言葉が引き金に事件は展開してゆく
再び研ぎ澄まされた刑事の勘を頼りに事件を解き明かしてゆく・・・
なかなか面白かったかな
大沢ワールド全開ですね
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うーん、文庫本の背表紙の説明を読んであまり期待せずに読んだが、まあその通りか思ったよりは少し良かったかな、程度。
でも、最後まで読みたいとは思えたのはさすが大沢。
ちょっと女性の話言葉が不自然なんだなー。「なのです」って言わないでしょう・・。途中、丸山と加藤と柴田の関係が分からなくなってしまった(頭悪いから?)。それでも最後まで「どうなるの?とハラハラはさせてくれた。チナミは良く分からなかったな。
ストーリーとしては複雑だったし、登場人物も多くそれぞれの思惑があるのでそれなりの読み応えもあり。ただ、オットーも柴田も竹尾もなんか動機がいまいち現実的ではなかったような。柴田の動機も「お金ほしさ」以外はなかった以上、だったら元警官にする必要があったのか?
通勤のお供としては良かった。あと、最後の締めくくりも良かった。
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ハードボイルド警察もののイメージが強い作者が放つ、優しい「保安官」の孤島での奮闘(上巻)。保安官目線で語られるストーリーのため、主人公と共に推理を味わえます。
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主人公は民間人と警察官との間に位置する感じの、保安官という立場。
日本の普通の地域にはありえない職業なので、自治区のような離島が舞台なのだろう。
実は殺された前保安官は…、このことは随分早くわかった。
出てくる風俗嬢、ここまで割り切った考えをするのは、よほど今まで人間関係で苦労してきたのだろう。
呆れるけれど、半分同情する。
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閉鎖された島での怪事件。保安官として着任したがは良いが秘密ばかりが付きまとう。女村長をはじめとする村の重役たち。外国人医師。コカイン密売疑惑が有るものの、上巻ではまだはっきりとは分からない。風俗嬢のチナミの目的は何なのか・・・
限られた空間、情報、そして非協力的な島民の姿が目に浮かぶような描写が多く感情移入できる。もちろん保安官目線なのも楽しめる要因。
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ハードボイルド小説です。
元警察の村に雇われた保安官。
事件に巻き込まれる村。
下巻が早く読みたい。
先が楽しみすぎます。
まず、結論ありきで、それを少しづつあかしていく主人公の行動パターンがかっこいい。
下巻も一気に読んでしまいそうです。
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小笠原島から さらに遠くにはなれた 島。
青國島。に
警察を辞めて、のんびりして くらそうとした 高州。
警察を辞めることと一緒に 妻とも離婚した。
妻は おなじ 警察官であり 上司だった。
青國村で 保安官 として 臨時職員として
採用される。6ヶ月の任期である。
村で任官される時に 宣誓式を行なった。
その時に 見かけた チナミ に、気が奪われた。
チナミが 高州のこころをうごかす オンナだった。
チナミが どんなオンナか わからないが
惹き付けられる何かを持っていた。
それは、のんびりした 生活を脅かすものだった。
この 青國村は、不思議な雰囲気を持っていた。
前からすんでいた人たち
アメリカから 復帰したときに はいってきた人たち
そして、最近 はいってきた人たち。
三つのグループに 別れていた。
高州は 島を 巡回する中で、
島にある おおきなヒミツに 近寄っていく。
それは、島の財宝 という言葉が 手がかりになって、
財宝とは 何かを 知っていく。
そして、島には 不思議な人たちがいた。
サーファーの民宿をしている ノブキ。
彼は 大麻を 吸っている可能性があった。
それは、彼の民宿に とまりにくる サーファーたちだった。
草引の父親が 海で溺死した。
ところが 父親の のっている 自転車がなかった。
さらに、ビデオショップの店主である 野口が
銃で 打たれた。
警視庁の捜査1課の 山地がやってきた。
高州は 以前 捜査1課にいて、山地が上司だった。
青國村のなかに埋まったヒミツが
高州がくることで、様々な事件が起こった。
一番怪しいのは 医者である オットー先生だった。
それにしても 大沢在昌にしては 静かな物語である。
高州が ひらけた パンドラの箱は なんだったのか。