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『商人と錬金術師の門』のインパクトが強かった。『ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル』『デイジー式全自動ナニー』も◎
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今作は「言葉」というシステムへの興味や信頼のうえに成り立っていると思う。全編を通じてそれは垣間見えるのだが、表題作「息吹」はまさにそれを体現している。「わたし」は肺を交換したり自身の脳を解剖したりするが、最後に行うのは言葉を刻むことだった。私たち読者は、SFならではの世界観のなかのその根源的な行為にこそ、どうしようもなく惹きつけられてしまうのではないか。
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テッド・チャンの作品は好きだけど、前作の『あなたの人生の物語』の頃から非常に読み易い作品と非常に読み難い作品の二極化が激しい。
「商人と錬金術師の門」と「大いなる沈黙」がお気に入り。
未来は改変出来ないというのがテッド・チャンのスタンスであるが、「商人と錬金術師の門」では過去を知る幸せを描いている。
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寡作なだけあって、恐ろしいほどのクオリティ。
事実の話と分岐の話が好き。
テーマが現代の寓話に相応しく、それを物語に落とし込む手腕も語り口もパーフェクト。
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商人と錬金術師の門★★★★★
推理小説のような趣向があり、物語の中盤である予想が浮かんできて、あれー意外と簡単なお話、と思いながら読み進めるとそうではなかった。一周まわってシンプルにとても大事なことをわからせてくれるような、そんなお話。
息吹★★★★★
人類がロボットに置き換わったパラレルワールドのようなお話。よくこんなこと思いつくなーと感心しながら、一つ一つのセンテンスを噛みしめるように読んでいった。読み終わるのが惜しくなった。
予期される未来★★★
超短編だけに、ぎゅっと詰め込まれた不気味さがある。
ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル★★★★★
ディジエントと名付けられた人工知能のようなロボットのような存在の、20年に渡る来し方行末の物語。人工的なものに対して人間と同様に権利や尊厳が与えられるべきという考えが浸透しつつある時代という設定で、ディジエントへの愛ひいては人と人との愛までも疑問を投げかける展開となる。身近な人との関係性について省みるきっかけとなった。
デイシー式全自動ナニー★★★
子育てにおいて好ましくない思想や振る舞いをする人から自分の子供を遠ざけたいという思いは親なら誰しもあるのでは。もし他人の影響から完全に隔絶されたら子供はどうなるかという仮定の話。この作品ではその答えはよくない方向に作用する展開になっている。この一つ前の作品でも扱っているテーマだけど、作者は人と人との触れ合いが生み出す価値を重じている印象。
偽りのない事実、偽りのない気持ち★★★★
ここまでの作品の中で一番難解だった。リメンと呼ばれる、ライフログアプリがもし実際にあったら、自分もこの主人公のように自分の記憶の欺瞞に気付かされるのかな?薄寒い気持ちになった。
大いなる沈黙★★
とても短い作品。実はオウムが人類と同程度の知的生命体だという前提のストーリーだけど、本当に必要なエッセンスだけに洗練されているため、その世界に自分が馴染む前に話が終わってしまった。
オムファロス★★★★★
「人類の起源が神による創造である」ということが、厳然たる事実として成り立っている世界の物語。その世界での科学は、なぜ神は人類を創造したのか、その目的を探究することが至上命題なのだけど、実は人類の創造は偶然の産物で、そこにはなんの意志もなかったということが発覚したら、、というお話。主人公が苦悩の末に導き出す結論は、すごく強くて希望があり素敵だなと思った。
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どうせ当選なんてしないだろう、と思っていたプルーフ版プレゼントに当選してしまって、ちょっと困惑(苦笑)
しかし、届いたのが12/02、既に大森さんがプルーフ版の感想を山程リツィートしている状況で、余り物が回ってきたのかな?、と思ったりなんかしちゃったりして…
プルーフ版なので、大森さんがツィートしている「日本の読者へのメッセージ」は載ってない。(12/03に茶水の丸善の平積み台で確認したら、しっかり載ってた)
