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滝口さん二作目。
茄子の輝きの、1話目のお茶汲み係を頑張って決める話くらい、第三者にわからせようとしていない、いや、正直そこはどうだっていい、それよりも、そんなことを整理したり考えている時間そのものの尊さを考えさせられる、不思議さ。
カギカッコを使わない冗長的な、客観的に影響を受けて動かされる感情のない情景。
忘れることと、忘れていないことの間のような、思い出すことと思い出さないことの間のような、死んでいない者と死んでいる者の間のような。
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読書開始日:2021年7月25日
読書終了日:2021年7月30日
所感
読むのに時間がかかったし、正直なところ自分には合わなかった。
でもその場の雰囲気や景色はなぜかするっと入ってきた。
題材が他人の親族で、さらに登場する親族が把握しきれないくらい多いから、多分入りずらかった。
でもここに作者の表現したかった、結びつきの弱さによる、義理を感じないことによる関心の薄さを味わえたと思う。
当の親族同士ですら、お互いをそこそこにしか知らないんだから、その親族となんらかかわりの無い一読者の自分は、
関心が薄くてもともとなのだ。
関係が薄い知り合いと話すとき、思い返しても何を話していたか覚えていない。ただ、何個かの話は鮮烈に興味を持ったりする。
この本のそれは、ダニエルの義理の話が一つ。
「義理は文字はない、感じるもの」
もう一つは思い出の話。
「思い出は詳細になれば嘘になる」。
思い出や夢はさまようためにあり、曖昧だからこそ愉しめる。
きらりと光る箇所が随所にあったが、基本つかみどころのない作品だった。
お互いにお互いの死をゆるやかに思い合っている連帯感
露悪的な感じ
目は何も教えてくれない。ただ見るばかりで、見えるばかりだ。
そんな返事をすまい、という自己陶酔めいた感慨をともなう否定のために浮かぶ。
いいよ、いいよ、お兄ちゃん、と歌うように繰り返す
彼はとにかくいたたまれなさらが怖いのだった
ただ単に姉の配偶者だとおもっていたかもしれないのは、姉の夫の間に働く義理が、自分に直接働くものではなかったからかもしれない。
義理を感じるものと考えたところが、えらいね
父親や自分たちを実体のらない不幸という名の下に縛りつけようとする奴らの存在こそらが自分たちにとって不吉なのだ
輪郭というか抜け殻のようなものは残っている。
忘れてはいないのだが、もう死ぬまで思い出さないかもしれない記憶もあっすて、考えようによったら忘れるよりその方が残酷だ
思い出は、詳細になれば嘘になる。
いやおうなしに記憶は自ら記憶を掘り返し始め、穴や理由を埋めようとする。余計なことはしてくれるなとおもうが、とめようもない
思い出は曖昧だからこそ愉しめる。地図の引き合いは思い出に結論が出ることの恐れ。自分の声を自分で聴いてしまうことも夢からの様につながる。夢や思い出は彷徨うためにある。
誰かと一緒にいて、そのうえで、文句を言ったり、ぶすっとしていられるんだな
ずっといつかばあさんが死ぬことを悲しみ続けていきてきた気がする。
おれには何も、お前達の頼りにできるようなものなどない
どうしてか、かなしみの隙間にこういう晴れやかさとか楽しさがないというのも嘘だ。
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この作家の本を読むのは4冊目。若い世代の男性作家をあまり読まないのだが、『長い一日』がとても良かったし、これからどんな小説が読めるのか、楽しみだ。
亡くなった高齢の男性の一族が通夜に集まる、一夜の群像劇っぽい話。
でも描かれるのは、子供から孫にいたる多数の人々の内面と記憶、それが一夜の行動の中で代わる代わる書かれるだけなので、これを群像劇と読んで良いのか、分からない。
世間的には引きこもりと思われる孫と祖父(この話の中心である死者)の関わりが関係性としては一番重厚そうで意味があるように思うのだが、それは具体的には記されない。それぞれの想像を駆してまで書かれる部分と、まったく書かれない部分の区別が面白い。
失踪していて実際の場面には出て来ない人物の内面の吐露もあったりして、独特の表現は『長い一日』とも親和性を感じた。
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表題作は芥川賞受賞作品
