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終始ニヤニヤしながら読んだし、こんなに笑った円城塔は初めてだった。
「昔、文字は本当に生きていたのだと思わないかい?」というウリ文句からしてなかなかの悪ふざけではあるが、よもやここまで悪ふざけが過ぎるとは思わなかった。出だしの『文字渦』はまだ舌を巻きながら読めるところはあるが、後半に行くに従って徐々にエスカレートしていき、しかめつらしく読むべき文学なのか、抱腹絶倒のギャグなのか、そもそも自分は何を読んでいるのかよくわからなくなっていく。
しかし、よくもまぁここまで様々なネタを繋げながら文字で遊びきれるものだなぁと感心する。文字コード問題に端を発する戦争なんて上手い発想だし、どうなっているのだろう、この人の頭の中は。
それにしても校正泣かせであったろうことは想像に難くない。南無。
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また面白くなってる・・・。
タイトル扉に真理を表す文字を添えたのにはそれなりの確信があるんじゃなかろうか。
自分の中ではやっぱりSelf-Reference ENGINEのインパクトがドーンとあって、それ以降、SREの変奏を色々と楽しんできてそしてエピローグで1周したなという感じがあった。本作は、その種明かしでもあるプロローグで提示された新たなテーマが一気に爆発してる。そういう意味では、結果的にあの2作はこれまでのエピローグとこれからのプロローグだったという風にみても面白いかも。
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中島敦に『文字禍』という短篇がある。よくもまあ同名の小説を出すものだ、とあきれていたが、よく見てみると偏が違っていた。『文字禍』は紀元前七世紀アッシリアのニネヴェで文字の霊の有無を研究する老博士ナブ・アヘ・エリバの話だ。同じ名の博士が本作にも登場するところから見て、連作短編集『文字渦』は中島の短篇にインスパイアされたものと考えられる。
『文字渦』の舞台は主に日本と唐土。時代は秦の時代から近未来にまで及ぶ。ブッキッシュな作風で、渉猟した資料から得た知識を披瀝する衒学趣味は嫌いではないが、近頃これだけ読めない字の並んだ本に出会ったことがない。康煕字典でも手もとに置いていちいち繙くのが本当だろうが、それも大変だ。とはいえ、文字が主題なので、それがなくては話にならない。一冊の本にするには、関係者の苦労は並大抵のことではなかったと推察される。ただし、外国語にはほとんど翻訳不可能だろう。
始皇帝の兵馬俑発掘の際、同時に発見された竹簡に記された文字の謎解きを描いたのが表題作の「文字渦」。粘土で人形を作ることしかできない男が、俑造りのために召しだされる。腕を見込まれて始皇帝その人をモデルに俑を作ることになるが、その印象が日によって変わるのでなかなか捗らない。兵馬俑の成立過程とその狙いを語りつつ、物と直接結びついていた字が、符牒としての働きを持つ実用的な文字へと変化してゆく過程を描き出す。
阿語という稀少言語を探しながら各地を歩いていた「わたし」はあるところで「闘蟋」ならぬ「闘字」というものに出会う。「闘蟋」とは映画『ラスト・エンペラー』で幼い溥儀が籠の中に飼っていたあの蟋蟀を戦わせる遊びである。「闘字」は、それに倣い、向い合った二人が互いに硯に字を書いて、その優劣を競う。ヘブライ文字で書かれたゴーレムの呪文を漢字に書き換える論理のアクロバットが痛快無比の一篇「闘字」。
個人的には、「梅枝」に出てくる自動書記の「みのり」ちゃんがお気に入り。いくつものプーリーやらベルトで出来たガントリー・クレーンを小さくしたような形の機械ながら、『源氏物語』の紫の上の死を書き写す際、のめり込み過ぎて他の書体では書けなくなってしまうほど神経の細やかなオートマタなのだ。ニューラル・ネットワークによって学習する「みのり」は話者である「わたし」の一つ先輩である境部さんの自作。境部さんはアーサー・ウェイリー訳『源氏物語』を自分で訳し直したものを「みのり」を使って絵巻に仕立てている。本は自分で作るものだというのだ。
この時代、紙は「帋」と呼ばれるフレキシブルディスプレイと化している。境部さんは言う。「表示される文字をいくらリアルタイムに変化させても、レイアウトを動的に生成しても、ここにある文字は死体みたいなものだ。せいぜいゾンビ文字ってところにすぎない。魂なしに動く物。文字のふりをした文字。文字の抜け殻だ」「昔、文字は本当に生きていたのじゃないかと思わないかい」と。
この境部さんのいう文字に魂があった時代、もう一人の境部が遣唐使として、唐の国に渡っている。白村江の戦いに敗れ、唐の侵攻を食い止めるための外交交渉の副使としての任務がある。高宗の封禅の儀式に立ち会い、皇后武則天の威光を知った境部石積は、一計を案じる。外交の窓口となる役人に二つの願いを出す。ひとつは函谷関を越え西域に旅をする許可。もう一つは、武則天の徳を讃えるために新しい文字を作ること、である。前者は日本がカリフの国と手を組んで唐を挟み撃ちにすることを意味している。
そんなことが許されるはずがないので、これは単なる脅しにすぎない。ではもう一つの方にはどんな意味があるのか。「石積は思う。もしもこの十二年、自分の考え続けてきた文字の力が本当に存在するのなら、皇后の名の下に勝手な文字をつけ加えられた既存の漢字たちは、秩序を乱されたことを怒り、反乱を企てるだろう。楷書によって完成に近づいた文字の帝国に小さな穴が空くだろう」と。
中島敦の『文字禍』に登場するナブ・アヘ・エリバの名が出てくるのが、この「新字」。老博士は文字の霊の怒りにふれ、石板に下敷きになって死ぬが、石積はその文字の力を信じ、一大帝国に揺さぶりをかけようとしているのだ。もし西域への旅が許されたら、同盟国を探すつもりだが、その頃日本は唐に攻め滅ぼされているかもしれない。それなら、新しい土地で新しい言葉で日本の歴史を記せばいい。それも「国を永らえる一つの道なのではないか。文字を書くとは、国を建てることである」と石積は考えている。
収められた十二篇の短篇の中には、横溝正史の『犬神家の一族』をパロディ仕立てにした「幻字」もあり、SF、ミステリ、歴史小説、王朝物語とジャンルの枠を軽々と越えて見せる変幻自在ぶりに圧倒されて、ついつい見逃しがちになるのだが、全篇を貫くのは「文字の力」という主題である。公文書の改竄や、首相、副首相の無残な識字力が世界中に知れ渡ってしまった今のこの国において、文字の魂、文字の力を標榜することは大いに意義深いものがあるといえるのではないだろうか。
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最後まで読めばもう少し色々なことが謎解きされるのかな?と思ったが、でもなかった。
私が読めていない(知識が足りない)だけなのかもしれないし、もしかして作者の中でも元々全体的な設定はないのかもしれない。もしかしたら他の作品を読んだらもう少しわかるのかもしれない。
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円城塔は文庫で買っていたので、当初、買う予定はなかったのだが、Twitter辺りで上がっている組版の画像を見ていると、これは買わねばならない……という気分になってしまった。確かにこりゃめんどくさいw 出来ればやりたくないw しかし組版もそうだが、校閲も大変だったんじゃないかなぁ……?
