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斜線堂さんの作品は「恋に至る病」を初読し、次にこちらの作品を読ませていただきました。二作品目です。
潮風の香りと、波の音。脳内に生み出される海の情景が途切れないまま一気読みしました。
主人公と、特殊な病を患った女の子が「愛の証明を探す夏のお話」です。何が正解で、何が不正解なのか。唯一、ふたりが行っていた「チェッカー」だけは、盤面で正解を選び抜いていく。
病室の中で何を話そうとも、どんな気持ちであろうともチェッカーで勝負しようと言えば隣に居られる。そんな免罪符を持った「チェッカーで勝負しよう」という一言は、二人にとって愛のひとつだったんだなぁと思うと中学生も大人もあんまり変わらないように見えて、恋とはやはり惹かれるものだと感じました。
夏に読むことができて良かったと思えた作品。みなさんもぜひ、夏の間にこちらの作品を読んでみてください。心が澄んだような気持ちになれると思います。
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亡くなると全身が金へと変化する病に侵された女性と少年のお話
著者の本を読むのはこれで4冊目だが、特殊な状況設定を作るのが本当にお上手です
死体が金になると分かった状態での交流で、その間の感情に下心がないと証明ができるのか
転がり込む予定の金におかしくなっていく周りの大人を傍目に
自らの感情の矛盾と戦うエトの姿がとても愛おしいです
彼らが「感情の証明」を果たせたのかのかは分かりませんが、
ラストはグッと来るものがありました
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・愛する人の死に値段がついたら、その価値とどう向き合うか
・愛する気持ちを証明する方法
このテーマで描かれていく、体が金になっていく難病の弥子と、彼女に向き合っていく江都の物語り
正直、読み始める前はこんなに深いテーマであることを知らなかった
読み進めていくにつれ、もっと2人に時間をあげて欲しい…と苦しい気持ちになりました
「主人公のどちらかが病に侵され余命をどう生きるか」
といった、よく見かける内容に更に「死の価値と向き合う」という難題がのったことでグッと深さが増した気がした
最愛の人の死に、誰かが決めた価値なんか受け入れられない
弥子と江都の弱さをぶつけ合わない姿や苦悩に胸を打たれた一冊でした
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面白かった。感動した。
世の中お金が全て。でもお金だけじゃどうしようもないものもある。
お金だけじゃ動かない心をもつ人もいる。
ほんと感動する。
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スラスラ読めたし、それなりに面白いとは思うけど、そもそも恋愛小説で共感できない。
弥子は魅力的だけど、エトはあまり好きになれない。子供っぽいからだろうけど、中学生だし仕方ない。
人の価値が高くというテーマは面白いけど、そこについての描写?が浅すぎる。
感心することは無かった。
マスコミを絡めた流れが、もっとあっても良い気がするのに、人の価値に疑問を投げかける道具として適当に登場させた感がある。
色々と惜しい
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あなたは、病気療養中の人に『私の死体は三億円で売れるんだ』と『微笑を浮かべ』られたらどう思うでしょうか?
(*˙ᵕ˙*)え?
人が死ねば火葬に付された後、遺骨になって埋葬されます。もちろん国によって異なるでしょうが、この国にあっては法律の定めに従って、あなたも私も同じ運命を辿ります。愛する人の遺骨であればそれは何者にも代え難いものと言えるかもしれませんが、それでも遺骨は遺骨です。遺骨を売買するといったようなことは当然ありませんし、残念ながら売れるものでもないでしょう。
しかし、そんな当たり前の考え方では整理できない事ごとがこの世には数多あります。 例えばあなたは、『金塊病』という病気のことを知っていらっしゃるでしょうか?その病気の症状はこんな風に語られます。
『発症時から少しずつ筋肉が硬化し、骨に侵食されていく。この侵食する骨が、極めて金に近い物質へと変異する』
(*˙ᵕ˙*)え? (*˙ᵕ˙*)え? (*˙ᵕ˙*)え?
