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上巻のレビューで上下巻通した内容についてレビューを記載しておいたので、この下巻のレビューでは、上下巻に分かれたこの本の体裁について気が付いたことを書いておきたい。
ジャレッド・ダイヤモンドが『危機と人類』の中で次のようなことを言っている。
「『昨日までの世界』では、脚注や参考文献をすべて巻末にいれるのではなく、ウェブサイトにも一部は載せた。それでたしかに長さや重さや値段は削ることができた。こうして、ウェブ上の脚注や参考文献を実際に何人の読者が見たかがわかるようになったのだが、一年間に全世界で一人か二人だった」
『危機と人類』では、そのため「読んで本当に役に立ったと思える文献」だけを巻末に載せたという。
本書では、そんなことはお構いなしにだらだらと「参考文献」「図版出展」「口絵出展」「用語一覧」が掲載されている。kindle版の表示で、それぞれ本文は全体の80%(上巻)、84%(下巻)と二割近くがそういった参照に当てられる。しかも章末参照はこれとは別にある。特に問題なのは「用語一覧」で、掲載ページを記載せずに単に用語を一覧にして掲載しているだけで、何の役にも立っていない。しかも上巻・下巻ともに同じものを載せている。おそらく掲載ページがないのはkindle版だけなのだと思われる。なぜならkindle版ではページ数という概念がないからだ(代わりに位置No.というものがある)。さらにkindle版なら単にその用語を検索すれば事足りるので、用語一覧自体の存在意義がないのである。それなのに、これらがかなりのページを取っているのである。
そもそも上下巻を別にするのは、紙の本を高く売るための方便であり、特にこの手の本は『サイエンス全史』あたりから上下巻セットで並べることでそのカテゴリーの本であることが喚起され、より魅力的に映るということもあるだろう。1冊の値段にすると高いが、2冊に分けると1冊辺りの値段としては安くなるので、割高感をあまり感じさせることなくお金を出させることが可能だろう。そのためにも1冊はできるだけそれなりの分厚さになる必要があるためにこういう巻末参照のページを長く取っているとすると悲しいことだ。
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『スクエア・アンド・タワー(上): 権力と革命 500年の興亡史』(ニーアルファーガソン)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492371265
『危機と人類(下)』(ジャレッド・ダイヤモンド)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4532176808
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最近はキッシンジャーの伝記の執筆者としても知られるニーアル・ファーガソンが、「垂直的な権威構造と水平的なネットワーク構造」というパースペクティブから、人類の歴史を解き解す。
ネットワークという言葉がこれほどまでに人口に膾炙したのは紛れもなくインターネットの功績であり、それであるが故いネットワークという言葉からは、つい現代の事象ばかりを想起してしまう。本書で著者が明らかにしようとするのは、ネットワークというものが実は古代から人間の歴史を動かしており、現代に特異な事象ではない、ということである。
厳密な歴史書としてみてしまうと、コンセプトだけが先に立ってどうしても無理やりなロジックの展開が随所に見られるのは事実。それでも、ネットワークというものの特異性を考える上では面白い。特に下巻ではキッシンジャーやニクソンらの膨大なドキュメントをテキストマイニングにかけて、どのような人的ネットワークを彼らは築いたのかが可視化され、このあたりは本書の白眉と言える。
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引き続き階層制とネットワークの相互関係という視点から歴史を眺める。第一次世界大戦でドイツが試みたイスラム教徒の扇動から第二次世界大戦、冷戦、インターネットやテロ、革命、トランプといった話まで及ぶ。
膨大な知識が著者にあるんだろうなということはよくわかった。読んでてネットワークと言えば、と思ったマクリスタルにも当然触れられていた。
アンソニーケネディ裁判官の言葉、「インターネットはたんに現代の公共広場にすぎない」に表されているとおり、テクノロジーに関係なく、階層制とネットワークの緊張関係は人間の歴史とともに存在してきたし、これからもそうだろうというのは明察だと思う。
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現代における社会的ネットワークに関する考察が盛り沢山。上巻の長い歴史の描写は、ここに至るのかと、目から鱗。
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歴史、政治、経済、戦争、テロリズム、そしてテクノロジーと近代史の包括的な考察としては面白い。権力体制と(革命含めた)イノベーションの変遷という観点では興味深く読めたが、全体を貫く幹を秩序型階層制と分散型ネットワークと定めたのはやや誤りだったかもしれない。散漫さと強引さが否めない。安定的社会情勢では階層制(すなわち官僚制)が機能し易く、そこへレジリエンスなネットワークが登場しパラダイムシフトして再び階層制に収斂していくというのは歴史の常だが、そこに着眼点を置き新しい学びがあったかというと難しい。随所で登場するノードとエッジの分析は面白かったが。
第8部以降は面白いが上下800ページ超の大著であることを考えるとそれに値するかは判断が難しい本だ。