紙の本
戦国時代の動乱状況を生き生きと描いてみせてくれる画期的な論考です!
2020/03/01 12:49
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、我が国の戦国時代を、様々な史料をもとにして、生き生きと描写した画期的な論考です。戦国時代は、群雄割拠の時代とも呼ばれ、様々な大名が入れ替わり立ち代わり、権力の座についてきて、非常に複雑で混乱した時代でした。こうした時代において、大名らは如何に統治し、そこでの人々はどのように暮らしていたのでしょうか。また、当時は西洋から鉄砲などが導入され、その戦法も急激に変化していったと言われています。どのように変化していったのでしょうか。同書では、こうした戦国時代の動乱状況を生き生きと描いて、理解させてくれる興味ふかいものとなっています。
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荘園公領制から大名領国制の移行は、自律性の強い郷村共同体を土台にして形成された。
荘園では農民の自律性が養われなかったが、戦国時代を機に本当の地域社会が作られた。
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日本中世史の「良心」こと永原慶二による、戦国史の決定版。『戦国時代』という無骨なタイトルに500ページ近いボリューム、そして淡々とした記述と、読み進めやすい本では決してなかったが、読了コストの大きさに見合うだけのものは得られたと思う。
巻末にある本郷和人の解説が秀逸。これから読む方は、先にこちらから読むとよいだろう。曰く、控えめで良心的な記述が本書の特徴。70年代、網野善彦はじめ「四人組」が華々しく活躍した中世史ブームにあって、先輩にあたる永原は彼らのやらない地道な研究を一手に担った研究者という位置付けがなされている。
これを踏まえて本文を読むと、なんと「良識ある」記述がなされていることかと驚きを禁じえない。(あえてこういう書き方をするが)本の売り上げばかりを気にする学者にありがちな、根拠のない憶測や不必要に誇張された表現などは一切なく、どこまでも堅実に「書くべきこと」だけを書き、稀に色を出すにしてもほんのわずか控えめに自らの見解を述べるに留まる。それでいて物足りなさがあるかといえばむしろ逆であり、教科書のような詳細な章立てに従って整然となされた記述は質・量ともにあまりに分厚い。そういう意味で「完璧な本」であり、いち読者としてはただただ頭の下がる思いである。
また、本郷によると「科学的で穏やかな唯物史観」ももう一つの本書の特徴。戦国時代の通史というと、専ら戦国武将による各地域の覇権争いを描き、補足的に経済や社会の動向に触れるような形がまず思い浮かぶが、本書では両者に同程度のページ数が割かれており他に類を見ない網羅性を備えている。
その中でも経済構造の変化や百姓と地侍の関係、一向一揆の変容などのいわゆる下部構造についての記述は特に手厚く、下部構造こそが時代を動かす究極的な要因であることが(これもまた、控えめにではあるが)繰り返し述べられる。
総じて、戦国時代に対する充分過ぎるほどの知見と、戦国時代にとどまらない良質な歴史観をもたらしてくれる本。読み通すのはなかなか大変だが、ここまで読んで下さった方にはぜひ一読を勧めたい。