そう、この世にはあなたが今まで知らなかった奇想天外、奇妙奇天烈、摩訶不思議な事ごとがあるのです。
さてここに、『金塊病』という不治の病に侵された女性と偶然に出会った一人の中学生を描いた物語があります。『金塊病』という言葉を聞いて一瞬読む気が萎えそうになるこの作品。その一方で『死体は三億円で売れる』という言葉に目が止まってしまうこの作品。そしてそれは、夏の終わりの出来事を回想する主人公の想いを感じる物語です。
『弥子さんと過ごした時間には一銭の価値も無いのに、彼女の死体には三億円以上の価値がある』と弥子との『思い出を回想する』のは主人公の江都日向(えと ひなた)。そんな江都は『最初の間違いは、僕が昴台サナトリウム ー とある病気の為に建てられた特別な療養所 ー に隣接する道を通ったことだった』と『144日前』のことに思いを馳せます。『山に囲まれた小さな集落で、人口は千人程度』という昴台という地に暮らす江都は学校からの帰りに『サナトリウム近くの細道』を通ります。『かつては白い壁』だったのが、『今は落書き塗れの壁』という壁面には『奇病専用終末医療病棟の癒し』と記事にされたこともある『二月の鯨』と呼ばれるアートも描かれています。その一方で、『サナトリウム反対』といったビラも貼られている壁面を見る江都。そんな時、強い風が吹いて『朱色のマフラー』を手にした江都。『拾ってくれてありがとう。よければ返してくれるかな』という声に顔を上げると、『長い髪の女の人』の姿がありました。『サナトリウムの、人ですか?』と『馬鹿げた質問をしてしまった』江都に、『そうだよ。私は中の側の人間さ』と『悪戯っぽい笑顔で笑う』女性は『返したいなら私の病室まで来てよ』、『投げるなんてことはしないで欲しいな』と言うと姿を消しました。『私は津村弥子(つむら やこ)!…受付で私の名前を言ったら、多分通してくれるよ!』と声を残していなくなった女性。結局、『マフラーを鞄の中に押し込ん』で家に帰った江都は『金塊病患者新規受け入れ反対!』のビラがプリンターから出力されているのを見ます。『かれこ���四年も昴台サナトリウムに対する反対運動を行っている』母親。夜になって帰ってきた母親、そして、少しして現れた義父の北上と揃った中に、『国は大切な事実を隠している…昴台はおぞましい実験場にされる…』と『滅茶苦茶な陰謀論を語』る母親。そんな翌日、再び『サナトリウム』を訪れた江都は『都村弥子さんのお見舞いに行きたいんですが』と受付で言うと病室のある六階へと通されます。そこには、『広い病室の出窓に座』る弥子の姿がありました。『ねえ君、名前は?』と訊く弥子に『江都日向です。中学三年生』と答える江都。弥子は自身が大学三年であること、そして、『金塊病を発症して、半年前からここに入院している』ことを説明します。『通称「金塊病」と呼ばれている』その病気は『患者が死後、文字通り「金」へと変質すること』から名付けられました。『発症時から少しずつ筋肉が硬化し』『侵食され』た『骨が、極めて金に近い物質へと変異する』というその病気によって『算出された金』は、『現代の科学では』天然算出品と『区別する術はない』とされています。『人間の身体が金塊に変わるなんて、およそ信じられない話だ』と思う江都に、『私はそう遠くないうちに死ぬ』と弥子は語ります。そして、『エト、私を相続しないか?』と続ける弥子は、『私の死体は三億円で売れるんだ』と『微笑を浮かべ』ます。『ただし、私にも条件がある』と続ける弥子は『チェッカーというゲーム』に江都が勝つことが『条件』と説明します。『三億円。それだけの大金があったら一体何が出来るだろう』と思う江都。そんな江都が『金塊病』という病魔に侵された弥子と『チェッカー』の『駒』を戦わす日々が描かれていきます。
“片田舎に暮らす少年・江都日向は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子だった。彼女は死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける…しかし、彼女の死に紐づく大金が二人の運命を狂わせる”と内容紹介にうたわれるこの作品。
正直なところ、
”ちょっと何言ってるか分からない”
というのがこの文面を読んだ私の率直な感想です。この世に刊行された数多の小説の中にはさまざまな病気に侵される登場人物の姿を描いたものがあります。往々にしてそれは不治の病という場合が多いように思いますが、それは難病とされる類のものです。もちろん中には加納朋子さん「トオリヌケキンシ」に描かれるような『奇病』が描かれる場合もあります。しかし、いくらなんでも”身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」”というのはかっ飛び過ぎだと思います。私の想像力の飛翔限界を超えたものと感じてしまいます。
とは言え、女性作家さんの小説を全て読む!のが私の目標ですので頑張って読み始めました。そうしたところ、予想外の変化が自分の中に生じてくるのを感じました。奇想天外な病気の設定が何故か全く気にならなくなってしまう、それどころか作品世界に入っていってしまう…これは読み始める前に感じた醒めた感情からの変化でもありました。
そんなこの作品は兎にも角にもこの『金塊病』というものを整理しないことには始まりません。これ��どんなものかを抜き出してみたいと思います。
● 『金塊病』とは?
