紙の本
アメリカポストモダン文学の旗手
2020/11/28 23:08
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:H2A - この投稿者のレビュー一覧を見る
森林破壊、環境破壊という主題で、植物学や生態学に依拠して精細に描くというスタンスは文学のメインストリームにいるとされる作家としては希少。しかしその内容自体が特別に独創的だとは思えなかった。むしろ人種や様々な出自を持つ多彩な登場人物たちが、環境破壊への敵対に収斂していく過程が執拗なディティールとともに説得力をもって描かれていているところがこの長い小説としての眼目。アメリカ資本主義の混沌としたわけのわからなさ、理不尽さもうまく捉えて描かれている。パワーズ自身は人物たちに入れ込んだりはしないが、期せずして環境活動家になってしまった人物たちの過激な活動には同情的なスタンスを取っている。人間がもう少し快適にしたいといった「ささやかな願望」を捨てることはできないから、結局は人間がいなくなることでしか森林破壊は止まらないというのがパワーズの本音なのだろう。それに樹木や森という生態系事態が人知を超える存在として捉えられている。題材盛込みが過多なのがおそらくこの作家の特徴なのだろうが、ちょっと意図を測りがたいところがある。でもこの長い小説の読み応えは充分だった。アメリカのポストモダン文学もおもしろいと思った。
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なんらかの社会的な問題を小説で扱おうとすると、えてして、説明的になったり啓蒙になったり説教臭くなったりして、物語やうねりやスピードをそがれることが多い気がするが、これは始めの、木を巡る8人のストーリーからして面白く、ぐいぐい来る。
環境問題、森林伐採、エコロジーの運動などを取り込んで、こんな小説が出来るとは!
パトリシアについては、あ、これペーター・ヴォールレーベン『樹木たちの知られざる生活』じゃ…?と思って読んでいたら、やっぱりそうだよね、訳者後書きにて言及されていた。
分厚いけど、どんどん読めた。面白かった。
ジョン・ミューアやソローも読みたくなる。
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圧倒された。また時を経て読み返したい。読んだ後の世界が違って見えると訳者の後書きにも出ていたが、本当にそんな感じ。情報量も揺さぶられる感情の量も多い。じっくり噛み締めて咀嚼したい。
I felt a difference of 2 cultures. Due to Shintoism, Japanese find a divinity in nature. We have certain respect for old big trees. Although with this religion originated in Japan, we cut many trees, destroyed many forests. But I was surprised and embarrassed to know that Americans cut old trees without any respect. As usually said, for Western culture, human beings dominate the nature. For Japanese living in this land where a lot of natural disasters happen, nature allows us to live.
Anyway, we all should face to the actual situation now.
Karmic backlash.
We have to pay a price very soon...
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淡々と積み重なった冷静な言葉が描く、ゾクゾクするくらい緻密で壮大な営みに、ひたすら心を震わされる快感。こんな本にあと何回出逢えるんだろう。
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まず、ジャケットが出色。巨木の根元に陽が指している写真の上にゴールドで大きく書かれた原語のタイトルがまるで洋書のよう。角度を変えるとタイトル文字だけが浮かび上がる。最近目にした本の中では最高の出来である。表紙、背、裏表紙を広げるとカリフォルニアの朝の森にいるような気がしてくる。そうなると、バーコードの白抜き部分が邪魔だ。折り返し部分に印字するとか、帯に印刷するとか。他に方法はないものだろうか。
前置きはこれくらいにして中身に入ろう。カバーの写真が直截に示す通り、木の話である。写真にある木はおそらくレッドウッド(セコイア)。樹齢二千年を超えるものもある、ウディ・ガスリーの『わが祖国 This Land Is Your Land』の歌詞にも登場する、アメリカの森を代表する巨木である。
この本を読んで初めて知ったのだが、レッドウッドの原生林が材木用に伐採され続け、激減しているそうだ。当然それに対する反対運動が起きる。その中の過激なものに<Tree sitting(樹上占拠)>と呼ばれる抗議行動がある。森を守るために訴訟を起こしても、企業側は裁判で負ける前に伐採を終わらせようと急ぐ。そこで樹上にプラットフォームを築き、何日もそこに座り込むのだ。切り倒せば人が死ぬので、企業側も手を出せない。