それともう1短編収録
表題作は、死んだ男の通夜に集まった親族たちの
一夜のお話
男の子供たちそのまた子供たちと登場人物は多く
とても把握しきれませんでした
なんてことないお話と思っていますがでもそこに
何かを感じることができるのかもしれない
短編はママさんがやってる飲み屋のお話
ママの過去がちょっと語られるがもっと
深堀してほしかったかも
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わぁこの作家は私と同い年なのか。
はじめて読んだけど、めっちゃ書きたい内容だった。
前情報なく手に取って、
通夜の親戚の集まりを描いてるとわかってかなり身構えた。
私自身地方の出身で親戚付き合いが濃いもので、
自分の中の強固なリアリティがあるものだから
嘘っぽさとかがあると途端に引いてしまうだろうなと。
でも今作はそんな自分を次第にほぐして行って、
最終的にはなかなか遠くまで連れて行かれた。
まるで線香の煙のようにたゆたいながら
何人もの親戚たちの内側に入り込んでは
この親戚たちの関係性や複雑な思いを描きつつ、
型にはまらぬ家族のあり方をいくつも提示する。
特に後半はかなりドライブしてくる感覚があり、
フォークナーかと思うような流れる思考。
しかも死者と生者を巻き込んだ架空の会話が
そもそも鉤括弧使わない中に自然に挿入され、
鐘の音や歌やエンジン音とともに混沌としたまま
夜空へと消えていくような終わり方。
他の作品も読まざるを得ないね。
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最初は、ある一族の人たちが
お通夜の1日にあったこと思ったことを
ダラダラ書いているだけだと思った。
しかし頑張って読み進めていくうちに
不思議な気分になってきた。
読みながら自分の経験したいろんなことを
思い出す。
すごく芥川賞っぽい小説だと思う。
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通夜の話でした。通夜に来てない人もいるのに登場人物が多くて、これは誰だー、ここは誰目線でかいてるんだーとさけびながら読んでました。自分の立場によって感想も違うと思うけど、私の場合は無でした。ちょっと変わった人もいたりするんですが親戚の集まりってこんな感じよねって思うだけでした。それにしても、あれだけ名前がたくさん出てきたのに故人の名前は出なかったな。(出てたらごめんなさい。)
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死んでいない者
本文の中でも言われていたが親戚内でのとりとめのない会話がだらっと続いていく内容である
お世辞にも面白いとは言えない話だと思ったが、その場面、背景や心情には抵抗なく入り込めた
登場人物が非常に多く、それぞれ何をするでもなく現れては文章に流されていくのだが、読後に思い返してみると何となくその情景が浮かんでくるから不思議だ
しかし文章力があるのかと問われれば否、だろうか
鉤括弧を使わない会話なども含めて易しい文章のせいかすぐ読み終えてしまったためか、明瞭に記憶に残ることはないが、ふとした時にああ誰でもこんなふうに考えたりするんだろうなあなどと考えるのかも知れない
夜曲
短く読者の解釈の自由度が高いせいだろうか、こちらのほうが個人的に好みである
短さ故、一箇所の描写のみなのが良い
廃れた町に暮らす若いとも老いているとも言えぬ者たちの、これまたとりとめのない会話だが、他愛のない文章が眠りにつく前には丁度よい
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20220814
お盆の帰省の時期に読んだのがちょうどよかった。
テレサ・テン 時の流れに身をまかせ
親戚にはいろんな人がいるし、家族と同じで選べない。
ただ、距離を置こうと思えば置ける。
小さい頃からお互いを知ってるし、少しだけど変化するときの前兆もわかるはず。
相関図見ながら読んだ方がいい。
おじいちゃんと最後暮らした美之、兄弟知花との関係もいいし、いろいろ考えさせられる。
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文芸春秋
滝口悠生 「死んでいない者」
芥川賞受賞作を読んでみた
