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江戸時代に実在した人物が、実際に体験した怪異譚(ということになっている創作なんだろうが)。
16歳の平太郎青年が、7/1から1ヶ月もの間、毎日怪異に襲われる様子が、まるで日記のように日付とともに記録されている。
・物語とともに妖怪絵も付された『稲生物怪録絵巻』
・平太郎本人が書き残したと言われる『三次実録物語』
・平太郎の同僚が、平太郎から聞いた話をまとめたものとされる『稲生物怪録』
の3編構成で、いろんな角度から稲生物怪録を楽しめる良書。
しかもなんと、『三次実録物語』にいたってはあの京極夏彦氏の現代語訳!逐語訳のようなつまらない訳ではなく、まるで現代の小説かのような柔軟な文章で、かなりおもしろい。
飛び回る生首だの、急に水浸しになる畳だの、体中を撫で回す天井から伸びる手だの、とんでもない物に毎日襲われる平太郎。
それなのに毎日「どうにもならないので寝た」「どうということもないので寝た」「不快だったが我慢して目を閉じているうちに寝た」と快眠すぎるのがおもしろい。
そのうえ、あちこちを掃きまわる箒に「親切だな」と喜んだり、勝手に動いてる杵と臼に未精米の米を突っ込んで妖怪を精米機扱いしようとしたりする始末。
とにかく平太郎、まったくびびらない。そして家を出ていかない。平太郎よすぎる。
ホラーと思わせつつ実はコメディなのか?と思うくらい笑った。
最終的に根負けした妖怪の親分(大魔王と名乗ってた)が平太郎に詫びて退散するのだが、平太郎は「法華経や仏神のお陰だなぁ」とか言って終わる。
いやいや仏神は絶対関係ないって。お前の肝っ玉がおかしいだけ。
最初の絵巻を眺めてるときに「なーんか怖がってる顔に見えないんだよなぁ」「いやぼんやり眺めとる場合か!逃げろや!」「この絵師は人の表情かくの苦手か!?」みたいな感想だったんだけど、絵師は正しかったみたいです。こいつ1ミリも怖がってないし逃げようとしない。
たぶん「平太郎は何も恐れぬ男!動じぬ男!大魔王すら下す強い男!」みたいな最強主人公系のラノベみたいなストーリーのつもりだと思うんだけど、なんかもうずっと笑けてきちゃうんだよな。
とにかく良いこれ。また読もう。