・『その病気の特徴の最たるものは、患者が死後、文字通り「金」へと変質すること』
→ 『発症時から少しずつ筋肉が硬化し、骨に侵食されていく。この侵食する骨が、極めて金に近い物質へと変異する』
→ 『二つ並べれば、どちらが天然産出品の金でどちらが金塊病の患者の身体から産出された金なのかは判別出来』ず、『現代の科学では、その二つを区別する術はない』。
・『金塊病こと「多発性金化筋線維異形成症」は、原因の全く分からない感染性の奇病だというデマを流されていた』
→ 『やがて、病が伝染性でない』と明らかになった
・『政府はこの病気を極めて特殊な難病に指定し、専用の収容施設を建設すると宣言した』。
→ 発症した『七人の患者の内、二人が昴台サナトリウムに送られ』た。
こんな風に書くとなんだかリアル社会に実際にある病気のようにも感じてしまいますが、当然ながら”身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」”というかっ飛んだ病はあくまで空想上の産物です。しかし、『継続的に患者を受け入れ』ることで、『その度に昴台の経済は回る』という考え方などなかなかにリアルにも感じられます。というより、上記した通り、読み進めていううちにこの強烈な設定がウソのように気にならなくなっていくのがこの作品なのです。
そして、もう一つ触れておかなければならないのが、『チェッカーというゲーム』についてです。『極めてシンプルなゲーム』という『チェッカー』は『金塊病』と違って、もちろんリアル世界でも人気のゲームです。
・『駒は十二個あって、基本は斜め前にしか進めない。もし行く先に敵の駒があったら、こうして飛び越えて取ることが出来る』。
・『チェッカーの駒が相手の端に到達したら、それは王になるの。王になったら斜め後ろにも進める』。
そんな風にルール説明が作品内でもなされますが、ご存知ない方にはこれだけでは少し厳しいかもしれません。何故なら、私がそうだからです(笑)。そう、『チェッカー』を知らない私…。とは言え、この作品は『チェッカー』を主題とした物語ではありません。江都と弥子が幾度も対戦する場面は登場しますが、ルールを知らなくてもなんとかなります!はい、ルールを何も知らない私が保証します(笑)。
そして、そんな物語の中心にあるのが、学校からの帰宅途中に、たまたま、『サナトリウム』に隣接する細道を江都が通ったことで動き出す物語です。強い風に飛ばされた『朱色のマフラー』を手にし、それが施設に入所している弥子のものと知った江都が弥子の元を訪れることから物語は始まります。そんな場で主人公の江都は、『金塊病』に侵された弥子からこんなことを告げられます。
・『単刀直入に言うよ。エト、私を相続しないか?』、『相続相手に君を指名したい』
・『私の死体は三億円で売れるんだ』
マフラーを届けただけの間柄でいきなりそんなことを言われて戸惑う江都。そんな江都に弥子は条件を突きつけます。
『三億円を君に譲る、条件』
いきなり、『相続』の話を持ち出され、これまた、いきなり『条件』を突きつけられるという江都。『チェッカーというゲーム』を教えられた江都は、
『一度でも勝てば三億円だ』
そんな弥子の言葉に困惑します。その一方で、家庭に複雑な事情を抱える江都は悩みます。
『殆ど無いだろうけれど、僕に三億円が入る可能性も、ゼロじゃない。三億円。それだけの大金があったら一体何が出来るだろう。そもそも、それだけの大金があって出来ないことがあるんだろうか?』
今の世にあって『三億円』という金額は一攫千金の一つの指標のような数字だと思います。宝くじなどでもよく聞く数字ですし、生涯賃金という言葉とともに語られる数字でもあります。もちろん、そんな大金を一夜にして手にすることができたなら、その人の未来は確実に変化するでしょう。その瞬間以前と以後では見えてくるものも違ってくるはずです。この作品の主人公である江都は中学三年生ですからその未来に与える影響は計り知れません。この作品では、そんな『条件』を突きつけられた江都のその後が描かれていきます。冒頭に記述した通り、『弥子さんと過ごした時間には…』という書き出しから始まる以上、弥子の結末は提示されています。そして、物語は、『144日前』、『143日前』、『140日前』、『137日前』、『136日前』、『106日前』…とランダムな日付に飛びながら、結末のXデーに向けた江都と弥子の姿が、そしてその関係性が描かれていきます。