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こないだ某作家さんと飲んでた時に「時代小説書いてると編集者から「そんなに調べたこと全部書いたら読者がついてこないからほどほどに」って言われて「書きたい」って思ったけど、小学生からじいちゃんばあちゃんまで幅広くファンレターもらっちゃうと分かりやすさ第一にせざるを得ない」って言ってはって「大変やなぁ」と思ってたんやけど、たまにはこういう「作家がやりたいことを全力で振り切って書いてる」本もええよね、ファンレターは少ないかもしれんけどオイラは好きよ。
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いやおもしろかった……巫山戯てるんだけどちゃんとしてるよね。あんまり真面目に向き合わないで、わあおもしろいなあって読むとものすごくおもしろいです。(感想下手すぎる)
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ネットで見た画像のインパクトがすごかったので、実物が見たくて、斜め読みのつもりで図書館で借りた。画像のものは「誤字」で、ルビが反乱?し、本文をほったらかして語るもの。画像ではルビだけを読もうとしても、いつの間にか本文を読んでしまったり、本文を読んでいても漢字があると目がルビに行ってしまうという混乱も楽しめた。実物の本ではそれは起きなかった。
短編が多数収録されていたが、文字自体が国を作ったりして生きているイメージのものが多い印象。兵馬俑を作った話だけは違うかな。
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文字、漢字から想起されたファンタジー。ただ、私は半分も理解できてないと思う。文字で競う「闘字」は、内容を追えて、面白かった。「幻字」「かな」からは、「文字はもっと自由なものだった。それが活字になり、コードが振られたことで、利便性は増したが、自由が失われた。」というメッセージを感じた。
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文字(主に漢字)に関する物語。漢字の部首などの作りで遊んでいる感じや、ルビの使い方が読んでいて楽しい。各話の題材も歴史から理系の話題まで関連していて興味深い。わたしが特に好きな話は「闘字」、「新字」。
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新しい言語、新しい文法、新しい単語が、今この瞬間にも生まれているであろうのに、
新しい「文字」そのものは、いつから生まれていないのだろう?
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社会人なりたての頃にやった、文字コードのマッピングの仕事を思い出した。
メイフレームはIBMで、それにつながるプリンタは富士通製、PCには大量の外字という環境で、ひたすら画面に表示される字形とプリンタから印刷される字形を一致させていた。なぜかプリンタのJEFコードとPCのSJISコードでは、基準とするJISが78年と83年が混在しているというステキな環境だった。
目で確認するしか字形の一致は確認できず、相当に目を酷使する仕事で、当時はこれこそ文字禍だと思った。
本書、文字渦は、文字で人が殺されることはない。
ただ、作者もウェブエンジニア出身ということで、「なんでWebでSJIS使ってんだクソが!」とか、文字コードに苦しめられた経験が、本書を生んだのでは?と邪推した。
これを読むかぎり、そんなことはなさそうだけど。
https://scrapbox.io/mojika/動機
https://scrapbox.io/mojika/解説
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本作品を小説というジャンルにしておいていいのだろうかと思うほど奇妙な作品だ。文字の可能性を突き詰めた論文のようでもあるし、単に文字を題材にした実験小説とも言える。とても感想を述べにくい作品である。では、読みにくいのかと言われると、想像していたよりは読みやすかった。難しい作品ではあるけれども、作者の言わんとしていることは伝わってくる(理解しているかどうかは別問題)。漢字で表現されたスペースインベーダーゲームが登場したのを見て、漢字は文字なのか記号なのかイラストなのか、日本人であるからこそ楽しめる領域なのだと思った。
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文庫判が出るというので慌てて読了。文字の中に、文字の外に、どこへ行こうとするのだろう。何度も読みたい。
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「文字渦」★★★★
「緑字」★★★★
「闘字」★★★★
「梅枝」★★★
「新字」★★★
「微字」★★★
「種字」★★
「誤字」★★★★
「天書」★★★
「金字」★★★
「幻字」★★★★
「かな」★★★