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演義から正史、史実へ
2023/10/01 13:18
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
三国志演義で形成された人物像がどういう時代背景で表れたのか正史(正しい歴史ではない)や史実ではどういう人物だったのかが面白かった
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三国志を『演義』から史実へ遡るという構想で書かれた本です。基本的には『演義』や陳寿『三国志』の虚構や偏重を暴いて、史実を評価していくという手法で書かれています。名士と二袁の政治の関係、曹操の斬新さ(寛治から猛政への転換、民屯などの経済政策、儒教知識人に対抗するための「文学」)、魯粛の「天下三分の計」(一統にこだわらず、積極的に劉備を支援し第三極を形成したこと、諸葛亮の草廬対が天下統一をめざす点で異なる)、劉備・張飛が馬商人の財力を基盤にし、山西出身の関羽は塩商人のネットワークをつかっていたこと、宋以後の塩政をうけて発展した山西商人が関羽を神に押し上げ、清代には関帝崇拝が広まっていたことなどを論じている。諸葛亮については、基本的には実践的な儒教「荊州学」を修めた堅実な政治家であったことを指摘し、道家的魔術師ではないことを指摘しています。劉備との間にも、荊州名士の登用を巡って「せめぎあい」があるとされています。彼が後世の尊敬を受けたのは「漢」という中国古典文化を守ろうとしたからだであり、つまり、諸葛亮は守ろうとしたものが偉大だとされたために、彼自身も偉大とされたということになるのです。この他にも、「蒼天」が儒教であり、「黄夫」が道教であるという解釈や、春秋学との関連、九品中正法の関連なども視野におさめています。竹林の七賢や、西晋が儒教国家を作ろうとしたことなどにも触れている(面白いのは「盛り塩」の由来など)。とくに筆者の儒教観(封建・井田・学校)は本書の裏のテーマといえると思います。古典文化である「漢」の崩壊をうけた三国時代は、その後の中国を規定していく要素が多く、中国史を理解するにも重要な時代です。
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演義のエピソードをある程度知っていれば充分読みこなせる三国時代解説書。
演義では人がいい外交官な魯粛の実像が、先見の明を持つ戦略家であったとは。
「三国時代をもっと知りたい」と思わせてくれる。
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『三国志演義』が主人公として描く「三絶」―曹操、関羽、諸葛亮―を中心に、三国志の世界を『演義』『三国志』(正史)両方のエピソードを批判的に読み解くことで、真実の三国志時代を描く。
という構図を頭に入れた上でも、丹念に読まないといま『演義』の話をしているのか『三国志』の話をしているのか、またそれに賛成しているのか虚偽としているのかも、意外と読み取りにくく、疲れる。
とはいえ、興味深い指摘がたくさんあるのも事実。
特に三国時代の政権構造に「名士」が及ぼした影響の大きさを論じ、「名士」の扱いを軸に多くの事績を読み解いているのは、初めて触れる考え方だった。
曹操の名士との距離感の取り方の絶妙さに感じ入った。
中公新書らしい、硬派な歴史解説本。
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儒教の神は「昊天上帝」=蒼天
黄巾賊は黄老思想を打ち立てているもの。儒教をやぶり、黄老思想を持ち上げようとした。
後漢の春秋で好まれたのは「公羊伝」。
礼記は今文、周礼が古文。
後漢は今文が好まれた。
春秋では、漢を正当化する公羊伝がもてはやされた。漢を聖漢として孔子も漢が立つことを予感していた。と、言う内容。
なので皇帝を名乗ろうとした袁術は嫌われた。
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正史である三国志と、三国志演技の違いから、史実はどうだったのかと解こうとする。
とにかく面白い演技の世界にも、そうせしめた時代背景があるはずだ。
曹操と関羽、孔明の描き方の特徴から、それぞれの思想的な背景、時代背景を解く。
めちゃくちゃに面白かった吉川英治の三国志に惹かれて、中国の歴史に興味を持ったが、最近出てきた宮城谷三国志は正史に近い作品だろう。
これらを理解した上で、様々な三国志を読み返すと、その面白さが一層際立ってくる。
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面白かったです。
「演義」を読んでいるだけだと見えてこない部分や、不自然だなと思っていた部分の謎が解けた気がします。
特に、劉備と諸葛亮のせめぎあいの話は新鮮でした。
3兄弟が何によって結びついたのか。呂布や公孫瓚は強大な軍事力を持っていたにも関わらずなぜ滅んだのか。逆に名門の袁術・袁紹が敗北したのは何故か。関羽が神格化してゆく過程には何があったのか。荀彧は何故死ななければならなかったのか。果断な曹操を迷わせた後継ぎ問題とは。ますます色々な三国志本に手を出してしまいそうです・・
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メモ
『三国志演義』から「正史」『三国志』へ。儒教、朱子学や時代・王朝のイデオロギーで改変されていった三国志。判官びいきの対象諸葛孔明、悪役の曹操、引き立て役の孫権。それらを基に史実を明らかにしていく試み。
後漢→黄巾の乱・とうたく・袁術
魏・・・曹操、赤壁の戦い、屯田制、名士
呉・・・孫権
蜀・・・劉備・諸葛孔明・天下三分の計、三顧の礼、桃園の誓い(劉備、関 羽・張飛)
物語を読んだことなく、なんとなくの流れしか知らないのでぜひ読んでみたい。
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「三国志演義」(小説)から「三国志」(正史)へとさかのぼって、真実の歴史にせまる。虚構の物語、国家編纂の正史ともに書かれた時代の思想が反映されている。1962年生まれの渡邉義浩氏による分析はとても分かりやすく、歴史としての三国志を知りたい人に本書はお勧めです!
