紙の本
矢野隆氏による傑作時代小説です!
2020/08/28 09:36
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『蛇衆』、『我が名は秀秋』、『山よ奔れ』、『大ぼら吹きの城』などの話題作を次々に発表されている矢野隆氏の作品です。同書では、大力の青年である坂田公時は武士になるため都へ上り、その時、初めて知る身分の境に戸惑うというところから物語がスタートします。そして、ある日、坂田公時は「鬼」の噂を耳にします。一方、神の棲まう山・大江山では食糧たる獣たちが姿を消していきます。里の長である朱天は仲間たちのため、盗みを働く決断を下します。公時と朱天、都と山、人と鬼といった二つの魂が交錯する時、歴史を揺るがす戦が巻き起こります。この続きは、ぜひ、同書をお読みください。
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陰謀渦巻く平安時代。源頼光率いる武人たちと、鬼と呼ばれた大江山の民。二つの思いが交錯するとき、歴史を揺るがす戦が巻き起こる!
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矢野隆らしい疾走感と躍動感あふれる戦闘描写はさることながら、古代日本の一種の排外思想を鮮明に映し出している超大作。
舞台は平安後期、金太郎で有名な坂田公時の鬼退治を描く。当時の京においては、帝の支配下にある者が「人」であり、その範疇にない者は全て人に非ずとされてきた。文化的に言うとナショナリズムが最も高まった時期と言えるのだろうか。その中で元は都の外で「鬼」として育った公時は人間であるはずの大江山の鬼退治に苦悩する。その悩みを彼らしく破天荒に霧消・昇華していく表現が実に魅力的である。
人に非ざる者は「鬼」「土蜘蛛」「蝦夷」「熊襲」と呼ばれ、彼らを見ると、どうしても私の好きな高橋克彦氏の作品を思い出さざるをえない。その作品の彼らが蝦夷に誇りを持つように、本作のラスボス酒呑童子も鬼であることを受け入れ、鬼として果てていく。人に非ざるとされた彼らが誰よりも人間らしく振る舞うのは非常に皮肉的であり、それが読者を惹きつけるのだと思う。
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山で鬼として育ち、武人であった父と同じ道を歩むため、下山し都へ。源頼光の近習として。
ある日、鬼の噂を耳にする。その一方で神の棲まう山である大江山では食糧たる獣たちが姿を消す。
里の長である朱天は仲間達のため、盗みを働く決断を下す。
頼光四天王の一人。坂田金時。そう。マサカリ担いだ金太郎の物語である。
大江山の鬼退治は能や歌舞伎でも演目になっている。この大江山の里の長こと、酒を呑む童子、酒呑童子。
源頼光は『御伽草子』などで化け物、妖怪退治の第一人者となっているが、本作では、随分な爽やか大将として登場。
菅原道長のクズ具合と安倍晴明の矮小さ具合が中々に良いキャラとして成立。
日の本の国も、令和の世もさして変わりませんな。