本作は「根」「幹」「樹冠」「種子」の四部からなる。『オーバーストーリー』というタイトルからは「超物語」や「物語を超える物語」などの意味を想像しがちだが、<second story>といえば「二階」のこと。<story>には「階(層)」の意味がある。<overstory>は「林冠(層)」(森の上部の、樹冠が連続している部分)を意味している。ダブル・ミーニングだろう。本作自体、いくつも集まった<story>が、層をなして複雑に絡み合い、ひとつの<The Overstory>を創り上げている。
小説のハイライトにあたるのは「樹上占拠」を描いた「樹冠」の章だろう。地上六十メートルの樹上に立てこもる二人の男女、そこに食料その他を届ける仲間、迫りくるチェーン・ソーの音、風で揺れるデッキ、命綱をつけての樹上探検、避けて通れない排泄、雨水をためてのシャワー、高い枝の上に生えるハックルベリー、木の洞にできた水溜まりに棲むサンショウウオ、とそこには信じられないほど豊かな生活がある。無論、愛も育つ。なにしろ若い男女が二人きりで何日も共に過ごすのだ。
話は二人の何世代も前、南北戦争の前から始まっている。ノルウェー系の新参者は石を投げて栗の実を落とすのを見て笑う。そこ、ブルックリンで栗は無料で手に入るアメリカのご馳走だ。栗は新しくできた州であるアイオワまで男のポケットの中に入って運ばれ、そこで芽を出す。一本、二本と枯れて行き、残る一本が土地のランドマークになるほど大きく育つ。その一家の男は代々、栗の木を月に一度写真に撮り続けた。その子孫はアーティストになった。これがニコラス・ホーエルの「根」だ。
七人の男女と一組の夫婦が<overstory>の「根」となる。中国系のミミ・マーは父と同じ技師。家は代々イスラム教を信仰する回族。貿易商を営んできたが共産党の時代にすべてが奪われる。三つの魔法の指環と阿羅漢(アラハット)を描いた巻物を身に帯びて、��ミの父はアメリカに渡る。携帯電話の発明者である父が死に、指環は三姉妹で形見分けし、ミミは未来を教える扶桑の指環を手にする。自社ビルの前に生える松が一夜にして切り倒されたことに怒り、彼女は抗議行動に飛び込む。
ダグラス・パヴリチェクはヴェトナム戦争時代、パラシュート降下中、落下地点を誤るが、ベンガルボダイジュの上に落ちて命を拾う。仕事を転々とし、皆伐した跡地にダグラスモミを植樹する仕事を見つけ、達成感を持つが、それが、逆に会社に新たな伐採を可能にするトリックだと知り傷つく。公園内の木が聴聞会を前にした深夜、市の手配した業者の手で切られようとするのを見て、体を張って阻止し、警察につかまってしまう。ミミとの出会いが彼を伐採の抗議集会に向かわせる。
『アベンジャーズ』というシリーズ物の映画がある。それぞれがコミックの主人公だったヒーローが寄り集まって悪と戦うという設定だ。本書も似た設定だ。「根」にあたる部分が、それぞれのヒーローの個別の活躍を描く部分で、そこだけで充分面白い短篇集になっている。そこだけ読んで本を閉じてもいいくらいに。しかし、異なる分野で優れた能力を持つヒーローたちが力を合わせて難局に挑むというストーリー展開は鉄板で、面白さからいえばそこは外せない。
ただ、個人的な感想からいえば「根」の個々のエピソードを語る淡々としたストーリーが好きだ。活動家たちに根拠を与える理論の構築者がいる。それに影響を受けてコンピュータ・ゲームで解決策を練る企業家がいる。ついにできなかった我が子の替わりに木を植え、庭が自然に帰るのを見守る夫婦がいる。感電死から奇跡的に蘇り、木の声を聞くことができるようになった大学生がいる。出色の個のストーリーがあって、その上に『オーバーストーリー』があるのだ。
木が人間と同じように、或いはそれ以上に、感情や意志を持っているというパトリシア・ウェスターフォードの理論は、一見するとトンデモ理論のように見えるが、噛んで含めるように説明されると誰にでも呑み込めるように書かれている。それ以上に、美しく手放すことのできなくなる理論であって、これを読んでしまうと、最早今までの人間至上主義ともいえる世界には戻れない気さえする。木のために人間ができることなど、たかが知れている。われわれ人間はさっさと滅びるのがもっとも意味がある行動なのかもしれない。
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一読目読了。オモロかったけど、これ、登場人物一覧つけといてほしかった。とりあえず自分で作りつつもう一回読む。
と言うことでもう一回読了。登場人物一覧作りながら。いや、オモロいわ。パワーズの中でも「三人の農夫」以来の読みやすさとオモシロさのクオリティの高さじゃね?自然保護テーマってことで説教臭くなりそうなところを物量、力技で回避して来た。
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読みごたえあった。7月から約半年かかって読んだ。総じて言えば木と人間の話。壮大。壮大すぎて理解不能な文章が並ぶ。聖書のよう。よくもまぁこんなに脈略があるのかないのかわからない文章をツラツラ書けるな。しかし脈略がないようであるのが木で、あるようでないのが人間、なのかもしれない。
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すごい本だった。
第一に、アメリカで天然林の伐採運動が、どのように盛り上がっていったのか、何人かの人の個人史の集合として読むことができる。
第二に、樹木の集合体としての森林に、別の次元の特性が備わっていることを、科学的知見も援用しながら示したこと。
第三に、それに関わる人間のあり方を示したこと。
とにかくパワフルでびっくりした。