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本書は一般に親しまれている演義を入り口に正史の記述を検討。そして史実へと誘う三国志の本である。
我々に馴染みのあるのは、演義の世界である事は知っていたが、何処までが史実で何処までが創作なのか、その境界がわからなかった。二袁の真実(袁術と袁紹)や董卓の意外な美点。名士と君主の責めぎあいなど新たな視点が面白い。
久しぶりに光栄の三国志をやりたくなりました。
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昔から広く読まれ,今も小説(吉川英治),漫画(横山光輝),ゲーム(?)で大人気の三国志。曹操,関羽,諸葛亮の三人を中心に,『演義』と正史(含裴注)がどう描くか見比べながら読む。
まず三国志のテキストがどう変遷していくのかを確認。西晋の陳寿が著した『三国志』に,劉宋の裴松之が注をつけた。そしてこの正史や口伝をもとに,明の羅貫中が虚構を取り混ぜた『三国志演義』としてまとめて,これが普及した。『演義』も様々にテキストが変わっていく。羅貫中の作は散逸してしまっていて,たくさんの異本が残っている。20世紀の日本では,明の李卓吾本が,吉川英治の小説を通して受容されたが,中国では,李卓吾本から派生した清の毛宗崗本が決定版である。
毛宗崗本では,曹操,関羽,諸葛亮を「三絶」と称して強調する。順に,「奸絶(奸の極み)」,「義絶」,「智絶」とする。小説『三国志演義』はもともとフィクションを交え,悪役曹操,義の人関羽,天才諸葛亮をデフォルメして庶民にウケやすい物語にしたが,毛宗崗本はその完成版ともいえる。
陳寿の『三国志』は簡潔で,例えば結構有名な登場人物趙雲についての伝がわずか2tweet分しかない。246文字。これに裴注は『趙雲別伝』1096字を補っている。裴松之が陳寿のとりこぼした史料を拾ってくれたおかげで,後世に伝わった史実は少なくない。
このように『三国志』と裴注は,比較的当時に近い時代に,残っていた史料をもとに書かれている。これに対して,『三国志演義』は,おもしろおかしくストーリーを仕立てて,三国志の物語を広めようという意図のもとに作られたので,虚構がかなり盛り込まれている。
例えば曹操による有名な呂伯奢殺害事件というのがある。これは董卓暗殺に失敗した曹操が逃亡中,父の友人である呂伯奢一家を殺害した事件。これは陳寿『三国志』になく,裴注が補った三史料も家人殺害しか載せていない。曹操の奸を強調するのは『演義』特に毛宋崗本からである。正史『三国志』は曹操の魏を正統とする立場で書かれているので,曹操を悪く書かない。それに対して『演義』は漢王室の流れをくむ劉備を正統とするので,曹操は徹頭徹尾悪として描き,劉備の蜀は善,孫権の呉は道化として描いている。あからさまに一般受けを狙っている。
関羽については,主人である劉備に対して義であるのみならず,曹操に対しても義であることが示されて「義絶」が強調される(顔良を斬って劉備のもとへ帰るエピソード)。「智絶」諸葛亮などは,策謀だけでなく,魔術をつかって風を起こしたり,人知を超えた活躍をさせられる。
「死せる孔明,生ける仲達を走らす」は三国志の終わりごろのエピソードと記憶されるが,これは『演義』から。諸葛亮の死は,約百年続いた三国時代のちょうど中間くらいだが,民間受けを狙う以上,ここをクライマックスにしない手はない。
結局,三国志は正史に始まり,いろいろと変容を受けて小説『演義』にまとまり,登場人物の役回りも決まってきて物語は分かりやすく,魅力的になり,日本でもそのように受容され消化されてきた。正史そのままでなく,このように純化・洗練されてきたからこそ,今に至っても根強い人気があるのだと思う。おそらく今でも(ネット時代の今だからこそ?)三国志はさらなる変容を受けてまた違った読み方ができるようになっているのだろう。まったくフォローできていないが。
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副題に「演義から正史、そして史実へ」がついています。1800年前の出来事を史実としてどのように浮かび上がらせるのかというと、中国の王朝が書き連ねてきた正史(「正」統な歴「史」)とその他の作品との比較という手法をとっています。この分析の仕方が、歴史学の点から三国志を分析した点で学術的側面がものすごく強く、ゲームや漫画、小説ではわからない部分を充足させてくれる知的満足感があります。