・『もっと知りたいです。弥子さんのこと』。
・『私もエトのことがもっと知りたいんだ』。
江都と弥子に力強い光が当てられていくこの作品。そんな物語の結末には、『金塊病』という奇想天外な設定に対する違和感が雲散霧消する先に、江都と弥子、それぞれが選んだ答えが待つ結末が描かれていました。
『金塊病っていうのはね、文字通り金になるわけだから、売れるんだよ。…私の死体は三億円で売れるんだ』
『金塊病』という奇想天外、奇妙奇天烈、摩訶不思議な病を患う女性と偶然にも知り合ってしまった一人の中学生の姿が描かれていくこの作品。そこには、『回想』という形で二人の日々を振り返る主人公の物語が描かれていました。読む気が萎えそうになる『金塊病』という設定に戸惑うこの作品。読み進めるうちにそんな戸惑いが雲散霧消するこの作品。
“最愛の人の死に価値が付けられてしまった人間は、その価値にどう向き合えばいいのか”、この物語のテーマをそんな風に語る斜線堂有紀さん。そんな斜線堂さんの物語作りの上手さを感じさせる、そんな作品でした。
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3時間で読み終わった
世の中はいろんなことが絡まって出来てるんだなあ
でもそれを色々掻い摘んでると、頭があべこべになってくる
現実に寄り添った話題で、それを軸に物語は進んでいくんだね
きっとチェッカーと鯨と人の生き方に文字で表されてる以上の繋がりがあって、それをもっと読み取れることができたら良いなぁ
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金塊病の女性と十五歳の少年の交流。それだけなのに患者の死体が金に変質することで周囲から何かを押し付けられる。記者の書く物語は大衆に好まれて何が本当で何が嘘だったか分からなくするだろう。サナトリウムの塀の鯨。チェッカー。それぞれが持つ意味を二人だけが知っていて覚えている。鯨が塗り替えられなかったように人は書き換えられない物語を求めているのでないか。それは例えば記憶かも知れない。
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知人の紹介にて
私の凡庸な頭でもストンと納得できるお気に入り。
情緒はぐちゃぐちゃになるが。とても良かった。
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ずるいなと言いたくなるくらい情緒的で、読み終えたあとに頭がいっぱいになった。最後に死が訪れることはわかっているのに、死んでほしくないと思えるヒロインと、どうにか幸せになってほしい主人公にすっかり惹かれていた。著者の作品を初めて読んだのはゴリゴリの本格ミステリだったから、こういった作品も書けて幅が広い人なんだなと感じた。
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毎回、ミステリ好きならおお、となる設定にワクワクして本を手に取る。ただ書き出し(現在、から過去時系列に遡る形でストーリーが語られていく)が割とワンパターンな気がする。
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2024/5/15 読了
次男蔵書から
人の死に対しての価値が、関わり合う人によって異なることを文章化してるのが、すごいと思いました。
負の感情の表現が、上手なので、ところによっては苦手な人もいるかもしれません。