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切ない物語でした。適した大気があるから、我々は普通に生活できている。その大気を作ってくれている樹木。その樹木を伐採する人間。その伐採を食い止める人。レイの発した「正当防衛」がしっくりきた。不条理な世の中だなぁとつくづく思う。メルロポンティを思い出した。
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昔、吉祥寺に知久寿焼のライブを観に行ったことがある。彼はMCで、吉祥寺の街中にあるとても古い木について話していた。その木は不思議なことに、つららのようにいくつもの「こぶ」が太い枝から下に向かって伸びているのだという。自分はその木を幼い頃から当然のように認知していたが、そんな形状が目に入ったことは一度もなかった。ライブのあと、何気なくその木の前を通って例の「こぶ」を目にした時、身近な世界のなかには不可視の領域が含まれているのだと知り、愕然としたことを憶えている。
この本に充満しているのは、そうした視えないものたちのむせかえるような気配だ。そしてパワーズ特有の、途方もなさから詩の様相を帯び始める事実たち。読後には新たな耳目が与えられ、確実にいつもの風景が変容してみえるはず。隅々まで本当に面白いが、特に最初の『根』の章が短編集としても素晴らしい。傑作。
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人との出会い・人生は無数に枝分かれし、絡み合い、時に根幹に帰る様はまるで木のよう。
読み終えた後、木を見上げその樹皮に触れて名前を尋ねてしまったけど、伝わっただろうか。
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大傑作。あまりにおもしろくて半日で一気読みした。ちょっと動揺するくらいにso movedで、とりあえず今年のマイベストは決定した。極めて美しい無限の姿。
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通勤電車で読書しているので読み始めてすぐに在宅勤務が始まり1ヶ月以上かけてやっと読み終わりました。前半は各登場人物の半生が描かれており、後半それぞれの人生がどうやって交錯するのかなと思って読み進めましたが、期待しすぎたのか時間をかけて読みすぎたのか、結局後半よりも前半のほうが面白かったです。分厚い一冊を読み切った割にいまいちでした。エコテロリストの思想・行動に共感できなかったのも一因かもしれません。翻訳は切れ味があって序盤は気持ちよく読めました。
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短編としても成立する序章が寄り集まり、長編に移行する構成はなるほど樹木。ただし森林開発にまつわる現実がそうであるように、愉快な物語ではなかった。ひとつの「お話」として落ちをつけてはくれないため、また読みたいとはとても思えない。
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原作タイトルは「The Over Story」
日本語訳された本書のタイトルは「オーバーストーリー」
そのままだ。
ストーリーというと、多くの日本人は物語と読み取るのだろうけど、基本的には「樹冠(層)」を指し、層、階層を意味しているらしい。(辞書を見る限り、私は?だけど)
そして、私たちが連想する物語という意味もStoryにはあるので、訳者は「物語を超える物語」とも捉えられると言っていた。
深いな。
この本、長いです。
そして、登場人物がやや多く、個々の人物の話が木に導かれるようにしてそれぞれで展開していきます。
やがて登場人物たちは合流しますが、ある事件を機にまたバラバラになり、再びそれぞれの人物ごとに話が進行します。
こんな風に、それぞれの人物の話が細切れに進んでいくので人物の名前や背景なんかが途中でわけわからん状態になりがちです。(でも読み返す気にもなれない)
668ページに及ぶ物語。
ほんと、長かった。
個人的には、新鮮さはなかった^^
自分の中ですでに存在する物語だったので。ただ、自然破壊や保護、気候変動という複雑な問題をうまく文字化、(ここでは登場人物たちを使って)表現しているので、私もこれくらい深く語れたらなぁ、と少し反省しながら読みました。
それとは別に、自分の中にある自然破壊やそれに伴う気候変動に対する思いや自然物を見るときの感性を再確認するような描写が多くあり、興味を引きました。
特に樹木では、これが出てくるたび、あぁこれ好きだわぁ、という喜びにも似た好奇心に駆られました。
例えば、
ある人物の子供時代では「葉の形が一枚一枚違う桑の木に苛立つ」描写があり、そこまで細かい表現いる?なんで入れた?と思いつつ、でも木が好きな人が書いたように思えて微笑ましく、
また、
「ブラックウォルナットの葉痕は猿の顔に似ている」とあり、ああ日本のオニグルミと一緒ね!と親近感が湧いたり、
さらに、
ヤマナラシの葉が風に揺れる音を「上品な喝采」と表現する所なんてもうたまらんかったです。
もしかしたら、樹木や昆虫、鳥、あらゆる「自然物」を風景の一部として見逃してしまっている人は新しい感覚を得られるのかもしれません。
紅葉の季節や、目を引く花を咲かせる時は目に入れるのかもしれませんが、普段から今日の葉っぱ、今日の虫の動き、なんて一つ一つのことを多くの人は気にしてませんよね。
知らんけど。
この本の中では、そうした小さな気付きに導いてくれそうな、感受性や感性に目覚めかけている人は新鮮な面持ちになれそうだけど、それらが眠ってしまっている人や、理屈でがんじがらめになっている人は、この表現はだから何よ、とか、何なんだ?となりそうな本でした。
いや、それにしても、長かったな。