プルーフ版を手にするのは初めてなのだけど、ところどころ印刷がかすれている箇所があって、やっぱ余り物なんじゃないの、と思ってしまうが、テストショットなんてそんなものなのかな。
「あなたの人生の物語」は古本で入手したまま放置していて(通常コース)、テッド・チャンを読むのは今回が初めて。
とりあえず、義理を果たすべく、著者の最長作だという「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」だけ読んだところで、感想を書いてみる。
ボトムアップ型AIの成長という題材そのものはありふれたもので、シンギュラリティとか暴走とかのイベントがあるのかな、と予断するも、そういう「劇的なるもの」は出てこない。
印象としては、「ゼンデギ」に近いのかな、と感じるところ。
YA小説的なサービス精神はなく、正統派SF作家だなぁと思う筆致であわてず騒がず書き進めていて、これなら受けるだろうね、と解説を確認すると、ヒューゴー&ローカス受賞だと。(じゃぁネビュラは何なの、と気にはなるけど、面倒なのでチェックしてない)
AIを育てるにあたって、暴力や性を徹底的に排除する(「○ァック」というフレーズを覚えただけで巻き戻すとか)ってのが現代的(アメリカ的?)ではあるのだけど、そういう「無菌状態」の方が危険なんじゃないの、と思わなくもない。
タイトルから想起される「死」のイベントは起こらず、ラストで提示されるのは「幼年期の終わり」なのね。
日本でいえば藤井太洋みたいなポジションの作家なのかな、と思うけど、寡作&長編なしということでは「太陽風交点」の頃の堀晃なのかもしれませんね。(堀さんも石原教授も作家としてはフェードアウトしちゃったけど)
さて、プルーフ版を読み続けるか、製品版を改めて買うか、思案のしどころ。
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寡作で知られる人気SF作家、テッド・チャンの最新作。
随分と待っただけあって、期待以上に面白かった。どれか1作には到底絞れない。
しかし17年ぶりか……。第3短編集が出るのはもう少し早いといいのだが、果たしてどうなることやら……?
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SFは普段かなり選り好みしてますが、結構好きかも!と感じました。
どの作品も考えさせられる内容で、「これが現実世界だったら…?」「私がもし登場人物の立場になったら…?」と非現実世界の物語りなのに、思わず感情移入する場面もちらほら。
物語りを「読む」じゃなくて、「見に行く」感覚でページを開いていました。だからか、物語りの内容を結構鮮明に記憶できて、なかなか読み進められない状況で、久しぶりに本を手にしても直前までの話を簡単に思い出せました。
ちなみにプレゼント企画でまさかの当選でした。ありがとうございました!それなのに諸事情により、上記の通りなかなか読み進められず、レビューが遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
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どれもがかけがえのない物語だった。
科学、SFなのに人の血が通い、心が宿り、物語は個人の人生の内省へと還っていく。
科学に満たされた世界で人の思想や思索、そして愛はどこまで行けるのだろう。科学で満ち足りた世界を人間の愛が覆う優しい物語たち。文章の間を澄んだ風が通り抜けていく。
表題作「息吹」もよかったけど、個人的には「大いなる沈黙」がとても好きだった。鳥ものに弱いんだわたしは…鳥がね、好きなんだよわたしは…
朝の読書にぴったりの、頭が冴え冴えする本だった。装丁もすてき、カバーをめくれば漆黒、すてき。ぜひハードカバー版で手元に置いておきたい本でした。
この本に入っている物語は、きっとそのうち私たちが「追いつく」んだろうなと思う内容が多くて、だからこそ「追いついたとき」に人はテクノロジーとどう共存していくのか、人の感情や良心はどこまで作用できるのか、前もって試されているような感覚があった。
有機体であることを忘れないでいたいね。
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「商人と錬金術師の門」★★★★
「息吹」★★★★★
「予期される未来」★★★★
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」★★★
「デイシー式全自動ナニー」★★★★
「偽りのない事実、偽りのない気持ち」★★★★
「大いなる沈黙」★★★
「オムファロス」★★★★★
「不安は自由のめまい」★★★
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もったいないので、少しづつじっくり読み進める。一日一篇に限定。厳守。
「商人と錬金術師の門」