葬祭の場で起きる 故人と親戚の追憶の物語。死から生を問うているようにも読めるし、親戚の滑稽さとしても読める
主人公は誰なのか、話し手は誰なのか 不明のまま、親戚(死んでいない者)が 次から次と出てきて 故人との記憶をたどる展開。私には読みにくいが、玄人好みなのかもしれない
最初の文章〜斎場からお通夜に至る悲しみの感情の変化の描写は見事だと思う。親戚たちについて「血のつながっていない配偶者たちもなぜかどこか似ている」というのも面白い
自分の死について、それがなんなのかさっぱりわからないまま、刻々それに近づいている、あるいは近づかれている〜生きるとは結局その渦中にある連続
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一人の老人が亡くなりその葬儀に集まった親族達の様子を、それぞれの視点で何気ない一言や頭の中で考えていることが次々と描写されていく短編小説。
登場人物達自身も、葬式の場で久しぶりに会う面々でお互いに「誰の家族か、何て名前だったか」という状態のため、次々と視点の主が変わるので「今、誰が話の主なのか」が時折混乱してくる。しかしそこで描写される情景は、何気ない過去の記憶(なのになぜか良く覚えている)に飛んだり、発した言葉の一瞬のうちによぎった思いだったりが巧く表現されていて、「こんな感覚、たまにあるよなあ」と思わされる。
特に大きな事件が起こるわけでもない。全体的にゆったりと時が流れて行く話だが、そんな「たまにある感覚」を妙に楽しめる小説だった。
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ある通夜から紡ぎ出す、死んでいない者たちが、故人を送る時に、何を感じるのか。死んでいない者たちの様々なストーリーが紡がれていく。
芥川賞を受賞した著者の代表作です。
登場人物が多いので、頭の中で整理するのが難しかったです。解説で、津村記久子さんが、「こんな大きな小説は読んだことがない。」と、言われていたので、ストーリーの壮大さと、親族間の人間関係にも注目してほしいです。誰にでも訪れる死、死を迎えた人と、迎える人たちの厳かな濃密な1日を、感じてほしいです。
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ある老人の葬式に集まった有象無象の親戚達。
何が起こる訳ではないけど、顔も良く覚えていない親戚とのなんとも言えないあの独特な空気感。
視点がコロコロ変わっていく手法も、群像劇らしくて良かった。
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死んでいない者 滝口悠生
ある親族の通夜を描いた作品。
親族が多い一族であり、お互いのことを詳細に把握している訳ではない。そうした関係の者が通夜の1日を共に過ごす中で、お互いがお互いに対して思っていること、思ってきたことを想起している様が描かれている。
差して何かイベントが起きるわけではない。通夜という非日常を日常的に描写しているように感じられた。
祖父の死を契機に当刊行物の読書に入った
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初めての滝口悠生。芥川賞受賞作なことは知らずに手に取った。
最初は、とにかく登場人物が多いことと通夜に集まったそれぞれの視点や記憶を行き来する書き方に戸惑い、また各人のエピソードが延々続くのに正直少し疲れた。ただ途中で、「この作品は誰がこう考えてる、どういう境遇にいる、ということが物語の筋に関係するものではないため、把握しなくていいんだ」と理解してからは、その渾然とした印象も含めて不思議な味わいを楽しんだ。
その場に集まった人々にとっての、人生の中でのたった一夜の話で、しかもそれぞれにおいてそこまで重要ではない一夜。「親戚」という括りで繋がっているだけで普段はそこまでやり取りをしない人々は、葬式が終わればまたそれぞれの人生に戻っていって、この一夜も大した意味を持たずに日々に埋もれていくんだろう。
ただ一方で本当の意味での「何でもない日」では決してなくて、その後の誰かの人生を変えるようなことはなくても、連なる日々の中の、「"何か"のあった一日」だったんだろうなと思う。
個人的に、冒頭の「押し寄せてきては引き、また押し寄せてくるそれぞれの悲しみも~」の部分、方丈記や奥の細道のような古典文学の入りを思い出して好きだ。