著者(参考:三国志検定HP→http://www.3594kentei.com/message/column01.html)自身も吉川英治の『三国志』から入っているので、きっかけは小説ですがそれが学術的、歴史学的に何が本当なのかを極めた結果の一部がこの本に結集しているように感じられます。特に、個人的に初めて知ることができた点で印象深かったのは…
・正統・閏運・僭国(魏呉蜀三国の定義)
・魯粛による天下三分の計(天下三分は孔明の策ではないのね)
・名士対君主の根深さ(階級制度とせめぎ合いの構図)
・法治と寛治(二種の統治法)
・陰陽五行説と五行相生説(この点からアジアや日本を見るとすごく面白い)
などなどです。横山光輝(http://www.yokoyama-mitsuteru.com/)の漫画から出発した私の三国志好きですが、それが演義発の物語であるならば、史実は何であるかを知ることもまた面白かったのです。日本の統治制度や行政制度に反映されたさまざまな制度も出てきます。勧善懲悪や、忠義・仁義の貫徹など、日本人が好きなものだけに収まりきらないドラマがこの本から読み取れると思います。
今まで自分が抱いていた感想の下になった漫画のストーリーとは別のものを見せられました。これまで以上に新しいことを知ることができて、さらに惹かれるものがあります。限りなくハマって惹かれ続けることのできるのも三国志の凄さなのかもしれませんね。そういえば、最近では中国ドラマの『三国志 -Three Kingdoms-』(http://www.sangokushi-tv.com/index.html)が放送されてますね。やはりいつになっても手を変え、品を変えながら描き続けられるのでしょうね。
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非常に分かりやすく、かつ踏み込んだ内容の三国志解説書。三国志についてあまり詳しくない私にも読みやすい本だけれど、恐らく詳しい人にとっても、様々な発見がある本ではないかと思う。
三国志という時代を、思想や宗教、文化といった様々な時代背景と絡めながら解説してくれるのが興味深い。「蒼天すでに死す」の意味や、曹操の後継問題と儒教の関わり、名士と君主との微妙な力関係といった話は、三国志という時代をより広い視野で捉える助けになった。
主に曹操、諸葛亮、関羽の「三絶」を中心に据えている分、その他の人物や勢力については情報量が少ない印象があった。孫呉好きの私としては、もっとボリュームが欲しかったというのが正直な所。けれど巻末の「もっと詳しく知りたい人のために」という文献集はとても有難い。この本を導入として、もっと三国志の世界に踏み込んでみたくなった。
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吉川英治の三国志、横山光輝の漫画、KOEIの三国志ゲーム、2008年に公開されたレッドクリフはいずれも「虚構」に満ちた「三国志演技」をベースにしている。
本書は、「演技」を入り口に「正史」の記述を検討して「史実」へと言及している。
「正史」といえども、魏を滅ぼして建国された西晋の史官によって作成されているため、西晋の正統を示すために書かれている。
「正史」とは、「正しい歴史」を記録したものではなく、史書を編集した国家にとって「正統な歴史」を描いたものである。
全体を通して印象に残ったのは、人材登用
唯才主義を掲げた曹操、名士への礼遇で有名な劉備、そして曹操・劉備にひけをとらず名士の抜擢に務めていた董卓
三国時代に、お家柄にこだわらず各地に存在した名士を登用していった者が名を残しているのは興味深い。
メインは、「肝絶」曹操、「義絶」関羽、「智絶」諸葛亮の三人にスポットを当てて、演技で虚構とされている内容はなんなのか、そこから史実に近い人物像を描いている。
「智絶」諸葛亮編が圧巻の内容。
劉備が「三顧の礼」で迎え、劉備が没するときに、「劉禅が君主として才能がなければ、君が自ら成都の主となってほしい」と言われた諸葛亮(史実)
これは全幅の信頼ではなく、劉備と諸葛亮孔明とのせめぎあいの一つである。
諸葛亮が荊州名士を次々と抜擢し政治基盤を確固たるものとする過程で、人事で劉備とのせめぎあいが起こっていた。
「馬謖を泣いて切る」背景が分かり、三国志をさらに深く理解できる一冊でした★
かなり満足な一冊
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☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB05220049