タイムループの典型だが、ストーリーデザインやロマンチズムが独特で、透明感がある。
―過去も未来も変わることはないが、もっとよく知ることはできる―
メッセージはシンプルで、だからこそ染みる。
「息吹」
別宇宙生命体。最初はコンピューターないしロボットかとも考え、最終戦争後ものに変換して読んだりもしたが、間違い。空気=電気であり、記憶=RAMと置き換えるのかと勘違いしたわけだ。いかにも古いSF感だ。反省。
凄い。想像力のギリギリを試される。終末への警鐘も。
“人間は、事実上、秩序を消費し、無秩序を生成している”
「予期される未来」
ほう短い。でもぎっしりと詰まっている。自由意志についての現実的な洞察と物語の収め方の共存がこんなにコンパクトになる。たまたま『脳はなぜ「心」を作ったのか「私」の謎を解く受動意識仮説』を読んだばかりだったので、すんなりと腑に落ちたが、おかげでちょっと緩衝になってしまったかも。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
AIというか人工生命の子育て奮闘記。倫理的な感情や法的な制度の問題を除いて、ほぼ全くリアル子育て。教育、成長や葛藤、思春期、自立、そして愛情。むしろこれほどまでリアル世界でで子供に向きあっているだろうか人類は。人類のアルゴリズムも大したこたないとも思える。ユバル・ノア・ハラリ『21 Lessons for the 21st Century』を併読しているため、この一篇もリアルが増した。
「デイシー式全自動ナニー」
珍しくお笑いテイスト。真面目な筒井康隆というところか。いやウィットのある展開は星新一か。笑い話をそのままショートショートにしたのだろうか。
「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
記憶と記録と感情についての深遠な考察の提示。記録=ライフログについて完璧な検索機能と人体の埋め込み、オンライン化したドライブレコーダーの如き設定がSF的だが、記憶と感情の恣意的な利己的な改竄の功罪についてはPOPな論考なれど意識を洗い直された。構成がメタの手法をとりつつ、個人的にヨワい父娘のエモーショナルなエピソードに沿っていて、泣かせる部分も十分にある。「ホイッグ史観」というバイアスの考え方を知った。
「大いなる沈黙」
オウムを飼っていて、観察しているうちにこの想像が湧き出たのだろうか。邦訳では「オウム(鸚鵡)」とヒンズー教の「オーム=Om」の対比のモチーフが成り立つわけだが、原文では英語の「parrot」になるはずなので、プロット自体崩れるはずだが、どうしたのだろう。訳者解説を楽しみに待つとする。
「オムファロス」
アメリカのキリスト教福音派を揶揄するトンデモ科学ものとして笑いながら読み進むと、ことはどうやらそんなに簡単ではなく、ダーウインが居ない世界、すなわち「種の起源」の二年前、実際にイギリスの自然学者フィリップ・ヘンリー・ゴスが提唱した創造論の仮説の一つで、1857年の『オムファロス:地質学の結びを解く試み』が現在まで科学の主流としてきた世界という設定だった。主人公の科学者は当然天文学、物理学は現実と同じように進むので、矛盾に気付いていくわけだ。
そうして最終的にこの短編集の包括テーマである「自由意志」に結びついていく。ハードだが、自由意志の脆さを宗教と科学の歴史をアナロジーにして提示したという壮大な一作という事でよろしいか?
「不安は自由のめまい」
キーになるアイテムや、テクノロジーが万能ではないという事が物語には大切だ。特にSFは、映画であろうと小説であろうとタブーにするくらいの戒めを必要とされる。今作の場合の「プリズム」や、一話目「商人と~」における「歳月の門」のように。
パラレルワールドとの自分との会話という、またしてもトリッキーな設定は、シンプルだからこそアイデンティティの葛藤と、自由意志の倫理の問題を否応なく穿鑿(本編から。難しい熟語だこと)を強要してくる。
ストーリーもまるで落語のように綺麗に収束していて、カタルシスも大きい。予想していたオチからさらにひねられた。これは「メッセージ」に続いて映画でしょう。
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全編にわたるヒューマニズムが支持される最大の理由だ。先端科学を消化、参照したうえで、ハードながら、難解ながら、これも最先端の人文的な人生観に、愛のありかたに、あるべき正義に昇華させていく。みごとに。
本当にこれ以上は望めないのではという点が唯一の絶望かもしれないくらいの素晴らしい作品集。
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やっと来た、テッド・チャン★
「息吹」、「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」、それに「不安は自由のめまい」、久々に一気読みSF。これは面白いよ!
