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世話になっている古書店にかかって来た1本の電話。電話の
主は25年前、この古書店をひいきにしていたという。
関東に戻って来た。実は蔵書を処分したい。ついては昔馴染み
の店に頼みたい。そんな依頼を受けて湯原直子は指定された
横浜市内の住宅へ足を運ぶ。
生憎、老齢の店主は体調を崩して入院中だ。蔵書リストだけを
受け取るつもりだった直子の前に差し出されたのは1冊の本。
預かったのは稀覯本。しかし、それはとある場所からの盗品
だった。ことの真相を確かめる為、再度、横浜に向かった直子
だったが、訪問したはずの住宅はもぬけの殻。何もかもが
直子を迎える為のトリックだった。
そうして、元の持ち主の元に手紙が届く。直子に渡した本以外
にもあなたの蔵書がこちらにある。買い戻す気があるのなら、
幾ばくかの現金と交換だ。
誰が、何の為に仕組んだトリックなのか。物語が進むうちに
隠されていた過去の出来事の真相が浮かび上がって来る。
最近は時代小説の多い著者だけれど、『行きずりの街』や
『背いて故郷』等のハードボイルドな作品が好きだった。
「過去のキズ」がテーマになる作品が多い著者なので、本書
もそうなのだが女性が主人公であるのが異色かな。
謎解きと愛憎劇が展開されて、終幕へ向かうのだがすべての
謎が明らかになっても誰も憎めない。それぞれが背負った
哀しさが余韻として残る。
やっぱりいいなぁ、シミタツ。他の作品を再読しようかなぁ。