個人的には最終話(「不安は自由のめまい」)、この人の言語感覚に脱帽。並行世界を分岐して垣間見れる装置には固有の命名をせずに「プリズム」なんて普通名詞を充てておいて、そっちの世界の自分は「パラセルフ」。このセンス絶妙。それにしてもこういうステキな世界にも、ショボい詐欺師はいるのよね〜。
でも何気に粋な、ディナとヴィネッサの「オンナの友情」に乾杯。
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最高。
自由意志というテーマが通底してると思うんだけど、一編一編それぞれに違った良さがあって、マジで全部すごかった。
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>他人にやさしくすることがなんの苦労もなく楽にできる人が世の中にはいっぱいいるからです。
>彼らにとってそうすることが楽なのは、いままでの人生で、他人にやさしくする小さな決断をたくさんしてきているからです。
テッドちゃん17年ぶり2冊目の著書です。
17年か・・・そんなに経つの。もっとください。
掌編~中篇まで9つの作品がまとめられた一冊。
読み応え半端ない。
特に「息吹」はすごかったな。絶賛されるのも納得。
テッド・チャンはハードSF作家とはちょっと違う、社会に何かしらSF的変化を加えて、どう現実と違う社会になるかを色々な角度から描き出している作品が多い。そこが面白い。
SF界の宝であることは疑いのない存在だ。SF者必携。
「商人と錬金術師の門」
相対論的に矛盾しないウラシマ効果マシン(2つのペアワームホールの片方を光速近くに加速してまた戻ってきたやつbyキップソーン)をくぐって過去に行った商人の話。アラビアンナイト風味の文章が面白い。読んだことあるなと思ったら『ここがウィネトカなら、君はジュディ』に収録されてた。
「息吹」
表題作にして最高傑作。未知の創作世界の探検はチャンの真骨頂ではないだろうか。
ロボ人類の科学者が、自分の頭の中がどうなっているかを自分で自分(の脳)を解剖するという作中でも十分イカれた方法で探索するお話。
金色に輝く脳内で、圧搾空気の気圧の差を利用して超微小機械が動いていることを発見する一連のシーンは鳥肌モノ。自分たちの意識の本質を目の当たりにする衝撃。
この世界で気圧差はすべての動力源となっていて、要するにエントロピーの置き換えとなっている。
「予期される未来」
超短編。未来が常に確定されるとしたら、という思考実験なお話。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
仮想世界で進化させたAIペットがどんどん賢く可愛らしく成長して、しかし画面の向こうにしかいない、という中編。
飽きても停止させるだけでいい電脳ペットではあるが、より良いペット生を送らせてやりたい主人公たちの苦悩・議論が見どころ。
ペットのコピーを企業に売るのと、人間が精神調整を受けて高給仕事に就くのと、どっちがこの【人間ーペット】関係に良い選択なのか?
AIペットに自己決定権を与える基準をどう決めればいいのか?
「デイシー式全自動ナニー」
『驚異の部屋(ヴンダーカンマー)』と呼ばれる博物陳列室に展示された一台の子育てからくり人形の話。
「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
ライフログが完璧に動画記録されるようになった社会の話と、並行して20世紀初頭、ナイジェリアに暮らすティヴ族がヨーロッパ文明の侵食を受けた時代の話が描かれる。
ティヴ族の言葉には西洋人が『真実』と呼ぶ単語がふたつある。『話者がそうであると思う事柄』と『実際に起きた出来事』。記憶と事実が同じである必要はあるのか。
そもそも人の記憶は自身の都合の良い形に変化して蓄積されていくものだが、完全なライフログが無意識レベルで参照できるよう���なって、思い出すことと実際の動画を見ることが同じ行為になるとしたら、社会はどう変わるのか。過去の美化、思い出化が行われないとはどういうことか。
「大いなる沈黙」
アレシボ天文台(地球外知的生命に向けてメッセージを発信した)とオウム(作中ではヒト以外に唯一言葉を用いた知性を持つ)のお話。オウムの独白形式で進む。宇宙の彼方へメッセージを送るのもいいが、すぐそばに別の知性がいるよ、と独白する。
オウムは長年、幼い人類を見守ってきたのだ。
「オムファロス」
タイトルは『臍』の意。
ちょっと前までキリスト教世界では、地球は数千年前に創造されたとされていたが、本当にそれが正しいと考古学的に証明された世界の話。
原初のヒトは臍を持たない。神が直接創造したからである。神が宇宙を創った目的がヒトの創造であれば地球は当然宇宙の中心にあるべきである。しかしエーテル流の天文観測の結果、地球から数百光年離れたある惑星が宇宙の中心となっていることが判明した。ヒトは何のために生み出されたのか。
「不安は自由のめまい」
平行宇宙と対話できる機械『プリズム』が普及した世界で、人はどう生きるかというお話。自分の良い選択も悪い選択も無数の平行自分にとってあり得る選択で、そうだとすればどちらを選ぶことにも価値がないのでは、と。
『プリズム』依存で社会生活に支障をきたしてしまった人々の共助グループがあるのが面白い。麻薬とかの現実にもあるグループと同じもの。
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透徹な思考実験でありながら、独特の情感を通わせるトーンは前作と変わらない。同時代にいることがうれしい。